動物病院でうちの子に処方されたお薬について、そのお薬がどんな効能や役割を発揮し、どんな副作用やリスクがあるのか、詳しく知りたいと思ったことはありませんか? そんなときは遠慮なく診察された動物病院の先生に直接お尋ねになるのが一番です。質問をするほどではないけど、どんな薬か知っておきたい、そんな方にワンペディアの「動物病院で処方されたお薬ガイド」シリーズをお届けします。現役の獣医師・福永めぐみ先生が、一般的に処方されるお薬について、わかりやすく紹介します。初回はよくある「下痢」のときに処方される薬の解説です。

 

下痢の原因によって処方される薬は異なる

「下痢」の症状で動物病院を来院されるするわんちゃんはとても多く、犬全体の保険金請求件数の4位、1歳未満の子犬では2位となるほどよく見られる症状(※)です。(※アイペット損保「保険金請求が多い傷病ランキング」

わんちゃんが下痢を起こす原因は非常に多岐にわたります。すぐに改善する下痢も少なくありませんが、中にはしっかりと治療をしなければならない病気が潜んでいるケースもあります。そのため、わんちゃんが下痢をした際は、動物病院でからだの状態や下痢の原因を検査してもらいましょう。下痢しているときに考えられる病気については、「うちの子おうちの医療事典」の症状検索「下痢」をご覧ください。

 

下痢は、原因によって処方されるお薬も異なります。例えば

● 寄生虫などの感染症により下痢を起こしている場合には「駆虫薬」が、

● 炎症性腸疾患などの場合には「ステロイドのお薬」

が処方されるなど、その種類も様々です。

ここでは 一般的な下痢(急性腸炎)でよく処方されるお薬を中心に、解説します。

 

下痢を止める薬

止瀉薬(下痢止め)

下痢を止めるお薬(止瀉薬:ししゃやく)です。タンニン酸ベルベリンや次硝酸ビスマスなどの有効成分がいくつか配合されているものが多く、胃腸の粘膜の炎症を抑えたり腸のびらんや潰瘍を保護したり、ガス刺激による腸の過剰な運動を抑えたりする作用があります。

1日2回で飲ませる薬が多く、朝晩のごはんと一緒に与えるとよいでしょう。

 

ディアバスター錠(共立製薬)

使用上の注意

・止瀉薬(ししゃやく)を与えることで症状が悪化してしまう場合があります。例えば、細菌やウイルス、寄生虫などの感染症による下痢には止瀉薬は逆効果です。下痢によって体内にいる菌やウイルスを排出しようとしているの妨げとなります。

・次硝酸ビスマスを含む止瀉薬を飲むことで、便が黒くなることがあります。

 

よく処方される止瀉薬:ディアバスター錠(共立製薬) 

 

 

おなかの調子を整える整腸剤と、動物病院で処方される健康補助食品

◆整腸剤

乳酸菌などにより、おなかの調子を整える薬です。

下痢をしている犬では悪玉菌が増え、腸内フローラ(腸内細菌叢)が乱れてしまっていることがあります。整腸剤は善玉菌をしっかり働かせ、腸内フローラを整えることで、下痢や軟便を改善します。

また、パンクレアチンなどの消化酵素を含むものは、胃や腸での食べ物の消化を助けます。

1日1〜2回で飲ませるものが多く、ごはんと一緒に与えるとよいでしょう。

ビオイムバスター錠(共立製薬)

使用上の注意

抗生剤と一緒に飲ませることで、整腸剤の効果が弱まってしまうことがあります。

 

よく処方される整腸剤:ビオイムバスター錠(共立製薬)

動物用健康補助食品:マイトマックススーパー(共立製薬)

 

マイトマックススーパー(動物用健康補助食品)共立製薬

※マイトマックススーパーは、生きたまま腸まで届く乳酸菌を配合した整腸剤で、抗生剤と一緒に飲ませても十分な量の乳酸菌が腸に届くことが確認されている動物用健康補助食品です。

