今回は、犬が動物病院で示す攻撃行動についてお話ししたいと思います。

なぜ、病院で暴れてしまうのか?

病院には「怖い」や「痛い」がいっぱいです…

動物病院で示す攻撃行動は、ほとんどの場合が恐怖からくるものか、痛みからくるものだと言えるでしょう。最初に、手術などの大きな医療処置を受けた後に一番ひどくなることがあります。典型的なのが、6ヶ月齢くらいで行われる去勢避妊手術でしょう。この時期は、社会化期を経た後の重要な時期と言われています。生後3~12週間くらいまでの時期である社会化期についての重要性は、世間でもよく言われていますね。

しかし、その社会化期のあと6~8ヶ月齢までの間(犬種や個体による差はあります)に

■ 適切な社会的強化がないと、せっかく社会化した対象にふたたび恐怖心を抱くようになる「後戻り現象」を示す

ことがあるのです。おそらく、この時期の犬の多くが飼い主さんと引き離されるという経験を初めてするでしょうし、手術の準備も犬にとっては異様な雰囲気であり、恐怖を感じてしまうかもしれません。そして、術後に痛みや違和感を覚えることもあるでしょう。病院に来る前は元気いっぱいで絶好調だったのに、麻酔から目が覚めたら何だか痛いなんてことになってしまったら、トラウマ(心的外傷)になってもまったく不思議なことではありません。

病院の”雰囲気”を感じ取っています

もちろん、攻撃のきっかけは去勢や避妊といった大きな医療処置だけではありません。感受性の高い犬であれば、高い診察台に乗せる、直腸温を測る(お尻に体温計を差し込みます)、爪を切る、注射をするといったごく日常的な医療行為が恐怖や疼痛を誘発することがあります。待合室で待っている時に、診察室などから聞こえてくる他の犬や猫の絶叫にも近い鳴き声を聞くだけでも、恐怖を感じてしまう犬もいるかもしれません(私たちも子供の頃に歯医者に行った時や集団予防注射を受ける際などに経験したことはないでしょうか?)。

 

どんな行動をとるのか

犬によって様々です

どんな時に攻撃的になるかは犬それぞれです。動物病院に入る時から攻撃的になる犬もいます。また、直腸温を測るときだけ、耳の検査を行うときだけ、口の中を見るときだけ、保定するときだけなど、特定の処置に対する反応として攻撃行動を示す犬もいます。

 

犬の出す「恐怖のサイン」を見逃さないで

震えていたり、体を硬くしたり、姿勢を低くしていませんか? 耳を後ろに引いたり、目を見開いていたり、尻尾を巻き込んでいませんか? これらは恐怖を感じているサインです。もし逃げられたり隠れることができる状況であればそうするでしょうが、がっしりと拘束されていたり、ケージに閉じ込められていたりすると、ずっと我慢しなければなりませんね。それが限界を超えてしまえば、攻撃行動に発展してしまうかもしれません。

 

どうすれば防げるのか?

なだめ過ぎ、怒ったりはNGです

攻撃的であったり、怖がる犬に対して、飼い主さんがどのような反応を示しているかも重要です。

飼い主さんが必要以上になだめることによって、犬の望ましくない行動を強化することがある

ので、できればやめた方がよいでしょう。また、

攻撃行動に対して叱ったり叩くなどして、罰を与えることによって攻撃や恐怖を悪化させる

ことがあるので、これもやめましょう。

 

治療法は他の攻撃行動と同じです

動物病院での攻撃行動の治療法も、他の攻撃行動と基本的な考え方は一緒です。

■ 病院に少しずつ慣らすという『脱感作』という方法

と、

■ 病院に対して良いイメージをつけるという『拮抗条件づけ』という行動療法

を行ったり、必要に応じて抗不安薬の投与などが行われたりします。

(具体的な方法については、かかりつけの動物病院や専門の獣医師に相談してください)

 

さいごに:「病院に行かない」とならないためにも…

動物病院での攻撃行動が発現すると、ついつい病院に連れて行くのが億劫になってしまいませんか?気軽に病院に連れて行けなくなることで、何となく犬の異変に気づいたとしても、もう少し様子をみようかなと思ってしまうこともあります。病気や怪我をして病院での処置が必要となった場合にも、攻撃の程度や体の大きさによっては、すぐに病院に連れて行けなかったり、連れていけたとしても、実際に診察することさえも困難になってしまいます。

それを避けるためにも、

■ 普段から自分の犬と相性の良い動物病院や獣医師を見つけておく

といいですね。治療はせずに病院に来るだけという機会を定期的に作り、

■ 獣医師やスタッフからおやつをもらって病院に対する良い印象をつける練習をする

など、犬のしつけや問題行動に理解を示し、協力してくれるような病院を見つけられるといいと思います。

 

犬の攻撃行動についてのコラム

第1回 犬が威嚇をしてくるのはなぜ?

第2回 家族に対して犬が攻撃行動を取る理由

第3回 不安からくる犬の攻撃行動

第4回 犬がなにかを守ろうとするときの攻撃行動

第5回 多頭飼いでは犬の順位付けに気を付けて!

第6回 病院で暴れるワンちゃんは何が原因なの? (本稿)

 

 

「犬の気持ち」「しつけ」に関する記事はこちらをご覧ください。

<犬の気持ち>

■しっぽ:犬の“しっぽ”で感情を読み取ろう!

■見つめる:じーっと見つめてくるときの犬の気持ちは?

■しぐさ:行動学の専門家が解説!仕草からわかる犬の気持ち

■鼻舐め:犬が鼻をペロペロ舐めるのはなぜ?知っておきたい犬の習性と病気のサインとは?

■他の犬:他の犬に会った時、愛犬はなにを考えているの?

■威嚇:犬が威嚇をしてくるのはなぜ?

■順位付け:多頭飼いでは犬の順位付けに気をつけて!

■好き嫌い:愛犬の好きなこと、苦手なこと、きちんと把握できていますか?

■転移行動:犬が自分のしっぽを追いかけるのはなぜ? 

■ストレスサイン:犬のストレスサインとは?どんな行動をするの?

 

<犬のしつけ>

■ アイコンタクト:全てのしつけに必要!愛犬とのアイコンタクト

■ 失敗談:みんなのしつけ失敗談。先輩の失敗から学ぼう!

■ 子犬:子犬を迎えたばかりのお家は要注意!そのしつけ、本当に大丈夫?

■ドッグカフェ:ドッグカフェでいい子にしてもらうためのしつけ

■ おいで:呼んだら来てくれる「おいで」のしつけ

■ 待て:犬のしつけ「待て」はとっても重要!トレーニングの方法は?

■ 咬み:噛む犬のしつけ方

■ 吠え:犬の無駄吠えのしつけ方 <原因別に解説>

■ クレート:クレートを好きになってもらってお留守番上手に

■ リーダー:怖いボスと頼れるリーダーの違い

 

 

愛犬の行動から、病気の可能性を調べてみる『うちの子おうちの医療事典』

「うちの子」の長生きのために、年齢や季節、犬種など、かかりやすい病気や、症状や病名で調べることができる『うちの子おうちの医療事典』をご利用ください。

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 例えば、愛犬の「行動」から、考えられる病気を調べることもできます。健康な毎日を過ごすため、知識を得ておきましょう。

■ 足をあげる

■ 歩かない

■ 頭を振っている

■ ふらつく

■ ぐるぐる回る

■ 遠吠えをする

■ 性格が変わる

 

菊池 亜都子
東京大学附属動物医療センター 行動診療科

菊池 亜都子

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