犬の高齢化が進み、歯にまつわる病気が多くみられるようになっています。実際に、ペット保険の請求でも7才以上の犬の場合、第4位(*)が歯周病です。犬の歯周病とはどんな病気なのか、その症状、治療法について解説します。

*データ出典:アイペット損害保険会社「ペットの保険金請求が多い傷病ランキング2021」

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犬の歯周病とは? 歯肉炎、歯槽膿漏との違いは?

 

歯肉、セメント質、歯根膜(しこんまく)、歯槽骨(しそうこつ)からできているのが、歯周組織。この歯周組織の病気を、歯周病と言います。

 

歯周病には「歯肉炎」と「歯周炎」がある

歯肉が炎症を起こした状態を「歯肉炎」と言います。歯肉炎が進行して、歯肉だけでなくセメント質、歯根膜、歯槽骨といった歯周組織に炎症が広がった状態を、「歯周炎」と言います。これら「歯肉炎」と「歯周炎」を合わせた総称が「歯周病」です。

 

歯槽膿漏は進行した歯周炎の病態

一般的には「歯周病=歯槽膿漏」と考えられがちですが、歯槽膿漏は歯周炎が進行して起こる病態のひとつです。歯肉炎が進行すると、歯と歯茎の間に「歯周ポケット」という溝ができます。その歯周ポケットがどんどん深くなって、歯を支えている歯槽骨がさらに破壊されていくと、膿が溜まるようになります。そうした状態を「歯槽膿漏」と言います。

 

歯周病は全身に悪影響を及ぼす

歯にこびりついた歯垢(プラーク)中の細菌が歯肉、歯周組織全体へと感染が進むことによって、歯周病は重症化します。細菌性の病気なので進行すると、鼻から膿が出たり、皮膚を突き破って膿が出たりすることもあります。さらには細菌が血液にのって全身に回り、体のほかの臓器(心臓、肺、肝臓、腎臓など)に悪影響を及ぼすことがあります。

 

歯周病の原因とは?

 

全身のトラブルを引き起こしかねない、歯周病。その原因には、おもに次の2つが考えられます。

 

歯垢(プラーク)、歯石の蓄積

歯に付着した細菌が繁殖することで形成される、歯垢(プラーク)。この細菌のかたまりが石灰化して、硬くこびりついたものが歯石。歯石自体は悪さをするものではないのですが、表面がザラざらしているので、細菌が付着しやすく繁殖するようになります。細菌が歯肉に炎症を起こし、さらに進行すると、歯周組織の奥へとどんどん炎症を広げてしまいます。

 

*詳しくは『【獣医師監修】犬の歯に、歯垢や歯石が付いたらどうやって取るの?歯磨きは必要なの?』をご覧ください。

 

老化

歳をとると唾液の分泌が少なくなり、口の中が乾燥して細菌が繁殖しやすくなります。また加齢によって免疫力が低下することも、細菌の繁殖を助長する原因と言えます。動物の医療が進歩し、室内で飼育される犬が増えている現代社会では、犬の寿命も長くなり、人間と同じように加齢によるトラブルが起こりやすくなるのです。

 

気になるその症状とは?

 

犬の歯周病のおもな症状には、以下のようなことがあります。

 

歯肉が赤く腫れる

歯に接している歯肉が、炎症を起こして赤みを帯び腫れます。

 

口臭がある

本来、犬の口は無臭で嫌なニオイはしません。歯肉炎、歯周炎を発症すると、顔を近づけたときに口臭を感じるようになります。

 

歯肉から出血する

赤く腫れた歯肉から自然と血がにじみ出たり、何か硬いものを噛んだときやブラッシングしたときに歯肉から出血したりするようになります。

 

歯がぐらぐらする

歯周病が進行すると、歯の土台である歯槽骨が溶けてしまい、歯をしっかり支えられなくなりぐらぐらしてしまいます。

 

犬の歯周病になったときの治療方法とは?

