ここでは、前半でアイペット損保の保険金請求データによる、骨折に注意が必要な犬種をお伝えします。後半では骨折しやすい犬種について、その理由として考えられることを解説します。
骨折による保険金請求件数の割合が、犬全体の平均よりも高い犬種
アイペット損保の3年間の保険金請求データ(ペット保険「うちの子プラス」、「うちの子」、「うちの子ライト」のご契約に関する2019年1月~2021年12月の保険金請求データより算出)によると、保険金請求件数に占める骨折請求件数の割合が全犬種の平均値より高い犬種は、図1のように、イタリアン・グレーハウンド(7.77%)、ボルゾイ、ポメラニアン、豆柴、オーストラリアン・ラブラドゥードル(ミニチュア)、トイ・プードルのような結果となりました。
<図1>骨折による保険金請求件数の割合が平均より高い犬種
※アイペット損保のペット保険「うちの子プラス」「うちの子」「うちの子ライト」のご契約に関する2019年1月~2021年12月の保険金請求データより算出
*1 小型犬:アイペットの犬種分類表における、ペット保険「うちの子」のミックス「小型犬」(12kg未満)
*2 犬Ⅰ:ペット保険「うちの子ライト」のミックス「犬Ⅰ」(16kg以下)
骨折による保険金請求が多い犬種
また、骨折による請求件数が多い順で犬種をみていくと(図2)、トイ・プードル、ポメラニアン、チワワななど、保険契約件数の多い人気犬種が上位を占めている一方で、契約数が少ない犬種でも骨折による請求件数では上位に入っている犬種がある点に注意が必要です。オーストラリアン・ラブラドゥードル(ミニチュア)、ボルゾイ、トイ・マンチェスター・テリアなどがそれにあたり、骨折に要注意です。
<図2>骨折による「保険金請求件数の多い犬種」
※アイペット損保のペット保険「うちの子プラス」「うちの子」「うちの子ライト」のご契約に関する2019年1月~2021年12月の保険金請求データより算出
*1 小型犬:アイペットの犬種分類表における、ペット保険「うちの子」のミックス「小型犬」(12kg未満)
*2 犬Ⅰ:ペット保険「うちの子ライト」のミックス「犬Ⅰ」(16kg以下)
●犬種別の骨折の治療期間データ
アイペット損保の5年間の保険金請求データ(ペット保険「うちの子プラス」、「うちの子」のご契約に関する2017年1月~2021年12月)から、骨折に係る保険金データを対象に、該当期間内における、骨折したワンちゃん毎の最初と最後の治療日の差分を、『骨折の平均治療日数』として概算したところ、図3のような結果となりました。
骨折した犬の平均では、101.3日となり、実に3か月半近くに及んでいます。
また図3では、犬種によって骨折したワンちゃんの数にばらつきがあり、ケガの程度などワンちゃんごとの事情も異なるため、あくまで目安ではありますが、骨折した犬の平均治療日数よりも長かった犬種を表しています。
イタリアングレーハウンドで162.5日(+61.2日)
トイ・プードルで119.1日(+17.8日)
と、平均の骨折治療日数よりも長くなっています。骨折の治療中は安静を保つことが治癒への近道ですが、3か月~半年近くにも及ぶ完治までの時間は、飼い主さん愛犬ともども、とても辛いものとなりますので、何よりも骨折させないことが肝要です。
<図3> 骨折による治療期間が、骨折した犬の平均治療期間よりも長い犬種
※アイペット損保のペット保険「うちの子プラス」「うちの子」のご契約に関する2017年1月~2021年12月の保険金請求データから骨折に係る請求を対象に、該当期間内における、骨折したワンちゃん毎の最初と最後の治療日の差分を、『骨折の平均治療日数』として概算
※同じ骨折による請求か、異なる骨折による請求かの区別はしていない
なお、参考までに、集計期間の5年間(アイペット損保のペット保険「うちの子プラス」、「うちの子」のご契約に関する2017年1月~2021年12月の保険金請求データ)で、骨折に係る保険金請求がゼロだった犬種は、混血(大型犬)、ワイアー・フォックス・テリア、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ワイマラナー、ノーフォーク・テリア、フラットコーテッド・レトリーバー、ブリュッセル・グリフォン、ボロニーズ、セント・バーナード、ウェルシュ・テリア、チベタン・スパニエル、サモエド、バセット・ハウンド、ロットワイラー、紀州犬、ホワイト・スイス・シェパード・ドッグ、アイリッシュ・セター、北海道犬、ニューファンドランド、ウェルシュ・コーギー・カーディガンでした。
他の犬種より骨折しやすい「イタリアングレーハウンド」の注意点
●抱っこからの落下・運動中・家庭内でも要注意
イタリアングレーハウンドは、手足が長く、そのほっそりとしたスタイルと、優雅な歩き方が特徴の犬種です。ただし、その気品のある体型から、整形外科疾患の中では骨折をよく引き起こす犬種として知られています。特に前肢の骨折が多く、尾骨の骨折も見られることがあります。
経験的にイタリアングレーハウンドの骨折で多い原因は、落下、運動中の事故、事故が多いと感じています。
特に抱っこからの落下は、その体型的に飼い主さん自身の体に密着させて安定させることが難しいためであると推察されます。また、いろいろなことに興味をもちやすいことから、抱っこされているときに他のワンちゃんが視界に入ることなどで、飛び降りたくなってしまうこともあるようです。さらに、少し臆病なことから、大きな音などの強い刺激があると驚いて体をくねらせるような動きをしてしまうことも原因の一つではないかと感じます。日常の落ち着いた状況の中で、しっかりと安定した抱き方を練習しておくと、落下事故を未然に防ぐことができるでしょう。
