愛犬が突然吐いた…そんな時、飼い主さんはどのように対応するといいのでしょう。犬の嘔吐の原因は様々で、ケロッと元気になる嘔吐から、すぐに対応しないと最悪の場合そのまま死に至る嘔吐まであります。ここでは獣医師監修のもと、犬が吐く原因と対処法について解説します。
犬が吐いたときの対処法はさまざま
犬が吐いたときの対処法は、嘔吐の原因によって異なります。たとえば、犬が道端の草を食べた後に吐いている場合、それがチクチクしたから吐いているのか、それともその草に毒性があり、中毒になって吐いているのかによって、対処法も緊急性も異なります。また、嘔吐したときの対処法について、ウェブ上では実に様々な情報が紹介されていますが、中には危険な情報も混ざっていることをきちんと把握しておく必要があります。飼い主さんがすべきことは、愛犬が吐いたときに自力で対処できるようになることではなく、嘔吐の危険度と緊急性を正しく理解し、必要に応じて動物病院へ連れていってあげることです。正しい知識で愛犬を守ってあげてくださいね。
犬が吐いたときの危険度を考える
愛犬の嘔吐が危険なのか、それとも様子を見ていて問題ないのか、どうやって判断すればいいのでしょうか?
人間の子どもと同じように考えて
基本的に、人間の子どもと同じように考えてあげるとわかりやすいと思います。車酔いしやすい子が、長時間のドライブ中にケポッと吐いたとします。この場合、病院へは連れて行かず、しばらく様子を見る方が多いと思います。しかし吐いた原因がわからず、さらに吐いた後にぐったりしていたら、すぐに病院へ連れていってあげますよね。犬も同じように考えてあげてください。
危険度を測る4つのポイント
犬が吐いたときに注目すべきは、以下の4つです。
吐いた原因
吐く頻度
吐いた物の内容
吐いた後の様子
これらをしっかり観察した上で、緊急性が高いのかどうかを判断するとよいでしょう。もし判断に迷ったり不安に感じた場合は、必ずかかりつけの獣医さんに相談してください。
犬が吐く原因
生理的な原因による嘔吐
生理的な原因で吐いていることがわかっていれば、危険度は低いと考えられます。以下のような状況は、生理的な原因であると考えられます。
□ 長時間の空腹状態が続いた後、泡状の白い黄色い液体を吐いた。
□ 車に乗せた結果、車酔いで吐いた。
□ 勢いよくごはんを食べたせいで吐き、その後すぐにごはんを食べ続けた。
「車に乗せる」や「勢いよく食べる」などのように、吐いた原因が明確であれば、危険度は高くないでしょう。しかも犬が吐いた後も元気に飛び跳ねているようであれば、しばらくおうちで様子を見ていても問題ないと思います。ただし、生理的な原因による嘔吐であっても、嘔吐を繰り返していると胃や消化管の粘膜が傷つくことがあるので注意が必要です。ただ、吐いた直後は胃や食道が弱っている場合があるので、すぐにごはんを与えないで、様子を見ながら以下の対応を取るようにして下さい。
空腹による嘔吐
少し時間をおいて様子を見て、元気そうであればお湯でふやかしたドライフードかウェットフードを少量ずつ与えてみてください。詳細は「子犬が黄色っぽい液体を吐いた!原因と対処法【獣医師解説】」をご確認下さい。
車酔いによる嘔吐
車酔いが原因で吐いてしまったのであれば、できるだけ早めに車を止めて休憩時間を取ってあげましょう。外を歩かせてあげたり気分転換をさせて、水を少量ずつ与えて下さい。ごはんを与えた直後に車に乗せると車酔いの原因となるので、食後1時間は車に乗せない方がいいでしょう。「愛犬を車酔いさせないよう、私たちができること【獣医師解説】」もご覧下さい!