 

犬の歯科治療では、以下のような治療が行われます。

 

歯垢(プラーク)と歯石の除去

歯周組織に炎症を起こす原因となっている、歯垢(プラーク)と歯石を取り除きます。外から見える歯の表面だけでなく、歯周ポケットを掃除する必要があるため、歯科用の全身麻酔をかけてレントゲンでポケットの深さを測定し、潜んでいる歯垢(プラーク)や歯石を除去していきます。同時に歯の表面を磨き、新たな歯垢(プラーク)を付きにくくするため口腔内をきれいに洗浄します。

 

抜歯

歯のぐらつきがひどい場合も、全身麻酔をして抜歯します。人間は歯がなくなることで、食べることに不自由を感じたり、歯の噛み合わせが悪くなったりします。しかし犬はもともと食べ物を人間のように噛み砕くことができず、ほとんど丸呑みしているため、歯がなくなってもストレスを感じたり体に不具合を生じたりすることはありません。歯周病が重度に進行した歯を抜くことで、愛犬は心地よく過ごせるようになります。

 

歯周外科的治療

歯周病が進行しているときは、歯肉を切開する歯周外科治療や歯周組織再生療法が行われることもあります。これらの外科的治療は、「犬の歯科治療」の知識と技術、高度な医療機器がそろっている動物病院で行われます。

 

その他の疾患の治療

全身の免疫力を低下させるなど、歯周病を悪化させる原因となる疾患がある場合は、歯周病の治療と並行してほかの疾患の治療を行います。

犬の歯周病を予防するには?

 

歯周病を予防する1番の方法は、歯石ができないよう歯垢(プラーク)を除去することです。そのために有効なのが歯磨き。毎日1回以上、歯磨きを行うことで、歯垢(プラーク)が溜まるのを防ぐことができます。

 

定期的に動物病院でチェック&歯石を除去

丁寧に歯磨きをしても、完全に歯垢(プラーク)を取り除くことはできません。年に1回以上は、定期的に獣医師のチェックを受けて、歯石が溜まってきたら取り除いてもらいましょう。

 

食べ物、おもちゃにも一工夫

ウェットフードはドライフードより汚れが残りやすいので、より丁寧な歯磨きを心がけましょう。ウェットフードはそれ自体に水分が含まれているので、犬があまり水を飲まなくなる場合があります。口の中が乾燥すると、歯周菌が繁殖しやすいので、水分を摂る工夫をしてあげましょう。また唾液の分泌を促すために、布類やロープ系のおもちゃを与えたり、歯磨きガムを活用したりするのも良いでしょう。

 

愛犬を歯周病から守れるのは飼い主さんです。正しい知識を身につけて、オーラルケアを行いましょう。

 

 

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「うちの子」の長生きのために、気になるキーワードや、症状や病名で調べることができる、獣医師監修のペットのためのオンライン医療辞典「うちの子おうちの医療事典」をご利用ください。

 

例えば、下記のような切り口で、さまざまな病気やケガを知ることができます。  健康な毎日を過ごすため、知識を得ておきましょう。

■ よだれが多い

■ 口を気にしている

■ 口の中にできものがある

■ 食べづらそうにする

■ 歯石がついている

■ 歯肉が赤い

■ 口が臭い

■ 口の中から出血している

 

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歯周病

乳歯遺残

破折(歯折れ)

 

はみがきの仕方の参考に

●歯みがきの仕方がよくわからない飼い主様が、ペットの歯みがきができるよう、一般社団法人「日本ペット歯みがき普及協会(代表:赤津徳彦)による、歯みがき教室が開催されています。歯みがき教室の開催予定は、こちらをご覧ください。

●「口腔ケアのための唾液腺マッサージ」動画(一般社団法人 日本ペット歯みがき普及協会提供 / 監修・石野 孝先生 かまくら元気動物病院 院長)は、こちらをご覧ください。

荻窪ツイン動物病院 院長

町田 健吾

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