運動中の事故は、
特に飛び上がりからの着地
自分より大型の犬種と遊び
走っている状態から横回転するように転倒
した際に起こります。
これは、運動能力が高いことから、自分の骨格の限界を超えて動いてしまっていることが原因と考えられます。楽しませてあげるためにドッグランに遊びに行く中で、ワンちゃんを完全に抑制することは困難ですが、ドッグランなどでも、少し制限をしながら遊ばせてあげるように気をつけていただくことが肝要と感じます。
●尻尾を折ってしまう場合
イタリアングレーハウンドが尾骨を折ってしまう場合は、
ご家庭内でドアに挟んでしまう
ことや
日常生活の中で壁などにぶつけてしまう
ことが多いように感じます。イタリアングレーハウンドは被毛が短く、尾を守るものがありません。このことから、
喜んで尾を振っているだけで骨折してしまう
ことがあります。この骨折は、骨折治療が奏功することもありますが、スタンダードな治療法はなく、多く場合で断尾や経過観察となってしまいます。日常生活に不便さが残ることは少ないものの、その外貌が大きく変化してしまうことから、注意が必要です。イタリアングレーハウンドによく見られる橈尺骨骨折の治療過程は、こちらをご覧ください。
●イタリアングレーハウンドがかかりやすい病気
イタリアン・グレーハウンドの性格や飼い方のコツ、なりやすい病気まで紹介している『犬種別病気ガイド』もあわせてご覧ください。
人気犬種で骨折に要注意の「ポメラニアン」「チワワ」「トイ・プードル」
●ポメラニアンの骨折
ポメラニアンは、友好的で活発である反面、飼い主への依存が強い犬種として知られています。元来、小型の個体が好まれる犬種であることから、おおむね3−5kg見当の体格だったポメラニアンですが、近年その小型化はさらに進んでいます。このことも相まって、整形外科疾患の中では骨折や膝蓋骨脱臼をよく引き起こす犬種として知られています。骨折のほとんどは前肢・前腕に引き起こされます。
●チワワの骨折
チワワは、飼い主への依存が強く、警戒心のある犬種として知られています。元来、公認されている小型犬の中で1番小柄な体格である犬種です。おおむね1.5−3kg見当の体格であるチワワですが、近年その小型化はさらに進んでいます。このことも相まって、整形外科疾患の中では骨折や膝蓋骨脱臼をよく引き起こす犬種として知られています。骨折のほとんどは前肢・前腕に引き起こされます。
●トイ・プードルの骨折
トイ・プードルは、2000年代から人気犬種ランキングで常に1位になるほどの人気犬種として多くの人に愛され、親しまれています。体重は約3kg見当の体格であったトイ・プードルですが、近年その小型化はさらに進み、このことも相まって、整形外科疾患の中では骨折や膝蓋骨脱臼をよく引き起します。
トイ・プードルは、とても賢い反面、自己主張が強い犬種です。そのため外部に強く反応してしまう頻度が高いことが原因となって、抱いている胸元から落下した結果引き起こされる骨折が、飼い主様から最も多く報告されるものです。
●人気の小型犬に共通する骨折の原因と予防策
ポメラニアン・チワワ・トイプードルといった人気の小型犬の骨折は、そのほとんどが落下事故、運動中の事故、事故であると感じています。
とりわけ、
抱いている胸元などから落下した結果引き起こされる骨折が、飼い主様から最も多く報告される
ものです。
・ポメラニアンとチワワは、飼い主様への依存度が高く、縄張り意識が高い犬種であること
・トイプードルはとても賢い反面、自己主張が強い犬種であること
から、いずれも外部に強く反応してしまう頻度が高いことが原因であると考えられます。
刺激がありそうな空間では、
常に胴輪につながるリードをつけるなど、落下しないような工夫をしてあげる
ことにより、落下事故を未然に防ぐことができるでしょう。
また、
ソファからの飛び降りや、勢いよく段差を飛び降りることによる骨折
は運動中の事故に分類されます。これらを全て抑制することは、犬自身の生活の楽しみを奪ってしまうため困難ですが、
ソファに乗せない教育をすることや、段差のあるところでの運動を避ける
ことは、骨折予防に役立つと考えています。
そして、残念ながら
飼い主様ご自身が踏んでしまうことによる骨折
がしばしばあります。この事故を防ぐためには、足元で愛犬が素早く動いている時に、ご自身が動かないことを心がけると良いでしょう。
ポメラニアン、チワワ、トイ・プードルに限らず、小型犬の中でも特に小さい子は、普段から食欲にムラがあることが多く、これは、骨折治療の弊害となり得ます。なお、小型犬によく見られる橈尺骨骨折の治療過程は、こちらをご覧ください。
犬種別病気ガイド
犬種別の性格や飼い方のコツ、なりやすい病気まで紹介している「犬種別病気ガイド』もあわせてご覧ください。
動物整形外科の専門医・木村太郎先生監修「犬の骨折」記事
第1回:動物整形外科専門医の視点で語る「愛犬を骨折させてはいけない理由」
第3回:骨折発生! もしかして骨折_ を含めた応急処置と対処法
第4回:動物の整形外科とは?~骨折治療の得意な先生の探し方ヒント
第6回:骨折の治療法完全ガイド
第7回:⾻折で発⽣する後遺症と合併症
第8回:骨折しやすい犬種の理由として考えられること(本稿)
アイペット獣医師による【うちの子 HAPPY PROJECT】の骨折対策
飼い主さんの「あのとき知識があれば防げたのに…」
★「うちの子」の長生きのために、気になるキーワードや、症状や病名で調べることができる、獣医師監修のペットのためのオンライン医療辞典「うちの子おうちの医療事典 」をご利用ください。
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