 

 

腸の動きを抑える薬

◆腸運動抑制薬

犬が下痢をしている時には、腸の動きが異常に活発になっている場合があります。

腸運動抑制薬であるロペラミドや臭化ブチルスコポラミンは、過剰な腸の動きを抑え、食べ物を腸に長く留まらせることで下痢を改善させます。

 

使用上の注意

長期間使用すると腸内環境が悪化させたり、便秘になることがあります。

また、ロペラミドはコリーシェットランドシープドッグなどの犬種で、神経症状を起こす危険性があります。

 

代表的な腸運動抑制薬

■ ロペラミド 製品名:ロペミン(ヤンセンファーマ)

■ 臭化ブチルスコポラミン 製品名:ブスコパン(エスエス製薬)

 

 

下痢の薬の与え方の注意点

犬が下痢をしている時には、これらの薬が単剤もしくは複数組み合わせて処方されることが多いです。また、下痢の原因によっては、駆虫薬免疫抑制剤などが併せて処方されたり、療法食が処方される場合もあります。

 

これらの薬が処方されたら、お薬のみで飲ませるか、普段食べ慣れているドライフード数粒と一緒に与えると良いでしょう。美味しいもの(パン、ソーセージなど)に包んでしまうと、それらが下痢を悪化させてしまう場合もあるので、気をつけましょう。

 

 

 

