穏やかで陽気な性格と、他にはないユニークな見た目で、近年大人気のフレンチ・ブルドッグ。性格や体格の面においては、室内飼育の多い日本に向いている犬種とも言えますが、かかりやすい病気や飼育上の注意点は多く、決して「飼いやすい犬種」とは言えません。
しかしとても人なつこく、愛らしい犬種なのも事実。フレンチ・ブルドッグという犬種を飼い主さんがきちんと理解してあげることは、病気の予防にもつながるのでとても大切です。ここではフレンチ・ブルドッグの歴史、体や性格の特徴、飼育上の注意点やかかりやすい病気について解説します。
フレンチ・ブルドッグの歴史
フレンチ・ブルドッグはその名の通り、ブルドッグからつくり出されたフランス原産の犬種です。名前に「フレンチ」と付くものの、フレンチ・ブルドッグの誕生には、イギリス・フランス・アメリカの3つの国が大きく関わったとされています。
13世紀から19世紀のイギリスでは「牛追い(ブル・ベイティング)」という見せ物に使われる犬としてブルドッグの基礎となる犬が活躍していました。このとき使われたのは、現在では絶滅している「オールド・イングリッシュ・ブルドッグ」という犬種で、私たちの良く知るブルドッグより大きな体格で、手足も長く、鼻はさほどつぶれていない姿をしていました。
次第に、短い手足や皮膚のたるみ、アンダーバイト(受け口)を持った犬が人々に好まれ交配されるようになり、「ブルドッグ(別名:イングリッシュ・ブルドッグ)」がつくられました。
このブルドッグが19世紀後半にフランスに持ち込まれ、パリのブリーダーによって、闘犬の血統から生まれたブルドッグに、穏やかで陽気な性格のパグや小型のテリアが交配されました。こうしてつくり出されたのが「フレンチ・ブルドッグ」です。その愛くるしい姿は、フランスの上流階級の女性の間でたちまち人気になったと言われています。
当初は立ち耳と折れ耳の両タイプがありアメリカでは立ち耳が、イギリスやフランスでは折れ耳が人気でした。この「立ち耳派・折れ耳派論争」にピリオドを打ったのが、1900年頃に開催されたアメリカのドッグショーでの出来事です。このショーで、立ち耳のフレンチ・ブルドッグが一躍人気を博したことでフレンチ・ブルドッグに不可欠な特徴であるピンと立った「コウモリ耳」がアメリカの愛好家たちによって標準と規定されました。
日本へは大正時代に輸入され始め、昭和初期には多くの家庭で飼育されるようになりました。その後一時は人気が低迷しましたが、21世紀に入り再び大人気の犬種となっています。
フレンチ・ブルドッグの特徴
最大の特徴は、短頭種特有のペチャっと潰れた短い「しし鼻」と、ピンと立った大きな「コウモリ耳(バッド・イヤー)」を持っていることです。頭が大きく、全体的に筋肉質ながっちり体型。しっぽは生まれつきとても短く、ほとんど振ることはできないので、尾の振りから感情を読み取ることは期待できません。
その代わり、表情はとても豊かです。毛質は柔らかく艶やかで、独特の皮膚のたるみがあり、特におでこには深いシワがあります。また、「アンダーバイト」とよばれる受け口も特徴です。
JKC(ジャパン・ケンネル・クラブ)では、体重は8〜14kgの範囲内が標準であると規定しています。
フレンチ・ブルドッグの被毛
フレンチ・ブルドッグの被毛は短く、柔らかで光沢があります。季節毎に毛が生え変わるので、抜け毛はとても多い犬種です。毛色は4種類あります。
フォーン(単色)
フォーンとは「子鹿」という意味で、子鹿の毛皮のようなやや明るい茶系のカラーを指します。濃淡はさまざまで、金色に近い色からレッド、ブラウン、カフェオレなど呼び分けられます。口元が黒っぽいのが特徴です。
パイド
白地をベースに、ブリンドル(黒)やフォーンのいわゆる「ぶち模様」が入ったカラーです。模様の入り方はそれぞれ異なり、個性的です。白地にブリンドルが入った「ウシ柄」のパイドが一般的ですが、白地にフォーンが入った「ハニーパイド」という珍しいタイプのパイドもいます。
