犬を一頭飼い始めると、多頭飼いにも興味を持ちはじめる人は少なくないと思います。「もっと犬に囲まれて暮らせたら、幸せだろうな」「他にも犬がいたら、この子のお留守番も寂しくないかな」思うことはさまざまですが、多頭飼いは注意すべき点がたくさんあります。ここでは、多頭飼いのために必要な知識と、新しく犬を迎える時の注意点についてご紹介します。

 多頭飼いのメリット

おうちのルールを先住犬が教えてくれる

多頭飼いの大きなメリットは、可愛い愛犬に囲まれて幸せを得られることですよね。また、親子で飼育すれば、お母さん犬が子育てを手伝ってくれるので、負担が少なくなることもあります。親子でなくても、もともとおうちにいた先住犬が、新しく迎えた犬に対しておうちのルールを教えてくれることもあります。

社会性が身につく

puppies Papillon sleeping on pillow

犬は群れで生活をする生き物なので、群れのリーダーとなった犬が一部教育を担ってくれるケースもありますし、相性がよければ、一頭よりも二頭いたほうが犬たちも楽しいのではないでしょうか。また、飼い主の愛情が分散されるので、過保護な接し方が改善されやすくなる傾向もあり、多頭飼いの犬は、協調性があって問題行動を起こしにくいお利口さんが多いともいわれているのです。

お留守番の負担が軽減される

飼い主さんが不在の間、一人でお留守番させるのはかわいそうですよね。しかし、二匹仲良くお留守番できようになれば、飼い主さんにとっても犬たちにとっても、お留守番に対するストレスを軽減することができます。

多頭飼いのデメリット

健康面について

ワクチン接種が終わっていないときは、他の犬との接触を避けるのが基本です。子犬のうちは免疫がしっかりできあがっていないので、ちょっとした病気が重篤になる場合も多いからです。

多頭飼いをする場合でもそれは同じ。もしワクチン接種が完了していない子犬を迎えるのであれば、ワクチン接種が終わるまで、先住犬と直接触れ合わないようにしたほうがいいでしょう。対面させるときは子犬をケージに入れたり、飼い主さんが抱っこをしたりして、直接触れ合わないよう工夫しましょう。

相性が悪かったとき

もしも犬たちが仲良くなれなかったとき、様々なトラブルが発生します。もともとおうちにいる先住犬が、自分だけに注がれていた愛情が分散することで、新しくやってきた犬に対して攻撃的になることもあります。

逆に、先住犬がおとなしい子で、新しくやってきた元気な犬に、追いかけまわされたりすることもあります。そうなると、飼い主さんにとっても犬たちにとっても、ストレスフルな環境になってしまいます。

もしどうしても仲良くなれない場合には、二頭が接触しないですむような生活環境を準備する必要があるので、そのことも念頭において準備をしたほうがいいでしょう。

負担は必ず大きくなる

愛犬にかかる食費、トリミング代、ペットホテル代といった費用が単純に倍になります。費用以外にも、家のスペース、飼い主さんの体力など、さまざまな面で一頭のみの飼育時に比べて大きな負担がかかってきます。無駄吠えなどのしつけを徹底できていないと、すべての犬が連鎖的に吠え始めて近所迷惑になることもあります。また、新しい犬が来たことで先住犬が問題行動を起こす場合もあり、これまで出来ていたトイレが急にできなくなって飼い主さんを困らせてしまうこともあるのです。

