抜群のスタイルで気品溢れる姿が特徴のボルゾイは、ロシアを代表する大型犬です。優雅で気高いボルゾイの歴史は、ロシアの王侯貴族とともにあり、ロシア革命にも巻き込まれた悲劇の犬種でもあります。ここではそんなボルゾイの歴史・特徴・性格・一緒に暮らす上での注意点・かかりやすい病気について、詳しく解説します。
ボルゾイの歴史
ボルゾイはロシア原産の大型犬で、視覚を使って遠くにいる獲物を捕らえる「サイトハウンド」というグループに分類され、野ウサギやオオカミの狩猟犬として活躍してきました。
ボルゾイの歴史には諸説ありますが、古代〜中世のサイトハウンドとロシアの土着犬の交配により作り出されたと言われています。最も古い記録では、11世紀のフランス年代記に、フランスに嫁いだロシア公族の娘の護衛犬として、3頭のボルゾイが渡仏したと記されています。
13世紀初期には、ウサギの狩猟犬として活躍していましたが、より大きな獲物を狙うためロシアン・シープドッグなどの大型犬との交配が行われ、当時ロシア貴族の間で流行していたオオカミ狩りのハンターとしても使われるようになっていきました。ボルゾイはオオカミより足が速く、勇敢であったことから、2頭1組となってオオカミを追いかけ華麗にハンティングしていたと言われています。この頃から「ロシアン・ウルフハンド」という名で呼ばれるようになり、王侯貴族たちだけが飼育を許される高貴な犬として、大切に育てられていきました。
19世紀には7タイプのボルゾイが存在し、ロシア皇帝は国交の証として他国の王族に寄贈するなど、政治的にも利用されるようになりました。しかし、1917年にロシア革命が起こると、王侯貴族の象徴であったボルゾイたちは贅沢品として大量に虐殺され、ロシア国内での頭数は一気に減少してしまいました。そこでボルゾイの復活に貢献したのが、かつてロシアから欧米諸国の上流階級民に寄贈されたボルゾイたちの子孫でした。かの有名なイギリスのビクトリア女王も、つがいのボルゾイを飼育していたとされ、優美な姿はたちまちドッグショーで話題となり、人気を博していきました。
1892年にはアメリカンケネルクラブに「ロシアン・ウルフハウンド」として登録され、「ボルゾイ」としてはイギリスケネルクラブで1914年に、アメリカでは1936年に改めて登録されました。
ボルゾイの特徴
ボルゾイは「流線形」という言葉がぴったりな、細長い体型が特徴です。長い手足と筋肉を駆使し、走るのがとても得意な犬種です。一見華奢に見られがちですが、オオカミにも負けないしっかりとした骨格と筋肉を持っています。
大きさ・体重
ボルゾイは体高の高い犬種です。JKC(ジャパン・ケネル・クラブ)では、オスは体高75〜85cm、メスは体高68〜78cmが理想的であると規定しています。
ボルゾイの体重には性差や個体差がありますが、およそ30〜50kgです。
寿命
ボルゾイの平均寿命は7〜10歳で、他の犬種と比べるとやや短めです。
その理由として、大型犬に多い胃拡張・胃捻転症候群や悪性腫瘍などの命に関わる疾患にかかりやすいことなどが考えられます。胃拡張胃捻転症候群について、詳しくは「食後の運動は絶対NG!大型犬に多い胃捻転とは【獣医師が解説】」をご覧ください。
被毛・毛色
ボルゾイの被毛は、細いシルクのような艶のあるオーバーコート(上毛)と、ロシアの寒冷な気候にも耐えるアンダーコート(下毛)の2重構造を持つダブルコートです。カットの仕方もさまざまあり、地に着くほど伸ばしたワンレングスから、短めのカットスタイルまで多岐に渡ります。
ボルゾイはカラーも種類が豊富です。ホワイト、ブラック、レッド、レモン、シルバー、ゴールド、セーブルなどの色の単色、パイドなどのバイカラー、もしくはトライカラーも認められています。ただし、ブルー、ブラウン、マールカラーは公認されていません。
子犬期の体格
ボルゾイの子犬は500g前後で生まれます。一般的な小型犬は100〜200g程度で生まれるので、それと比較するととても大きいことが分かります。子犬の頃はマズルが短く、体も少し丸みを帯びた形をしていますが、成長とともにだんだんと引き締まっていきます。
個体差はありますが生後2ヶ月には約8kg、3ヶ月で13kg、6ヶ月では25kg前後になり、1歳半頃まで成長していきます。
ボルゾイの性格
ボルゾイは優雅で穏やかな性格です。特に、飼い主さんと一緒にリラックスをしている時には、長い手足を伸ばして優雅に横たわり、「お腹をなでで」と静かに甘えてくることもあります。室内で飼育する大型犬としては、とても扱いやすい性格と言えるでしょう。
しかし、一旦外に出るとサイトハウンドの気質を発揮することがあるので要注意。観察力や俊敏性が高いので、他の小動物や犬を見つけると獲物と勘違いして急に興奮してしまうこともあります。走り出したらとにかく速い!思わぬ事故を招かぬよう、日頃からトレーニングは必須の犬種です。
しつけ
ボルゾイはとても賢く、トレーニング好きな犬種です。しかし、その見た目からも分かるようにプライドが高い一面があるので、褒めてしつけることが何より重要です。
