ワクチン接種の目的は病気の予防です。特に致死率が高い病気や、ヒトにも移る病気など、恐ろしい病気から愛犬を守るためにはワクチン接種はきちんとしておいたほうがいいでしょう。しかしワクチンには色々な種類があって、いつのタイミングで接種すればいいのか、よくわからないという飼い主さんもいらっしゃるかもしれません。ここでは獣医師監修のもと、ワクチンの接種時期から副作用、気をつけるポイントなどをまとめました。

ワクチンの接種時期(混合ワクチン)

ワクチンの接種時期については、さまざまな理論やいろいろなケースが考えられ、とても複雑です。各動物病院によって「ポリシー」も異なりますので、一概に「これがよい」と言うことはできません。しかし、「仔犬期」と「成犬期」では異なるワクチン接種プログラム(ワクチネーションプログラム)がありますので、これら2つに分けて考えるとよいでしょう。以下、混合ワクチン接種のケースです。

仔犬期

  • 生後2ヶ月目:1回目接種
  • 生後3ヶ月目:2回目接種
  • 生後4ヶ月目:3回目接種

というのが、最もシンプルで、理にかなった接種パターンでしょう。

仔犬は、生後母親から母乳を摂取します。母乳の中でも最初の頃に分泌される母乳を初乳といい仔犬の栄養や免疫にとって特別な母乳です。そして、仔犬は主にこの初乳中から免疫(移行抗体)を受け継ぎます。

母親から仔犬に受け継がれた移行抗体は生後約2~3ヶ月で仔犬の体内から消失し、仔犬の免疫力が低下します。そして、この時期がワクチン接種の「狙い目」です。

1回接種しただけでは、効率よく免疫が獲得されない可能性があるため、2回目、3回目の接種を行います。詳細は、「初乳と移行抗体」に関連して後述します。

成犬期

仔犬期の3回目(生後4ヶ月目)の接種の1年後に4回目を接種します。以後、1年に1回の接種を行い、免疫力を保ちます。

しかし、海外では、混合ワクチンは1年に1回も接種しなくても、十分であるとする考え方もあります。その辺りは、獣医師によっても考え方が異なってきます。詳細は、本記事内で後述します。

狂犬病ワクチンの接種時期は?

狂犬病ワクチンについては、混合ワクチンとは異なり、法律(狂犬病予防法)でいつ接種するか、が明確に示されています。

狂犬病予防法では「生後91日以上の犬を所有する者は、毎年1回4月〜6月までに受けなければならない」とされています。したがって、生後91日以上の犬には早くワクチン接種を行い、その後は1年に1回(4月〜6月)の接種を行う必要があります。

飼い主の3大義務とは?

狂犬病ワクチン接種は飼い主の義務です。それに関連して、犬の飼い主の義務を紹介しておきましょう。犬の飼い主には以下の3点が法律により義務付けられています。

  • 現在居住している市区町村に飼い犬の登録をすること
  • 飼い犬に年1回の狂犬病予防接種を受けさせること
  • 犬の鑑札と注射済票を飼い犬に装着すること

生後91日以上で登録手続きがまだ済んでいない犬の飼い主の方は、お住まいの市区町村窓口へお問い合わせの上、登録手続きをしなくてはなりません。登録の手続きには約3,000円の費用がかかります。登録は1頭の犬につき、生涯1回でよいですが、引っ越しした場合等には移転先の市区町村窓口への届出が必要です。お問い合わせ先などの詳細は下記リンクをご参照ください。

犬の登録をした際には「鑑札」が、狂犬病ワクチンの接種を受けた際には「注射済票」が交付されます。この鑑札と注射済票は、飼い犬に着けておかなければなりません。鑑札には登録番号が記載されているので、もしも飼い犬が迷子になっても、装着されている鑑札から飼い主の元に戻すことができます。

参考:‘犬の鑑札、注射済票について(厚生労働省ホームページ)はこちら’

ワクチン接種の注意点

ワクチンは感染症から体を守ってくれるものですが、まれに副反応が出てしまうこともあります。ワクチンに含まれるタンパク安定剤(ゼラチンやカゼインなど)、ワクチンを製造する際に使用される牛血清、不活化ワクチンで効果を高めるために使用されるアジュバントなどが副反応の原因と考えられています。これらの物質は生体にとっては「異物」のため、体質や体調により体が過剰に反応してしまう場合があるからです。

ワクチン接種の副反応

副反応の症状は軽いものから重いものまであります。発熱、元気・食欲の低下、嘔吐、下痢などの全身症状、接種部位の腫れ、赤み、痒みや、接種部位のしこり(丘疹)などの部分的症状、目や口の周りなどを中心とした顔の晴れ(月のように丸い顔になることからムーンフェイスと呼ばれる)、などが特徴的な症状です。

また、最も重大な副反応は「アナフィラキシー反応」で、早期に適切な処置を施さない場合は、命の危険があります。アナフィラキシー反応については後述します。

ワクチン接種時には以下の点に注意しましょう。

体調はよいか?

