愛犬の健康状態をチェックする方法は色々ありますが、飲み水の量を確認しておくことも非常に重要です。暑くなれば飲む水の量は増えますし、寒くなればもちろん飲む水の量は減るでしょう。しかし、気温の影響だけでなく、病気のときも飲み水の量が変わることがあるのです。今回は飲み水の量が増える原因や、考えられる病気、動物病院に連れていくタイミングを解説します。

犬の飲水量の目安

もし犬が1日のうちに体重1kgあたり100ml以上のお水を飲んでいる場合は、異常の可能性が高いです。つまり、5㎏の犬であれば500ml、小さめのペットボトル1本分程度が正常値となります。ただし、この量はあくまで目安ですので、正常値の範囲であれば変化があっても問題ないということにはなりません。

もし急に飲み水の量が増えたと感じた場合は、正常値の範囲内だったとしても、早めにかかりつけの獣医さんに相談しましょう。

犬の飲水量が増える原因

体の脱水

暑くなると犬は体温を下げるためにハァハァという呼吸(パンディング)をします。息をするときに水分を蒸発させることで体温を下げているのです。パンディングをしていると、体内の水分はどんどん減っていくので、体内の水分量を保つためにお水を飲む量が増えます。

一般的には冬よりも夏の方が飲水量は増えますし、お散歩の時間が長いときのほうがお散歩をしないときに比べて飲水量は多くなる傾向にあります。

*犬の脱水症状については、『室内でも起こる!恐ろしい犬の脱水症状とは【獣医師が解説】』も参照してください。

 フードの変化

缶詰などのように、水分量が多く含まれているウェットフードからドライフードに切り替えると、飲み水の量が増えることがあります。

また、人間と同じで塩分の多い食事をすると水をたくさん飲むようになります。血液中のナトリウムの濃度が上がったことを脳が認識すると、体内でのイオンバランスを保つために、「喉が渇く」ように脳が指令を出すからです。ナトリウム含有量の高いフードや、塩分の高い人間のごはんなどを食べてしまうと、水を飲む量は増えるでしょう。

精神的な原因

実は意外と多いのが、精神的な原因です。犬は緊張を紛らわすために、また飼い主さんの気を引くために、水を飲むことがよくあります。お留守番の時間が長くなったり、近所で工事が始まったりして、なにかしら環境に変化がある場合は、精神的な影響が考えられます。

 薬の服用

薬の中には尿の量を増やすものがあります。たとえば、アトピー性皮膚炎の治療や皮膚の痒み止めなどとして使うステロイド剤や、心不全の治療に使う利尿剤は、おしっこの量が増えます。結果的に飲み水の量も増えるのです。その他にも飲み水を増やすものがあるので、不安な場合はかかりつけの獣医さんに相談しましょう。

病気が原因の場合は要注意

病気が原因で水をたくさん飲むようになることは多いのですが、尿がたくさん出るようになることで、飲み水の量が増えることがほとんどです。特に高齢の犬になると、多飲多尿(たくさんお水を飲み、たくさんおしっこをする状態)の症状を起こす病気は多いため、注意しなければなりません。

中にはすぐに治療をする必要のある危険な病気もあるので、病院に連れて行くべきタイミングとあわせて、考えられる病気を解説します。

緊急性大!すぐに処置をしなければ危険な病気

子宮蓄膿症

避妊手術をしていない女の子に多い病気です。子宮に細菌が入りこみ、子宮の中で増殖し炎症を起こします。子宮に溜まった細菌が出す毒素の影響によって腎臓がダメージを受けるため、腎臓の機能が低下して尿量が増えます。

子宮内の細菌の毒素が血液によって全身に回ると、短時間で死に至る可能性が高いので、避妊手術をしていない子で、発情出血(生理)の後1~2か月で水を飲む量が増えた場合は、すぐに病院に連れていってあげましょう。

子宮蓄膿症については、『避妊手術をさせていない子は要注意!犬の子宮蓄膿症【獣医師が解説】』も参考にしてみて下さい。

早めに病院に連れていくべき病気

病気が原因で水を飲む量が増えている場合は、自然治癒することはほとんどありません。病気が原因の場合は、飲水量の変化とあわせて以下のような症状が見られることも多いので、早めに動物病院に連れて行ってあげるといいでしょう。

 

□ 体重減少

□ 食欲減退

□ 嘔吐

□ 毛が薄くなる

□ 被毛の艶がなくなる

□ 体表のしこり

 

慢性腎臓病

腎臓は血液中の老廃物を回収して、尿として体外へ排出する大切な役割を持っています。健康な腎臓であれば、老廃物をこし出したあとに必要な水分を体内に戻し、できるだけ濃縮して濃い尿を作ることができるのです。

 

 

しかし、加齢などが原因で腎臓の機能が低下していくと、尿を濃縮することができなくなり、薄い尿をたくさんするようになります。その結果多くの水分が体外に排出されてしまうので、水を飲む量が増えます。腎臓は再生する力がないので、慢性腎臓病の治療は「残っている腎臓を保護する」という目的のもと行われます。放置しているとどんどん腎臓の組織が壊れていき、最終的には死に至りますので、なるべく早く病院へ連れていってあげましょう。

*腎臓病については、『犬の腎不全(腎臓病)ってどんな病気?症状、治療法とは【獣医師が解説】』の記事で詳しく解説しています!

