犬の体には人間と同じように、副腎や甲状腺、下垂体などのホルモンを分泌する器官があります。

これらの器官から分泌されるホルモンの異常によって起こる病気を「内分泌疾患」と呼びます。

内分泌疾患は、内分泌腺の機能(はたらき)が亢進または低下することにより、ホルモンの分泌が過剰になったり不足したりすることでさまざまな症状が現れます。

そのため、内分泌疾患が疑われる場合には、ホルモンの濃度を測定したり負荷試験などで内分泌学的検査を行うことで、ホルモンの分泌や抑制に異常がないかを調べます。

ここでは、犬の代表的な内分泌疾患における血液検査について解説します。

 

 

※参考基準値は、測定方法や測定機器により異なります。 本記事に記載の参考基準値は、富士フイルムVETシステムズ株式会社の値を参考にしました。

 

 

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の血液検査

副腎皮質機能亢進症はクッシング症候群とも呼ばれ、高齢の犬に多い内分泌疾患です。

クッシング症候群は、副腎皮質から分泌される「グルココルチコイド(特にコルチゾール)」が慢性的に過剰になることで、特徴的な症状を示す病気です。

このコルチゾールは、脳の下垂体という場所からの指令となるホルモン(副腎皮質刺激ホルモン:ACTH)によって、分泌が調整されています。

 

 

特徴的な症状

多飲 多尿尿量飲水量の増加

・多食(食欲が増す)

腹囲膨満(おなかが丸くなる)

・皮膚トラブル(脱毛、色素沈着、皮膚が薄くなるなど)

・パンティング(ハァハァとした速い呼吸)

など

 

クッシング症候群の原因は、下垂体の腫瘍化や過形成による場合が90%とされ、ACTHが過剰に産生されることで副腎からのコルチゾールの分泌も増加します。

残りの10%は、副腎腫瘍によるもので、副腎自体が腫瘍化することによりコルチゾールが過剰に分泌されます。 身体検査や問診で、特徴的な症状が見られた場合、血液検査や画像検査に進みます。

腹部のエコー検査では、副腎のサイズを確認し、大きい場合にはクッシング症候群の可能性が高くなります。

 

以下のような副腎機能検査は、クッシング症候群を診断したり、原因を究明するために有用な検査です。

 

ACTH刺激試験

ACTHに似た成分を注射で投与し、投与前と投与1時間後の血液中のコルチゾールを測定する検査です。クッシング症候群の診断に用いられます。

 

 

項目 参考基準値 結果
コルチゾール 1.0〜7.8μg/dL 20〜25μg/dL以上(投与1時間後)→副腎皮質機能亢進症

2〜5μg/dL以下(投与1時間後)→医原性副腎皮質機能亢進症

 

 

この他にも、デキサメサゾン抑制試験、内因性ACTH濃度などの副腎機能検査をおこなったり、原因の精査のために、頭部MRI検査や腹部CT検査を行う場合もあります。

 

 

副腎皮質機能低下症(アジソン病)の血液検査

副腎皮質機能低下症はアジソン病とも呼ばれ、副腎皮質ホルモンが不足することで起こる病気です。

 

1〜6歳の比較的若い犬でまれにみられ、日本ではトイプードルパピヨンが好発犬種とされています。

 

アジソン病の症状は、元気消失、食欲不振、震え、嘔吐、下痢、メレナ(黒色便)などです。

 

副腎皮質のはたらきの90%が失われると症状が現れるとされており、初期には副腎皮質の予備機能が残っているため、犬にストレスがかかったときなどにのみ、間欠的に症状がみられます。

 

病気が進行すると、これらの症状が高頻度で強く現れるようになりますが、はじめのうちは見過ごされやすく、重度になるとショックを起こして命に関わる危険性があるので、注意が必要です。

 

アジソン病には特徴的な症状が少ないため、この病気が疑われる場合にはさまざまな検査を行い診断します。

 

血液検査では、電解質の異常(低ナトリウム/高カリウム)や高窒素血症がみられ、腹部エコー検査では通常の半分以下のサイズの副腎がみられる場合もあります。

 