「下痢」のときに考えられる病気を「うちの子おうちの医療事典」で調べる

「下痢」をしているときに考えられる病気を「うちの子おうちの医療事典」の解説で、予防・原因・治療方法などを調べてみましょう。

トキソプラズマ症~トキソプラズマという小さな寄生虫が感染し、犬に消化器症状や神経症状を引き起こす病気。

炎症性腸疾患~腸に炎症の細胞が集まり、慢性的な炎症が起こる病気の総称。原因は不明。

ジアルジア症~ジアルジアという寄生虫が腸に寄生し、特に子犬に下痢や血便などの消化器症状を引き起こす病気。

腸リンパ管拡張症~リンパ液が流れるリンパ管がつまり、リンパ液が腸内に漏れ出てしまう病気。

回虫症~白く細長いひも形の寄生虫が腸に寄生し、下痢や食欲がなくなるなどの消化器症状を引き起こす病気。

□ 膵外分泌不全~膵臓から分泌される消化酵素が不足し、消化不良に陥る病気。

白血病~骨髄にある血球を作る役割を持つ造血幹細胞が腫瘍化してしまう、血液のがん。

□ 蛋白漏出性腸症~血液に含まれるタンパク質が腸から異常に漏れ出し、低タンパク血症を引き起こす病気。

□ 巨大結腸症~大腸の一部である結腸が常に拡張した状態になる病気。

膵炎~膵臓内の消化酵素が何らかの原因で活性化され、誤って自分の膵臓を消化し、炎症や壊死を起こす病気。

アジソン病(副腎皮質機能低下症)~副腎という臓器から分泌されるステロイドホルモンの量が少なくなり発症。

コクシジウム症~コクシジウムという寄生虫が腸に寄生、特に子犬に下痢や血便などの消化器症状を引き起こす病気。

リンパ腫~白血球の仲間であるリンパ球という細胞が、様々な臓器で腫瘍化して増殖する、血液のがんの一つ。

チョコレート中毒~チョコレートに含まれるテオブロミンという物質により引き起こされる中毒。

低血糖症~何らかの原因により、血糖値(血液中のグルコース)が低下し低血糖症状があらわれた状態。

□ 肥満細胞腫~主に皮膚にできる悪性腫瘍。まれに消化管や脾臓などの内臓にも発生。

慢性腸炎~腸に炎症を引き起こす細胞が集まり、慢性的な炎症が起こる病気の総称。

胃腸炎~胃や腸に炎症が起こり、吐く・下痢をするなどの消化器症状を引き起こす病気。

ネギ中毒~ネギ、タマネギ、ニンニクなどのネギ類を食べてしまって起こる中毒。

□ ワクチンアレルギー~ワクチンを接種することにより、ワクチンの成分に対してアレルギー反応を起こす病気。

三尖弁閉鎖不全症~心臓の右心房と右心室の間の三尖弁(右房室弁)がきちんと閉じなくなり、血液が逆流する病気。

食物アレルギー~食物の中のある成分が原因で起こるアレルギー。皮膚や、消化器など他の部位に症状がでることも。

異物誤飲~異物(食べてはいけないもの)を誤って飲み込み、体に異常をきたす事故。

アナフィラキシーショック~アレルゲン物質が体内に入りアレルギー反応を引き起こし、重い全身症状となる。

□ 犬コロナウイルス感染症~犬コロナウイルスの感染により、嘔吐や下痢などの消化器症状を引き起こす病気。

□ 犬ジステンパーウイルス感染症~犬ジステンパーウイルスの感染で、呼吸器・消化器・中枢神経症状を引き起こす。

犬伝染性肝炎(犬アデノウイルス1型感染症)~犬アデノウイルス1型の感染により、特徴的な肝炎を引き起こしたり急死する可能性のある病気。

□ 門脈体循環シャント(PSS)~消化管で吸収した栄養分や毒素を肝臓へ運ぶ「門脈」という血管が、肝臓に流入せずに異常な血管を介して大静脈に直接流入する病気。

熱中症~高温多湿な環境に体が適応できず、体の中の調整機能が壊れて生じる様々な症状の総称。

□ 腫瘍、腫瘤~腫瘍とは体の臓器や組織をつくる細胞が、本来のルールとは逸脱して過剰に増殖してできる塊。腫瘤とは体や臓器にできる塊のこと。

 

お世話をしながら気付い事たことから病気を調べる

「うちの子」の長生きのために、気になるキーワードや、症状や病名で調べることができる、獣医師監修のペットのためのオンライン医療辞典「うちの子おうちの医療事典」をご利用ください。

例えば、下記のような状態から、さまざまな病気やケガを知ることができます。  健康な毎日を過ごすため、知識を得ておきましょう。

(元気)■ 元気がない ■ 疲れやすい ■ ぐったりしている ■ 意識がもうろうとしている

(食事)■ 食欲がない ■ 食べすぎる ■ 水を飲まない ■ 水を沢山飲む

(体型)■ 太る ■ 痩せる ■ お腹がはっている ■ 腫れている

(体温)■ 体が熱い ■ 体が冷たい

(挙動)■ 痛がる ■ 足をあげる ■ 歩かない ■ 頭を振っている ■ ふらつく ■ ぐるぐる回る ■ 遠吠えをする

(性格)■ 性格が変わる

 

他にも次のような切り口でさまざまな傷病を調べることができます

【治療面】■ 再発しやすい ■ 長期の治療が必要 ■治療期間が短い ■ 緊急治療が必要 ■ 入院が必要になることが多い  ■手術での治療が多い ■専門の病院へ紹介されることがある ■生涯つきあっていく可能性あり

【症状】■ 初期は無症状が多い ■ 病気の進行が早い

【対象】■ 子犬に多い ■ 高齢犬に多い ■男の子に多い   ■女の子に多い ■ 大型犬に多い ■小型犬に多い

【季節性】■春・秋にかかりやすい ■夏にかかりやすい

【発生頻度】■ かかりやすい病気 ■めずらしい病気

【うつりやすさ】 ■ 他の犬にうつる ■ 人にうつる ■猫にうつる

【命への影響度】 ■ 命にかかわるリスクが高い

【費用面】 ■ 生涯かかる治療費が高額 ■手術費用が高額

【予防面】 ■ 予防できる ■ワクチンがある

 

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フクナガ動物病院 獣医師

福永 めぐみ

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