フサフサの被毛と愛くるしい丸い目が特徴のポメラニアン。過去にはかの有名なビクトリア女王が飼育していたことでも知られています。
ここではポメラニアンの歴史や特徴、飼育上の注意点やかかりやすい病気について解説します。
ポメラニアンの歴史
丸くてかわいらしい見た目が特徴の小型犬・ポメラニアンですが、その祖先は大型犬のサモエドという犬種だと言われています。
(サモエド)
サモエドは「最も美しい犬種」といわれていて3000年も前から人間と暮らしている歴史の長い犬です。ドイツとポーランドの国境あたりの「ポメラニア地方」に住んでいたサモエドや、サモエドから生まれたジャーマン・スピッツという犬種が小型化されて、生み出されたのがポメラニアンです。当時は中型犬以上の大きさで、毛色もサモエドのようなホワイトがほとんどでしたが、18世紀にイギリスで人気犬種となり、次第に小型犬サイズが定着したとされています。
ポメラニアンが世界的に有名になったのは、19世紀に愛犬家として知られたイギリスのビクトリア女王が愛好していたことがきっかけです。ビクトリア女王は、ポメラニアンの繁殖やドッグショーにも意欲的に参加し、この頃では珍しいレッドのポメラニアンと暮らしていたと言われています。こうしてポメラニアンの人気に拍車がかかるとともより小さいサイズの個体が好まれるようになり、現在の風貌がポピュラーになりました。
日本では1970年代の高度成長期に人気となり、マルチーズやヨークシャー・テリアとともに多くの人に愛されるようになりました。
ポメラニアンの特徴と毛色
ポメラニアンは体重1.8〜2.3kg、体高18〜22cmが理想的とされる小型犬ですが、個体によって体格にばらつきがある犬種です。クリっとした大きな目に、クルンと巻いた尻尾、小さくピンと立った耳に、フサフサのたてがみのような豪華な毛が特徴的です。
毛色は、一般的なレッドに加え、クリーム、オレンジ、ホワイト、ブラック、ブラウンなどさまざまです。
ポメラニアンの性格
とてもフレンドリーな性格で、人間や他の犬にも積極的に関わろうとする子が多いです。小さな体で活発に動き、ボールあそびなども好きなタイプです。物覚えも良いので基本的にはしつけがしやすい犬種だと言われていますが、勇敢で気の強いタイプは無駄吠えが多くなりがちです。
また、甘えん坊で繊細なタイプは、飼い主さんに常にべったりだと分離不安症(飼い主さんと離れることによって体調を崩す、失禁・食糞をする、いつまでも鳴き続けるなどの症状を現す精神疾患)などになってしまう子もいます。飼いはじめのトレーニングや日々の接し方が重要です。
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ポメラニアンを家族に迎えたら
ポメラニアンは抜け毛が多い犬種です。抜け毛を放置してしまうと、皮膚の病気や熱中症の原因にもなるので、フサフサの毛並みを維持できるように日々のブラッシングや定期的なトリミングはとても大切です。また、ポメラニアンは年に2回換毛期(毛が生え変わる時期)を迎えます。その時期には特に抜け毛が多くなるので、しっかりブラッシングしてあげるようにしましょう。
ポメラニアンは体の割に手足の骨格が細いことも特徴なので、事故による骨折(特に若齢犬)の予防や、関節のケアも重要です。足裏の毛が伸びると、肉球が毛で覆われてグリップが効かず、滑りやすくなってしまうので、関節に負担がかかるだけでなく、スリップ事故から骨折を招いてしまう場合もあります。足周りの毛のこまめなカットに加え、フローリングなどの床にはマットを敷いて、滑らないように工夫してあげるとよいでしょう。
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ポメラニアンがかかりやすい病気
気管虚脱
気管虚脱は、呼吸に欠かすことのできない筒状の気管が、本来の形を保てずにつぶれてしまう病気です。症状としては、咳をしたり、興奮時にガチョウの鳴き声のような「ガーガー」という呼吸をしたりすることがあります。重症になると、息を吸うことも吐くこともできずに呼吸困難になったり、体温の調整がうまくできずに熱中症のような状態に陥ったりすることがあるので注意が必要です。
詳しい原因は分かっていませんが、チワワやポメラニアンなどの小型犬に多く、高温多湿の環境や興奮、ストレスによって悪化しやすい病気です。特にポメラニアンは暑さに弱いので十分注意するようにしてください。また、首輪は気管への負担が大きいので、ハーネスを使用することをおすすめします。
