小顔に似合わぬ大きな耳と、締まった体に細長い手足で抜群のスタイルを誇るミニチュア・ピンシャー。賢く、運動することが大好きなので、アクティブな飼い主さんとは良きパートナーになれる犬種です。

 

しかし、その体型とアクティブさゆえ、注意したいポイントもあります。ここではそんなミニチュア・ピンシャーの歴史や特徴、性格、毛色、飼育上の注意点、かかりやすい病気などについて詳しく解説します。

 

ミニチュア・ピンシャーの歴史

「ミニピン」という愛称で親しまれているミニチュア・ピンシャー。「ミニピンはドーベルマンを小型化した犬種」こんな話を耳にしたことがある方も多いかと思いますが、実はそれはまったくの誤りで、犬種としての歴史はミニピンの方がずっと長いのです。

 

祖先とされている犬は、200〜300年ほど前に、ドイツで小害獣の駆除犬として活躍していた「ヘル・ピンシェル」という中型犬です。このヘル・ピンシェルに、ダックスフンドイタリアン・グレーハウンドミニチュア・シュナウザーなどを交配してつくり出されたのが、ミニチュア・ピンシャーで、19世紀頃には現在の姿になっていたと言われています。原産国であるドイツでは、「レイ(鹿)・ピンシェル」、「ツベルク(超小型)・ピンシェル」とも呼ばれています。

 

ミニチュア・ピンシャーは、1920年頃にアメリカに渡り、その勇敢な性格から、ペットとしてだけではなくネズミの駆除や番犬として人気となりました。ミニチュア・ピンシャーと正式に命名されたのは、1925年頃のことです。日本のみならず、海外でも「mini-pin」と呼ばれることもあり、世界中の国々で人気を博しています。

 

また、ミニチュア・ピンシャーやドーベルマンは、現在でも生後間もなく断尾や断耳を行う習慣が続いていますが、ヨーロッパでは動物愛護の観点から、20世紀後半以降断尾や断耳を禁止する国が増えています。

 

ミニチュア・ピンシャーの特徴

ミニチュア・ピンシャーは小柄な体格の割に手足が長く、すらっとしたスタイルをしていますが、とても筋肉質な犬種です。短く、光沢のある被毛は体全体に均一に生えています。JKC(ジャパン・ケンネル・クラブ)では、体高は25〜30cm、体重は4〜6kgが標準サイズと規定しています。

 

ミニチュア・ピンシャーは、前足を高く上げて歩く「ハックニー歩様(ハイステップ歩様)」という歩き方が特徴的です。他の犬種でこの歩き方が見られた場合は、何らかの異常を疑いますが、ミニチュア・ピンシャーやイタリアン・グレーハウンドなどでは正常とされています。

 

ミニチュア・ピンシャーの被毛と毛色

ミニチュア・ピンシャーは短毛で、下毛のないシングルコートの被毛です。
毛色は大きく分けて以下の3種類があります。

単色

基本の一色のみで構成され、レッドと呼ばれる赤みがかった茶色から、黒に近い茶色までバリエーションがあります。色の加減によって、それぞれディアー・レッド、レディッシュ・ブラウン、ダーク・レッド・ブラウンなどと呼び分けられています。

ブラック&タン(バイカラー)

ラッカーブラックと呼ばれる黒漆色が全身のベースとなり、眼の上や喉の下側、パスターン、後肢の内側、尾の付け根などにレッドまたはブラウンの斑が入る毛色です。胸には2つの三角形の模様が入ります。

チョコレート&タン

チョコレート色が全身のベースとなり、タンの部分はブラック&タンと同様の毛色です。

 

ミニチュア・ピンシャーの性格

ミニチュア・ピンシャーは、小柄な体格とは裏腹に、マッチョな筋肉をフル活用して俊敏な動きをするとてもエネルギッシュな性格です。

好奇心が強く、遊ぶことも得意なアクティブな犬種と言えますが、その反面人見知りな傾向もあり、縄張り意識も強いため、はじめての人や犬には攻撃的に振る舞ってしまうことも。また、大型犬相手にも勇猛果敢に向かってしまう節があるので、突然咬み付いたりしないよう注意が必要です。

