ここでは、残念ながら骨折してしまった子の実例と、その子のX線画像から特定した「骨折の原因」、その結果どのようなことが起きてしまったのかを、具体的に解説していきます。視覚やデータで、骨折リスクと対策をイメージして、うちの子が骨折しないよう、さっそく対策を検討してみましょう。

 

 

子犬の骨折事例① 室内でジャンプ! その結果

柴犬・3ヶ月齢・オス・「脛骨近位成長板骨折」

原因は、室内でジャンプして着地しただけ 

飼い主さんと遊んでいて、楽しくなってジャンプした着地後から、足を片方上げてしまっておかしいと思われて病院へ。いつも通りの、ほんのちょっとしたことで子犬は骨折してしまい、完治まで2か月ほど要しました。

 

 

(知っておきたいポイント)

●足がついたから安心は禁物!

この部位の骨折の厄介なところ、それは、

折れていても初期にはX線検査で判別できない

ことがあり、さらに

1週間ほどで足をつくようになってしまう

ことです。飼い主さんは、その状況を見て安心されてしまいます。X線検査は、骨が正常な形でなくなっていることから骨折を判別できます。この部位の骨折は、

骨折直後は正常な形に見えても、だんだんと形が変化してしまう

ことがあります。この形の変化が、

膝蓋骨内方脱臼や前十字靭帯断裂などの膝関節疾患の誘因となる

とから、早期の固定手術が理想的です。

 

 

成犬の骨折事例② いつもよりはしゃぎすぎて骨折

 

 

原因は、自転車のカゴから身を乗り出し過ぎて、車輪に挟まれた

自転車でのお散歩中、カゴから身を乗り出し過ぎて落下、自転車の車輪に挟まれてしまい骨折。いつも通りのお散歩の中で、少しだけはしゃいでしまったことで骨折してしまいました。

 

 

(知っておきたいポイント)

●強い外力が加わった骨折ほど、治療期間が長くなる

単純な骨折に見えますが、車輪に挟まれるような高いエネルギーによって引き起こされた骨折は、X線検査上の見た目が同じでも、わずかな落下などによって引き起こされた骨折より、療期間を長く必要とします。また、はしゃぎ過ぎて骨折してしまう子達は、総じてアクティブで活動的なことから手術後の安静も難しく、骨の再生がゆっくなってしまうことが多くあります。

 

 

シニア犬の骨折③ 加齢で骨が折れやすく

原因は、加齢で骨が折れやすくなっているケース

おじいちゃん犬・おばあちゃん犬の骨は折れやすく、普段通りのお散歩中に転んでしまい、何気ないことなのに、骨折をしてしまいました。

 

 

 

(知っておきたいポイント)

●シニア犬になると、筋力低下などで、回復に時間がかかる

一般的には、高齢動物の骨折整復術後は、筋力が低下していることから、日常生活への回復が遅れ、寝たきり生活に陥ってしまうことがあります。そのため、リハビリを実施するなど、ゆっくり丁寧に運動強度を戻してあげる必要があります。また、主観的ではありますが、犬で12歳、猫では15歳を超えていると骨がつきにくい印象があります。さらに、

骨折の原因に内臓の病気や骨自体の腫瘍が隠れていることがある

ため、これらの病気が隠れていないかをしっかりと検査する除外診断も重要です。

シニア犬の健康については「【獣医師監修】シニア犬の病気を早期発見するために!観察ポイントと健康チェック法を紹介」もあわせてご覧ください。

 

 

データでわかる骨折発生の注意点

アイペット損保の3年間の保険金請求データ(図1:ペット保険「うちの子プラス」「うちの子」「うちの子ライト」のご契約に関する2019年1月~2021年12月の保険金請求データより算出)によると、骨折による保険金請求の件数が最も高いのは、0歳で3.94%、1歳で1.32%となっており、0歳から1歳までの骨折に、要注意であることがわかります。詳しくは「【調査結果】子犬の骨折が発生しやすい月齢は? 発生しやすい3大要因と予防策」もご一読ください。

 

図1 <年齢別・犬の保険金請求に占める「骨折」による保険金請求の割合>

※アイペット損保のペット保険「うちの子プラス」「うちの子」「うちの子ライト」のご契約に関する2019年1月~2021年12月の保険金請求データより算出

※1請求件数は、「通院1日、入院1回」を1件とするもの

 

 

●子犬の中でも、生後10か月までが要注意!