ワクチンは体にとって「異物」です。体調が悪い時にワクチンを接種すると、思わぬ副反応が出てしまう場合があります。元気・食欲がない、下痢をしているなど体調が悪い時にはワクチン接種を控えましょう。

幼齢犬、高齢犬、小型犬では副反応の発生が高い

1歳未満の仔犬や10歳以上の高齢犬では、副反応の発生が高くなると報告されています。また、小型犬や体重の軽い犬でも副反応が出やすいことが報告されていますが、これは、犬のワクチンは体重により接種量を調整するのではなく、小型犬も大型犬も、同じ一定量を接種することによると考えられています。

接種後30分は特に注意、ショック症状が見られたらすぐに動物病院へ

副反応で最も注意が必要なのは、「アナフィラキシー反応」といわれるものです。ワクチン接種直後から30分以内に急激に起こり、呼吸困難、嘔吐、けいれん、血圧の低下などのショック症状を示し、早急に治療を施さなければ命に危険が及ぶ場合もあります。

したがって、ワクチン接種後30分くらいは特に注意深く犬を観察し、なにか異常があったらすぐに動物病院に連れて行けるような体勢を整えておく必要があります。

動物病院によっては、ワクチン接種後30分は院内で待機するよう指示される場合もあります。

接種日は安静に

私たち人間も、ワクチンを接種した日は激しい運動を避けるなど、安静に過ごすようにと、お医者さんから指示されます。これと同様、犬もワクチンを接種した日は、シャンプーや激しい運動を避けて安静に過ごす必要があります。

接種後、数日間は様子を観察

アナフィラキシー反応は接種後30分以内に副反応がでることが多いと書きましたが、その他の副反応の症状は接種後数時間〜3日までの間に出ることが多いです。特に多いのは接種後12時間以内とされています。したがって、ワクチン接種後は3日くらいまで普段より注意深く様子を観察しましょう。

接種後、すぐに免疫はつかない

ワクチンを接種したからといって、すぐに免疫力がつくわけではありません。抗体産生にはワクチン接種後1〜2週間かかると考えられており、ワクチンを接種したからといって、すぐに遠出したり、犬を集団の中に入れたりするのは避けた方がよいでしょう。

ワクチンを接種しても、絶対安全ではない

ワクチンを接種しても、抗体が全く産生されない個体や、少ししか産生されない個体がいます。ワクチンを接種しても、その感染症にかかってしまったというケースも稀に起こります。ワクチンを接種しても、100%安全ということではないので、このことを頭の片隅に入れておくのがよいでしょう。

このように、ワクチンの副反応を見ると、ワクチンはとても怖いものだと思われるかもしれません。しかし、実際にはワクチン接種による副反応の発生率は1%未満とされています(0.1%未満というデータもあります)。最も多い副反応の種類は皮膚症状で、この場合、命の危険はありません。命に危険が及ぶ副反応であるアナフィラキシー反応は全体の0.1%未満とされています。アナフィラキシー反応が出てしまった場合でも、適切に対処することができれば、命に支障はありません。

ワクチン接種による副反応はゼロではありませんが、非常に低く、特に重症化する確率はさらに低いということです。犬種、月年齢、体質、体調などを考慮の上、ワクチン接種のリスクとメリットを獣医師とよく相談することが大切でしょう。

初乳と移行抗体

移行抗体とは何でしょうか?

生まれたばかりの仔犬では免疫系が未発達なため、感染症に対する抵抗性が極めて弱い状態です。そんな仔犬の免疫にとって重要なのが「移行抗体」です。移行抗体とは、母親から受け継ぐ抗体のことで、仔犬自身の免疫力がつくまで、仔犬に免疫力を与える重要なはたらきがあります。

仔犬は、生後母親から母乳を摂取します。母乳の中でも最初の頃に分泌される母乳を初乳といいます。そして、犬は主に初乳から、移行抗体を摂取します。

移行抗体とワクチン接種時期の関係

移行抗体は生後約2ヶ月で仔犬の体内から消失すると考えられています。移行抗体が無くなってしまうと、仔犬の免疫が低下し、感染症の危険にさらされてしまいますので、早くワクチンを接種して、仔犬自身の免疫力を高める必要があります。

したがって、移行抗体が消失する生後約2ヶ月頃が、ワクチン接種の狙い目となります。その時期に1回目のワクチンを接種することで、仔犬自身の免疫(抗体)がつくられます。

しかし、ここで一つ考えなければならないことがあります。初乳を飲んでいない仔犬では、移行抗体が少ないないため(※移行抗体の一部は生前胎盤を通して母親から仔犬に受け継がれます)、ワクチン接種の時期を早める必要があるのです。生後2ヶ月より前にワクチン接種を行う場合があるのは、このような考え方からです。

一方、仔犬の体内に移行抗体がたくさん残っている状態でワクチンを接種したとしても、接種したワクチンが、移行抗体によって処理されてしまうので、仔犬は免疫を獲得することができません。

そして、実際にはいつ移行抗体が消失しているのかは、よくわかりません。そのため、生後2ヶ月目に接種する1回目のワクチンではうまく免疫力が高まらない場合もあります。

ワクチン接種は1年か3年か?

日本では、ワクチンの接種は1年に1回とする動物病院が多いでしょう。しかし、近年、ワクチンの種類によっては、3年、5年、7年と免疫力が長期間持続するものがあるというデータが示され、毎年接種の必要性を疑問視する声も出てきています。

また、アメリカでは「アメリカ動物病院協会」より、コアワクチン(犬ジステンパー、犬パルボウイルス感染症、犬伝染性肝炎)については3年に1回の接種でもよいとするガイドラインが発表されています。

3年に1回の接種でも1年に1回の接種と変わらない効果が期待できるのであれば、その方がよいでしょうが、日本においてはまだ3年に1回接種の実績は浅いことから、飼い主としては悩ましい限りです。ワクチンの抗体価を検査することもできるため、動物病院と相談してもよいかもしれません。

アイペット獣医師

ワンペディアの運営会社であるアイペットに在籍している獣医師チーム。臨床経験...

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