「下痢」は、犬が示しやすい体調不良のサインのひとつです。愛犬が下痢をしてしまったときには、おうちで様子を見てよいのか、それともすぐに病院に連れて行くべきなのか、悩まれる飼い主さんも多いと思います。下痢にはたくさんの原因があり、ごく軽度のものから、命を脅かすような病気が隠れていることもあります。ここでは下痢を起こすメカニズムやその原因、下痢をしてしまった場合の対処法などを詳しく解説します。

なぜ犬は下痢をするの?

下痢とは、便の中に含まれる水分の量が異常に増えてしまった状態をいいます。食べ物は胃や腸で消化されて、便となって体外へ排出されます。腸は水分の分泌と吸収を繰り返して、便を一定の水分量になるよう調整するのですが、このバランスが崩れるとベチャッとした水分の多い便になってしまうのです。

便の水分量が増えてしまう要因としては、腸の中に水分の分泌を増やすような刺激物が入ったり、腸の運動が過剰になることで消化物が腸を早く通過して、腸内で水分を十分に吸収できなくなってしまうことなどがあります。どのくらい水分を含んでいるかによって、軟らかい「軟便」・泥のような「泥状便」・水のような「水様便」などと呼び分けられます。

小腸か大腸どちらかに異常がある

犬の腸は人間と同じ様に、小腸と大腸の2つに大きく分けられています。このどちらに異常があるかによって、どのような下痢になるのかが変わってきます。この特徴を知っておくことは、飼い主さんにとっても重要です。

小腸性下痢

食べ物を消化し、体に必要な栄養分を吸収する役割を持つ小腸に異常があった時におこるのを「小腸性下痢」と言います。小腸性下痢の特徴は、1回の便の量は多くなりますが、便の回数はさほど変わらないことが多く、形は軟便から水様便まで様々です。また、小腸に出血がある場合には、便の色が黒っぽくなることがあります。長引くと必要な栄養分を吸収する働きが鈍くなるので、体重が減ってきてしまうのも小腸性下痢の特徴です。また嘔吐を伴うと体が脱水しやすくなり、重症化することがあります。

大腸性下痢

体に必要な水分を吸収する役割を持つ大腸に異常があった時におこるのを「大腸性下痢」と言います。1回の便の量は普段と同じか少なめになり、回数は頻回になるのが特徴です。また、排便の姿勢をとっても便が出ない「しぶり」が見られることもあります。人間で言う“トイレから出られない状態”はこれにあたります。便の形は軟便で粘液が混ざることも多く、「ゼリー状の便が出た」と言って病院に来られる飼い主さんも多いです。大腸で出血がある場合には明るい赤色の血便が見られ、体重の減少などはあまり起こりません。

犬が下痢をする原因は?

 

犬が下痢をしているからといって、病気というわけではありません。人間と同じように、牛乳を飲むと下痢をしてしまったり(乳糖不耐性)、アレルギーやストレスによって下痢をすることもあります。しかし、中には命に関わる病気が潜んでいることもあるので注意が必要です。

下痢を引き起こす原因はたくさんありますが、代表的な原因には、以下のようなものが考えられます。

危険度があまり高くない下痢

□フードやおやつの変更

□食べ過ぎ

□消化の悪いものや脂肪分の多い食事

□引越しやペットホテルによる環境変化(ストレス)

 

注意した方がいい下痢

□腐ったもの、雑草などの拾い食い

食物アレルギー

□寄生虫、細菌、ウイルスなどによる感染症

慢性腸炎

 

危険度が高く、すぐに治療すべき下痢

異物の誤食

中毒を起こす食べ物や人間用の薬などの誤食

□重度の胃腸炎膵炎

腫瘍(がん)

□子犬の感染症

 

動物病院にはいつ行けばいいの?

下痢の中には様子を見ていてもよいものと、すぐに病院へ連れて行くべき危険なものがあります。一体いつ、動物病院へ連れて行けばいいのでしょうか?

 

元気そうだけど下痢をしている時

フードの変更やストレスによる一時的な下痢の場合は、元気そうにしていることが多いです。下痢以外にこれといって普段の生活と変化が見られないような場合には、フードやおやつの変更、飼い主さんの不在など、思い当たる節はないか検討してみてください。もし思い当たる食べ物があればそれは与えないようにして、1〜2日安静にして様子を見ましょう。長時間のお散歩や興奮する遊びは避け、お家の中でできるだけおとなしくしておきましょう。ただし、嘔吐など下痢以外の症状が見られたり、下痢がなかなか治らない場合には早めに病院へ。

下痢がずっと続くとき

一過性の軽い下痢であれば、通常1〜2日で良くなることがほとんどです。元気があっても3日以上下痢が続いている場合や、一度は治っても再び下痢を繰り返す場合には、寄生虫・細菌・ウイルスなどの感染症や食物アレルギー、慢性腸炎などを起こしている可能性もあるので、なるべく早く病院で検査や治療を受けることをおすすめします。

 