相性の組み合わせ

先住犬の性格や犬種、体の大きさ、性別を考慮して、相方を選ぶようにしましょう。

性別の組み合わせ

オス・メス

競争が起きにくいため性格上は最も飼いやすい組み合わせですが、繁殖を望まないならば避妊・去勢手術を行う必要があります。

全てメス

同性のため競争が起きる場合がありますが、オスに比べて気性が穏やかなため、比較的飼いやすいです。

全てオス

年齢差があまりなく、活発な犬がいる場合には順位付けなどのトラブルが起こりやすいです。去勢済みで、年齢的、性格的に落ち着いた犬であればうまくいくこともあります。

サイズの組み合わせFotolia_136333540_Subscription_Monthly_M

同程度のサイズ

運動量の差が少ないので、ケガなどのトラブルが少なくすみます。

サイズに差がある

大きいサイズの犬が、小さいサイズの犬にケガをさせるトラブルが、生じる場合があります。また、散歩の運動量や歩幅の違いもあるので、一頭ずつ考慮する必要があります。

性格の組み合わせpuppy dogs

おっとり同士

喧嘩が起きにくいので飼いやすい組み合わせですが、見えないところでストレスを溜めているかもしれません。はじめのうちは気をつけて様子を見てあげましょう。

やんちゃ同士

攻撃的ではなく、遊び好きな犬の場合、にぎやかで楽しい生活になるでしょう。ただし、活発な犬たちを制御するのに、飼い主さんは苦労することが考えられます。

おっとり×やんちゃ

競争は起きにくいですが、やんちゃな犬がおっとりした犬を追いかけまわして、おっとりな犬のストレスになることがあります。

攻撃的、もしくは犬嫌いの犬がいる

用心深く慣らしてあげれば多少改善しますが、他の犬やその犬自身が大きなストレスを抱えてしまう場合には、犬同士の居住空間を分けるなどの対処が必要になります。

多頭飼いをする前に確認すべき注意点

先住犬と事前に会わせてみる

二頭目を選ぶときは、上記の組み合わせを意識しつつ、必ず先住犬に会わせて相性をみてから決めるようにしましょう。ペットショップやブリーダーのもとへ一緒に連れて行ったり、保護犬を迎える場合には、トライアル期間を使って新しく迎える子の性格や健康面、先住犬との相性をチェックしてみてください。

先住犬は多頭飼いに適しているか

先住犬の性格が、多頭飼いに適しているかどうかも、見ておくといいかもしれません。

ストレスが溜まりやすくないか

Young labrador retriever puppy

犬も性格によっては、ストレスをためやすい子と、そうでない子がいます。もしストレスを溜め込みやすい性格の子であれば、環境の変化で体調を崩す可能性もあるので、注意が必要です。

また、先住犬が老犬のときは、若い犬を迎えて活気がよみがえる場合と、疲れてストレスをためる場合の両パターンがあるので、犬の性格を考慮して、多頭飼いが適切かどうかを判断しましょう。

愛犬が示すストレスサインについては、犬のストレスサインとは?どんな行動をするの?よりご確認ください。

トイレや無駄吠えなど基本的なしつけができているか

多頭飼いをする場合、先住犬のしつけがきちんと完了してからの方がよいでしょう。先住犬が基本的なしつけをマスターしていて無駄吠えもせず、トイレも決まった場所でできるようであれば、新しく迎えた犬にお家のルールを教えてくれることがあります。

過度な甘えん坊ではないか

これも性格のうちですが、過度に甘えん坊な犬だと新しい子にヤキモチをやいて攻撃的になったり、体調を崩したりすることもあるので、多頭飼いは向かない可能性があります

他の犬とうまく接することができるか

他の犬に対して噛みつくなどの問題行動がないことは重要です。また、他の犬と仲良くできる性格のほうが、新しい犬を迎えやすいと言えます。

 

★アイペット獣医師による【うちの子 HAPPY PROJECT】『動画で学ぶしつけ』もご覧ください。  

★「しつけ」に関するワンペディアの獣医師解説記事は、こちらをご覧ください。

 

多頭飼いをする環境は整っているか?two adorable golden retriever puppies

スペースや時間は十分あるか

多頭飼いするためには、トイレやケージ、食器など生活に必要なものが頭数分必要になります。また、それを置くスペースも必要になりますよね。防接種や病気になった時の治療費など、犬にかかってくるお金が今までの倍になることをよく考えてください。また、一頭ずつのスペースを確保してあげる必要があるので、住環境に余裕があるかどうかも重要なポイントです。

多頭飼いを始めたばかりの時期は、犬同士を慣れさせる工程に時間と体力を使うことも覚えておいてくださいね。

相性が悪かったときの準備をしっかり

お散歩などの限られた時間で他の犬と仲良くできる子でも、自分のテリトリーの中に他の犬が入ってくると怒る場合もありますし、逆に他の犬が苦手な子でも、おうちにいる犬だけは平気な場合もあります。

実際は、二頭を会わせてみて、しばらく一緒に暮らしてみないとわからないことだらけなので、犬同士がうまくいかなかったときでも大丈夫なように、スペースや時間を十分に確保できるように、しっかり準備することがとても大切なのです。

 飼い主さんが気を付けるべきポイント

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愛情は均等に

多頭飼いをすると、新しくきた犬はもちろん、先住犬も少なからずストレスを抱えることになります。自分のテリトリーだと思っていた家の中に、突如若い犬がやってきたら…その犬が家族の注目を集めていたら…先住犬はヤキモチをやいてしまいますよね。その逆でも、新しい犬が疎外感を感じてしまいます。多頭飼いで新しい犬を迎えるにあたり、飼い主さんは、愛情のバランスを上手に分散すること、また愛犬がストレスをなるべく溜めないように気にかけなければなりません。