膝蓋骨脱臼
膝蓋骨脱臼は、後ろ足の膝蓋骨(ひざのお皿)がずれたり外れてしまったりする病気です。小型犬に多く、生まれつき膝蓋骨がはまっている溝の部分が浅い犬や、膝蓋骨を支える靭帯が弱い犬で発症しやすいとされています。膝蓋骨脱臼を起こすと、後ろ足をぴょこぴょこと挙げて歩いたり、スキップのような歩き方をしたり、痛みがある足をかばって3本足で歩くようになります。初期段階では、自然と症状が治まったり、痛み止めなどのお薬で改善したりすることが多いですが、進行してしまうと手術が必要な病気です。
肥満になると膝への負担は大きくなります。予防のためにも、適正な体重を維持するようにしましょう。また、足に大きな力が加わった時に発症しやすいので、健康診断などで一度でも膝蓋骨脱臼を指摘されたことがある場合には、階段の上り下りや、高いところからのジャンプは控えるようにしてください。フローリングなどのツルツルと滑る床も非常に危険です。滑りにくいマットなどを敷くようにして、足への負担を減らしてあげましょう。
*詳しくは「小型犬に多い「パテラ」とは?治療法と予防法【獣医師が解説】 」を参照してください。
流涙症(涙やけ)
流涙症は、生まれつき、あるいは病気がきっかけで、眼と鼻をつなぐ「涙管」から涙がうまく排出されずにあふれてしまう病気です。
眼の周りの被毛は、あふれ出た涙と反応して赤茶色に変化し、「涙やけ」を起こします。
原因としては、角膜炎やまつげの異常による涙の分泌量の増加、瞼の形の異常、涙管が塞がってしまう涙管閉塞などが考えられ、それぞれの原因に対する治療が必要です。
あふれた涙を放置してしまうと、そこで細菌が繁殖して涙やけを悪化させてしまうので、眼の周りを清潔に保つことが大切です。水でぬらしたティッシュやハンカチを使ってこまめに拭いてあげましょう。
*詳しくは「犬の流涙症(涙やけ)【獣医師が解説】」を参照してください。
アロペシアX(脱毛症X)
アロペシアXは、痒みのない体幹部(頭と四肢以外)の脱毛を起こす、原因不明の皮膚疾患です。アロペシアとは英語で「脱毛症」という意味で、原因がよくわからない脱毛症ということから、「脱毛症エックス」という名前が付けられました。
過去には、偽クッシング症候群、性ホルモン反応性皮膚疾患、去勢反応性皮膚病など、さまざまな名前で呼ばれていました。1〜4歳の若い犬で発症し、圧倒的にポメラニアンでの発症が多い病気です。初期のうちは明らかな脱毛はなく、「毛の量が減った気がする」と来院される飼い主さんも多いです。毛量が減った部分の毛はパサパサと乾燥し、ツヤがなくなります。また、皮膚にメラニン色素が沈着して黒ずんくる「色素沈着」が起こることもあり、いずれにしても一般的な皮膚病の治療では改善しないことも特徴です。
この病気の確定診断は難しく、さまざまな検査や治療を行って脱毛を起こす他の病気を否定していった結果、この病気の可能性だけが残る「除外診断」という方法で診断します。
治療には、性ホルモンを抑える薬やサプリメントなどが使われたり、不妊手術(去勢・避妊手術)によって改善が見られたりする場合もありますが、治療への反応は非常にさまざまで、やってみないと分からないというのが現状です。
*詳しくは「アロペシアX(脱毛症X)【獣医師が解説】」を参照してください。
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
クッシング症候群は犬で最も多いホルモンの病気です。腎臓の近くにある「副腎」から出される「コルチゾール」というホルモンが、過剰に出過ぎてしまうことから、「副腎皮質機能亢進症」とも呼ばれます。
5歳以上の中高齢犬に多く、さまざまな犬種で発症しますが、ポメラニアンは比較的かかりやすいとも言われています。クッシング症候群になると、多飲多尿(飲水量や尿の量が多い)、異常な食欲、毛が抜ける、お腹が膨れるなどの特徴的な症状がみられます。
治療は、コルチゾールの分泌量を抑える薬を飲む内科治療がメインですが、副腎に腫瘍がある場合には手術での摘出が必要なケースもあります。
*詳しくは『5歳以上の犬がかかりやすいクッシング症候群とは?【獣医師が解説】』を参照してください。
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