下痢以外に嘔吐の症状がみられるとき

下痢と嘔吐が同時にみられる場合には、脱水を起こしてしまう可能性があるので、早めの対処が重要です。胃腸炎膵炎などを起こしている場合には熱が出ることもあります。また、飼い主さんが気付かないうちに異物や中毒をおこす物質を誤食していることもあり、緊急性のある場合も考えなければなりません。なるべく早めに病院に連れて行ってあげましょう。

その際、下痢の様子や回数、嘔吐のタイミング、どのような吐物だったかなどを記録して、獣医師に報告すると診断の手がかりになります。もしも夜間に何度も嘔吐を繰り返したり、ぐったりしていたら、緊急病院へ連れて行くことも検討した方がいいでしょう。

*犬が食べると中毒症状を起こす食べ物については『犬に与えてはいけない危険な食べ物【獣医師が解説】』、犬の嘔吐については『犬がはく原因と対処法は?【獣医師が解説】』の記事で詳しくご紹介しています。

 

血便が混じっているとき

便が硬い場合は、固すぎた便のせいで肛門付近が切れてしまい、一時的に血が付いてしまうこともあるので、1〜2日様子をみてもよいでしょう。しかし、下痢に血が混ざっている場合や元気がない場合には、病院を受診しましょう。また、赤い血が混ざっているものだけが血便ではありません。胃腸炎や胃潰瘍など胃や小腸で出血を起こしていると便は黒っぽくなるので、いつもより明らかに黒い色の便が出た場合にも、早めの受診をおすすめします。

*血便について、詳しくは『もしも愛犬が血便をしたら?血便の原因と対処法【獣医師が解説】』をご覧下さい。

 

体が震えているとき

犬の体が震える原因はたくさんあります。寒さによる冷え、引越しなどの環境変化によるストレス、精神的なものが原因なこともあれば、感染症による発熱・下痢や嘔吐による脱水・腹痛などが原因となることもあります。

震えが一時的なもので元気や食欲に問題がない場合は、1日おうちで様子を見てよいでしょう。しかし、体を丸めるような姿勢で震え続けていたり、体に触ると怒るような様子を見せたりするのは、お腹が痛いサインです。すぐに動物病院へ連れて行ってあげましょう。他にも、体がいつもより熱っぽい時も早く動物病院へ連れていってあげてください。

*体の震えについて、詳しくは『犬が震える原因と理由、対処法もご紹介【獣医師が解説】』をご覧下さい。

 

愛犬が下痢をしたら、お家でできる処置はある?

ごはんは与えてもいいの?絶食させるべき?

下痢をしているとき、胃腸はとても敏感になりがちです。危険度の低い下痢でも、腸の中を消化物が通るだけで刺激となってしまうこともあるので、半日〜1日程度絶食させて胃腸を休ませてあげると回復が早いことも多いです。お水は脱水を防ぐためにいつも通り与えますが、冷たすぎる水や一気に大量の水を飲んでしまうとそれも刺激になってしまうので注意が必要です。絶食後は消化の良いもの(ふやかしたドライフードなど)を少しずつ、様子を見ながら与えましょう。嘔吐などがある場合にはごはんやお水は与えず、まずは病院を受診するようにしましょう。

市販の下痢止めは使ってもいい?

下痢はその原因によって、下痢止めを使った方が良い場合と使ってはいけない場合があります。特に感染症で下痢を起こしているときには、病原体となる細菌やウイルスを体から排出するのを遅らせてしまうので、下痢止めは使ってはいけません。

病院に連れて行く前にできることはある?

下痢の診断や治療には、おうちでの飼い主さんの観察が重要な手がかりになります。愛犬が下痢をした時には、元気や食欲はあるか、いつから下痢をしているのか、下痢は何回したか、出血やゼリー状の粘液は出ているか、嘔吐はみられたか、などを記録しておくとよいでしょう。病院へ行く時には、ペットシーツなどに包んだ便を持参すると、検査などがスムーズに行えます。

また食欲があるからといって、おやつや人間の食事などを与えてしまうと下痢が悪化したり、何が原因で下痢をしているのか判断がつきにくくなってしまいます。下痢が落ち着くまでは、絶食もしくは普段食べているフードだけを与えて様子を見るようにしましょう。

 

 

一般的に、嘔吐や発熱がなく元気な場合には、一過性の下痢であることも多いので、1〜2日間はおうちで様子をみても問題のないことがほとんどです。一方、命の危険があるような感染症や重度の胃腸炎膵炎などの場合は、下痢や嘔吐の症状がひどくなり、発熱を伴うことも少なくありません。特に免疫力が低い子犬や老犬の場合には、急に症状が悪化したり、他の病気が潜んでいることもあるので要注意。症状がひどく、元気がない場合には、すぐに病院に連れて行ってあげましょう。

 

☞【関連コンテンツ】アイペット獣医師監修『ペットと私の暮らしメモ』も、ぜひご覧ください。

 

 

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慢性腸炎

膵炎

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腫瘍

異物誤飲

フクナガ動物病院 獣医師

福永 めぐみ

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