また、ボルゾイは基本的には物静かで穏やかな性格ですが、遊び始めると興奮しやすく、大きな口と歯で噛み付いてしまう危険性もあります。小さなお子さんと触れ合う際には十分気をつけましょう。
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一緒に暮らす上での注意点
室内と屋外を上手く使い分けて飼育
ボルゾイはロシアの王室育ちであり、狩猟時以外は室内で飼育されてきた犬種です。寒さには比較的強いですが、高温多湿な日本の夏は苦手なため、温度管理のできる室内で飼育しましょう。ボルゾイクラスの大型犬は、室内だけでは運動不足になってしまいます。できれば、室内と庭を自由に行き来できるような住環境が理想的です。
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散歩
狩猟犬の気質を持つボルゾイは十分な運動量が必要な犬種です。毎日1〜2時間程度のお散歩に加え、ドッグランなどの思い切り走れる環境でストレスを発散させてあげることも重要です。散歩やドッグランでの運動の際には、突発的な興奮に注意しましょう。走り始めると時速50kmまで加速し、1m程度の高さの柵は余裕で飛び越えます。不慮の事故や脱走を招かぬよう、飼い主さんの指示にはいつでも的確に対応できるよう日々トレーニングしておきましょう。
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お手入れの頻度
ボルゾイは長毛種のため、週に3回以上のブラッシングが必要です。ブラッシングを怠ると毛玉や皮膚炎を起こしやすく、美しい被毛も台無しになってしまいます。日頃からふれあいの一環としてブラッシングを取り入れ、定期的にトリミングサロンでのケアもしてもらいましょう。
また、長い垂れ耳を持つボルゾイは、外耳炎になりやすい犬種です。ブラッシングの際などに耳をめくって、耳垢はないか、臭いがきつくないか、耳が赤くなっていないかなどをチェックしてあげると良いでしょう。
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ボルゾイの注意したい病気
胃拡張・胃捻転症候群
胃拡張胃捻転症候群は、ボルゾイのように胸の深い犬種や大型犬に多い救急疾患です。胃がガスでパンパンに膨れ(胃拡張)、捻れてしまう(胃捻転)病気で、胃が捻転すると次第にショック状態となり、死に至る可能性があります。明らかな原因は解明されていませんが、早食い、1日1回食、食事直後の運動、水の一気飲み、高台での食事などがリスク因子となります。
胃拡張・胃捻転症候群を起こすと、腹痛・えずき・お腹が急に膨れる・呼吸が苦しそう・よだれが大量に出るなどの症状がみられます。食後3時間以内にこのような症状がみられ、次第に前進への血流が滞りショック状態へと進行していくため、早急な対処が必要となります。治療には、外科手術が必要です。
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外耳炎
外耳炎は、耳の穴から鼓膜までの「外耳道」と呼ばれる部分に炎症が起こる病気です。感染やアレルギーなど様々なことが原因で起こりますが、耳の中に細菌やマラセチア(真菌)が異常に増殖する「感染性外耳炎」が一般的です。垂れ耳の犬種は耳の中が蒸れやすいため、高温多湿の時期は特に外耳炎を起こしやすいと言われています。外耳炎を起こすと、耳をよく掻く・頭を頻繁に振る・耳の中から臭い匂いがする・耳が赤い、などの症状がみられます。治療には耳洗浄・点耳薬・内服薬などの内科治療が一般的ですが、慢性的に重度の外耳炎を起こしていたり、中耳や内耳まで炎症が及んでいる場合には外科手術が必要なケースもあるので、早めの治療が重要です。
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目の病気
ボルゾイは遺伝性の眼疾患が比較的多い犬種です。1歳以降の若齢から発症する「非加齢性白内障」は、加齢性のものよりも進行が早く、初期のものでは進行を遅らせる点眼薬が奏功する場合がありますが、ある程度進行してしまうと外科手術以外に完治させる方法はありません。外科手術は眼科専門施設での受診が必要となります。
また、「進行性網膜萎縮症(PRA)」などの網膜の病気も遺伝的に発症することが知られています。進行性網膜萎縮症はその名の通り進行性の病気で、最終的には視覚を失ってしまいます。残念ながら現在のところ有効な治療法はありません。
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☞ボルゾイの注意したい病気を『
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耳ダニ
白内障
進行性網膜萎縮
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