クッシング症候群とは、「副腎皮質機能亢進症」とも呼ばれ、犬のホルモン病の中で最も多い病気です。5歳以上の中〜高齢犬がかかりやすいと言われています。クッシング症候群と診断された愛犬が病気とうまく付き合っていくために、まずは病気の起こるメカニズムや治療法について、飼い主さんが理解を深めることがとても大切です。

ホルモンの働きとは

ホルモンは血圧を調整したり、血糖値を一定に保ったり、赤血球を作るように骨髄に働きかけたりして、体を一定の状態に保つ役割を担っており、生きていく上で必要不可欠なものです。犬の体の中には、下垂体・甲状腺・副腎などのようなホルモンを分泌する組織がいくつもあります。そこで作られたホルモンは血液の流れに乗って全身を巡り、体のあらゆる部位で働くのです。

クッシング症候群とは

クッシング症候群、別名・副腎皮質機能亢進症は、その名のとおり、副腎皮質という場所が働きすぎて、必要以上のホルモンが分泌されることによっておこる病気です。5歳以上の中〜高齢犬で多く、オスよりもメスがかかりやすいと言われており、さまざまな犬種で発生します。

副腎の役割は?

副腎とは腎臓の隣に左右1対ある小さな臓器で、数種類のホルモンを分泌しています。副腎の一部である副腎皮質からは、「コルチゾール」というホルモンが出ています。このコルチゾールは、体が何らかのストレスを受けたときに、ストレスから体を守るためのはたらきをしています。ストレスによって大切な脳がダメージを受けないように、ストレスと戦うための栄養源となるブドウ糖を脳へ送ったり、筋肉を分解して糖に変え(糖新生)、その糖を脳に送る手助けをしたりしているのです。

 

副腎が働く時の流れ

 

通常副腎は、脳の一部「下垂体」という部分から出される指令によって、コルチゾールを出す量を調節しています。体にコルチゾールが必要な時は、下垂体から「コルチゾールを作って!」という指令が出て、それを受けた副腎が必要な量のコルチゾールを作り出す、という仕組みになっています。

コルチゾールが過剰に分泌

クッシング症候群では、このコルチゾールの分泌に関わる「下垂体」と「副腎」のどちらかが原因で、コルチゾールが必要以上に出すぎてしまいます。それにより、全身にさまざまな影響が出てしまいます。

 

クッシング症候群の原因

司令塔である下垂体に病気があるケース(下垂体腫瘍)

コルチゾールは脳の下垂体からの指令でその量が調節されているため、下垂体に腫瘍ができると、「コルチゾールを出しなさい」という指令が誤って出すぎてしまいます。その結果として、副腎からのコルチゾールが過剰に出すぎてしまうのです。クッシング症候群の原因の約9割が、この下垂体腫瘍だと言われています。

副腎そのものに病気があるケース(副腎腫瘍)

副腎そのものが腫瘍になって大きくなると、コルチゾールも必要以上にたくさん作られてしまうようになります。クッシング症候群になる原因の約1割が副腎腫瘍だと言われています。

薬の副作用でクッシング症候群の症状が出る場合も

他の病気の治療でステロイドの薬を長い間使用していると、体内にコルチゾールが増え過ぎてしまうことがあります。これによって起こる副作用を「医原性副腎皮質機能亢進症」と言います。この場合は、ステロイドの薬を減らしたりお休みしたりしながら、元の病気の治療とのバランスを上手に取ることが大切です。

クッシング症候群の症状

クッシング症候群は中高齢になってかかりやすく、しかも発症後に食欲があって元気に見えるので、「歳を取ったせいで太って毛が薄くなってきたんだな。」と勘違いしてしまう飼い主さんも多くいらっしゃいます。クッシング症候群の特徴的な初期症状を、よく見られる症状順に並べておきます。

 

□ 水を飲む量が多く、おしっこの量・回数が多い(多飲多尿)

□ 食事を異常に欲しがる

□ 毛が抜ける、皮膚病がなかなか治らない

□ お腹がぽっこりとふくれる(ポットベリー)

□ 筋肉が減って足腰が弱ってきた、動きたがらない(運動不耐性)

□ 息が荒い(パンティング)

95%以上でみられる“多飲多尿”

いったいどこからが多飲なの?

犬が水を飲む量の目安として、1日に『体重1kgあたり100cc以上』の水を飲むようであれば異常とみなし、病気を疑います。例えば、体重5kgの犬で1日に500cc以上水を飲むようであれば、多飲とみなします。尿の量は、『1日に体重1kgあたり50cc以上』であれば病気を疑いますが、犬の尿の量を正確に測るのは難しいため、飲水量を測って多飲多尿があるかどうかを判定するのが一般的です。

飲水量の測り方の例

まず一日の始まりに犬の水のお皿を空っぽにします。そこに500mlのペットボトルに入れた水を注ぎます。犬が水を飲んで、水のお皿が空になったら、またそのペットボトルの続きから水を注ぐようにします。24時間後までそれを続け、ペットボトルに残った水の量を測るようにすると比較的測定しやすいでしょう。

病気が進行すると・・・

クッシング症候群が進行すると、糖尿病・高血圧・膵炎・感染症(皮膚炎や膀胱炎など)などの合併症を起こすことがあります。これらは命を落とす危険性のある病気なので、適切な治療が必要です。

クッシング症候群のために必要な検査は?