 

このように、鋭敏に動ける筋肉と、常に動き回っているような好奇心を持ち合わせた犬種だということを飼い主さんが十分に理解していれば、大きな事故を防ぐことができるでしょう。

 

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ミニチュア・ピンシャーを家族に迎えたら

十分な運動が必要

とても活発で、運動能力の高い犬種のため、毎日30〜40分以上のお散歩や、ドッグランなどでの運動が必要です。小柄な体に見合わない高いジャンプ力を持っているので、少々の柵なら簡単に越えてしまいます。ドッグスポーツには向いていますが、脱走などにも繋がりかねないので、お散歩や運動の際には必ずリードを装着し、目を離さないようにしましょう。

 

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信頼関係を築けるコミュニケーションを

好奇心旺盛なためトレーニングも楽しむことができる犬種ですが、プライドが高い一面もあります。アメリカでは車の盗難防止や麻薬密売者の護衛犬として活躍していたことから、警察犬としての素質も持ち合わせているとても賢い犬種なので、甘やかさず、けじめのある態度で接することが重要です。

*関連記事:「さまざまな場面で活躍する「使役犬」。どんな仕事をするの? その歴史とは?

 

寒い時期には体温調節

短毛でシングルコートの犬種のため、被毛のお手入れは比較的簡単ですが、皮下脂肪が少なく寒さには弱い犬種です。寒い時期にはエアコンによる空調管理や、服を着せるなどして体温調節をしてあげるようにしましょう。

 

ミニチュア・ピンシャーがかかりやすい病気

耳介辺縁皮膚症

耳介辺縁皮膚症とは、耳のフチにかさぶたの様なものが付いたり、フチの部分だけ皮膚が黒く変色したり、脱毛したりする病気です。ダックスフンド、ミニチュア・ピンシャー、ヨークシャー・テリアミニチュア・シュナウザーイタリアン・グレーハウンドなど、耳が大きな犬種に多く見られます。

 

進行すると、厚くて硬いかさぶたの塊の様なものが耳のフチに付くため、違和感を感じて耳を頻繁に振ったり、引っ掻いてしまったりして裂傷や出血を起こす場合もあります。基本的には痒みは伴いませんが、裂傷になってしまった場合には強い痛みを伴うことがあります。

 

耳介辺縁皮膚症は、耳の辺縁への血流が悪くなること(血行障害)により、その部分の皮膚が代謝異常を起こし、末端の細胞が死滅していくことが原因だと言われています。血行障害を起こす原因には、免疫の異常、遺伝的な関与、また寒さや栄養不良によって末端への血流が悪くなる、などが考えられる一方、甲状腺機能低下症の犬にも現れることが多いと言われています。

 

治療には、シャンプー療法、保湿剤やステロイド剤の塗布、ビタミン剤の内服などさまざまな対症療法が試みられます。完治させることは難しい病気ですが、対症療法により症状を緩和させてあげることが期待できます。

 

★『耳』に関するワンペディアの獣医師監修記事は、こちらをご覧ください。

 

皮膚疾患

犬の皮膚は人間より薄いため皮膚疾患を発症しやすく、患部を舐めたり掻いたりしてしまうことによって悪化しやすい傾向があります。ミニチュアピンシャーは短毛かつシングルコートの被毛のため皮膚がとてもデリケート。それによってさまざまな皮膚疾患にかかる可能性が高い犬種のひとつです。

 

代表的なものは、生後半年〜3歳までに発症する「アトピー性皮膚炎」です。環境中のダニやカビなどに免疫が過剰に反応しやすく、痒みが出るのが特徴です。多くは春〜秋にかけて季節性の悪化が認められます。

 

一方、季節を問わず通年性に見られることが多いのは、特定の食物(タンパク質)に反応する「食物アレルギー」です。この他にも、皮膚に細菌感染を起こす「膿皮症」や、カビが感染する「皮膚真菌症」、フケや皮脂が過剰に増える「脂漏性皮膚炎」や、反対に皮膚が乾燥することでトラブルが生じる「ドライスキン」などを起こしやすく、中高齢になるとホルモンからくる皮膚疾患の可能性も増えてきます。