ブリンドル
黒地をベースに、褐色やホワイトの指し色が入ったカラーです。指し色による模様はそれぞれ個性があり、のど元からお腹にかけての模様は「エプロン」、足下の模様は「ソックス」なんて呼ばれたりします。また、ブリンドルの中でも明るい毛色がタテ縞模様に入っているタイプは「タイガーブリンドル」と呼ばれています。
クリーム(単色)
クリーム色の単色です。淡く優しい色合いで、人気のカラーのひとつです。
フレンチ・ブルドッグの性格
がっちりとした見た目とは裏腹に、楽しいことが大好きで、とても陽気な性格をしています。基本的に人なつこく穏やかで、ブルドッグのような頑固さはあまり持ち合わせていないので、飼い主さんに甘えるのも上手です。
常に楽しいことを求めて鼻をクンクン、眼をキラキラさせているような犬種で、楽しいことには夢中になりますが、突然飽きてどこかへ行ったり、寝始めたりする自由な側面もあります。頭もよく、トレーニングも遊びながら楽しく行うことができますが、筋肉質でパワーのある犬種なので興奮させすぎは要注意。犬に悪気はないのですが、小さなお子さんなどは押し倒されてしまうこともあります。
フレンチ・ブルドッグを家族に迎えたら
穏やかで無駄吠えなども少ない犬種ですが、体調面は繊細なところが多い犬種です。飼育する際に気をつけていただきたいポイントはたくさんあります。
温度管理は必須!
フレンチ・ブルドッグは特に体温調節が苦手な犬種なので丁寧な温度管理は必要になります。犬は人間のように汗をかいて体温調節をすることができないので、鼻呼吸や「ハッハッハ」という口呼吸(パンティング)によって主に体温を調節しています。しかしフレンチブルドッグのようにマズル(口と鼻の部分)の短い短頭種の犬たちは、呼吸での体温調節もあまり得意ではありません。さらに、ほかの犬種に比べて肉厚なため、暑さにとても弱い一面もあります。特に夏場は常にエアコンをかけて、温度管理をしてあげましょう。
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運動のさせすぎに注意
とても活発な犬種ですが、激しい運動をさせると、呼吸が苦しくなりやすいので注意が必要です。日々の運動は短時間のお散歩や、室内遊びで十分だと言われています。
特に夏場のお散歩は熱中症にもなりやすいので、時間帯を朝や夜に限定し、10分程度に留めるよう注意しましょう。また、首輪は首に負担をかけやすく、気管も圧迫されやすいので、短頭種には向いていません。ハーネス(胴輪)を使用するとよいでしょう。
室内遊びの際は、おもちゃに熱中すると周りが見えなくなりがち。アゴの力も強いので、おもちゃを誤食してしまわないよう注意が必要です。また、眼がくりっと飛び出している犬種なので、家具などの隙間に頭を突っ込んだり、ハンガーなどの尖ったもので遊んでしまった時に、眼球を傷つけてしまうケースも少なくありません。室内遊び中も、様子を気にかけてあげるようにして下さい。
食事管理はしっかりと
上記のような特性上、運動をたくさんはさせてあげられないのに、食欲はかなり旺盛な犬種で欲しがるものを安易に与えてしまうと、すぐに太ってしまうことも。
肥満はさまざまな病気の原因にもなるので、体重管理には気を配ってあげて下さい。また、皮膚やお腹のアレルギーも多い犬種なので、食事やおやつに反応して皮膚の痒みや下痢などの症状が出てしまう場合もあります。何か異変に気がついたら、早めに動物病院を受診しましょう。
皮膚はとてもデリケート
毛は短いのでカットはほとんど必要ありませんが、抜け毛はとても多い犬種です。また、皮膚は全身的にとてもデリケートで、特に顔やしっぽの付け根のシワの部分には汚れがたまりやすく、においや炎症の原因になります。定期的なシャンプーに加え、こまめなブラッシングを行い、シワの部分は清潔に保てるようにしてあげましょう。