 

ACTH刺激試験

ACTHに似た成分を注射で投与し、投与前と投与1時間後の血液中のコルチゾールを測定する検査です。クッシング症候群の診断でよく行われる検査ですが、アジソン病の診断にも有用です。

 

項目 参考基準値 結果
コルチゾール 1.0〜7.8μg/dL 2μg/dL以下(投与1時間後)

 

パピヨン

 

甲状腺機能低下症の血液検査

甲状腺機能低下症は、何らかの影響により、甲状腺からの甲状腺ホルモンの分泌が不足もしくは欠如してしまうことで起こる病気です。

甲状腺ホルモンは、全身の代謝を司るホルモンのため、低下症に陥ると代謝機能が落ちてしまうことで、さまざまな全身症状を呈します。

中〜高齢の犬によく見られ、トイ・プードルゴールデン・レトリーバードーベルマンビーグルなどが好発犬種とされています。

 

主な原因は、若齢の場合は自己免疫性(自分の免疫で自分の甲状腺を破壊してしまう)が多く、中高齢では原因不明の甲状腺の萎縮などがあります。

これらはどちらも甲状腺自体に異常がおこる「原発性甲状腺機能低下症」に分類され、甲状腺ホルモンを出すように指令するホルモン(甲状腺刺激ホルモン:TSH)を分泌する脳の下垂体の異常によっておこる場合は「二次性甲状腺機能低下症」に分類されます。

 

甲状腺機能低下症では、ほとんどのケースで元気消失がみられます。

その他、肥満脱毛、低体温、徐脈などがみられ、皮膚が分厚くなったり(肥厚)、脂っぽくなったり(脂漏症)、細菌やマラセチアによる皮膚炎を起こしたりするなど皮膚の症状が起こるのも特徴です。

また、甲状腺ホルモンは神経伝達にも重要な役割も担っているため、低下症になると神経症状(顔面神経麻痺、発作、嗜眠(異常によく眠る)など)が現れる場合もあります。

 

さらに病気が進行すると、まぶたや口の周り、首、四肢などが浮腫んだようになったり(粘液水腫)、悲しいような顔つきになったりすることもあります。

粘液水腫や低体温などがみられると、命に関わる危険性があるため、早期に診断し速やかに治療を開始することが非常に重要です。

 

甲状腺機能低下症の診断には、ホルモン検査を含めた血液検査や画像検査を行います。

ホルモン検査は、甲状腺から分泌されるT4とfT4、さらに犬では甲状腺刺激ホルモン(TSH)も測定することで、病気の診断に役立ちます。

 

項目 参考基準値 結果
T4 1.1〜3.6μg/dL 低値→甲状腺機能低下症の可能性あり※
fT4 0.5〜3.0ng/dL 低値→甲状腺機能低下症の可能性あり※
TSH 0.08〜0.32ng/mL 高値→原発性甲状腺機能低下症 低値→二次性甲状腺機能低下症

 

※T4やfT4は、甲状腺以外の病気や薬の影響によっても低値を示す場合があり、これを「ユーサイロイドシック症候群」と呼びます。そのため、治療を開始する前に、甲状腺ホルモンに影響を及ぼしている他の病気などがないかを、必ず確認することがとても重要です。

 

内分泌疾患はほとんどが慢性疾患であり、生涯にわたり治療や通院が必要となります。

 

病気が進行してしまうと、命に関わる恐れもあるため、疑わしい症状が見られた場合にはホルモン検査をを含めた各種検査を受けることで、病気の早期発見・早期治療につながります。

 

 

参考

SA Medicine BOOKS 犬と猫の検査・手技ガイド2019 私はこう読む/EDUWARD PRESS

動物看護専門月刊誌 動物看護 Oct.2023 /EDUWARD PRESS

富士フィルムVET システムズ株式会社

https://www.fujifilm.com/jp/ja/healthcare/veterinary/examination/biochemistry

 

 

 

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フクナガ動物病院 獣医師

福永 めぐみ

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