上に書いた特徴的な症状がひとつ〜複数見られたら、血液検査を行います。そこでコルチゾールが血液中に過剰に出ていることが見つかると、クッシング症候群であると判定できます。クッシング症候群であることがわかったら、次は原因が脳の下垂体にあるのか、それとも副腎にあるのかを調べます。原因がどちらにあるのかで、治療方針が全く変わってしまうためです。まず、超音波検査で副腎が大きくなっていないかどうかを調べます。副腎腫瘍の場合、多くは左右の副腎のうち片方だけが大きくなります。一方、下垂体腫瘍では副腎の形や大きさは左右2つとも正常、もしくは2つとも大きくなっていることが多いです。ここまでの検査で下垂体腫瘍が疑われた場合、全身麻酔をかけてCTやMRIなどの画像検査を行い、脳の下垂体に腫瘍ができているかどうかを調べます。

副腎皮質機能亢進症の治療

下垂体腫瘍が原因の場合

下垂体は手術で切除をするのが難しい場所にあるため、手術を実施できるケースは非常に限られています。手術以外の治療は、下垂体腫瘍の大きさによって異なります。小さい腫瘍の場合、飲み薬でコルチゾールの産生を抑えます。大きい腫瘍の場合は、まず放射線治療で腫瘍をできるだけ小さくします。その後は必要に応じて薬でコルチゾールの分泌を抑えます。ただし、放射線治療は実施できる施設が限られていたり、治療のために何回も全身麻酔が必要となるため、獣医師とよく相談してから治療を選択するようにしましょう。

副腎腫瘍が原因の場合

副腎腫瘍の場合には、手術で腫瘍化している副腎を摘出することを第一に検討します。手術が難しい場合には、症状を抑えたり生活の質を改善する目的で、飲み薬によりコルチゾールの分泌を抑えます。

薬による治療が続くケースも

いずれの場合でも、手術により腫瘍を切除することが根本的な治療につながりますが、切除が難しいケースも多く、薬でコルチゾールの量を抑える治療が一般的です。薬による治療は、病気そのものを治すわけではなく、症状を緩和させることが目的なので、長期間薬を飲み続ける必要があります。治療が功を奏した場合には、数日〜2週間以内に多飲多尿・異常な食欲の改善が見られることが多いです。抜けてしまった部分の毛がまた生えてきたり、皮膚病が改善するには、1〜2ヶ月ほど時間がかかることがあります。

クッシング症候群は完治するの?

下垂体腫瘍では、腫瘍が小さく、飲み薬でコルチゾールがうまくコントロールできれば、症状は改善し、寿命を全うすることができる犬も多いです。しかし、下垂体腫瘍が大きい犬で、放射線治療がうまくいかない、もしくは放射治療を受けることができない場合には、数年以内に神経症状が現れ、認知症のような状態になることもあります。副腎腫瘍では、腫瘍を完全に取り切ることができれば症状は消え、寿命を全うできることが多いです。完全に取り切ることができなかった場合には、飲み薬で症状が改善することもありますが、腫瘍の進行度合いによって余命はさまざまです。

愛犬がクッシング症候群になったら

投薬をするときの注意点

投薬が必要になったら、獣医師に指定された量と回数を守って食事と一緒に与えるようにしましょう。また、コルチゾールを抑える薬はホルモンを調整するための薬なので、犬に薬を与えるときに飼い主さんが薬を吸収してしまわないよう注意が必要です。投薬する際には使い捨ての手袋をはめるか、投薬後はしっかり手を洗うようにしてください。薬の形はカプセル型が一般的ですが、錠剤を割って処方される場合もあります。特に妊娠中あるいは妊娠の予定がある方は、錠剤を割ったかけらなどを誤って吸い込んでしまったりしないよう、十分注意して下さい。

薬の効き目と副作用について

薬を飲ませ始めたら、おうちでの愛犬の様子を注意深く観察するようにしてください。薬がきちんと効いていれば、症状が改善されていきます。定期的に飲水量を測ることも重要です。また、元気がない・食欲がない・嘔吐や下痢をする、などいつもと違う症状が見られた場合には、薬が効き過ぎてコルチゾールが必要以上に下がってしまっている可能性があります。そのときは投薬を一旦中止して、すぐにかかりつけの病院を受診するようにしてください。このような副作用を起こさないためにも、血液検査を含む定期的な検診は必ず受けさせてあげましょう。

 

犬のホルモン病の中で最も多いと言われているクッシング症候群。完治しなくても、その後うまく病気と付き合っていくことで寿命を全うできるケースもあります。まずはきちんと病気について理解をし、愛犬の闘病生活を支えてあげてください。

フクナガ動物病院 獣医師

福永 めぐみ

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