さらに、当院(「動物外科診療室東京」と「木村動物病院」・図2)とアイペット損保のデータ(図3)では、その多く(当院では約7割)が、12ヶ月齢以下で発症していました。特に生後10カ月までが要注意です! 

図2 <動物外科診療室東京と木村動物病院での骨折発生月齢>

 

動物外科診療室東京木村動物病院における2017年1月1日から2021年12月31日までの骨折治療実績を集計

 

 

図3 <アイペット損保 子犬期~12か月の骨折発生割合>

子犬期の月齢別骨折発生割合

※調査期間:2019年10月1日~2020年4月1日 

※調査対象:調査期間中にペットショップ代理店経由申込みで補償開始した新規契約(アイペット損保のペット保険「うちの子プラス」「うちの子ライト」)の骨折発生時点の月齢別データ 

※調査サンプル数:669件 

※調査方法:骨折にて当社へ請求があった契約数を母数とし、発生時点の月齢別に割合算出

 

 

●子犬期のトレーニングで、骨折しない習慣を

学術的に明確な要因は不明ですが、骨折してしまう背景には、飼育にまだ慣れない時期での飼い主さんによる甘やかしや、人との共同生活のためのトレーニングの進捗度合いが異なることも影響していると考えられます。時代によって飼育される人気犬種が変わり、人と犬との生活様式も変貌しています。

ドッグトレーナーや動物病院で行われている

しつけ教室や、パピークラスなどに積極的にご参加いただくことが、骨折の予防につながる

でしょう。

また、飼育を始められる4ヶ月齢以下の社会適応期にある子犬の時からトレーニングを始めることが、飼い主さんにとっても愛犬とのより良い生活を過ごすために肝要です。パピーパーティについては「他の子犬たちと出会えるパピーパーティーとは」もあわせてご覧ください。。

 

●成犬のイレギュラーな行動と、ドッグランも要注意!

成犬では、子犬でトレーニングを始めるより、その生活様式を変化させることは難しくなります。ただし、成犬が骨折するケースでも、ワンちゃんが飼い主様の想像から大きく外れた行動や、

ソファーからの飛び降り、胸元からの飛び降りが原因となる場合が多い

ため、一緒にトレーニングを経験することは、一定の予防効果があると考えます。 

 

 

●ドッグランでの事故に要注意

また、近年、ドッグランでの事故が散見されます。犬は、その体格が、1kgに満たない大きさから60kg以上になる子までさまざまです。ドッグランによっては体格によって区域分けをされていますが、ほとんどが3段階ほど(小型犬用、中型犬用、大型犬用)です。体重差が倍ほどある犬と同じ空間で遊んでいることは珍しくありません。ご自身がしっかりと管理されている状況でも、周囲の犬がぶつかってきて骨折してしまうことがあります。偶発的な事故ですが、できる限りの注意を払い、予防するのが最善です。子犬のドッグランデビューについては「その子犬、ドッグランに連れて行っても大丈夫?」もご覧ください。

 

●骨折を起こしやすい犬種に注意!

