緩和ケアとは?

緩和ケアとは、病気が診断された時から開始される医療ケアのことで、WHOでは次のように定義しています。

 

〜緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)を改善するアプローチである。〜

 

獣医療で言い換えると、動物の病気に伴うさまざまな痛みや苦しみを緩和し、生活の質(QOL)を向上させ、動物と家族のくらしを大切にするという考え方です。

 

緩和ケアというと、末期がんなどの終末期医療(ターミナルケア)のイメージがありますが、それだけに限りません。治療が難しい病気や、生命を脅かす状態の犬の苦痛をできるかぎり取り除き、QOLを向上もしくは維持させることに重点をおきます。そしてこれは病気の進行度に関係なく、その病気が診断されたとき、もしくは治療の初期から基本的な緩和ケアを受けることもできます。ちなみに、人では転移を伴う肺がんの患者に対し、早期から緩和ケアを実施することによって生存期間を伸ばす可能性があることが報告されています。

 

犬では、がん、心臓病、腎臓病、呼吸器疾患、慢性関節炎、寝たきりの高齢犬など、さまざまな疾患が緩和ケアの対象に含まれます。積極的な治療が難しいときや、治療をしていても病気が進行してしまい日常生活に支障をきたすことが明らかなときなどに、緩和ケアは実施されます。

 

 

 

緩和ケアにはどのような方法があるの?

緩和ケアには、病気や症状に応じたさまざまな治療やケアの選択肢があります。

 

 疼痛を緩和する

痛みを和らげるための疼痛管理は、緩和ケアの重要な要素です。

痛みに応じた鎮痛薬などを処方し、体への負担を考慮しながら犬がなるべく快適に過ごせるようにします。

犬は痛みを感じると吠えたり鳴いたりする以外に、食欲がなくなったり、よく眠れなくなったり、排泄や飲水のための最低限の移動さえも控えるようになったりします。これらが続くと、体に負担がかかるだけでなく、QOLを著しく低下させたり、回復の妨げにもなります。そのため、痛みに対する適切なケアを行うことは、緩和ケアの中でもとくに重要だとされています。

 

 快適な生活環境を維持する

犬の状態に合わせて、生活環境を見直すことも大切です。

ケージやベッドはいつも清潔にし、寝てる時間が多い場合には褥瘡(床ずれ)を予防するためにベッドのサイズや硬さもその子に合ったものにするなどの工夫が必要です。

室内の温度や湿度は常に適切に保ち、フードや水、トイレへのアクセスがなるべくしやすいように設置してあげましょう。ただし、視覚を喪失している場合には、急な変更は避けましょう。

また、高齢犬や関節疾患のある犬では、より滑りにくい床材や敷物にし、階段や段差を昇り降りせずに生活できるように生活空間を整えるとよいでしょう。

 

 

 食事のサポートをする

食事は、生命を維持していく上で最も重要な要素です。

基本的にはライフステージに適した食べ慣れているフードを与えて問題ありませんが、腎臓病や肝臓病など特別な食事療法が必要な病気をもつ犬では、かかりつけの獣医師から指示されている療法食などを与えてもらうのがベストです。

しかし、高齢になると食べ物の消化・吸収能力が低下したり、病気が進行するにつれて食欲が低下してしまうことも少なくありません。そのような場合には、犬の必要カロリーを考慮しながら、以下のような工夫を試してみてください。

 

・フードを少し温めて、香りを立たせる

・缶詰やパウチなどのウェットフード(療法食)を活用する

・ドライフードやウェットフードをミキサーなどで流動食にし、スプーンやスポイトで口元へ運ぶ

 

口からの食事の摂取が困難な場合には、食事や薬をチューブから投与する目的で、食道チューブや胃瘻チューブなどを設置するケースもあります。

 

 

 からだのお手入れをする

寝ている時間が長くなると、床ずれを起こしたり、皮膚や泌尿器の感染症にかかりやすくなります。日頃からブラッシングをしたり、同じ向きで寝ている時間が長い子は体勢をこまめに変えてあげたりするとよいでしょう。また、排泄を促すよう定期的にトイレに連れてったり、おむつを着けている場合にはおむつかぶれを起こさないように注意し、目や耳・口の周りなどの汚れやすい部分も清潔に保つようにしてあげることも大切です。

 

 

 吐き気やけいれんを抑える

吐き気は痛みと同様に、QOLを大きく低下させる症状の一つです。吐き気がみられる場合には、その原因を特定して治療をしたり、吐き気を和らげる薬を使って対症療法的に治療を行う場合もあります。

また、けいれんや神経症状、意識障害なども終末期には時折みられる症状です。これらの症状が起こる原因を調べ治療を行いますが、それが難しいケースもあります。そのため、けいれんを抑えるための抗けいれん薬や鎮静剤などを用いた対症療法を行う場合もあります。

 

 酸素吸入を補助する

心臓病や呼吸器疾患を抱える犬では、酸素室内での管理が必要な場合があります。

動物病院には、酸素療法を行うことのできるICUケージという設備がある場合も多いですが、自宅で看護をする場合には、在宅用の酸素ボンベや酸素ケージのレンタルを検討されるのもよいでしょう。

 

 

これらの他にも、症状や病気にあわせて、輸液療法や温罨療法、排泄の介助など、緩和ケアにはさまざまな選択肢があります。

 

 

 

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フクナガ動物病院 獣医師

福永 めぐみ

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