子どもと大人ではかかりやすい病気が違うように、犬でも子犬と成犬ではかかりやすい病気や注意すべき症状が異なります。子犬は免疫力もまだ十分ではないため、細菌やウイルス・寄生虫などの感染症にかかりやすかったり、環境の変化などにより体調を崩しやすいです。また、身体が小さく体力もあまりないので、はじめは軽度な症状でもすぐに重症化してしまうことがあります。
子犬でみられやすい症状と病気について解説していくので、気になる症状がみられたときは、早めに動物病院を受診するようにしましょう。
子犬のこんな症状に注意
食欲がない・痩せている
フードをまったく食べなかったり、いつもより食べる量が少ない場合や、極端に痩せている場合には、何らかの病気にかかっていたり、栄養失調を起こしている可能性があります。おうちでも子犬の体重をこまめに測り、体重の増加が乏しい場合にも、早めに動物病院で相談しましょう。
表情や動作に元気がない
子犬の表情に元気がない、いつもよりおとなしい、ぐったりしているなどの場合は、何らかの病気のサインの可能性があります。「あれ?なんだか元気がないな?」という違和感は病気の発見ポイントになるので、気が付いたら早めに動物病院で相談してみましょう。
下痢をしている
下痢が何度も続く場合には、ウイルスや細菌による感染症や胃腸炎、誤飲などの可能性があります。移動や環境の変化によるストレス、フードの変更などによっても一時的に下痢をすることはありますが、下痢が続く場合には早めに動物病院を受診しましょう。
動物病院では、フードやおやつの内容、生活習慣や飼育環境について聞かれることが多いので、フードの種類や量を確認してから受診するとスムーズです。また、糞便を持参することで速やかに糞便検査を受けることができ、早めの診断につながります。
嘔吐がある
子犬は消化能力が未熟なことから、健康な子でも急にたくさんのフードを食べたり、食後に激しく動いたりした時には吐いてしまうことがあります。嘔吐が1回のみで、その後の食欲や元気に変わりがないようであれば、少し様子をみても良いでしょう。しかし、嘔吐が何度も続く場合には、早めに動物病院を受診しましょう。
嘔吐の原因には、寄生虫やウイルスなどの感染症、フードの変更、環境の変化等によるストレス、胃腸炎、膵炎、誤食、また何らかの先天性の病気が隠れている可能性もあります。動物病院では、食事内容や、いつ・どのようなものを吐いたのか、嘔吐の前後の様子などについてしっかりと伝えられると、診断につながります。
体が熱い・熱がある
子犬の平熱は38~39度前半で、39.5度を超えると発熱とみなします。耳や足先などを触った時にいつもより熱っぽい場合は要注意です。同時に元気や食欲がなかったり、いつもと様子が違う場合には、病気のサインの可能性があります。
咳・くしゃみ・鼻水が出る
咳や鼻水、くしゃみが頻繁にみられる場合には、何らかの感染症にかかっている可能性があります。これらの症状が続くと、食欲不振などを招く恐れもあるので、早めに動物病院を受診しましょう。
眼やにが出る・眼が充血している
眼やにがたくさん出たり、白目の部分が充血しているときには、感染症にかかっていたり、眼自体に異常を起こしている可能性があります。特に黄色や黄緑色の眼やにが出ているときは要注意です。
毛が抜ける・かゆみがある・フケが多い
皮膚に脱毛や痒みがみられたり、フケが異常に多いときには、皮膚の感染症や皮膚炎を起こしている可能性があります。免疫力の低い子犬では、皮膚の感染症が治りにくかったり、家族にうつしてしまう恐れもあるので、早めに動物病院を受診しましょう。
子犬がかかりやすい病気
ウイルスによる感染症
子犬が産まれて最初に飲む母乳(初乳)には、母犬がもつ免疫(移行抗体)が含まれています。この移行抗体は、生後2か月~4か月で徐々に消失してしまいますが、その時期には個体差があります。そのため、生後2か月を過ぎる頃から、子犬はさまざまな感染症にかかりやすくなります。