すべての犬に「ひとりになれる空間」を用意する

多頭飼いの場合、頭数分のケージ、またはサークルを用意しましょう。ケージは犬が最も安心できる場所であり、何かあった時に落ち着ける場所です。新しい犬がやってきてすぐの時期は、このケージをうまく利用し、犬がひとりになれる時間を十分に確保してください。最初は数分のご挨拶から始めて、時間をかけて犬同士が一緒に生活することに慣らしていきましょう。

おうちの中で引き合わせるときの注意点

リードやケージを使います

まずは子犬をケージに入れ、先住犬にリードをつけます。最初は十分な距離をあけて会わせてあげましょう。そのときに、それぞれがストレスサインを発していないか、よくよく確認してください。

①子犬ケージ先住リード

リードをピンと張った状態にしてしまうと、余計に先住犬の緊張を高めてしまうので、リードにゆとりがあるような状態に保っておくことが大切です。

②リードにゆとり

おやつを使ってもOK

また、一緒にいるときにそれぞれおやつを与えるのもオススメです。

③一緒におやつ

緊張していたらおやつは食べないはずなので、食べてくれればリラックスしている証拠。ただし、食べ物への執着心が強い子は攻撃的になることもあるので、他の子の食べ物を奪うようなそぶりを見せたら、おやつはすぐに片付けましょう。

一緒にお散歩をするのもアリ

もし新しく迎えた子犬のワクチン接種が完了しているなら、まずは一緒に部屋から出て、お散歩をしてみることもオススメです。もちろん、リードを持つ人は一頭につき一人。一緒に楽しい時間を過ごすことで、仲間意識が芽生える可能性があります。

 多頭飼いの食事

ケージの外でご飯を与える場合は、食事量の調節ができるように頭数分の食器を用意しましょう。この時、他の犬の食事も食べてしまうトラブルがないように、しっかり見ておかなければなりません。もしそんなトラブルが起こったら、ケージの中で別々にご飯を与えるようにしましょう。

多頭飼いの散歩

二頭一緒に散歩をする場合、それぞれが自由な方向に勝手に進んでしまって、飼い主さんが大変な思いをすることがあります。一頭ずつ、しつけを済ませた上で一緒に散歩させるといいいでしょう。

また、犬のサイズに大きな差がある場合は運動量が異なるため、一頭ずつ行くというのも一つの方法。全ての愛犬と密なコミュニケーションを取るためにも、時には一頭ずつ散歩に連れて行き、ゆっくりお話をしながら散歩を楽しむこともおすすめです。

 多頭飼いのしつけ

Walking dogs in park

まずは、飼い主さんとの信頼関係を築かなくてはなりません。それには、一頭ずつのコミュニケーションの時間を大切にしましょう。一頭ずつ、きちんと愛情を注いでいることを、愛犬に伝えてあげましょう。

また、多頭飼いで注意しなければならないのは、「犬同士のルールで決めた上下関係を乱さない。」ということです。たとえば、おもちゃの取り合いなどで下位の犬がいつも負けているとします。飼い主さんは優しさから、弱い子を抱っこして、強い子に「いじめちゃダメ!」なんて怒ることもあるかもしれません。

しかし、この行動が犬を混乱させてしまうのです。犬には犬のルールで決めた上下関係があります。それを人の手で乱してしまうと犬は混乱してしまい、よりひどいケンカに発展する可能性だってあるのです。

かわいそうに思う気持ちはわかりますが、下手に手を出すことはせず、犬のルールに従って見守ることも必要なのです。

 

たくさんの愛犬と暮らせたら幸せ…と思う飼い主さんは多いと思いますが、多頭飼いには様々な注意点があることがわかりますよね。費用の問題だけでなく、犬同士の相性や、飼い主さんと一頭一頭のコミュニケーションの取り方など、気にかけるべきポイントはたくさんあります。犬たちにとっても飼い主さんにとっても、負担のない生活が送れるよう、しっかり準備をして迎えましょう。

 

*「多頭飼育」に関するワンペディア関連記事はこちらをご覧ください。

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★「うちの子」の長生きのために、年齢や季節、犬種など、かかりやすい病気や、症状や病名で調べることができる『うちの子おうちの医療事典』をご利用ください。

☞例えば、下記のような切り口で、さまざまな病気やケガを知ることができます。  

他の犬にうつる

人にうつる

子犬に多い

かかりやすい病気

再発しやすい

後遺症が残ることがある

専門の病院へ紹介されることがある

初期は無症状が多い

菊池 亜都子
東京大学附属動物医療センター 行動診療科

菊池 亜都子

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