これから新しく犬を迎える方は、「愛犬との暮らしはとても幸せで楽しいもの」と考えるでしょう。実際、犬が与えてくれる幸せというのは計り知れません。いい関係性を築くことができれば、あなたにとって最高のパートナーになってくれるはず。

しかし一方で、非常に苦しんでいる飼い主さんと犬がいるという事実も、犬を迎える前に知っておいて欲しいと思います。その事実を知っていれば、もしあなたと犬の関係性が悪くなった時に、早めに対処することができるからです。

犬の問題行動が引き起こす不幸

行動治療の現場では、犬の問題行動に関する様々な相談を受けています。排泄を失敗するようになった、お留守番ができなくなった、咬む・吠えるなどの攻撃行動をするようになったなど…。どれも悪化すると、穏やかな生活を送ることができなくなってしまうだけでなく、一緒に暮らすことができなくなってしまう場合もあるのです。

一生懸命トレーニングをしても無駄吠えが直らず、ご近所さんから何度もクレームを言われるようになったり、犬が子どもに対して攻撃をするようになったりすると、一緒に暮らし続けることはとても困難になります。この状況は飼い主さんにとっても犬にとっても、非常に辛いものですよね。

人ごとではない犬の問題行動

言葉の通じない犬とのコミュニケーションというのは、話せば通じる人間相手のコミュニケーションとは大きく異なります。

例えば、何か怖いことがあって、自分の身を守ろうと吠えている犬に対して、「犬が吠えているからしつけしないと!」という責任感から、なぜ吠えているかもわからないまま強く叱ってしまう飼い主さんも少なからずいます。特に責任感の強い飼い主さんほど「きちんとしつけしなければ!」という思いが強く、問題行動を助長させてしまうこともあるのです。

問題行動を引き起こす犬が特別な性質を持っているわけではありません。また、その飼い主さんが、ひどい飼い方をしているかというと、必ずしもそういうわけではないのです。誰でも犬とのコミュニケーションを間違える可能性があり、その結果、犬の問題行動を引き起こしてしまう可能性があるということは、ぜひ知っておいて頂きたいです。

問題行動は直せるの?

問題行動を取るようになってしまったら、行動治療やドッグトーレナーに行けばいいのでは?と思う方もいるかもしれません。確かに、適切な治療を受けることができれば、元の穏やかな生活を取り戻すことができることもあります。

しかし、これまで私がいろいろな問題行動の治療に携わってきた中で、「犬を飼う前にこんなことを知っていれば、そして飼ってからもこんなことに気をつけていれば、ここまでひどい問題行動には発展していなかったかも…。」と思うことが実はたくさんあります。今回は、そんな問題行動を予防するために、ぜひ気をつけて頂きたいことをお伝えします。

なぜ犬は問題行動を起こすのか?

犬が問題行動を引き起こす原因として、その子の脳の異常などが考えられますが、飼育方法や飼育環境が原因となっているケースも少なくありません。

少し極端な例ですが、膨大な体力がある大型犬を、お散歩に一切連れて行かずに、長い間狭い一人暮らし用のマンションに閉じ込めていれば、どんなに優しい子でもきっと問題行動を起こすでしょう。

その子の性格に合わないトレーニング方法を取り入れたり、その子の性格を理解しないでコミュニケーションを取ろうとしたり、犬が本能的に持っている特性を理解しないまま接しようとすると、問題行動を引き起こすようになる可能性は高いのです。

ちなみに、犬とうまく共存している国スウェーデンでは、子犬を迎えたらまずトレーニング教室へ行き、犬とのコミュニケーションを教えてもらうという習慣があります。『犬と共存できる国スウェーデンの、一歩進んだトレーニング教室』の記事も読んでみてください。

問題行動を引き起こさないために

問題行動を引き起こさないためには、犬を迎える前に飼い主さんがしっかり勉強しておく必要があります。また、見た目だけではなく、自分にぴったりな子を迎えるということも大切です。

