健康診断を受ける際や、手術などで全身麻酔が必要なとき、また体調不良が続いている場合などに、動物病院で血液検査を受けたことのあるワンちゃんも多いと思います。 血液検査は、健康に関するたくさんの情報を読み取ることができる、非常に有用な検査です。 ここでは主に、健康診断などでスクリーニング検査(病気の有無を振り分ける検査)として測定される「全血球数算定」と「血液生化学検査」について解説します。 ※参考基準値は、測定方法や測定機器により異なります。 本記事に記載の参考基準値は、富士フィルムVETシステムズ株式会社の値を参考にしました。
血液検査の種類
血液検査には、さまざまな種類があります。
全身の状態を調べる「全血球数算定(CBC)」
臓器の状態を調べる「血液生化学検査」
ホルモンを測定する「内分泌検査」
感染の有無や感染症に対する免疫があるかを調べる「抗原検査」「抗体価検査」
血の固まりやすさを評価する「血液凝固検査」
などを組み合わせて検査することで、健康状態の評価や病気の検出に役立ちます。
1.全血球数算定(CBC)
全身をめぐる血液から、体全体の状態を調べるために行う検査です。 赤血球や白血球の数を測定することで、貧血や炎症、感染症の可能性などを調べます。 血液生化学検査とあわせて行うことが一般的です。
白血球数
炎症や免疫に関与する細胞で、白血球の中にも好中球・リンパ球・好酸球・好塩基球・単球などの種類に分けられます。これらの増減を調べることで、さらに病気の原因の特定につながります。
赤血球数
ヘモグロビンという酸素を運ぶ赤い色素をもつ細胞です。減ると貧血になり、多すぎると脱水の可能性があります。
ヘマトクリット値
血液中の赤血球の割合をパーセンテージで表したものです。
血小板数
血液を固める働きがある細胞です。少なすぎると出血が止まりにくくなる可能性があります。 ハウンド系犬種や秋田犬は犬種特異的に血小板が少ないことが知られ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルでは血小板の大きさが他の犬種よりも大きいことから、測定機械で正確なカウントがなされない場合があります。
項目 |
参考基準値 | 高値 |
低値 |
白血球数 | 6000〜17000/μL | 炎症、感染、白血病など | 敗血症、骨髄疾患など |
赤血球数 | 550万〜810万/μL | 脱水、多血症、腎臓腫瘍など | 貧血、骨髄疾患など |
ヘマトクリット | 37〜55% | 脱水、多血症、腎臓腫瘍など | 貧血、骨髄疾患など |
血小板数 | 20万〜40万/μL | 血液腫瘍、興奮、炎症、出血 など | 免疫疾患、感染、骨髄疾患、血管炎、DICなど |
2.血液生化学検査
臓器や器官が正常にはららいているかどうか、またどこかに異常が生じていないかを調べる検査です。複数の項目をみながら、総合的に判断します。
血糖(Glu)
体内のさまざまな組織において、主要なエネルギー源となっている重要な糖質です。 高値の場合は糖尿病やストレス性高血糖を、低値の場合は肝不全や副腎皮質機能低下症、インスリノーマ(インスリンを過剰に産生する腫瘍)、栄養不良などが疑われます。
血中タンパク(総蛋白(TP)/アルブミン(ALB))
TPは血液中の蛋白質の総量のことで、栄養状態や、肝・腎機能、免疫状態の指標となります。 ALBは総蛋白の35〜50%を占めるタンパク質の一種で、肝臓で合成されることから、肝機能の大まかな指標となります。 これらの血中タンパクの値が高値の場合には、脱水や炎症などの可能性があり、低値の場合には栄養不良や肝不全、出血、腸での吸収不良(蛋白喪失性腸症)、腎臓からの喪失(蛋白喪失性腎症)などが疑われます。 また、ALBが低値になると、胸水や腹水が溜まったり、浮腫(むくみ)を起こしたり、血栓症のリスクが高まるなどの影響が考えられます。
総ビリルビン(T-Bil)
ビリルビンは、赤血球に含まれるヘモグロビンの代謝産物です。溶血(免疫介在性溶血性貧血、たまねぎ中毒など)、肝障害、胆嚢炎、胆管炎などで上昇し、黄疸の原因となります。
肝酵素(AST/ALT/ASP/γ-GPT)
主に肝細胞が障害を受けると上昇することから、肝酵素と呼ばれています。 ASTとALTは、主に肝臓のダメージを反映します。 ALPは肝臓だけでなく、骨、胎盤、腸、腎臓などさまざまな臓器に存在する酵素で、主に胆道系疾患(胆汁うっ滯、胆管肝炎など)で上昇します。骨の成長期や腫瘍などでも上昇することがあり、犬ではステロイドの影響でも上昇します。 Γ-GPTは、主に胆道系疾患(胆汁うっ滯、胆管肝炎など)や、肝疾患で上昇することがあります。
膵酵素(リパーゼ(V-Lip))
リパーゼは主に膵臓で産生される脂肪を分解する消化酵素で、膵炎や膵臓腫瘍などの膵臓疾患の指標として用いられます。
腎機能マーカー(尿素窒素(BUN)/クレアチニン(Cre))
共に腎機能に関する項目ですが、腎臓のネフロンのはたらきの65〜75%が失われてから上昇します。 BUNは腎臓病以外にも、消化管からの出血や、高蛋白な食事を食べている場合などでも上昇し、肝不全や門脈体循環シャントでは低下します。 Creは腎臓病以外にも筋肉との関連があり、筋肉に障害がある場合や筋肉量が増加したときに上昇し、反対に栄養不良や超小型犬などで筋肉量が低下している場合に低下します。
脂質(総コレステロール(T-Chol)/中性脂肪(TG))
総コレステロールや中性脂肪は、血液中の脂質の指標となり、食後の影響を受けやすいことから、絶食後の検査が推奨されます。 高値の場合には、甲状腺機能低下症や糖尿病、クッシング症候群などの内分泌疾患や、特定の犬種での特発性高脂血症(ミニチュア・シュナウザー、シェットランド・シープドッグなど)などが疑われます。