勢いよく食べたことによる嘔吐
ガツガツ勢いよく食べてウゲーッと吐き、またガツガツごはんを食べているようなら、あまり心配しなくて大丈夫でしょう。ただし、少しでもいつもと違う様子が見られた場合や、犬を飼い始めたばかりなどで不安がある場合は、動物病院へ連れていくと安心です。「犬が吐く原因に…!実は怖い愛犬の早食い【獣医師解説】」もご確認ください。
病気が原因の嘔吐
以下のような場合は、病気が原因で吐いている可能性が非常に高いので、すぐに病院へ連れて行ってあげてください。
□ 何度も連続して吐く
□ 吐いた物が緑色
□ 吐いた物に血が混ざっている
□ 吐いた後(吐きそうにした後)に、ぐったりしている
病院が閉まっている時間であれば、夜間病院へ連絡をして適切な指示をあおぎましょう。異物誤飲や胃潰瘍、膵臓・肝臓疾患などのような病気にかかっていて、重篤である可能性があります。中には緊急処置が必要な場合もあります。
胃拡張・胃捻転
緊急性が非常に高い病気の一つ、胃拡張・胃捻転。なんらかの原因で胃の中にガスがたまり、どんどん胃が膨れてしまい、周囲の臓器や血管を圧迫することで、激しい腹痛が起こります。ちょっと様子を見ている間に、急激に容態が悪化して命を落とす危険性があります。以下のようなときには胃捻転の可能性が高いので、夜間の場合は緊急病院などに連絡をしてみましょう。
□ 大型犬・超大型犬
□ 食後に吐いている
□ 吐きそうにしているが、吐けない
□ おなかがはっている
□ ぐったりしている
※胃捻転に関する詳しい情報は、「食後の運動は絶対NG!大型犬に多い胃捻転とは【獣医師解説】」からご確認ください。
中毒
犬が食べることで中毒症状を引き起こすものは、私たちの身の回りにたくさんあります。玉ねぎ・チョコレート・ブドウなどのように、人間の食べ物の中で危険なものもあれば、ヒガンバナ・ユリ・スズランなど、身近な植物にも危険は潜んでいます。犬がなにかをモグモグした後に吐いているなら、中毒症状を引き起こしている可能性があります。中毒の治療で大切なのは、以下の3つ。できるだけ正確に獣医さんに伝えてください。
□なにを食べたのか(食べた物があれば、動物病院に持って行きましょう。)
□どのくらい食べたのか
□いつ食べたのか
また、中毒が疑われる場合には、すぐに病院に連れて行くことが大切です。獣医師は色々な治療法の中から、状況に合わせて最適な治療法を選択してくれるからです。飼い主さんが自己判断で緊急処置をすると、最善の治療法を選択できなくなってしまったり、より治療を困難にしてしまうことがあるので、絶対にやめてください。中毒の治療はとにかく時間との勝負。愛犬の異変に気付いたら、まずは病院に電話で連絡を入れるといいでしょう。緊急治療のための受け入れ態勢を整えてもらうと同時に、病院に行くまでに飼い主さんができることがあれば、指示を出してくれるはずです。中毒症状を引き起こす食べ物について、詳しくは「犬に与えてはいけない危険な食べ物【獣医師解説】」をご覧下さい。
異物誤飲
おもちゃや壁紙、ひもなどが物理的に食道や胃に詰まっているときも、吐こうとして激しくえずいたり、嘔吐をする場合があります。呼吸困難に陥ったり、異物が食道や胃を破ってしまう可能性があるため、緊急性が高いです。このような場合も自己判断による緊急処置は絶対にやめましょう。詳しくは、「犬が異物誤飲をしたとき、どうしたらいいの?【獣医師解説】」をご覧ください。
愛犬が吐いたとき、その危険性や緊急性を理解するためには、嘔吐以外の状態もきちんと把握することが必要です。少しでも不安に感じたら、夜中だとしても動物病院へ相談するといいでしょう。正しい知識をもとに、大切な愛犬のことを守ってあげてくださいね!
★「ペットと私の暮らしメモ」~犬が吐く原因は? 危険な症状や対処法を解説~もご一読ください。
「吐く」のときに考えられる病気を「うちの子おうちの医療事典」で調べる
「吐いている」ときに考えられる病気を「うちの子おうちの医療事典」の解説で、予防・原因・治療方法などを調べてみましょう。
<吐いているときに考えられる病気>
□ 炎症性腸疾患~腸に炎症の細胞が集まり、慢性的な炎症が起こる病気の総称。原因は不明。
□ 回虫症~白く細長いひも形の寄生虫が腸に寄生し、下痢や食欲がなくなるなどの消化器症状を引き起こす病気。
□ 腸リンパ管拡張症~リンパ液が流れるリンパ管がつまることで、リンパ液が腸内に漏れ出てしまう病気。
□ 蛋白漏出性腸症~血液に含まれるタンパク質が腸から異常に漏れ出し、低タンパク血症を引き起こす病気。
□ 膵炎~膵臓内の消化酵素が何らかの原因で活性化され、誤って自分の膵臓を消化し、炎症や壊死を起こす病気。
□ 前庭障害~前庭に異常が生じ、平衡感覚が保てなくなる病気。
□ 犬ヘルペスウイルス感染症~犬ヘルペスウイルス1型の感染により、子犬に出血を伴う重篤な症状を引き起こす病気。
□ 胃腸炎~胃や腸に炎症が起こり、吐く・下痢をするなどの消化器症状を引き起こす病気。
□ 慢性腸炎~腸に炎症を引き起こす細胞が集まり、慢性的な炎症が起こる病気の総称。
□ 巨大結腸症~大腸の一部である結腸が常に拡張した状態になる病気。
