あなたの愛犬は活動的ですか?無我夢中で遊びますか?楽しそうに遊んでいる愛犬の姿を見られるのは、飼い主さんとしてもうれしいですよね。でも、それがあまりにも激しすぎて、まるで制御がきかない状態になって、困ったことはありませんか?

実は、このような相談はよくあります。

専門用語では「過活動」といい、通常の子よりも興奮しやすかったり、些細なことに過剰に反応したりする状態

のことをいいます。

 

過活動に陥ってしまう原因

実は運動不足かも

特に年齢が若い犬に多く見られるのですが、「落ち着きがない」「言うことをきかない」と飼い主さんが訴えるケースのほとんどが、実は

その犬に適した十分な運動量や精神的な刺激が与えられていないことが原因

となっています。小型犬だから、あまり運動させなくていいなどと思っていませんか?同じ小型犬でも、犬種によっては、たくさんの運動量を必要としている子もいます。大型犬であれば、なおさら運動量が必要です。ちなみに、私はラブラドールを飼っていた頃、夕方の散歩は2時間でした。

 

ずっと激しい運動をさせる必要はありません。匂いを嗅いだり、外の景色を見るだけでも、満足感は違います。もちろん、同じ犬種でも、年齢や健康状態によって変わってきますが、もう一度運動や刺激が足りているかどうか振り返ってみてください。

 

また、一緒に遊ぶ時間がないからと、おもちゃを与えっぱなしにして、そのまま相手をせずに放ったらかしにしていませんか?留守番が多く、退屈な毎日を過ごさせていませんか?たっぷり運動させることももちろん必要ですが、ただ身体を動かすのではなく、

頭を使う遊びを取り入れてあげると、精神的な満足感を得る

ことができます。例えば、おやつを家の中の複数の場所に隠して探させる「宝探しゲーム」であったり、ボールなどを投げて持って来させたり、飼い主さんとコミュニケーションが取れる遊びは、犬も大好きなはずです。どうしても、一緒に遊ぶ時間が取れない時には、知育トイなどのおもちゃをうまく利用するといいですね。そういう時も、時々声をかけてあげるなどして、出来るだけコミュニケーションは取ってあげるようにしてください。

 

興奮したときに叱っていませんか?

犬が興奮したときに、いつも叱ってしませんか?犬にとってはただ、はしゃいでいるだけなのに、それをいつも飼い主さんが叱っていると、犬は「たくさんはしゃぐと、飼い主さんは自分に関心を向けてくれる!」と受け止めて、同じような行動を繰り返すような場合があります。

 

逆に愛犬が静かで落ち着いている時、飼い主さんはそれを邪魔したくないという気持ちもあって、無視していることがありませんか?実はそういう時こそ関心を寄せ、穏やかな口調で褒めてあげるといいのです。

このような場面は行動診療中でもよく見られます。カウンセリングしている間、飼い犬が落ち着きなく、いたずらなどを始めると、飼い主さんは慌てて注意をして、自分のところに連れてこようとするのですが、落ち着いて静かにしている時には気がつかずに、話に夢中になっていることがあります。飼い主さんには決して悪気はなく、誰でもこのような対応をしがちなのですが、犬は飼い主さんの何気ない反応一つ一つを真剣に受け止めて、常に学習しているのです。飼い主さんに褒められたくて、どうしたら自分を気にかけてもらえるのか、飼い主さんの様子をじっと見ていますので、

愛犬がおとなしくしているときこそ褒めてあげる

といいでしょう。 

 

叱ったり、驚かせるなど、犬が怖がらせるような罰を与えて、不安な気持ちにさせることは、決しておすすめしません。その場では、おとなしくなるかもしれませんし、それを見て飼い主さんも「効果があった」と思うかもしれません。最近、テレビなどでそのような方法を推奨するような報道がよく見られますが、それは長期的に見たときに、決していい結果をもたらしません。実際に、罰を与えた結果しばらくはおとなしくなったけれど、結局前以上に悪化したといって相談に来られるケースも多く見受けられます。くれぐれも、怖がらせる、不安にさせることは、誰も幸せにしないということを心にとめておいていただければと思います。

 

病気である可能性も・・・。

 

過剰な活動や興奮の中には、「多動障害」が原因となっているものもあります。これは、人間における「注意欠陥障害」と同じと考えられていますが、多動障害の病態生理についてはまだ完全にはわかっておらず、実際には犬の多動障害の報告はあまり多くありません。多動障害の犬は、過剰な活動性や反応性がみられるだけでなく、刺激のない環境でも落ち着いたり休んだりすることができないという特徴や、身体的な徴候として、心拍数や呼吸数が高い、よだれを垂らす、尿量が減る、痩せすぎている、などがあります。実際に多動障害が疑われた場合には、興奮薬を使って診断する方法(多動障害の犬は、興奮薬を使用すると矛盾した反応、つまり落ち着きが見られ、心拍数が下がることを利用する診断方法)がありますが、薬を使う前に、まずは愛犬の生活環境や飼い主さん自身の反応をもう一度よく振り返ってみましょう。

 

犬が興奮しやすくなっている背景には、色々な原因が隠されています。もし、おうちのワンちゃんが興奮しやすいと感じたら、運動の量と質がどうなっているか、犬が興奮しはじめたとき飼い主さんがどのように対応しているか、一度見つめ直してみるといいかもしれませんね。 

 

 

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愛犬の行動から、病気の可能性を調べてみる「うちの子おうちの医療事典」

「うちの子」の長生きのために、年齢や季節、犬種など、かかりやすい病気や、症状や病名で調べることができる「うちの子おうちの医療事典」をご利用ください。 

うちの子おうちの医療事典

例えば、愛犬の「行動」から、考えられる病気を調べることもできます。健康な毎日を過ごすため、知識を得ておきましょう。

■ 足をあげる

■ 歩かない

■ 頭を振っている

■ ふらつく

■ ぐるぐる回る

■ 遠吠えをする

■ 性格が変わる

菊池 亜都子
東京大学附属動物医療センター 行動診療科

菊池 亜都子

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