「短時間で安くできるから」「全身麻酔は怖いから」などの理由から、無麻酔の歯石除去を選ぶ飼い主さんがいるようです。愛犬のためを思って行った選択が、じつは深刻な健康被害をもたらす可能性があることを知っていますか。「なぜ歯石除去に全身麻酔が必要なのか?」、その理由を解説します。
歯にこびりついた歯石が、歯周病の原因になる
歯が汚れている、歯茎が赤く腫れている、歯茎から出血する、歯が抜ける、口臭がするなどの症状が見られる「歯周病」。放っておくと細菌が血液にのって全身に回り、内臓疾患などを引き起こすこともある細菌性の病気です。
歯石は歯垢(プラーク)のかたまり
歯の表面に唾液の中の糖タンパクが膜のように付着し、その上に細菌が繁殖した歯垢(プラーク)。この細菌のかたまりが石灰化して、硬くこびりついたものが歯石です。
歯石に付着した細菌が歯周病を引き起こす
歯石自体は悪さをするものではありませが、表面がざらざらしているので細菌が付着しやすくなります。付着した細菌が繁殖することによって、歯肉に炎症が起こり、さらに進行することで歯周組織の奥へと炎症が広がってしまいます。それが歯周病です。こびりついた歯石の放置が、歯周病の発症と進行の原因になるのです。詳しくは「【獣医師監修】犬の歯周病、症状や治療法とは?放置すると、重大な病気を引き起こす!?」をご覧ください。
歯石の除去は医療行為!歯周ポケットの掃除が重要
毎日、丁寧に愛犬の歯磨きを行っていても、歯ブラシが届きづらい歯の根元や歯と歯茎の間の歯周ポケットには少しずつ歯石がこびりついてしまいます。それを除去しておくことは、愛犬の歯周病予防に大切なことです。
歯石除去を素人が行うのは無理
歯石の除去は獣医師が全身麻酔のもとで行う専門的な治療です。トリミングサロンやペットケアサロンなどで、無麻酔の歯石除去を行っているところがあるようですが、絶対におすすめできません。
大事なのは歯周ポケットの中を掃除すること
一部には、無麻酔で歯石除去をうたっている動物病院もありますが、無麻酔で行えるのは目に見える歯石の除去にすぎません。
歯石除去で大事なのは、表面からは見えない歯と歯茎の間の歯周ポケットにこびりついた歯石を取り除き、再付着しないように歯の表面を磨いておくことです。表面の汚れが取れても歯周ポケットのクリーニングまで行うことができなければ、歯石除去の意味はありません。詳しくは「【獣医師監修】犬の歯石除去。実際にはどんな手順や方法で行われるの?」をご覧ください。
歯石除去に全身麻酔が必要な理由とは?
なぜ歯石除去に全身麻酔が必要なのか、その理由を正しく知っておきましょう。
歯が折れたり顎の骨を折れたりする事故を防ぐため
人間でも緊張してしまう歯の治療。歯石除去に使用する器具には先が尖ったものが多く、犬がじっとしていなければ、歯や歯茎に傷をつけてしまう危険性があります。特に、顎の骨に対して歯が大きな小型犬の場合は、歯周病が進むことで顎の骨がもろくなり、少しの刺激で骨折してしまうことも珍しくありません。
歯周ポケットの掃除と歯面の研磨を行うため
42本の歯の一本一本の状態を確認しながら、歯と歯茎の隙間の歯周ポケットをクリーニングするには、犬が精神的にも肉体的にも負担を感じない状態をつくってあけることが大事です。さらに歯石を取り除いた後は、歯の表面を研磨剤で磨き、表面をツルツルにしておくことで歯石がつきにくいようにするのですが、この治療も全身麻酔下でないと行えません。
全身への細菌感染を防ぐため
歯石除去のために器具を口の奥に入れたときに、歯茎に炎症が起こっていた場合、出血してそこから細菌が体内に入ってしまう危険性があります。また、唾液が気道に入ることで誤嚥性肺炎を引き起こす可能性も。そうしたリスクを避けるためにも、全身麻酔が必要です。全身麻酔下では気道を確保し、抗生剤を使用するので、誤嚥や細菌感染の心配もありません。
恐怖による呼吸困難などを避けるため
無麻酔の歯石除去を経験した飼い主さんから「うちの子は大人しくて、いい子にしていたんだって」という話を聞くことがあるかもしれません。でも、それは決してその犬が大人しいからでも我慢強いからでもありません。じっとしていたのは、怖いから。恐怖のあまり動けなかったというのが正しいところでしょう。
むやみに麻酔を怖がらず、費用の安さに飛びつくことなく、飼い主さんが正しい判断をすることが大事ですね。犬の歯科治療に必要な設備と知識を持った獣医師のもとで、正しいオーラルケアをしてあげましょう。
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