犬ジステンパーウイルス感染症
1歳未満(とくに3〜6か月齢)の子犬でかかりやすく、感染初期には発熱や下痢、くしゃみ、咳などの症状がみられます。重症化するとけいれんなどの神経症状を起こし、一度回復しても麻痺などの後遺症が残る場合や、死に至る可能性もある病気です。犬ジステンパーウイルスは、感染した犬の唾液や飛沫、排泄物を吸い込んだり接触することで感染します。
予防には、適切な時期のワクチン接種と、飼育環境を清潔に保つことが有効です。
ケンネルコフ(犬伝染性気管・気管支炎)
呼吸器系の感染症で、咳を特徴とする犬(ケンネル)の風邪(コフ)のような病気です。犬アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、ボルデテラ(細菌)などに、単独もしくは重複して感染することで発症します。感染した犬との接触や、くしゃみなどの飛沫によって感染するため、ペットショップやブリーディング施設で広がりやすいとされています。短く乾いた咳が出ることが特徴で、重症化すると発熱や肺炎を起こす場合もあります。
予防には、適切な時期のワクチン接種と、飼育環境を清潔に保つことが重要です。
犬パルボウイルス感染症
消化器系の感染症で、激しい嘔吐や下痢、血便を起こします。脱水状態になってしまうとショックを起こしたり、命に関わる危険性もあります。犬パルボウイルスを含む便や嘔吐物に触れることで感染します。
予防には、適切な時期のワクチン接種と、次亜塩素酸による消毒が有効です。(アルコールや石鹸に対しては抵抗性があります。)
犬伝染性肝炎(アデノウイルス感染症)
肝炎を特徴とする病気で、1歳未満の子犬が感染すると致死率の高い病気です。ウイルスは口や鼻から侵入し、血液に乗って全身に運ばれます。感染すると嘔吐や腹痛、下痢、発熱、のどの腫れや点状の出血などを起こします。肝炎を起こすと、お腹を触ろうとしたときに嫌がるようになり、重症化すると急死する恐れもあります。
予防にはワクチン接種が有効です。
犬コロナウイルス感染症
犬コロナウイルス感染症は、突然の下痢や嘔吐を特徴とする感染症で、脱水を起こすことがあるので注意が必要です。犬パルボウイルスと同時に感染してしまうと、重症化することがあります。
予防にはワクチン接種が有効です。
寄生虫による感染症
犬に感染する主な寄生虫には、回虫や条虫などのお腹(消化管)に寄生する内部寄生虫と、ノミやマダニなど体の表面に寄生する外部寄生虫があります。子犬はこれらの寄生虫に感染しやすく、母犬のお腹の中で感染したり、母乳を介して感染してしまうケースもあります。
免疫力や体力が十分でない子犬は、お腹の寄生虫による下痢や血便で脱水を引き起こしたり、ノミが大量に寄生することで貧血を起こすなど、重篤な症状に陥る可能性があります。子犬や同居動物の健康を守るためにも、子犬を迎え入れる際には動物病院で健康診断を受け、寄生虫の駆虫についても相談すると良いでしょう。
低血糖
成長期の子犬は、成犬に比べてカロリーの高い食事が必要なことと、糖分を備蓄するための肝臓の機能がまだ発達途中であることから、低血糖を起こしやすいです。そのため、空腹の時間が長すぎたり、不適切な食事、飢餓、寒さなどによってエネルギーの消費が激しい場合には、低血糖症を引き起こす可能性があります。特に小型犬の子犬では注意が必要です。
子犬が急にぐったりしたり、痙攣を起こしたりする場合には、低血糖症になっている可能性があるので、すぐに動物病院を受診してください。低血糖症を防ぐために、フードやミルクは適切な量・回数で与え、こまめに体重測定をして、成長に合わせてきちんと体重が増えているかを確認しましょう。
脱水
