チャーミングな顔立ちとふわふわの毛質で、家庭犬として長年不動の人気を誇るシー・ズー。そのルーツは中国の宮廷にあり、神聖な犬として王侯貴族たちに寵愛されてきた歴史があります。穏やかな性格で飼育しやすいと言われていますが、お世話やお手入れは意外と手のかかるポイントが満載です。
ここでは、そんなシー・ズーの歴史や特徴、性格、飼育上の注意、かかりやすい病気について詳しく解説します。

シー・ズーの歴史

シー・ズー・は17世紀に中国で誕生した犬種です。中国と隣国のチベットは、仏教を通じて古くから交流があり、チベットの僧院から中国の王侯貴族へ「ラサ・アプソ」という犬種の犬が長年贈られていました。当時、ラサ・アプソは「神の使い」として神聖な動物とされており、魔除けの意味を込めて献上されていたようです。そのラサ・アプソと、当時中国の宮廷内で飼育されていた「ペキニーズ」を交配してつくり出されたのが「シー・ズー」だと言われています

 

国ではライオンを意味する「獅子」と、犬を意味する「狗」を用いて、「獅子狗(シー・ズー・クウ)」と呼ばれ、王侯貴族の間で大切に飼育されていました。そんなシー・ズー・クウは、当時神聖な「守り神」として門外不出とされ、清王朝末期の西太后の時代には特に寵愛されて育てられました。王宮内の限られた環境の中でのみ交配が行われ、長い年月をかけて犬種の特徴が固定化されていったと言われています。

 

その門外不出は、19世紀後半に起きた第二次アヘン戦争によって解かれることとなります。清王朝が占領されると、王宮で暮らしていたシー・ズーの多くは殺害されてしまいましたが、一部はイギリス人の手によって保護され生き延びたと伝えられています。

 

こうしてシー・ズーは、1930年代にイギリスをはじめとするヨーロッパの国々へ渡るようになり、呼び名もシー・ズー・クウからシー・ズーへと変化していきました。ヨーロッパへ来た当初は、見た目がラサ・アプソに似ていることから「アプソ」というジャンルで一括りにされていましたが、1935年にイギリスでシー・ズークラブが発足し、別の犬種として区別されるようになりました。

 

日本へは、戦後間もない1960年代に入ってきたとされており、JKC(ジャパン・ケンネル・クラブ)には1964年に犬種として登録されました。隣国の中国で誕生したシー・ズーですが、このような経緯があり、日本に入ってきたシー・ズーはイギリス由来のものが多いと言われています。

シー・ズーの特徴と毛色

ペチャっとした鼻が特徴のシー・ズーは、口や鼻の短い「短頭種」に分類されます。耳は垂れ耳で、体高より体長が少しだけ長く、四角いシルエットをしています。放射状に生えた鼻周りの毛が菊の花のように見えることから、「クリサンセマム(菊)・ドッグ」というおしゃれな異名ももっています。

 

かつての北京ケネルクラブ犬種標準書には、「頭はライオン、体はクマ、足はラクダ、尾は羽ほうき。耳はヤシの葉、歯は米粒、舌は真珠のような花弁。歩く姿はまるで金魚。」と記されていたそうです。なんだかとってもおしゃれですね。JKCでは、体高26.7cm以下、体重4.5〜8.1kg以下が標準であると規定しています。

 

被毛は、寒冷地であるチベット原産のラサ・アプソを祖先に持つだけに、下毛が密生した長毛のダブルコートです。手足の毛はブーツのようにもこもことしています。毛色はさまざまな毛色が認められています。

シー・ズーの性格

祖先は宮廷で飼われていたこともあり、とても穏やかで人なつこく、安定した性格をしています。あそび好きで陽気な面も持ち合わせており、家族以外の人や犬にも友好的に接することができます。一方で宮廷育ちの血統が影響してか、プライドが高く、マイペースで頑固な部分もあります。

シー・ズーを家族に迎えたら

シー・ズーはこのような性格上、どの年代の飼い主さんでも飼いやすい犬と言われていますが、お世話は決して簡単ではありません。

トレーニングもマイペース!噛み癖や吠え癖に注意

シー・ズーは賢く落ち着きがあり、物覚えも良いので、トレーニングは比較的しやすい犬種だと言われています。ただし、プライドが高くマイペースな性格のため、こちらが焦ってトレーニングを進めようとすると、へそを曲げてしまう恐れがあります。シー・ズーのペースに合わせてゆっくりとトレーニングを進めることが成功のカギです。

 

また、シー・ズーは噛み癖や吠え癖が少ない犬種だと言われていますが、これもしつけ次第です。甘やかしすぎには気をつけましょう。

運動不足はストレスや肥満のもとに

小柄で室内飼育に向いている犬種ですが、体を動かすことは大好きなので運動不足はストレスの元となります。また、がっちりとした体型で食欲もおう盛なため、比較的太りやすい犬種だと言えます。

 

夏以外は毎日20〜30分程度のお散歩と、室内遊びでストレスを発散させるように心がけ、食事管理にも気をつけましょう。ただし、シー・ズーは短頭種のため、体温調節はとても苦手です。真夏のお散歩は涼しい時間帯に限定し、短時間で切り上げた方が良いでしょう。

被毛のお手入れは念入りに

長く柔らかい被毛はシー・ズーのチャームポイントですが、お手入れはその分大変です。毛玉ができやすい毛質なので、可能な限り毎日ブラッシングをしてあげましょう。

 