糖尿病

糖尿病も多飲を引き起こす病気のひとつ。人間もかかる病気なので、名前を聞いたことがある方は多いでしょう。中年以降の犬に多い病気であり、特に肥満の高齢犬では注意が必要です。

糖尿病にかかると、食べても食べても痩せていきます。生きていくために必要なブドウ糖を、吸収することができなくなってしまうのです。放置していると細胞の壊死や急性膵炎など致死率の高い合併症を引き起こす可能性があるので、早めに病院へ連れていってあげてください。

*糖尿病については、『犬の糖尿病ってこんな病気。症状、メカニズム、治療法を徹底解説!【獣医師が解説】』も併せてご覧下さい。

 

クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)

エネルギーの元となるブドウ糖は、常に体の中に一定量存在していなければなりません。ブドウ糖がなくなると細胞がエネルギー不足となり、正常に機能することができなくなるからです。

「コルチゾール」というホルモンは、ブドウ糖の量を一定に保つ働きをしています。血中のブドウ糖が少なくなると、筋肉や脂肪などを分解してブドウ糖に変えるのです。しかし、このコルチゾールがなにかしらの原因で大量に分泌されるようになると、必要以上のブドウ糖が生成されます。血液中にあふれたブドウ糖は、糖尿病と同じように尿と一緒に排泄されるようになります。結果、飲み水の量も増えるのです。

クッシング症候群も放置すると色々な病気を引き起こしやすくなるので、早めに病院へ連れていってあげましょう。

詳しくは『5歳以上の犬がかかりやすいクッシング症候群とは。症状や治療法など【獣医師が解説】』をご確認下さい。

その他

下痢嘔吐などがあっても体の水分が少なくなるため飲水量が増えます。また、他にも発熱や感染症、肝不全などの病気でも水を飲む量が増えることがあります。

動物病院へ連れていくタイミング

多飲が分かった時点

最初に犬の正常な飲水量の目安(1日40~60ml/kg)をご紹介しましたが、それ以上水を飲んでいる場合は、できる限り動物病院を受診しましょう。

まずは病気ではないかどうかをしっかり調べてもらうことが大切です。そうすることで病気であった場合でも重症化する前に治療を始めることができる可能性があります。

他の症状が併発している場合

多飲以外にもいつもと違うことがある場合、病気が原因の可能性が高くなります。水を飲む量が増えた以外に以下のような症状がないかどうかも注意して見てください。

動物病院ではこんな検査をしてくれます

水を飲む量が急激に増えた場合、動物病院では血液検査と尿検査を行うことが多いです。

血液検査

血液検査は体のどこに異常があるのかを把握するために有効です。多飲を引き起こす病気の大部分は、血液検査で診断がつきます。「水を飲む量が増えた」という症状がある場合、まずは血液検査で異常がないかどうかを見ることが多いです。

尿検査

尿検査も、血液検査の補助的な検査として有効です。特に慢性腎不全では血液検査で異常が出てくる前に、尿比重(尿の濃さ)の低下や尿成分の変化が起こることが多いため、慢性腎不全の早期発見のためには尿検査も重要です。

 

 

水を飲む量は愛犬の健康状態を知るためのバロメーターになります。特に高齢犬がかかりやすい病気は飲み水の量に変化が現れることも多いので、日ごろから飲水量を確認しておくといいでしょう。

 

 

「シニア犬」に関する、獣医師監修記事はこちら

 

 

犬種や季節、年齢など、うちの子がかかりやすい病気を調べて予防するため、『うちの子おうちの医療事典』を、ぜひご利用ください。

☞『うちの子おうちの医療事典』で「多飲多尿」と関連する病気を調べる

アトピー性皮膚炎

子宮蓄膿症

糖尿病

膵炎

クッシング症候群

腎不全

 

★「ワンペディア編集部」では、愛犬との暮らしに役立つお勧め記事や、アイペット損保からの最新情報を、ワンペディア編集部からのメールマガジン(月1回第3木曜日夕方配信予定)でお知らせしています。ご希望の方はこちらからご登録ください。

 

 

アイペット獣医師

詳細はこちら

関連記事

related article