水を飲む量が少なかったり、下痢や嘔吐により体の水分がたくさん失われたりすると、脱水症になります。水分だけでなく、塩分やカリウムなどのミネラルも一緒に失われることで、より重症化してしまいます。皮膚を引っ張り上げて離した時に、皮膚が元に戻るのに時間がかかったり、口の中の粘膜が乾いているのは脱水のサインです。
骨折
子犬の骨は強度が十分でなく、成長するために骨が完全に形成されていないのが特徴です。そのため、抱っこや膝の上から飛び降りたり、階段などから地面にジャンプした際でも、簡単に骨折してしまいます。激しいジャンプなどは極力控えさせ、フローリングの床は滑りにくい素材の敷物などを敷いて工夫してあげましょう。
子犬の骨折対策については、こちらをご覧ください。
動物整形外科の専門医監修「犬の骨折」記事
第1回:動物整形外科専門医の視点で語る「愛犬を骨折させてはいけない理由」
第3回:骨折発生! もしかして骨折_ を含めた応急処置と対処法
第4回:動物の整形外科とは?~骨折治療の得意な先生の探し方ヒント
第6回:骨折の治療法完全ガイド
第7回:⾻折で発⽣する後遺症と合併症
誤食
犬はもともと好奇心や探索心が盛んな動物ですが、1歳未満の子犬は特に、目の前にあるものはなんでも口に入れたり、壊したりして遊んでしまうことが多いです。また、乳歯が永久歯に生え変わる生後4~6か月齢頃は、いろいろなものをかじりたがって誤食を起こしやすいです。口にすると危険なものや、飲み込んでしまえる大きさのものは、子犬の届かないところに置きましょう。
誤食や誤飲は、重度の胃腸炎や膵炎、腸閉塞などに加え、中毒を起こすと命に関わる危険性も十分にあるので、子犬の飼育環境には十分に気をつけ、万が一何かを誤食してしまった場合はすぐに動物病院を受診しましょう。
さいごに
子犬はケガをしやすいことに加え、免疫力や体力が未熟なことからウイルスや寄生虫による感染症にかかりやすく、病気を発症してしまうと重症化しやすいです。母犬から受け継いだ移行抗体が少なくなってしまう生後2か月齢頃からは、とくに注意が必要です。
子犬がかかりやすい感染症の多くは、生活環境を整えたり、適切な時期のワクチン接種や予防薬を投与することによって防ぐことができます。子犬を家族に迎えた際は、動物病院で健康状態を確認してもらい、ワクチンや予防薬についても相談するとよいでしょう。
参考:イヌ・ネコ家庭動物の医学大百科(ピエ・ブックス)
一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
「子犬」に関するワンペディア専門家監修記事
飼い主さんが知っておきたい子犬期の情報はこちらをご覧ください。
□ 健康チェック:「成犬とはどこが違う?子犬の健康を細かくチェックする方法とは?」
□ 注意すべき病気とケガ:「子犬は絶対に気をつけて!注意すべき病気と怪我」
□ 低血糖症:「子犬は要注意!短時間で死に至る「低血糖症」とは」
□ 水頭症:「1歳未満の子犬に多い水頭症とは?治療法と飼い主さんができること」
□ 胃液を吐いた:「子犬が黄色っぽい液体を吐いた!原因と対処法」
□ 子犬の骨折:「子犬の骨折が発生しやすい月齢は? 発生しやすい3大要因と予防策」
□ 環軸亜脱臼:「子犬がかかりやすい、環軸亜脱臼」
□ 子犬のお部屋:「子犬のためのお部屋作り」
□ 子犬のしつけ:「子犬を迎えたばかりのお家は要注意!そのしつけ、本当に大丈夫?」
□ 子犬のトレーニング:「子犬期のうちに絶対にやっておくべきトレーニング」
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□ お散歩デビュー:「獣医師がわかりやすく解説!初めてのお散歩」
□ドッグランデビュー:「その子犬、ドッグランに連れて行っても大丈夫?」
□ 夜鳴き:「子犬が夜鳴きするのはなぜ?夜鳴きの対処方法」
□ 食糞:「子犬の食糞の理由や予防対策」
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