また、シー・ズーは垂れ耳のため耳が蒸れやすかったり、地肌に皮脂がたまりやすい体質のため、体臭がきつくなりがちな犬種です。体臭や皮膚病を防ぐためにも、日頃から正しい耳掃除と、定期的なシャンプーを行うことが大切です。

シー・ズーがかかりやすい病気

短頭種気道症候群

フレンチ・ブルドッグやパグ、シー・ズーをはじめとする短頭種は、鼻・喉・気管などの「上部気道」とよばれる空気の通り道に、生まれつき構造的な異常があるので、基本的に呼吸がしづらいという特徴があります。

 

この異常には、外鼻孔狭窄(鼻の穴が狭い)、軟口蓋過長(喉の奥の気管と食道を仕切る軟口蓋が長くなる)、喉頭虚脱(喉の骨が変形して気道を塞いでしまう)、気管虚脱(気管が潰れやすい)などがあり、これらをまとめて「短頭種気道症候群」と総称します。

 

いつもより強い力で胸を膨らませて呼吸しようとすることによって悪化するので興奮しやすい性格の犬や、肥満体型、高温多湿の環境下で発症しやすい病気です。
短頭種では、口を開けて「ガーッガーッ」と呼吸をしている場面を見ることも多く、これが普通だと思われている飼い主さんもいるかと思いますが、この「開口呼吸」も病気のひとつの症状です。短頭種も他の犬種のように鼻での呼吸を望んでいますが、上部気道が狭くて呼吸がしづらいために、やむを得ず口を開けて呼吸をせざるを得ないのです。

 

また、運動時や興奮時に舌の色が青紫色になったり(チアノーゼ)、体温が高くなったり、突然失神してしまうこともあります。これらは呼吸困難のサインです。特に肥満の犬や暑い環境下で起こりやすいので、注意するようにして下さい。

 

治療には、興奮を鎮める鎮静剤や炎症を抑える消炎剤などの薬を使ったり、酸素療法や体温・体重管理などを行う内科治療と、狭い鼻の穴や伸び過ぎた軟口蓋を手術によって矯正する外科治療があります。
いずれにしても、体重と環境管理は短頭種にとって生涯不可欠なものなので、一緒に生活する上で常に心がけてあげましょう。

マラセチア性皮膚炎

マラセチア性皮膚炎は、マラセチアという酵母様真菌が原因で痒みなどを起こす、犬でよく見られる皮膚疾患のひとつです。マラセチアは、口の周り、耳の中、指の間、肛門などに常在している酵母の一種で、健康な犬の皮膚にも存在しています。

普段は上手にお付き合いをしていて、皮膚病などを起こすことはありませんが、皮脂腺から分泌される皮脂(=あぶら)が大好物なので、あぶらがたまりやすい部位で悪条件が重なると、マラセチアが悪さをして皮膚炎を起こす場合があります。

 

マラセチア性皮膚炎を起こす原因には、さまざまな要因が絡んでいるケースが多いです。

例えば、アトピー性皮膚炎などの過敏症や、甲状腺機能低下症などのホルモンの病気、もしくはあぶらが過剰に出てしまう脂漏症などが根底にあり、これらの病気によって炎症や脂質の異常が起こりやすい環境を作ってしまうことがあります。すると、あぶらが大好きなマラセチアが増えてしまい、マラセチア性皮膚炎を引き起こします。

 

シー・ズーは「あぶら症」とも呼ばれる「本態性脂漏症」を起こしやすい犬種のひとつで、特に高温多湿の夏期には悪化しやすく、皮膚のべたつきやフケ、体臭がきつくなるなどの症状とともに、マラセチアが増えやすくなります。

特に脇の下や内股などの摩擦が起こりやすく蒸れやすい部位や耳で、フケやあぶらを伴う赤み、分厚い皮膚、痒みなどが見られたら要注意です。早めに動物病院を受診するようにして下さい。

 

治療には、抗真菌薬などの飲み薬に加え、余分なあぶらやマラセチアを落とすシャンプーを使ったスキンケアが中心となります。この他に、アトピーやホルモンの病気を併発している場合にはそちらの治療を併せて行ったり、食生活を見直すことで改善する場合もあります。

白内障

眼の中にある水晶体が白く濁る病気です。犬の白内障の多くは老化によるもので、7歳を過ぎた頃から白濁し始めるケースが多いですが、遺伝的に発症しやすい犬種では2歳以下の若年性白内障を起こすこともあります。

 

また、シー・ズーは肥満になりやすいことから、糖尿病などの全身性の病気に合併して白内障が起こる場合もあります。初期の段階では気付かれないことが多いですが、進行すると、暗いところで動かなくなった・段差につまずくようになった・物にぶつかるようになったなどの視覚障害が現れることがあります。

進行の程度はさまざまなので、生涯視覚を保ったまま生活できる犬も少なくありません。視覚障害や失明を起こしている場合には、専門施設での手術が唯一の根治治療とされています。

 

*詳しくは「犬の白内障の症状や予防法」をご覧ください。

僧帽弁閉鎖不全症

心臓の中にある「僧帽弁」という弁がうまく閉じなくなり、血液が逆流してしまう病気です。逆流が軽度のうちは症状はほとんどありません。そのため健康診断などで偶然心雑音が見つかり、そこから発見されるケースが多いです。

病気が進行すると、咳が出たり、肺に水が溜まる肺水腫などを起こして、命に関わることもあるので、早めに病気を発見し、お薬などで病気の進行を遅らせることがとても大切です。

 

*詳しくは「犬の僧帽弁閉鎖不全症」を参照してください。

フクナガ動物病院 獣医師

福永 めぐみ

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