数ヶ月から数年にわたって腎臓の機能が低下し、尿を濃縮したり体内の水分の調節が十分にできなくなった状態を慢性腎臓病といいます。
高齢の犬に多く、完治させることはできないので、病気の進行をできるだけ緩やかにすることや、生活の質(QOL)を維持することが治療の方針となります。そのため、慢性腎臓病では病気を早期に発見して、適切な食事管理と治療を行うことが重要です。
犬の慢性腎臓病は、病気の進行度によって4つのステージに分類されます(IRIS慢性腎臓病ステージング)。このIRISのステージングでは、軽度の症状を示すステージ2から、食事療法の開始を推奨しています。
出典:日本獣医腎泌尿器学会〜IRIS犬猫の慢性腎臓病の診断、ステージングおよび治療〜
慢性腎臓病の食事管理のポイント
○水分をしっかり摂る
慢性腎臓病では、尿を濃縮するはたらきが障害されるため、薄い尿を大量に排泄するようになります。すると、体が脱水したり、腎臓を通る血液(腎血流量)が減ってしまうことで、腎臓のダメージをさらに進行させてしまいます。
脱水を防ぐためには、犬が新鮮な水をいつでも自由に飲めるように工夫することが大切です。水飲み場の数を増やしたり、フードに水を混ぜたり、缶詰やパウチなどのウェットフードを活用するのもよいでしょう。
特に高齢の犬は、口渇感(喉が乾いて水を求める感覚)が低下しがちで、自ら水を飲む頻度が減ってしまう子もいるので、日々水をしっかり飲めているか注意してみるようにしましょう。
○エネルギーの不足に注意
腎臓のはたらきが低下すると、食欲が低下してしまいがちですが、体が必要とするエネルギー量(カロリー)は健康な時と変わりありません。エネルギーが不足すると、犬の体は筋肉中のタンパク質を異化(分解)することでエネルギーを補おうとします。すると、体の筋肉が減ってしまうのと同時に、腎臓病の進行を速めてしまう窒素の排泄を増加させてしまう恐れがあるので、食事中のエネルギーは不足のないように与えることが重要です。
○タンパク質を制限する
腎臓の機能が低下してくると、タンパク質が代謝されてできる老廃物(窒素)が腎臓から排泄されず、体内に蓄積されるようになります。老廃物が蓄積すると、腎臓病をさらに進行させたり、尿毒症という症状を引き起こしてしまうため、腎臓病の犬の食事はタンパク質を適切に制限したものが適しています。一方、過度に制限しすぎてしまうと、必要な筋肉を維持できなかったり、体内のタンパク質を壊してしまうなどの悪影響が出てしまう恐れがあるので、獣医師の指導のもと、適切なタンパク質の管理が重要となります。
○リンやナトリウムを控える
腎臓の機能が低下すると、リンの排泄がうまくできなくなってしまうため、血液中のリンの濃度が高くなってしまいやすいです(高リン血症)。それを防止するためには、食事中のリンを制限することが必要で、リンの制限は腎臓病の進行を抑制したり、生存期間を延長することが知られています。
一般のフードにはリンが豊富に含まれているものが多いので、リンが制限されている腎臓病用療法食を活用しましょう。また、人の食品にはリンを含むものが多いので※、与えるのは控えましょう。食事管理だけでは高リン血症が改善しない場合には、リンと結合して血液中のリンを減らす効果のあるサプリメントなども有効です。
※リンが多く含まれる食品の例
また、ナトリウム(塩分)を過剰に摂取すると、高血圧を悪化させ、腎臓病を進行させてしまう恐れがあるので注意が必要です。
○脂肪酸
オメガ3脂肪酸には、高血圧や酸化ストレスを軽減する作用があるとされており、腎臓病の進行の抑制が期待されています。オメガ3脂肪酸は青魚に多く含まれていることから、魚油が添加されたフードやサプリメントを活用するのもおすすめです。
よくある質問
Q・腎臓病用のフードでないとだめなの?
A・腎臓は、一度機能が失われると修復するのは難しい臓器です。そのため、慢性腎臓病と診断されたら、残っている腎臓の組織を守るために、腎臓に優しい食事を食べてもらうことが大切です。
腎臓に負担をかけてしまう栄養素の代表は、タンパク質・リン・ナトリウムです。これらを適切に制限しているフードが腎臓病用療法食なので、上手に活用するとよいでしょう。
Q・腎臓病用のフードっておいしいの?
A・最近の療法食は味に関する研究も進み、犬が好む味になるよう設計されているものが多いです。しかし、これまで食べたことのないフードは、少し躊躇ってしまう犬も少なくありません。そのため、1〜2週間ほどかけて、今まで食べていたフードに少しずつ療法食を混ぜながら切り替えていくのがおすすめです。
食いつきが良くない場合には、別の製品の療法食を試してみたり、缶詰の療法食を混ぜてみるなど、いろいろなものを試してみましょう。
Q・おやつは与えてもいいの?
A・市販の犬のおやつや人の食べ物には、リンやタンパク質、ナトリウムなどを含んでいるものが多く、それらを与えてしまうと食事療法の効果が薄れてしまいます。そのため、食事療法の効果を最大限発揮させるには、基本的にはおやつは与えない方がベターです。もしおやつを与えたい場合には、療法食のトリーツをおやつとしてあげるなど、いくつかアイデアはあるので、動物病院で相談してみましょう。
参考:動物医療従事者のための臨床栄養学/EDUWARD Press
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