犬は、社会性のある動物なので、群れの仲間をいつも必要とします。だから飼い主さんと一緒にいることで、安心感を得ることができます。そんな愛犬の姿を見ているだけで幸せな気持ちになる方も多いのではないでしょうか。でも、24時間常に一緒にいることは難しいですよね。買い物にも行かなくてはいけないし、いつも犬を連れて出かけることはほぼ不可能です。ましてや、お仕事をしていたりすれば、なおさら犬に留守番をさせる時間も長くなってしまいます。時間の長い短いに関わらず、留守番は避けることのできない日常的な出来事です。
留守番をしている間に、犬が不安を覚えることは何ら不思議なことではありません。ただ、その不安感が大きくなりすぎて、破壊や吠えなどの困った行動にまで発展してしまうことは、飼い主にとっても犬にとっても辛いことです。
飼い主さんと離れられなくなる分離不安
このように飼い主と離れることで不安を覚え、さまざまな症状が認められることを分離不安といいます。
よく見られる症状
■破壊行動
■吠え(遠吠えも含みます)
■普段では考えられない場所での排便・排尿など
上記が主なものですが、他にも、よだれを垂らす、口を開けて呼吸をし続けるパンティング、震え、嘔吐、下痢といった症状が見られたり、身体(特に足先が多い)を舐め続けることで皮膚炎になってしまうこともあります。
このような分離不安は、飼い主の外出時に限ったことではありません。愛犬と同じ家の中にいてもなったりします。例えば、飼い主が別の部屋にいたり、トイレや入浴の際にも見られることがあるのです。
分離不安になる原因は?
考えられる要因はさまざま
■ まだ飼い主と離れることに慣れていない仔犬の頃に長い留守番をさせられた
■ 就職など、飼い主のライフスタイルの変化により、突然これまでなかった長時間の留守番を経験するようになった
■ 飼い主がたびたび変わったこと(保護犬に多く見られます)など
その他の原因
また、留守番中に地震が起きたり、雷が鳴ったりと、その子が恐怖と感じるような経験をすることで、今まで問題なかった留守番が突然できなくなってしまうこともあります。もともと不安気質を持っている犬の場合は、特に理由がはっきりしないまま、少しずつ症状がひどくなる場合もあります。
外出と帰宅時には要注意
飼い主が、外出時や帰宅時に強い愛情表現を示すことで、犬に飼い主の在宅時と不在時の違いを強調して知らせることになり、結果として不在時の犬の不安を増強することになってしまうこともあります。「お留守番上手な犬に育てるには【獣医師が解説】」も、あわせて読んでみてください。
愛犬が分離不安かどうか確認するために
自分の犬は分離不安なのか、留守にしている間の様子がわからないという方もいるでしょう。飼い主が出かける時に、吠えたり落ち着きがなくなるという子はいると思いますが、数分でおさまって、その後落ち着いていられるようであれば、おそらく問題はないと思われます。
しかし、いったんおさまったかのように見えても、飼い主の外出後30分くらいの内に分離不安の症状は現れると言われていますので、不安な方はビデオカメラなどを設置して確認するとよいでしょう。今は安価で手に入るWebカメラもありますので、オンタイムで留守番の様子を見ることもできます。最近声が枯れてきたことを不審に思い、試しにWebカメラを設置して確認してみたら、留守中ずっと吠えていたことが判明したというケースもありました。
カメラが設置できない場合は、帰宅した時の様子をよく観察してください。ドアを開ける前から吠える声が聞こえてくる、口の周りがよだれで汚れている、いつもとは違う場所に排泄している、壁・ドアや物が破壊されている、そして破壊行動によって足などが傷ついているなど、何らかのサインが見られるはずです。
分離不安を解消するためには
分離不安を解消するにはどうしたらいいでしょうか。基本は、「留守番中も不安に思わなくていい」ということを犬にわかってもらう必要があります。まずは、飼い主がいないことに少しずつ慣れてもらう練習をしてみましょう。ただし、犬によって不安の程度は異なるので、犬の様子をよく観察しながら進めていかなければなりません。
不安解消のためのトレーニング
まず、いつものように外出の準備をし、ドアノブに手をかけるだけというという段階から始めます。ここで、犬が不安な様子を示したら、外出の準備をするだけにします。不安な様子を示さなければ、次の段階に進み、飼い主はドアの開け閉めだけして犬のところに戻ります。その後、10秒から5分くらいの外出を長短おりまぜてこれを繰り返します。犬がこの練習を落ち着いてこなすことができるようになったら、さらに次の段階へと進みます。
次の段階では、徐々に外出時間を伸ばしていきます。最初の練習と同じように、1分から30分くらいまで、いろんな時間をおりまぜて繰り返します。この時の注意点は、急に時間を延ばさないことです。犬の様子をよく観察して、少しでも不安な様子が見られたら、最初の練習に戻ってください。犬によって慣れるスピードは異なりますが、ここまでの練習をクリアするのに、1ヶ月くらいはかかると思ってください。
この方法を実施する場合に気を付けなくてはならない点は、練習中は犬に長い時間の留守番をさせないようにすることです。可能であれば、この期間は留守にするときだけ、ご近所さんや親戚に犬を預けたり、日帰りのペットホテルなどに預けたり、ペットシッターにお願いすることをお勧めします。
その他、分離不安を解消するためのポイント
飼い主の外出時と帰宅時に、犬を興奮させるような愛情表現は避ける
外出時は特別なおもちゃなどを与えて、犬が夢中になっている隙に出かけるとよいでしょう。帰宅しても、冷たく無視をする必要はありませんが、興奮しているようであれば、興奮がおさまって落ち着くまで、大きな声で話しかけたり、撫でたり抱っこしたりしないようにしましょう。
不適切な罰の禁止
帰宅時に物が壊されていたり、排泄されていたりしても決して叱るなどの罰を与えないでください。帰宅してからの罰は遅すぎて意味がありませんし、犬の不安をさらに大きくしてしまい、逆効果です。
散歩の頻度の増加
外出前にたっぷりと散歩に行き、留守番中は疲れて眠っていられるようにしてあげましょう。留守番中の排泄を防ぐことにもつながります。
犬が安心できる場所の提供
犬が安心できるお気に入りの場所を用意してあげることで、留守番中もそこで落ち着いて過ごしてくれるようになります。
薬物治療
抗不安薬の中には、分離不安に対する治療効果が認められているものがあります。ただし、薬物だけでは治療効果がないので、あくまでも上記のような練習を補助する形で使用する必要があります。
分離不安の程度は、犬によってさまざまです。留守番に慣れさせるには根気が必要となる場合がありますが、獣医師のアドバイスなどを受けながら進めていってください。
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