かつて多くの犬の命を奪った恐ろしい病気「フィラリア症」。現在は一般的に普及した予防薬のおかげで、愛犬を守ることができるようになりました。しかし、今の時代でもきちんと予防をしていなければ、フィラリアによって命を落とす可能性は十二分にあります。

ここでは獣医師監修のもと、フィラリアの原因、症状、治療法、予防法などを解説します。

フィラリア症の原因

フィラリアは正式名称を犬フィラリア症、または犬糸状虫症といい、「犬フィラリア(犬糸状虫ともいいます)」という寄生虫を持っている蚊に刺されることで感染します。この「犬フィラリア」は、白く細長い姿をしていて、成長すると25~38cmにもなり、心臓や肺動脈に住みつきます。成長した大量のフィラリアが犬の心臓や肺動脈を埋め尽くして、最終的には心不全や呼吸困難を引き起こして死に至るという、とても恐ろしい病気なのです。

犬フィラリアのライフサイクル

犬フィラリアを持っている蚊に刺されることで、フィラリアの幼虫が犬の体内に侵入します。幼虫は筋肉や脂肪の周りで生活しながら2回脱皮し、感染後6カ月程度で完全な成虫になります。成虫になったフィラリアは細い血管内に侵入して心臓や肺動脈に移動し、そこを最終寄生場所にします。

 

 

最終寄生場所にたどり着いた成虫のうち、メスはオスと出会って交尾をし、死ぬまで毎日ミクロフィラリアという子どもを生み続けます。しかし、ミクロフィラリアは犬の血中では成長できないため、ミクロフィラリアのまま血流にのって身体中を循環します。2年くらい経つと自然に寿命を迎えるので、それまでの間は血液の中で、蚊に吸血されるのをひたすら待ちます。

そして感染した犬が再び蚊に吸血されたときに、ミクロフィラリアは血液と一緒に蚊の体内に入り込み、蚊の体内で幼虫に成長します。そして再び蚊が犬を吸血した際に、犬の体内に寄生するのです。

蚊に刺されたら必ずフィラリア症になるの?

蚊に刺されたからといって、必ずフィラリアを発症するわけではありません。フィラリア幼虫を持っている蚊に刺されてはじめて感染する可能性が出てくるのです。また、フィラリア幼虫に寄生されても、その多くは成虫になるまでの成長過程で死んでしまうため、発症するリスクはそれほど高くないのです。

寄生したフィラリアのうちどれかが生き残って成虫になると、心臓に住み着き場合によっては命に関わることもあります。

フィラリアにかかるとどうなるか

フィラリア症の重症度は、寄生したフィラリアの数によって異なります。メスの成虫は犬の体内でミクロフィラリアという子どもを産みますが、蚊の体内に取り込まれない限りミクロフィラリアは成長することができません。そのため、犬に寄生するフィラリアの数はフィラリア幼虫を持っている蚊に頻繁に刺されることで増えます。寄生するフィラリアの数が多ければ危険な状態となりますが、寄生する数が少なければ、軽症ですむことがほとんどです。

 

 

フィラリア寄生によって受けるダメージとは

フィラリアに寄生されると、徐々に症状が重たくなる慢性的なケースと、急激に容態が悪化する急性のケースがあります

徐々に症状が重たくなる慢性的なケース

フィラリアが感染してからじわじわと症状が出てくるものが慢性的なケースです。長い間心臓にフィラリアが住み着いてしまうと、フィラリア自体やフィラリアから分泌される成分によって、犬の心臓や血管の内側は徐々に傷つけられていきます。また、25~38cmもの細長い成虫が心臓に住み着くため、心臓が上手く動けなくなったり、血液が流れにくくなったりしてしまうのです。そして肺に十分な血液を送ることができなくなり、乾いた咳や動きたがらないなどの症状が見られるようになります。

急激に容態が悪化する急性のケース

フィラリアに寄生された犬の多くは、徐々に状態が悪化するケースがほとんどですが、稀に急激に容態が悪化することがあります。ある日突然血尿が出たり、突然死したりするもので、急性フィラリア症と呼ばれています。(他にも、急性大静脈症候群、後大静脈症候群、ベナケバシンドロームなどと呼ばれます。)

フィラリアの成虫が犬の心臓に大量に寄生することで引き起こされる状態で、心臓の機能が著しく低下します。そして心臓の中でも重要な部分である弁や血管にもフィラリアが寄生し、赤血球も破壊されてしまいます。壊れた赤血球が尿に混じって流れて、呼吸困難に陥るなど、命に関わる状態に陥る場合があります。

状態によってはすぐに手術をしなければ、数日中に死に至る可能性が高い、危険な状態です。手術をしてフィラリアの成虫を取り除いても、フィラリア感染や手術によって心臓が大きなダメージを受けてしまうため、すぐに完治するということはなく、術後も継続的な治療が必要になります。フィラリアが無事に除去できても、心不全や腎不全などの後遺症が残ることもあるのです。

フィラリアに寄生されていることがわかったら?

フィラリア成虫がいることわかったら?

