ワンちゃんの口が臭い、汚い、よく見ると歯に歯石を発見したことがある、なんて経験をしたことがある飼い主さんはいらっしゃいませんか?歯石を見つけても、どうやって除去したらいいのか、わからない飼い主さんもいるはずです。

また、従来は「犬は虫歯にならない」とされていましたが、1990年代の調査でそれが誤りであることも明らかになりました(*1)。ただ、頻度としては虫歯よりも歯石、それが原因となった歯周病で動物病院に通うことの方が、犬の場合は依然多いようです。

そこで今回の記事では、「歯垢」と「歯石」の違いとは何か、どんなリスクがあるのか、その正しい除去方法はどんなものがあるのか、をまとめてみました。

*1. ” Dental caries in the dog.” Veterinary Dental Service, Guelph, Ontario, Canada.Journal of Veterinary Dentistry [1998, 15(2):79-83].

 

よく聞く「歯垢」と「歯石」って?

犬の歯に関して、「歯垢」や「歯石」という言葉を耳にすることがあると思います。ですが、「歯垢」や「歯石」とは具体的にどのようなものを指すのか、そして歯垢と歯石の違いなどについて、正確に理解しているでしょうか。

そこでまずは、「歯垢」と「歯石」とは一体何なのかということについて説明していきたいと思います。

 

歯垢とは?

食べ物の残りなどではなく、口内の細菌の塊のことを指します。そのような歯垢が、唾液などのネバネバで歯につき、食物の糖や口内で分解された糖を栄養にしてどんどん増えていきます。

 

歯石とは?

そのように増えた歯垢をそのままにして、唾液中などのミネラル物質とともに硬化したものが「歯石」です。ザラザラとした歯石の表面には更に歯垢が付着し、それがまた歯石となって、固まっていきます。歯垢は歯磨きなどで落とすことが出来ますが、歯石の大きな特徴は、通常の歯磨きでは落とすことが出来ないということです。

 

犬は虫歯になりにくい?犬と人の口の違い

犬は人間と比較して虫歯にはなりにくいですが、その分歯垢が歯石になりやすい、つまり歯石が付きやすいというのが特徴です。

一方、私たち人間は、虫歯になりやすいが、歯垢が歯石になりにくいという特徴を持っています。

 

口内のpHによる違い

犬と人間の口内環境の違いの一つが、pHの違いです。pHは物質の酸性・アルカリ性の度合いを示す数値ですが、犬の口内はpH8.5~9.0でアルカリ性、人はpH6.5~7.0で弱酸性です。

そもそも虫歯は、酸性の環境の下、口内で虫歯菌が代謝して糖から酸を作り、それが歯の表面の組織を破壊していくものです。人間の場合は弱酸性なので、虫歯菌が糖を作りやすい環境ですが、犬の場合、口内がアルカリ性のため、酸性にはなりにくく、従って虫歯菌が繁殖しにくいとされています。

 

唾液に含まれる酵素の違い

人間の口内が弱酸性であることに加え、唾液には食物中の炭水化物(でんぷん)を糖に分解する酵素の「アミラーゼ」があり、それが虫歯の原因になります。一方、犬にはその酵素がないため、口の中に糖があまり留まりません。

 

歯の形状の違い

人間の歯は大きく分けて、切歯(前歯)、犬歯(糸切り歯)、臼歯(奥歯)に分けられますが、文字通り臼のような形をしている臼歯が多いため、放っておけば噛み合う面のくぼみに虫歯菌が溜まります。

