日本では「避妊・去勢は当たり前」「避妊・去勢をさせることこそが動物愛護」という風潮が、やや強いように思います。欧米諸国でもそのような考え方をする飼い主さんは多いのですが、北欧の価値観は少し異なり、犬に避妊・去勢をさせることに抵抗を感じる飼い主さんが多くいます。

 

動物が幸せに暮らせる環境を整える「アニマル・ウェルフェア」の先進国であるスウェーデンも、避妊や去勢については、あまり肯定的ではありません。今回は、そんなスウェーデンの犬文化と避妊・去勢の考え方についてご紹介します。

 

スウェーデンの犬文化

スウェーデンは、動物保険加入率が約80%であったり、ペットショップでの犬猫の生体販売が違法であったりと、動物愛護の意識が非常に高い国です。動物保護法で、飼い主さんが愛犬を常に見守っていることが義務付けられているため、飼い主さんの飼育管理力も高く、そのため放し飼いをする人はほとんどいません。特に都市部では、犬は常に飼い主さんのそばで過ごします。このように、動物愛護の意識が高いからこそ、避妊・去勢をしなくてもきちんと愛犬のことを管理できるのです。また、犬の繁殖もケネルクラブでしっかり管理されているので、一般的な飼い主の元で子犬が産まれるようなこともほとんどありませんし、ホイホイ子犬が売られるような環境でもありません。これは法律で禁止されているわけではなく、ケネルクラブと犬種クラブの繁殖管理の徹底ぶりが、一つの犬文化として根付いているためです。

 

スウェーデンにいる犬のほとんどが未避妊・未去勢

法律で避妊去勢が禁止されていた

知識のあるブリーダーのもとで繁殖をさせるので、スウェーデンでは「望まれない子犬」が産まれることはほとんどありません。そのため1989年まで、犬の避妊去勢は動物保護法によって禁止されていました。ちなみに隣国のノルウェーでは、医学的な理由や性ホルモンが関係した問題行動がない、予防手段としての避妊去勢は、未だに法律で認められていません。

 

猫と犬の違い

2012年の統計では、スウェーデンで避妊去勢を受けている犬の割合は、全体の22%しかいません。約80%が未避妊・未去勢のままです。一方、猫は80%以上が避妊・去勢の手術を受けています。これは猫が自由に歩きまわって繁殖をたくさん行うことを防いで、個体数をコントロールするためです。

 

スウェーデンの飼い主さんが避妊・去勢を躊躇する理由

私はスウェーデンに定住して22年になりますが、愛犬の去勢手術については非常に悩みました。実は私の愛犬は、ホルモンの影響による行動がしばしば度を越していたのです。結局、去勢手術はすることにしましたが、決意に至るまでに一年ほどかかりました。

 

医学的あるいは健康上の理由がない限り、不妊手術に踏み切る前にたいていの人が私のように悩みます。健康な体にむやみにメスを入れたくない、という気持ちや、「犬の行動は自分で管理すべき!」という飼い主としての自負もあります。また 「犬の体の構造を変えて飼い主は楽をしようとしている」と思われるかもしれないという、社会的なプレッシャーを感じていたことも原因になっていると思います。

 

避妊・去勢問題で批判される、スウェーデンのブリーダー

最近では北欧の獣医師もアメリカ留学をすることが増え、アメリカの獣医文化を北欧に導入するようになりました。そのため、スウェーデンでも以前よりは、犬の避妊・去勢が普及しつつあります。しかし、このような状態を引き起こしたのはブリーダーの責任だとして、一部ではブリーダーを批判する声もあります。

 

ドッグショーでは見栄えがいいからという理由で、大きなオスが評価される傾向にあります。そのため、男性ホルモンの多いオスばかりが繁殖に使われるようになり、結果として問題行動を起こしやすい犬を作り出しているのではないか、と言われているのです。このような批判も、スウェーデンならではの価値観なのかもしれません。

 

避妊・去勢の普及に疑問の声

昔と比べて避妊・去勢が普及してきている状態に、ケネルクラブは警鐘を鳴らしています。理由は様々ですが、「犬の避妊・去勢が動物愛護」と妄信すべきではない、と警告を出しているのです。

倫理観が崩れる

人々がきちんとしたトレーニングも試さず、安易に動物の体を変えて解決しようとするのは、倫理観が崩壊していると考えられています。

攻撃的な犬になる可能性がある

オスの場合、あまりに若いうちに去勢をすると、オスの性ホルモンの影響を受けずに大胆性に欠けた臆病な犬に育ってしまうという研究が報告されています。おとなしくなるならいいのではないか、と思われるかもしれませんが、臆病な子は自分を守ろうとするために、攻撃的になることもあるのです。

関節障害やガンの形成の促進の可能性

また、避妊去勢をすることで、関節障害やガン形成を促しやすくなる、という研究報告も出ています。子宮や睾丸を摘出することで子宮がんや睾丸がんの発生を防げる一方、こういった研究があることも理解しておかなければなりません。

 

※参考文献

Hart. B. L. et al., (2014). Long-term health effects of neutering dogs: comparison of Labrador Retrievers with Golden Retrievers. PLoS One

 

Hart. B. L. et al.,(2016) Neutering of German Shepherd Dogs: associated joint disorders, cancers and urinary incontinence.., Veterinay medicine and science

 

 

昔に比べれば一般的になってきたとはいえ、まだまだ多くの飼い主さんが避妊・去勢に対し、すぐに踏み切れないでいるところが、スウェーデンという国の価値観を表しているのではないでしょうか。

 

国が違えば文化も違い、考え方も様々です。「周りが避妊去勢しているから」「避妊去勢してあげることが動物愛護だから」という考えではなく、手術をするのとしないのとでは、どちらの方が愛犬にとって幸せになのか、飼い主さんがしっかり考えることが大切なのだと思います。

 

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例えば、下記のような切り口から、さまざまな病気やケガを知ることができます。  健康な毎日を過ごすため、知識を得ておきましょう。

 

【治療面】■ 再発しやすい ■ 長期の治療が必要 ■治療期間が短い ■ 緊急治療が必要 ■ 入院が必要になることが多い  ■手術での治療が多い ■専門の病院へ紹介されることがある ■生涯つきあっていく可能性あり

【症状面】■ 初期は無症状が多い ■ 病気の進行が早い

【対象】■ 子犬に多い ■ 高齢犬に多い ■男の子に多い   ■女の子に多い ■ 大型犬に多い ■小型犬に多い

【季節性】■春・秋にかかりやすい ■夏にかかりやすい

【発生頻度】■ かかりやすい病気 ■めずらしい病気

【うつるか】 ■ 他の犬にうつる ■ 人にうつる ■猫にうつる

【命への影響度】 ■ 命にかかわるリスクが高い

【費用面】 ■ 生涯かかる治療費が高額 ■手術費用が高額

【予防面】 ■ 予防できる ■ワクチンがある

 

★「うちの子おうちの医療事典」で子犬が注意すべき傷病を調べてみましょう

□ 子犬に多い傷病

□ 低血糖症

□ 水頭症

□ 骨折

□ 回虫症

□ ジアルジア症

□ コクシジウム症

□ ケンネルコフ

□ 犬パルボウイルス感染症

ライター

藤田 りか子

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