無機リン(IP)/カルシウム(Ca)
無機リンは、腎臓病や上皮小体機能亢進症、食事内容により変動します。 カルシウムは、骨の代謝や筋肉の収縮、血液凝固などに関与します。主に腎臓や上皮小体の病気などで変動します。
電解質(ナトリウム(Na)/カリウム(K)/クロール(Cl))
ナトリウム・カリウム・クロールは電解質と呼ばれ、細胞の浸透圧や体内のpH(酸・塩基平衡)の調節をしたり、神経伝達など重要な役割を担っています。 腎臓病、内分泌疾患、脱水、嘔吐、下痢などで変動します。
▽各項目と考えられる疾患・状態
項目 |
参考基準値 | 単位 | 高値 |
低値 |
血糖(Glu) | 75-128 | mg/dL | 糖尿病、生理的高血糖(食後、興奮時) | 肝不全、副腎皮質機能低下症、インスリノーマ |
総蛋白(TP) | 5.0-7.2 | g/dL | 脱水、炎症、B細胞性腫瘍 | 消化管や腎臓からの喪失、肝不全、栄養不良 |
アルブミン(ALB) | 2.6-4.0 | g/dL | 脱水 | 消化管や腎臓からの喪失、肝不全、栄養不良 |
総ビリルビン(T-Bil) | 0.5以下 | mg/dL | 溶血性疾患、胆汁うっ滞 | |
AST(GOT) | 17-44 | U/L | 肝細胞障害、筋障害、溶血 | |
ALT(GPT) | 17-78 | U/L | 肝細胞障害 | |
ALP | 89以下 (1歳未満24-117) | U/L | 胆汁うっ滞、ステロイド性、 若齢動物、骨疾患 | |
γ-GPT(GGT) | 14以下 | U/L | 胆汁うっ滞 | |
リパーゼ(V-Lip) | 10-160 | U/L | 膵臓疾患、腎血流量低下 | |
尿素窒素(BUN) | 9.2-29.2 | mg/dL | 循環血液量低下、腎疾患、尿路閉塞 | 肝不全 |
クレアチニン(Cre) | 0.4-1.4 | mg/dL | 循環血液量低下、腎疾患、尿路閉塞 | |
総コレステロール (T-cho) | 115-337 | mg/dL | 甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、胆汁うっ滯、食後 | 肝不全、 門脈体循環シャント |
中性脂肪(TG) | 23-149 | mg/dL | 食後、犬種特異的高脂血症 | |
カルシウム(Ca) | 9.3-12.1 | mg/dL | 腫瘍、上皮小体機能亢進症 | 低アルブミン血症、慢性腎臓病、急性膵炎 |
無機リン(IP) | 1.9-5.0 | mg/dL | 腎疾患、若齢動物 | |
ナトリウム(Na) | 141-152 | mEq/L | 水分の喪失 | 消化管や腎臓からの喪失、浮腫 |
カリウム(K) | 3.8-5.0 | mEq/L | 腎臓からの排泄低下 | 消化管や腎臓からの喪失 |
クロール(Cl) | 102-117 | mEq/L | 通常、Naに付随して変化 | 通常、Naに付随して変化 |
血液検査で異常がみられたら
血液検査で異常がみられた場合、それが食事などの影響を受けやすい項目であったときなどは、必要に応じて再測定を行います。 明らかな異常値であった場合、問診や身体検査などの結果を考慮しながら、X線検査やエコー検査などの画像検査をおこなったり、異常値に対してさらに詳しく調べることができる血液検査項目を追加するなどして、犬の体調をみながら異常の原因を探っていきます。
血液検査を受ける頻度・タイミングは?
健康な犬であれば、子犬期〜成犬期(6歳ごろ)までは年に1回程度、中高齢期以降(7歳以上)は半年に1回程度を目安に受けるとよいでしょう。体調の変化がみられたり、持病がある犬の場合には、状況に応じて頻繁に検査が必要となることがあります。 また、毎年春に受けるフィラリア検査の採血と同時に、血液検査を受けるのもおすすめです。その際は、可能であれば絶食をして(朝ごはんを抜いて)受診することで、検査の正確性を高めることができます。 犬の1年は人の4〜5年に相当し、人間よりも早いスピードで歳をとるとされています。犬も人間と同じように、高齢になるにつれてさまざまな病気のリスクは高まるため、普段元気そうに見えていても、目には見えないところで病気が進行している可能性があります。 健康診断などで定期的に血液検査を受けることは、病気の早期発見・早期治療につながります。 参考 SA Medicine BOOKS 犬と猫の検査・手技ガイド2019 私はこう読む/EDUWARD PRESS IDEXX Laboratories, Inc. 動物病院の検査専門サイト〜 Care My Pet〜 https://www.idexxjp.com/cmp/basic/index.html 富士フィルムVET システムズ株式会社 https://www.fujifilm.com/jp/ja/healthcare/veterinary/examination/biochemistr ★「うちの子」の長生きのために、年齢や季節、犬種など、かかりやすい病気や、症状や病名で調べることができる「うちの子おうちの医療事典」をご利用ください。 ★ワンペディア編集部からのメールマガジン配信中! 「ワンペディア編集部」では、愛犬との暮らしに役立つお勧め記事や、アイペット損保からの最新情報を、ワンペディア編集部からのメールマガジン(月1回第3木曜日夕方配信予定)でお知らせしています。ご希望の方はこちらからご登録ください。