 

皮膚疾患はその原因を特定し、それに対する治療を根気よく行うことが大切です。症状が見られた場合には、早めに動物病院を受診するようにしましょう。また、犬の体質に合ったシャンプー剤を用いてシャンプーをする、保湿剤で皮膚のケアをする、ホコリがたまらないよう掃除に気をつける、など日頃のケアを行うことで、皮膚疾患の予防や治療につながります。

 

レッグ・カルベ・ペルテス病(虚血性大腿骨頭壊死)

レッグ・カルベ・ペルテス病は、1歳未満の子犬に見られる、股関節の病気です。原因は不明ですが、大腿骨(太ももの骨)の付け根部分に血液がうまく供給されず、骨頭が壊死してしまうため、「虚血性大腿骨頭壊死」とも呼ばれています。

 

症状としては、歩く時や体重をかける際に、壊死している大腿骨頭に痛みが出るので、その足をかばうようにして歩くようになります。初期段階では歩き方の変化に気がつきにくいですが、痛みが数週間続くと、かばっている方の足の筋肉が落ちてくるため、左右の太ももの太さに違いが出てくることがあります。また、痛みから元気がなくなったり、震えたりする場合もあります。

 

壊死した大腿骨頭が自然と治ることはないので、根治には大腿骨頭を切除する外科手術が必要です。早期に手術をして、術後にしっかりとリハビリをすれば、また正常に歩くことができるようになります。*詳しくは「小型犬に多い股関節の病気の一つ、レッグペルテスとは」を参照してください。

 

膝蓋骨脱臼

膝蓋骨脱臼は、後ろ足の膝蓋骨(ひざのお皿)がずれたり外れてしまったりする病気です。小型犬に多く、生まれつき膝蓋骨がはまっている溝の部分が浅い犬や、膝蓋骨を支える靭帯が弱い犬で発症しやすいとされています。

 

膝蓋骨脱臼を起こすと、後ろ足をぴょこぴょこと挙げて歩いたり、スキップのような歩き方をしたり、痛みがある足をかばって3本足で歩くようになります。初期段階では、自然と症状が治まったり、痛み止めなどのお薬で改善したりすることが多いですが、進行してしまうと手術が必要な病気です。

 

肥満になると膝への負担は大きくなります。予防のためにも、適正な体重を維持するようにしましょう。また、足に大きな力が加わった時に発症しやすいので、健康診断などで一度でも膝蓋骨脱臼を指摘されたことがある場合には、階段の上り下りや、高いところからのジャンプは控えるようにしてください。フローリングなどのツルツルと滑る床も非常に危険です。滑りにくいマットなどを敷くようにして、足への負担を減らしてあげましょう。詳しくは『小型犬に多い「膝蓋骨脱臼」とは?治療法と予防法【獣医師が解説】』を参照してください。

このように、ミニチュア・ピンシャーは、細い手足と並外れたジャンプ力から、着地をする際に関節や脊椎(背骨)に負担がかかると起こる病気になりやすい傾向にあり、また骨折などのケガをする危険性の高い犬種です。高い所からのジャンプなどには十分注意するようにして下さい。また、体重オーバーも足腰への大きな負担となるので、肥満にならないよう日頃から食事管理と運動をするようにしましょう。

 

★犬種別病気ガイド『ミニチュア・ピンシャー』も合わせてご覧ください。

 

★「うちの子」の長生きのために、年齢や季節、犬種など、かかりやすい病気や、症状や病名で調べることができる『うちの子おうちの医療事典』をご利用ください。

☞『うちの子おうちの医療事典』で本記事に関連する傷病を調べる

甲状腺機能低下症

アトピー性皮膚炎

食物アレルギー

膿皮症

皮膚真菌症

脂漏症

皮膚病

レッグ・カルベ・ペルテス病

膝蓋骨脱臼

骨折

 

 

★『子犬期』に関するワンペディア専門家監修記事は、こちらをご覧ください。

フクナガ動物病院 獣医師

福永 めぐみ

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