超小型犬は、その骨の構造から骨折しやすいと考えられています。このほかに、ハウンド系などの体が薄く足が長い犬種は骨折が起こりやすいと感じられます。学術的な要因は不明瞭ですが、これらの犬種は、前腕が体幹から遠くなる事によってより大きな力がかかりやすくなっているのではないかと考えられます。

 

●骨折しやすいイタリアングレーハウンド

アイペット損保のペット保険に加入されている方で、骨折で保険金を請求された比率が高かった犬種は下図の通りで、イタリアングレーハウンドが最も高く、骨折に要注意です。イタリアングレーハウンドのかかりやすい病気については、「犬種別飼い方ガイド」もあわせてお目通しください。
 

図4 <骨折による保険金請求比率が平均値の0.92%より高い犬種>

骨折が発生しやすい犬種

※アイペット損保のペット保険「うちの子プラス」「うちの子」「うちの子ライト」のご契約に関する2019年1月~2021年12月(3年間)の全保険金請求データより、骨折による保険金請求件数を犬種別に比率で算出

※ 混血(犬Ⅰ):ペット保険「うちの子ライト」のミックス「犬Ⅰ」(16kg以下)

 

●長期のお休み期間など、触れ合いが増える季節の骨折に注意!

骨折は、ご家族がご自宅に揃っているときに多いと感じます。普段あまりワンちゃんに触り慣れていない飼い主さんがハンドリングを誤ってしまったり、過度な運動になってしまったりする傾向があると感じています。夏休みなどの長期休みが始まる前に、普段一番ワンちゃんと接している飼い主さんからご家族に対して、どのように触れ合っているかをご説明されたり、ご一緒に排泄トレーニングやお散歩をされることをお勧めします。

 

 

骨折しない犬に育てる、骨折させない飼い主になる関連記事

■「まて」の練習で興奮を鎮静:「犬のしつけ「待て」はとっても重要!トレーニングの方法は?

■「ハウス」で静かにできる子に:「クレートを好きになってもらってお留守番上手に

■「子犬」の危険を排除する室内:「子犬のためのお部屋作り

■「骨折させない」工夫:「室内での骨折に要注意!あなたの愛犬は大丈夫?

 

 

動物整形外科の専門医・木村太郎先生監修「犬の骨折」記事

第1回:動物整形外科専門医の視点で語る「愛犬を骨折させてはいけない理由」

第2回:視覚とデータで理解!「骨折の原因」を徹底排除    (本稿)

第3回:骨折発生! もしかして骨折_ を含めた応急処置と対処法

第4回:動物の整形外科とは?~骨折治療の得意な先生の探し方ヒント

第5回:骨折の定義と、部位別の原因・症例・治療法~完治まで

第6回:骨折の治療法完全ガイド

第7回:⾻折で発⽣する後遺症と合併症

第8回:骨折しやすい犬種の理由として考えられること

 

アイペット獣医師による【うちの子 HAPPY PROJECT】の骨折対策

飼い主さんの「あのとき知識があれば防げたのに…」といった後悔や、ワンちゃん、ネコちゃんの痛みを無くしたいという“想い”で始まったアイペット損保の獣医師チームによる【うちの子 HAPPY PROJECT】では、今日から実践できて、すぐに役立つワンちゃん、ネコちゃんの病気・事故対策をご紹介しています。『骨折』に関する記事は、こちらをご覧ください。

骨折経験者のホンネ

飼い主さんが知っててほしい3つのポイント

今日からできる骨折対策

 

★「うちの子」の長生きのために、気になるキーワードや、症状や病名で調べることができる、獣医師監修のペットのためのオンライン医療辞典「うちの子おうちの医療事典」をご利用ください。

 

うちの子おうちの医療事典

 

例えば、下記のように「骨折の特徴」と似た病気やケガを、さまざまな角度で知ることができます。  健康な毎日を過ごすため、知識を得ておきましょう。

子犬に多い

小型犬に多い

緊急治療が必要

手術での治療が多い

手術費用が高額

専門の病院へ紹介されることがある

後遺症が残ることがある

長期の治療が必要

予防できる

 

犬の骨折に関する解説はこちらをご覧ください。

骨折

 
 
 
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動物外科診療室 東京(VST)院長 木村動物病院 院長

木村 太郎

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