フリスビーやアジリティでも大活躍のボーダー・コリー。その歴史は牧羊犬から始まりました。とても賢く、運動能力も抜群の犬種ですが、しっかりとしつけをしないとその能力を暴走させてしまうことも。ここではボーダー・コリーの歴史や特徴、かかりやすい病気について解説します。

 

ボーダー・コリーの歴史

ボーダー・コリーの祖先となる犬の歴史は大変長いです。8〜11世紀にかけて存在した海賊・バイキングが、トナカイ用の牧羊犬としてスカンジナビア半島からイギリスに持ち込んだのがそのはじまりだと言われています。その後、イギリス土着の牧羊犬やラフ・コリーとの交配を繰り返して現在の姿となり、世界各地で牧羊犬として活躍するようになりました。

 

このように、古くから活躍していたボーダー・コリーですが、牧羊犬としての作業能力が最重要視されていたため、長い間容姿やサイズの統一性に欠けていました。それゆえ、犬種として公認となったのはごく最近であり、母国イギリスでは1976年に、アメリカでは1980年に、そして日本のジャパンケンネルクラブ(JKC)では1987年に公認となりました。

 

ちなみに、「ボーダー」とは「国境・辺境」という意味を持ち、原産地がイングランドとスコットランド、ウェールズの国境地域であるため、ボーダー・コリーという名前には「国境の牧羊犬」という意味が込められています。

現在は、牧羊犬としての素晴らしい能力で世界中の羊飼いから絶大な支持を得ているだけでなく、高い運動能力を武器にアジリティなどでも大活躍しています。

 

ボーダー・コリーの特徴

牧羊犬としての作業能力が重視され、容姿に関しては長らく注目されてこなかったボーダー・コリーですが、現在では大きさや毛色にもある程度基準ができてきています。
ボーダー・コリーは、コリー系の犬に特有の細くて先の長いマズルを持っています。一般的には15〜20kgの中型犬クラスが多いですが、中には10kg程度の小型の個体から20kgを超えるものまで幅広く、体格にはかなり個体差があるようです。耳の形も、半立ち耳、完全な立ち耳から垂れ耳までさまざま。

 

被毛の長さは日本ではロングコートが主流ですが、比較的毛の短いスムースコートもあります。毛質はストレートのものから、少しカーリーな毛をもつものまで多様です。また、町中で見かけるボーダー・コリーの多くはブラック&ホワイトの毛色ですが、ブラウンやレッド、少しグレーがかったブルーやマール、さらに3色が混ざったトライカラーなどバリエーションに富んでいます。

 

ボーダー・コリーの性格

ボーダー・コリーは高い運動能力と性格の活発さから「ハイパーアクティブ(超活動的)」と呼ばれています。訓練にもとても前向きな性格で、フリスビーやアジリティなどのドッグスポーツでも活躍します。


従順な性格なので、飼い主さんの愛情には一生懸命応えようとしますが、一方で見知らぬ人には適度な警戒心をみせます。牧羊犬としては、追いかける羊にストレスを与えることなく、群れを追い込むためのコントロールができるほどの状況判断能力があると言われており、さまざまな犬種の中でも最も賢いとも言われています。

ただし、そんな賢い頭脳と高い運動能力も、訓練なしでは宝の持ち腐れ。元々愛玩犬ではなくワーキングドッグとして確立した犬種なので、飼い主さんからの指示をこなすことには喜びを感じますが、逆に指示がなかったり、しつけをせずに自由に育ててしまうと荒っぽい性格の犬になってしまうことも。そのため、初めて犬を飼う方には少しハードルの高い犬種とも言えます。

 

★「しつけ」に関する獣医師解説は、こちらをご覧ください。

 

ボーダー・コリーを家族に迎えたら

適度な運動が必要

ボーダー・コリーは運動量が必要な犬種です。運動不足はストレスのもととなり、体調不良や気性の荒さにつながります。日々のお散歩に加え、ドッグランなどで十分な運動をさせてあげることが大切です。お散歩などの際には、牧羊犬の習性で、走っている車や自転車、他の犬などを反射的に追いかけてしまう場合があります。事故を防ぐためにも、「待て」などの指示はしっかりと身につけさせておきましょう。

 