フィラリアの成虫が寄生している場合、刺激を与えてしまうと犬の体に害のある分泌物を出したり、心臓を傷つけたりするようになるので危険です。そのため、フィラリア成虫がいることがわかった場合は、愛犬の運動を制限する必要があります。必ず、かかりつけの獣医さんの指示を聞いて、適切な運動量を守りましょう。

 

フィラリアの治療

フィラリアの治療法は基本的に3つあります。

 

□ 駆虫するための薬を飲ませる

□ 手術でフィラリアを直接取り除く

□ フィラリア幼虫の予防のみ実施し、成虫については寿命を待つ

 

上記すべての治療法に命を落とすリスクがあり、どの治療法を選択するかは非常に難しいです。かかりつけの病院でよくよく相談しながら治療を進めていきましょう。

このとき、成長したフィラリアを薬で駆虫しようとすると、その死骸が血管に詰まって血栓症になってしまったり、フィラリアが死ぬときに出す物質でアレルギー反応を起こしたりして、命を落とす可能性も十分あり得ます。後から後悔しないためにも、必ずリスクを理解した上で予防をするかしないかの選択をしましょう。

ちなみに、予防薬も使い方を間違えると危険です。後述する正しい予防方法について、必ず確認してください。

フィラリアは完治させることができるの?

体内に寄生しているフィラリアを全て取り除くことができれば、そしてその子の心臓がフィラリア感染・治療に耐えることができれば、治療後の身体への負荷はなくなります。しかし、駆虫するまでに長期間寄生していたり、大量のフィラリアに寄生されることで、心臓や血管、腎臓などに後遺症が残る場合があります。そうすると薬による継続的な治療が必要となります。

フィラリアの正しい予防方法

予防薬は正しく使わないと危険なので注意!

フィラリアを予防するには、月に一度の予防薬が不可欠になります。予防薬は実に色々な種類があり、薬タイプもあれば、おやつタイプもありますし、塗るタイプもあります。さらに予防薬に加えて検査が必要な場合もあったりします。この予防薬の投与と検査を正しい方法で実施しないと、せっかく予防をしていても大切な愛犬を死に追いやってしまう場合があるので、必ずかかりつけの獣医さんの指示に従いましょう。

予防薬とはフィラリアの幼虫を「殺す」ための薬

予防薬というと、フィラリア症を発症しないようにする薬だと思われる方が多いかもしれませんが、これは体内へのフィラリアの侵入を防ぐものではありません。実は、フィラリアの幼虫を殺すための駆虫薬なのですが、成虫になってフィラリア症を引き起こすことを予防するという性質から予防薬と呼ばれています。ちなみにこの駆虫薬は、成虫は駆除できません。成長中のある時期のフィラリアしか駆虫できないのです。

 

 

正しい投薬方法

 

月に1度、毎月決めた日付で薬を与えます。月に1度予防薬を使えば、どのタイミングで蚊に刺されてもフィラリアが成虫になる前に駆虫できるのです。「蚊が飛ぶようになってから1ヶ月後」から「蚊がいなくなってから1ヶ月後」までの期間に、月1度予防薬を使います。地域差はあるので獣医さんの指示に従いましょう。東京では5月~12月の投薬が一般的です。

寒くなったらやめてもいいの?

上記でも解説したとおり、フィラリアの予防薬はあくまで駆虫薬です。12月に蚊がいない東京でも12月に予防薬を与えるのは、11月に感染した可能性を考慮してのもの。涼しくなったからといってやめてはいけません。獣医さんの指示通り、時期を守って必ず投薬を続けて下さい。また、温かい沖縄では年中蚊がいるので、通年投与が必要です。

投薬を忘れてしまったときはどうしたらいいの?

 

もしかしたら、うっかり薬を与えるのを忘れてしまった、ということがあるかもしれません。そんなときは自己判断で薬の投与を再開しないで、必ずかかりつけの獣医さんに相談しましょう。必要に応じて、愛犬のからだの中にフィラリアの成虫がいるかどうか、検査をしてくれます。検査をしてフィラリアの成虫が体内にいないことがわかれば、今まで通りの予防薬を飲み続けて大丈夫です。

検査をしないとどうなるの?

もしフィラリアの幼虫が体内に侵入し、その後の予防薬を投与し忘れてしまったとしたら、生きた幼虫が成虫になり、心臓に住み着いている可能性があります。そして成虫が子どもを産んで、体中の血液内に大量のミクロフィラリアが流れ出ている可能性もあります。

その状態で予防薬を飲んでしまうと、非常に危険です。予防薬は幼虫を駆虫するための薬ではありますが、成虫にも全く作用しないというわけではありません。心臓に住み着いた成虫が、予防薬により苦しんで放出する物質によって愛犬がショック症状を起こしたり、また、血液に流れ出ていたミクロフィラリアの大量の死骸が一気に心臓に集まって、心臓の血管が詰まって、死に至る可能性があります。

投薬を忘れたら自分で判断せずに動物病院に行って必ず獣医さんの指示を仰ぎましょう。また毎年予防を始める前に血液検査をするのもこの可能性を考慮してのこと。予防をしていない時期にフィラリアに感染していないか、予防薬を投与できる体かどうかを確かめているのです。

 

今から20年ほど前は、現代のように予防薬の存在が一般的ではなかったこともあり、多くの犬がフィラリアによって命を落としました。今は飼い主さんがきちんと決められた日を守り、正しく予防すれば、恐ろしいフィラリアから愛犬を守ることができます。ぜひ正しい知識を身につけて、愛犬の健康を守ってあげてください。

 

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アイペット獣医師

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