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避妊・去勢手術を受ける際には
避妊・去勢手術を受けることは、生殖器や性ホルモンに関連した病気を予防したり、望まない妊娠の防止や、問題行動の抑制など、さまざまなメリットがあります。
手術を受ける場合には全身麻酔が必要となりますが、フレンチ・ブルドッグなどの「短頭種」では、他の犬種に比べて全身麻酔のリスクが高いと言われているので、獣医師とよく相談してから手術を受けるとよいでしょう。
全身麻酔のリスクが高いとされている理由の1つ目は、気道の構造的な異常が見られるからです。麻酔をかける際には気道が塞がるのを防ぐことや吸入麻酔を吸わせる目的で、気管にチューブを設置します。短頭種では、この気管チューブを挿管する際や、手術後にチューブを抜く際に、喉や鼻の構造上「気道閉塞」を起こしやすいとされています。
2つ目は、短頭種では迷走神経(内臓など体内の環境を調節している神経)がほかの犬種より緊張しやすいためです。手術による痛みやストレス、術後の興奮などによって迷走神経が強く刺激されると、急激に心拍数が下がったり血圧の低下を引き起こしやすいとされています。このようなことが起こると、全身の血液循環が悪くなり、命に関わる場合もあります。
このようなことから、短頭種の全身麻酔はリスクが高いとされていますが、現在は各動物病院で麻酔の安全性を高めるさまざまな工夫がなされており、短頭種でも全身麻酔をかけるケースは決して少なくありません。また、今後の健康管理のためにも、避妊・去勢手術と同時に気道閉塞が起こりやすい原因を取り除く手術を行うという選択肢もあります。
フレンチ・ブルドッグがかかりやすい病気
短頭種気道症候群
フレンチ・ブルドッグやパグ、シー・ズーをはじめとする短頭種は、鼻・喉・気管などの「上部気道」とよばれる空気の通り道に、生まれつき構造的な異常があるので、基本的に呼吸がしづらいという特徴があります。
この異常には、外鼻孔狭窄(鼻の穴が狭い)、軟口蓋過長(喉の奥の気管と食道を仕切る軟口蓋が長くなる)、喉頭虚脱(喉の骨が変形して気道を塞いでしまう)、気管虚脱(気管が潰れやすい)などがあり、これらをまとめて「短頭種気道症候群」と総称します。
いつもより強い力で胸を膨らませて呼吸しようとすることによって悪化するので興奮しやすい性格の犬や、肥満体型、高温多湿の環境下で発症しやすい病気です。
短頭種では、口を開けて「ガーッガーッ」と呼吸をしている場面を見ることも多く、これが普通だと思われている飼い主さんもいるかと思いますが、この「開口呼吸」も病気のひとつの症状です。短頭種も他の犬種のように鼻での呼吸を望んでいますが、上部気道が狭くて呼吸がしづらいために、やむを得ず口を開けて呼吸をせざるを得ないのです。
また、運動時や興奮時に舌の色が青紫色になったり(チアノーゼ)、体温が高くなったり、突然失神してしまうこともあります。これらは呼吸困難のサインです。特に肥満の犬や暑い環境下で起こりやすいので、注意するようにして下さい。
治療には、興奮を鎮める鎮静剤や炎症を抑える消炎剤などの薬を使ったり、酸素療法や体温・体重管理などを行う内科治療と、狭い鼻の穴や伸び過ぎた軟口蓋を手術によって矯正する外科治療があります。
いずれにしても、体重と環境管理は短頭種にとって生涯不可欠なものなので、一緒に生活する上で常に心がけてあげましょう。
熱中症
みなさんご存知の通り日本の夏はとても暑く、湿度も高いので、犬も熱中症になりやすい環境にあります。特に5月〜9月の間は要注意な季節です。
熱中症は初期の対応が非常に重要で、対処が遅れると命に関わる危険性があります。
