あなたの愛犬が突然唸りながらくるくると自分のしっぽを追いかけて回り始めたことはありませんか?このような行動を見て、「しっぽで遊ぶなんて、可愛いな~」と思ったことはないでしょうか。確かに遊びで自分のしっぽを追いかけて回ることはありますが、中にはストレスからそのような行動をとっている場合もあるので、意識して様子を見てあげてください。

犬が自分のしっぽを追いかけるのはなぜ?

遊びの延長で、自分のしっぽを追いかけて回ることはあります。特に子犬であれば、その姿は頻繁に見られるかもしれません。成犬になっても、ふと自分のしっぽが気になって何となく追いかけたりすることもありますが、ストレスが原因となってしっぽを追いかけることもあります。嫌な気持ちになったり、葛藤したりしているときに、気持ちを紛らわそうとして、しっぽを追いかけるのです。

 

このように、ストレスや葛藤等を感じたときに自分の気持ちを紛らわそうとしてしっぽを追いかける行動を「転移行動」といいます。これは犬にとって正常な行動と考えられているので、過度に心配する必要はありません。

 

程度や頻度に注目

その程度や頻度があまりにもひどいようなら注意が必要です。例えば、1日に何回もそのような光景が見られたり、唸ったり吠えたりしながらしっぽを追いかけたり、こちらが声をかけても一向に止まる気配がなかったり…。さらには、しっぽを追いかけるだけではなく、実際にしっぽの毛をむしったり、出血するほど噛んでしまったりといった状態にまでなると、治療が必要になります。こうなってしまうと、飼い主さんひとりでなんとかしようとしてはいけません。長引けば長引くほど治すのが難しくなってしまいますので、早急に専門家に相談するようにしてください。

 

 

 

しっぽを追いかける原因別の対処法

正常な行動

遊びの延長でしっぽを追いかけたり、ストレスや葛藤などが生じて、気持ちを落ち着かせるための行動です。例えば、普段はソファに乗っても叱られないのに、たまに飼い主さんの気分で「ダメ」と言われソファを降ろされると、どうしていいのかわからなくなり、尾追い行動をすることで気持ちを紛らわそうとします。また、少し神経質な犬の場合、排便後に尾追い行動をすることもあります。何回か回って、それで落ち着くのであれば問題はありません。

常同障害

ストレスや葛藤が生じることは、私たち人間でもよくあることです。それを落ち着かせるために、さまざまな行動を示すこと自体は異常ではありません。しかし、その行動を常にしていないと落ち着かないといった状態にまでなってしまうと、正常な行動とは言えなくなります。これは人間でいう「強迫性障害」にとても近いものと考えられています。

 

たとえば、人の強迫性障害では、手を洗わずにはいられないという症状がよく知られています。常に手を洗っていないと気が済まなくなり、その結果、手が荒れてしまってもやめることができず、さらに洗い続けてしまうケースにまで発展することもあります。また、出かける際に鍵をかけたかどうか不安でたまらなくなり、結局外出ができなくなってしまうといったケースもあります。

 

犬もかかるストレスからくる病気

犬にも、この強迫性障害に似た病気があるのではないかと考えられています。強迫性障害には強迫観念が存在しますが、犬に強迫観念があるのかどうかを直接尋ねることができませんので、「常に同じ行動を繰り返す」という意味で「常同障害」という病名で呼ばれています。

 

しっぽが血だらけになっても追いかけ回すのをやめなかったり、しっぽが気になって散歩することもできなくなったりと、日常生活に支障が出るほどになってしまいます。最初のきっかけは、ストレスや葛藤であることが多いのですが、生まれつき不安傾向が高い犬の場合はほんの小さな刺激でもストレスになってしまったり、大きな環境の変化や震災などでとても怖い体験をしたことで生じることもあります。常同障害の場合には、行動療法以外に抗不安薬を併用することが有用となります。

 

脳の病気

脳の病気として「てんかん」が原因となることがあります。てんかんというと、突然意識を失って倒れたり、けいれんしたりといったイメージをお持ちの方が多いと思うのですが、てんかんの症状はそれだけではありません。例えば、幻覚のようなものが見えたり、性格が変化したり、体の一部がムズムズするといった症状が見られることがあります。それは自分の意識とは関係なく起こります。

てんかんの症状のひとつかも

自分のしっぽが攻撃すべき敵のように思えて、しっぽが目に入ると唸り始め、噛みちぎろうとするような場合、てんかんが疑われることがあります。また、うとうとしている時に突然興奮してしっぽを追いかけ始めるといった行動も、てんかんの可能性が考えられます。このように、てんかんが疑われる場合には、脳波を測定する検査によって、てんかんかどうかを診断することができます。てんかんと診断された場合には、抗てんかん薬を投与することで、尾追い行動が減少することがあります。

*てんかんについて、詳しくは『もしも愛犬がてんかんと診断されたら?発作の対処法、治療法など【獣医師が解説】』をご覧下さい。

 

その他の原因

皮膚の病気による痒みや、何らかの痛みによってしっぽが気になり、追いかけ回ることもあります。その場合には、まず原因となる病気を治すことを優先します。また、しっぽを追いかけた時に、飼い主さんがどのような対応をしたかによって、尾追い行動が学習されてしまうこともあります。例えば、飼い主さんが常にかわいいと言って褒めてくれたことで、「しっぽを追いかけると自分に関心を持ってくれる」と思い、かまって欲しくなると尾追いをすることもあります。

 

愛犬の尾追い行動において飼い主さんができること

このように、尾追い行動の原因はさまざまです。さらに、原因は一つだけとは限らず、いくつかの原因が重なっていることもあり、非常に複雑な問題を抱えているケースもよく見られます。自分の愛犬はもしかしたら…と不安に感じたら、ご自身だけで解決しようとせず、専門の獣医師に相談してください。そして、尾追い行動を決して叱らないでください。怖がらせるような音を立てたりするのも禁物です。尾追い行動をする犬は、ストレスをより感じやすい性質である可能性が高いので、日頃からストレスを過度に与えていないかどうかを見直してあげてください。

 

★愛犬の「ストレス」に関連するワンペディア獣医師監修記事

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うちの子おうちの医療事典

 

☞例えば、下記のような切り口で、さまざまな病気やケガを知ることができます。  健康な毎日を過ごすため、知識を得ておきましょう。

再発しやすい

長期の治療が必要

初期は無症状が多い

命にかかわるリスクが高い

生涯かかる治療費が高額

高齢犬に多い

病気の進行が早い

緊急治療が必要

入院が必要になることが多い

かかりやすい病気

他の犬にうつる

人にうつる

予防できる

子犬に多い

 

☞本記事に関連する病気の解説はこちらをご覧ください。

てんかん

皮膚病

 

 

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菊池 亜都子
東京大学附属動物医療センター 行動診療科

菊池 亜都子

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