毛のお手入れもしっかりと

また、ボーダー・コリーは、毛の抜けやすいタイプの犬種です。抜け毛を放置すると毛玉を作ってしまったり、皮膚病を起こすことがあるので、毎日のブラッシングが大切です。ボーダー・コリーは人間と一緒に作業をしたり、人に褒めてもらうことが大好きなので、ブラッシングも愛犬との信頼関係を深める良いコミュニケーションになるでしょう。

 

★「トリミング」に関するワンペディア獣医師監修記事は、こちらをご覧ください。

 

ボーダー・コリーがかかりやすい病気

股関節形成不全

股関節形成不全は、股関節の発育がうまくいかないことにより、股関節の緩みや脱臼などを起こす病気です。本来犬の股関節は、骨盤にある寛骨臼という窪みに、大腿骨頭(太ももの骨の先端部分)がしっかりと入り込んでいる構造をしています。股関節形成不全の犬では、骨の変形によってこの寛骨臼に大腿骨頭がうまく噛み合わず、進行するにつれて股関節に炎症を起こし痛みが生じます。
痛みが出ると、階段やジャンプを嫌がる、座る時に横座りになる、腰を左右に振るような歩き方をする(モンローウォーク)、片方の後ろ足をかばって歩く(跛行)などの症状がみられますが、軽度のうちは無症状の場合も多いです。遺伝性に発症することが多く、もともと持っていた遺伝的素因に、急激な成長や体重の増加などの要因が加わって症状が出るので、肥満は禁物です。股関節形成不全にかかりやすい犬種では、骨の成長が完成する1〜2歳までの間にX線検査を受けることが推奨されます。症状が軽度のうちは、安静や体重制限、鎮痛薬や抗炎症薬などの内科治療で悪化を防ぎますが、運動機能に明らかな障害が出てきた場合には外科手術が必要となります。詳しくは「犬の股関節形成不全」を参照してください。

 

コリーアイ症候群

コリー系の犬種に多く見られる遺伝性の眼の病気です。コリーやシェットランド・シープドッグに比べると罹患率は低いですが、ボーダー・コリーでも発症することがあります。眼の最も外側を形作る強膜など眼を構成しているさまざまな組織に異常が起こります。症状はどこの組織に異常が起きているかによって異なりますが、見た目には全く気付かない軽度のものから、失明に至る重度のものまでさまざまです。一般的に1歳未満で発症するものは進行が早く、物によくぶつかる・歩きたがらないなどの視覚障害がでてくることが多いです。
コリーアイ症候群の治療法は、現在、残念ながらありません。

 

白内障

白内障は、眼の黒目の部分の中にある水晶体が白く濁る病気です。犬の白内障の多くは老化によるもので、7歳を過ぎた頃から白濁し始めるケースが多いですが、遺伝性のものでは2歳以下の若年性白内障を起こすこともあります。また、糖尿病などの全身性の病気に合併して起こる場合もあります。初期の段階では気付かれないことが多く、進行すると、暗いところで動かなくなった・段差につまずくようになった・物にぶつかるようになったなどの視覚障害が現れてきます。進行の程度はさまざまなので、生涯視覚を保ったまま生活できる犬も少なくありません。重度の視覚障害や失明を起こしている場合には、専門施設での手術が唯一の根治治療とされています。詳しくは「犬の白内障の症状や予防法」を参照してください。

 

★「犬の目」に関するワンペディアの獣医師監修記事は、こちらをご覧ください。

 

セロイドリポフスチン症(CL病)

セロイドリポフスチンと呼ばれる老廃物を分解する酵素に異常が起こる、ボーダー・コリー特有の遺伝性の病気です。脳内で分解されなかった老廃物は脳細胞などに蓄積し、運動障害や視覚障害を引き起こします。症状が現れるのは1〜2歳齢が多く、歩き方がフラフラしたり、階段を登れなくなったり、物にぶつかることが増えたりします。周囲の物や人に対して異常に恐怖心を示し、異常に狂暴化したり、錯乱状態になる場合もあります。一度症状が出ると急激に進行し、3歳半頃までに亡くなる病気です。遺伝子検査により診断することができますが、残念ながら有効な治療法はありません。

 

★犬種別病気ガイド『ボーダー・コリー』を合わせてご覧ください。

 

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股関節形成不全

白内障

フクナガ動物病院 獣医師

福永 めぐみ

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