□ 犬コロナウイルス感染症~犬コロナウイルスの感染により、嘔吐や下痢などの消化器症状を引き起こす病気。
□ 巨大食道症~食道の拡張と動きの低下を特徴とする症候群(同時に起こる一連の症状)で、食道拡張症とも呼ばれる。
□ 犬伝染性肝炎(犬アデノウイルス1型感染症)~犬アデノウイルス1型の感染により、特徴的な肝炎を引き起こしたり急死する可能性のある病気。
□ 異物誤飲~異物(食べてはいけないもの)を誤って飲み込み、体に異常をきたす事故。
□ 白血病~骨髄にある血球を作る役割を持つ造血幹細胞が腫瘍化してしまう、血液のがん。
□ ネギ中毒~犬がネギ、タマネギ、ニンニクなどのネギ類を食べてしまって起こる中毒。
□ チョコレート中毒~チョコレートに含まれるテオブロミンという物質により引き起こされる中毒。
□ リンパ腫~白血球の仲間であるリンパ球という細胞が、様々な臓器で腫瘍化して増殖する、血液のがんの一つ。
□ 右大動脈弓遺残 ~胎子のとき大動脈が異常な位置に形成され食道を巻き込み、食道の一部が狭くなってしまう病気。
□ 動脈管開存症~胎子のときに大動脈と肺動脈をつなぐ動脈管が、生まれた後でも残ってしまう先天性の心臓病。
□ 糸球体腎炎~血液から老廃物をろ過し尿の元となる原尿をつくる糸球体が炎症を起こし、腎臓の機能が低下する病気。
□ 犬ジステンパーウイルス感染症~犬ジステンパーウイルスの感染で、呼吸器・消化器・中枢神経症状を引き起こす。
□ 犬パルボウイルス感染症~犬パルボウイルスの感染で、嘔吐や下痢、血便などの消化器症状を引き起こす病気。
□ 犬レプトスピラ感染症~レプトスピラという細菌の感染で、発熱や出血、黄疸などの症状を引き起こし、発症した場合は死亡率の高い病気。
□ ケンネルコフ~様々なウイルスや細菌がうつり気道に急性炎症を起こす病気。犬伝染性気管気管支炎とも呼ばれる。
□ 食物アレルギー~食物の中のある成分が原因で起こるアレルギー。皮膚や消化器など他の部位に症状がでることも。
□ 腎不全~ 腎臓の機能が十分に働かなくなった状態のこと。
□ 胆嚢炎~胆汁(消化液)を一時的に貯留する胆嚢という袋が、急性または慢性の炎症を起こす病気。
□ 熱中症~高温多湿な環境に体が適応できず、体の中の調整機能が壊れて生じる様々な症状の総称。
□ 肥満細胞腫~主に皮膚にできる悪性腫瘍。まれに消化管や脾臓などの内臓にも発生。
□ 臍ヘルニア~臍(へそ)の穴から、脂肪や腸などが皮膚の下に飛び出してしまう状態のこと。
□ 胆嚢粘液嚢腫 ~胆嚢という胆汁を貯めておく袋に、粘液様物質(ムチン)が貯留して胆嚢の拡張を起こす病気。
□ 尿道閉塞~尿結石や腫瘍などにより、尿道が閉塞してしまう病気。
□ 胃潰瘍~肉眼でわかる程度の大きさの欠損が胃粘膜に生じる病気。
□ 胃拡張胃捻転症候群~胃が拡張とねじれを起こす病気。
□ 門脈体循環シャント(PSS)~消化管で吸収した栄養分や毒素を肝臓へ運ぶ「門脈」という血管が、肝臓に流入せずに異常な血管を介して大静脈に直接流入する病気。
□ 中毒~犬にとって有害である物質を飲み込む・吸い込む・付着するなどにより生じる有害作用。
□ アナフィラキシーショック~アレルゲン物質が体内に入りアレルギー反応を引き起こし、重い全身症状となる。
□ ワクチンアレルギー~ワクチンを接種することにより、ワクチンの成分に対してアレルギー反応を起こす病気。
□ フィラリア症(犬糸状虫症)~フィラリアという細長い形の寄生虫が蚊を介して体内に入りこみ、心臓に寄生して様々な症状を引き起こす病気。
□ 胆泥症~胆汁を一時的に貯留する胆嚢で、胆汁が濃縮されて黒色化し、泥のような状態で溜まってしまう病気。
□ 胆石症~胆嚢や胆管の中で、胆石と呼ばれる結石が形成される病気。
□ アジソン病(副腎皮質機能低下症)~副腎という臓器から分泌されるステロイドホルモンの量が少なくなり発症。
□ 腫瘍、腫瘤~腫瘍とは体の臓器や組織をつくる細胞が、本来のルールとは逸脱して過剰に増殖してできる塊。腫瘤とは体や臓器にできる塊のこと。
□ 肺炎~肺に炎症が起こる病気。
★「うちの子」の長生きのために、気になるキーワードや、症状や病名で調べることができる、獣医師監修のペットのためのオンライン医療辞典「うちの子おうちの医療事典 」をご利用ください。
例えば、下記のような切り口から、
【治療面】■ 再発しやすい ■ 長期の治療が必要 ■治療期間が短い ■ 緊急治療が必要 ■ 入院が必要になることが多い ■手術での治療が多い ■専門の病院へ紹介されることがある ■生涯つきあっていく可能性あり
【対象】■ 子犬に多い ■ 高齢犬に多い ■男の子に多い ■女の子に多い ■ 大型犬に多い ■小型犬に多い
【季節性】■春・秋にかかりやすい ■夏にかかりやすい
【うつるか】 ■ 他の犬にうつる ■ 人にうつる ■猫にうつる
【命への影響度】 ■ 命にかかわるリスクが高い
【費用面】 ■ 生涯かかる治療費が高額 ■手術費用が高額
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