犬のための環境整備が進んでいる国では、愛犬と広場をノーリードで歩いたり、そのまま一緒に飲食店を利用したり、リードだけで愛犬と電車に乗り込むことが普通だと言います。いつか日本もそんな風に、愛犬とのお出かけを気軽に楽しめるようになるといいですよね。

ただ、どんなに環境が整ったとしても、愛犬のトレーニングがきちんとできていなければ、そのような暮らしを実現することは不可能です。進んだ海外ではどのように犬のトレーニングをしているのでしょうか?

ここでは、犬に優しい国「スウェーデン」のトレーニング事情についてご紹介します。

身近に存在する、犬のための施設『ワーキング・ドッグ・クラブ』

スウェーデンでは犬を迎えると、たいていの人が一度はトレーニング教室を訪れます。このような習慣が一般に広く根付いている背景には、犬のために整備された充実した環境があります。スウェーデンには全国に290のコミューンと呼ばれる自治体(日本でいうと市区町村のようなもの)があるのですが、各コミューンに最低でも一つは、ワーキング・ドッグ・クラブという施設があります。

このワーキング・ドッグ・クラブでは、しつけ教室はもちろん、愛犬との素敵な生活を送るためのさまざまな教室が随時開催されています。犬を飼っていない人ですら、ほとんどの人がその存在を知っているほど身近な施設なので、誰でも簡単に「犬を迎えたし、クラブにでも行くか!」という発想に至りやすくなるのです。

ワーキング・ドッグ・クラブの特徴

誰でも参加できる低価格

これほど市民の生活に近しい存在であるにもかかわらず、誰もが安価に利用できるのもワーキング・ドッグ・クラブの特徴です。ワーキングドッグ・クラブは、通常の営利目的で経営されているトレーニングスクールとは異なり、非営利団体であるスウェーデン・ワーキング・ドッグ・クラブ によって運営されています。年間7,000円ほどの会員費と、1回2,000円~3,000円の参加費を払えば、誰もが クラブが開催している教室に参加できるのです。1コースあたり2時間程度でこの価格。低価格で利用できることも、トレーニングが普及する理由の一つでしょう。

幅広いトレーニングコース

ワーキング・ドッグ・クラブで開催されている教室はバラエティに富んでおり、生活の上で必要となるしつけ教室から、オビディエンスやアジリティなどのドッグスポーツの練習ができる教室、足跡追求などのような警察犬がやっているようなトレーニングを学べる教室など、さまざまな教室があります。そのため様々な興味を持つ飼い主たちが集まる場所になっていて、会員数は全国で6万人いると言われていて、これは犬の飼い主の10人に1人が会員になっているということになります。

まずトレーニングの楽しみを教えてもらう

犬を迎えたばかりの方であれば、まず子犬のためのパピー教室から始まり、その後、クラブのインストラクターのガイダンスによって、次のステップ(大抵は日常のしつけ教室)に進みます。ここで「犬と何かをする」という楽しみを覚えた飼い主は、さらに腕を磨こうとオビディエンスやノーズワーク、アジリティなどのドッグスポーツにチャレンジすることもあります。最初は何も知らなかった飼い主が3年後には競技会で競っている、ということもスウェーデンでは決して珍しい現象ではありません。

トレーニングは愛犬との関係性を構築するためのもの

飼い主抜きのトレーニングは存在しない

ワーキング・ドッグ・クラブには、必ずパピー教室あるいは日常のしつけ教室が設けられています。子犬に必要なトレーニングを学べる場所なのですが、一つ日本やアメリカにあるトレーニング教室と大きく異なる点があります。それは「飼い主が犬を教室に預けて、トレーナーにトレーニングをしてもらう」というサービスが、スウェーデンには全くないということです。そのようなサービスは、ワーキング・ドッグ・クラブ以外でも、スウェーデン全国どのトレーニングスクールを探しても皆無でしょう。

スウェーデンのトレーニング教室の目的は、飼い主がどのように犬と接したらいいかを学ぶことです。となると飼い主抜きでは話になりませんね。犬は機械とは違い、飼い主との関係性次第で行動を変えます。信頼している人に対しては安心して振舞っても、そうではない人といるときは、不安な気持ちが大きくなったり、強いストレスを感じるようになって、その結果吠えたり、攻撃的になるなど問題行動を見せることもあります。生き物というのは機械と違ってとてもファジー(曖昧)なのです。

「お手」などの芸は教えない

スウェーデンの多くのパピー教室では、おすわり・伏せ・つけ、といったトレーニングにそれほど多くの時間を割くことはありません(スウェーデンでも昔はそうであったのですが)。パピー教室などのような飼い主初心者が多い教室では、愛犬と良い関係を作ることに重きが置かれます。

人間同士でも同じですが、良い関係というのは、コミュニケーションがうまく機能していることから生まれるもの。それは人と犬との関係でも同じです。しかし、犬を迎えたばかりの飼い主は、犬とどのようにコミュニケーションを取ればいいのかわからず、そのせいでトレーニングに失敗してしまうことがよくあります。犬といい関係性を築こうとして取った行動が、逆に問題行動を誘発してしまうこともあるのです。

教室で学ぶ犬の思考回路

例えば、犬がおやつを欲しがっているとします。 このとき、「欲しがっているものを与えないのは可哀想だから」と犬の望むままに与えたとします。これが人間の子供であれば「もう今日はこれでおしまいね」と言葉で制することもできるでしょう。でも犬は言葉がわからないので、「おねだりすればもらえる」と覚えてしまいます。要求してももらえないと、「もっと要求したらくれるかもしれない!」と、飼い主に吠えたり飛びついたりして、問題行動に発展してしまう場合もあるのです。

正しいコミュニケーションは?

教室では、「おねだりされた時におやつを与えるのではなく、犬がお利口に振舞ってい時に、ごほうびとしておやつを与える、というように条件をつけることが大切です」と教わります。

なんとなく冷たい感じにも聞こえるかもしれませんが、ねだり続ける犬に対して突然「ダメ!」と叱るよりも、よほど「犬の気持ちを考えた優しい」方法です。そして、犬に自分で考える(自分が何をしたらママからおやつをもらえるようにできるのだろう?)癖をつけることにもなります。

お互いを影響し合おうと考える状況を作れたら第一段階は大成功。これは、言葉を使えば相手に理解を得られる、という人間独特のコミュニケーションにしか慣れていない人には、言われてみないとなかなか思い浮かばない発想でもありますよね。

 

 

人が良かれと思って取った行動でも、必ずしも人と犬との関係作りに、いい影響を与えるわけではありません。しかし発想の仕方を変えれば、必ず良好なコミュニケーションが可能となり、良い関係性を構築することができます。

その発想に必要なコツを、スウェーデンのパピー教室では教えてくれるのです。

スウェーデンのように、各自治体にトレーニング教室が整備されるのは、まだまだ先のことかもしれません。とはいえ、スウェーデンの一歩進んだ犬との向き合い方は、今の私たちの生活にも取り入れることができるはず。犬に優しい考え方にひっぱられる形で、犬たちが暮らしやすい環境も整っていくといいですよね。

 

ライター

藤田 りか子

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