一方、犬の歯は切歯、犬歯、前臼歯(裂肉歯)、後臼歯のほとんどが薄くとがった形をしているので、虫歯菌が溜まりにくいのです。

犬の歯の形

犬の歯の形

こうした違いが理由で、犬には虫歯が少ないと考えられています。

しかし、歯磨きによって歯のケアをしなければ、虫歯になりにくい犬でも歯石により歯や歯肉が痛んで口内環境を悪化させてしまいます。これは、人間も犬も同じです。

歯と歯茎の間に歯垢が付いたまま48時間以上放置してしまうと、その歯垢は歯石になってしまうのです。短時間で歯石になるのかと驚かれるかもしれませんが、このことから『歯磨きはたまにする』では歯石を防ぐことは出来ないということが分かります。ザラザラとした歯石の上には歯垢が付きやすいですから、その歯石の上にさらに歯垢が付着すると、48時間後には歯石になり、いっそう歯石は分厚くなります。

したがって、歯磨きで落とせない歯石になる前に、普段からしっかりとデンタルケアをすることが大切です。

 

「歯石」「歯垢」の除去方法

歯垢や歯石がひどくなければ除去することが出来ます。その方法としてあげられるのが、「スプレー」と「スケーラー」の二種類の道具を使った除去方法です。

ただし、これから紹介する方法は、無理のない範囲で行うようにしましょう。自分で歯石や歯垢を除去するときには、事前に獣医師に相談し、やり方を教えてもらってから行ってください。

 

スプレー

使い方は、毎日犬の歯にスプレーするだけで、徐々にではありますが歯垢、歯石の除去と予防が出来ます。もし直にスプレーを直接かけられるのを嫌がる反応を見せた場合は、お手持ちのおもちゃにスプレーして与えたり、ガーゼやクリーナーにスプレーを吹きかけて、愛犬の歯を擦ってあげる方法が早く効果が表れると思います。

歯垢、歯石が除去されるまでには個体差があり、長い場合は4ヶ月~6ヵ月かかる場合もあります。しかし、自宅で手軽に行えて、器具を使った除去に比べてケガのリスクも少ないというメリットがあるので、最近注目されている方法でもあります。製品によっては匂いのきついものや高価なものなどデメリットもあるため使用に際しては、製品の説明、注意書きをしっかり読むようにしてください。

スプレーによる方法は簡便ですが日常の歯磨きに勝るものではありません。

 

スケーラー

もう一つの方法が、スケール(scale:歯石)を取る道具であるスケーラー(scaler)を使った方法です。これは、歯科医院で歯石を取ったことがある方ならご想像が付くと思いますが、鉛筆くらいの大きさの金属で先が少し曲がっているものです。スケーラーは市販されているものもありますが、先端が鋭利で飼い主自身が行うのは犬が怪我をしてしまう恐れがあるので、使用する際は必ず獣医師に相談して下さい。

スケーラーの種類

鎌型スケーラー(シックル・スケーラー)

汎用性の高い鎌型スケーラー(シックル・スケーラー)です。鎌の角度が90度のタイプの方が歯石を取りやすく、刃幅が狭いほど、歯間の狭い箇所の歯石除去に向いています。

簡易スケーラーは、刃物というよりは丈夫な針金という感じで、危険でない代わりに、歯石の除去能力は落ちます。

以上、犬と人間の口内環境の違いや、歯垢、歯石の除去方法について説明しましたが、最も大事なのは、歯垢や歯石がなるべく付かないよう、日常的に歯磨きをしてあげることです。手遅れになる前に、歯磨きに加えて上記の自宅でできる方法も交えて、愛犬の歯をしっかりとケアしてあげましょう!

 

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■ 歯石がついている

■ 歯肉が赤い

■ 口が臭い

■ 口の中から出血している

 

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はみがきの仕方の参考に

●歯みがきの仕方がよくわからない飼い主様が、ペットの歯みがきができるよう、一般社団法人「日本ペット歯みがき普及協会(代表:赤津徳彦)による、歯みがき教室が開催されています。歯みがき教室の開催予定は、こちらをご覧ください。

●「口腔ケアのための唾液腺マッサージ」動画(一般社団法人 日本ペット歯みがき普及協会提供 / 監修・石野 孝先生 かまくら元気動物病院 院長)は、こちらをご覧ください。

 

高田 傑
牧の原どうぶつ病院 院長

高田 傑

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