自分に合った動物を選んで

動物と暮らしたいと思ったら、まずはどんな種類の動物をお迎えするかということから考えますよね。犬がいいのか猫がいいのか、鳥やハムスターなどの小動物という選択肢もあります。

この時、必ず飼い主さんのライフスタイルや生活環境に合う動物種を選んで頂きたいと思います。例えば、どんなに犬が好きな人だとしても、散歩に連れて行く時間や一緒に遊んであげる時間が取れない場合には、残念ですが、犬を選ぶべきではありません。

犬に比べて手がかからないと言われている猫であっても、室内で飼育するのであれば毎日のトイレ掃除は欠かせませんし、コミュニケーションを取る時間は必要です。「世話をする時間がないから猫を迎える」という考え方はやめたほうがいいでしょう。また、飼育スペースの広さも考える必要があります。鳥類、げっ歯類といった小型の動物についても、やはりある程度の広さの飼育スペースは必要です。

犬種も自分に合うかどうかを見極めて

犬をお迎えしようと決めたら、次に犬種を選ばなければなりません。犬は昔から、人間の生活で活躍するために品種改良が繰り返されてきたという経緯から、犬種によって性質や行動面にそれぞれ特徴があります。例えば、牧羊犬は他の犬種よりもかなり多くの運動量を必要としますし、闘犬は攻撃性が高くなるように作り出されたため、咬みやすい傾向にあります。また、小型であっても興奮しやすく活動性の高いジャック・ラッセル・テリアやミニチュア・ピンシャーなどは、高齢者だけの家庭には不向きですし、また子どもを咬む傾向が高いと言われているチワワやポメラニアンは小さいお子さんがいる家庭では避けた方がいいかもしれません。

 

これらはあくまでも一般的な傾向ですので、すべての犬に当てはまるわけではありませんが、その犬種の特徴を把握しておくことは、将来の問題行動を予防するために大切なことです。動物種を選ぶ時と同様に、ご自分のライフスタイルや生活環境に合わせて、犬種を選んでください。

性別はどうする?

ある調査では、一般的にメスの方が訓練能力は高いとされ、オスは活動性が高くて遊び好きとされています。一緒に落ち着いて生活をしたいならメス、賑やかに暮らしたいならオス、という選び方もありでしょう。

ちなみに、性別によって引き起こされる問題行動というのもあります。オスの場合は、例えば縄張りを守るための攻撃行動や無駄吠え、マーキングなどがあります。これらは去勢によって予防できることもあります。

もちろん個体差はあります!

ここまで、犬種や性別によって行動や性質の特徴がある程度は把握できるとお伝えしてきましたが、同じ犬種・同じ性別でもかなりの個体差があることはわかっておいてほしいと思います。

「この犬種なんだから他の犬と仲良くできるはずだ」「女の子なんだからおとなしいはずだ」と決めつけてしまうと、その子自身の性格が見えなくなり、コミュニケーションがうまく取れなくなってしまいます。

私たち人間も、「日本人は几帳面」「アメリカ人は陽気」などと言われることがありますが、雑な日本人もいればシャイなアメリカ人だっていますよね。それと同じです。犬種や性別の特性を把握した上で、その犬の持っている個性ときちんと向き合ってあげてください。

有力情報として活用したいのが、両親の性質や行動です。可能であれば、両親をみせてもらい、性質や行動の特徴をあらかじめ把握しておくとよいですね。

 

 

 

子犬を家族に迎えるというのは大変なことです。たくさんの幸せを与えてもらえると同時に、命を大切に育てる、飼い主としての責任が発生するからです。可愛いから、という理由だけで安易に犬を迎えるのではなく、自身のライフスタイルや生活環境をよく考えて、新しい家族を迎えるようにしてくださいね!

菊池 亜都子
東京大学附属動物医療センター 行動診療科

菊池 亜都子

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