犬は人間のように汗をかいて体温を調節することができないため人間よりも高温多湿の環境に弱く、水分を十分に摂れない場合や、おしっこを我慢してしまう環境下では熱中症にかかりやすいとされています。特に、呼吸機能の弱い短頭種(フレンチ・ブルドッグ、パグなど)や、北国原産の犬種(シベリアンハスキーなど)、肥満体型の犬、子犬や老犬、心臓病や呼吸器の病気をもっている犬では熱中症のリスクが非常に高いので注意が必要です。
*関連記事☞「【調査結果】愛犬・愛猫の熱中症対策どうしてますか?(2019年版)」
熱中症を発症しやすい場面として最も多いのが、「車内でのお留守番」です。エアコンをつけずにエンジンを停止した状態の車の中は、すぐに気温が上がってしまう上、お留守番中は犬も興奮しやすいので体温が急上昇してたった数分で熱中症になってしまう恐れがありますので絶対にやめましょう。また、閉め切った室内でも同様です。
*詳しくは「犬と車でお出かけする場合の、車内や車外での熱中症対策は?」をご覧ください。
犬にとっては、真夏は24時間空調管理をしてあげることが望ましく、特にお留守番の際は日当りなどにも気を配ってあげるようにしましょう。蒸し暑い時間帯のお散歩も危険です。熱中症だけでなくアスファルトで肉球を火傷してしまうことがあります。
症状として、急激な体温の上昇(40℃以上)、開口呼吸(口を大きく開けて息苦しそうにする)、大量のよだれ、嘔吐や下痢などがみられます。さらに進行すると、ふらつき、失神、震え、けいれん発作、意識障害、チアノーゼ(舌が青紫色になる)などがみられるようになり、命に関わる危険な状態です。少しでも熱中症を疑う症状がみられたら、大至急動物病院に連絡の上、受診するようにして下さい。その際、冷水で濡らしたタオルを脇や内股に挟んだり、冷風で扇ぐなどして、体を冷やしながら向かいましょう。
皮膚疾患
犬の皮膚は人間より薄いため皮膚疾患を発症しやすく、患部を舐めたり掻いたりしてしまうことによって悪化しやすい傾向があります。特にフレンチ・ブルドッグは皮膚がとてもデリケートなので、さまざまな皮膚疾患にかかる可能性が高い犬種のひとつです。
代表的なものは、生後半年〜3歳までに発症する「アトピー性皮膚炎」です。環境中のダニやカビなどに免疫が過剰に反応しやすく、痒みが出るのが特徴です。フレンチ・ブルドッグはこのアトピー性皮膚炎を遺伝的に発症しやすい犬種と言われており、多くは春〜秋にかけて季節性の悪化が認められます。
一方、季節を問わず通年性に見られることが多いのは、特定の食物(タンパク質)に反応する「食物アレルギー」です。
この他にもフレンチ・ブルドッグは、皮膚に細菌感染を起こす「膿皮症」や、カビが感染する「皮膚真菌症」、フケや皮脂が過剰に増える「脂漏性皮膚炎」、反対に皮膚が乾燥することでトラブルが生じる「ドライスキン」も起こしやすく、中高齢になるとホルモンからくる皮膚疾患の可能性も増えてきます。
症状の出る部位は皮膚疾患の種類によって異なりますが、フレンチ・ブルドッグでは痒みは特に顔のシワの部分と肢端(指間・足裏)で最も多く見られます。湿疹は腹部〜内股、脇の下に多く、アトピー性皮膚炎などではさらに肘や頚部、口の周りにも痒みや脱毛が見られることが多い傾向にあります。
皮膚疾患はその原因を特定し、それに対する治療を根気よく行うことが大切です。症状が見られた場合には、早めに動物病院を受診するようにしましょう。
また、犬の体質に合ったシャンプー剤を用いてシャンプーをする、保湿剤で皮膚のケアをする、ホコリがたまらないよう掃除に気をつける、など日頃のケアを行うことで、皮膚疾患の予防や治療につながります。
犬のシャンプーのコツは『愛犬がシャンプー好きに!正しい頻度と洗い方【獣医師が解説】』を参考にしてみて下さい!
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