ロシア・シベリア地方原産のサモエドは、ツンドラと呼ばれる極寒の地域で長い間遊牧民族と共に暮らしてきた歴史を持つ犬種です。サモエドは狩猟や護衛、ソリ引きなどの使役犬としての能力が高いだけでなく、豊かな被毛と大きな体格で人々を温めてきた優しき大型犬です。独特の微笑んだような表情は「サモエド・スマイル」と呼ばれ、イギリスの愛好家たちの間では「The Happy Breed(幸せな品種)」として親しまれています。
ここではそんなサモエドの歴史、特徴、性格、一緒に暮らす上での注意点やかかりやすい病気について詳しく解説します。
サモエドの歴史
サモエドは別名「シベリアン・スピッツ」とも呼ばれ、現在のロシア・シベリア地方のツンドラにおける遊牧民族であった「サモエド族」と暮らしを共にしてきた土着犬です。ツンドラは地下に永久凍土が広がる凍原で、そんな極寒の地においてサモエドは、トナカイの放牧やクマ狩りのサポート役、狼などからの護衛役、荷物やソリを引く使役犬としてサモエド族を長い間支えてきました。極限の環境下での作業能力や適応性を見込まれて、ロシアやノルウェーの南極探検隊のメンバーとしていち早く採用された犬種でもあります。1911年に人類史上初めて南極点へ到達したノルウェーの探検家・アムンゼンの部隊では、およそ50頭ものサモエドが採用され、共に南極の地を踏んだと記録されています。
19世紀にイギリスに持ち込まれたサモエドは、当時は現在のような純白の個体だけでなく、黒や茶色の個体もいましたが、イギリスでは真っ白の被毛が好まれたため、選択的に交配が繰り返され、白いサモエドだけが残っていきました。1909年には最初のスタンダードが誕生し、1912年にイギリスケネルクラブに公式認定されました。その後日本にも持ち込まれましたが、日本で飼育するには体格が大きすぎたため、サモエドにジャーマン・スピッツを掛け合わせて小型化した「日本スピッツ」が1950年代に大人気となりました。しかし、日本スピッツはジャーマン・スピッツ譲りの騒々しさが嫌厭されるようになり、近年では落ち着いた性格のサモエドの方が人気が高いと言われています。
サモエドの特徴
サモエドは、犬の祖先であるオオカミに遺伝子的に最も近いと言われる「原始的な犬」のグループに属する犬種です。
体高より体長がやや長く、全身に純白の被毛をまとったやや小さめの大型犬です。耳は立ち耳で、尻尾は緩やかな巻尾に優雅な飾り毛があります。アーモンド型をした瞳と、上向きにカーブした口角が微笑んだような表情を作り出すのが特徴で、「サモエド・スマイル」とも呼ばれています。
大きさ
ジャパン・ケネル・クラブ(JKC)では、理想体高をオスで57cm、メスで53cm、ともに上下3cmは許容範囲と定めています。
被毛
サモエドの最大の特徴は、雪のように白くてもふもふの被毛です。上毛と下毛からなるダブルコートで、毛が密に生えていることで寒さから体を守っています。
サモエドの毛色は、真っ白な「ピュア・ホワイト」、やや黄色味を帯びた「クリーム」、白に少しだけビスケット色のマーキングの入った「ホワイト・ビスケット」の3種類です。薄いブラウンは認められていません。
寿命
サモエドの平均寿命は10〜13歳とされています。
サモエドの性格
サモエドは常に人と密接に暮らしてきた歴史から、とても温厚で社交的な性格をしています。温和で遊び好きなため、家族には深い愛情を注ぎ、家族以外の人や犬にもフレンドリーに接することができます。また訓練能力が高いのでしつけもしやすく、小さなお子さんとも仲良くなることのできる犬種です。穏やかで人懐っこすぎるため、番犬や護衛犬には適していません。
一緒に暮らす上での注意点
夏は必ず室内で飼育を
極寒の地・シベリアで誕生したサモエドは、もふもふの被毛と皮下脂肪を持つため寒さには非常に強いですが、反対に日本の高温多湿の気候は苦手です。梅雨〜秋の間は必ずエアコンの効いた室内で過ごさせてあげましょう。
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毎日十分な運動を
サモエドは体力があり遊び好きな犬種なので、毎日1時間程度の散歩が必要です。ただし、冬の散歩は何の苦もなく喜んで行えますが、夏は暑さに気をつけて、朝晩の涼しい時間帯や日陰を選んで散歩させてあげましょう。
毎日のブラッシングを習慣に
サモエドのチャームポイントであるもふもふの被毛は、毛が密なため絡まりやすく、換毛期である春や秋には非常に多くの毛が抜けます。放置してしまうと毛玉や蒸れが起こりやすく、皮膚トラブルのもとになるので、できれば毎日のブラッシングを習慣づけて、下毛にも空気を入れてあげるとよいでしょう。
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シャンプーは月に1〜2回を目安に行いますが、トリミングは不要な犬種です。暑いからといって毛を短くしすぎてしまうと紫外線などの影響を受けやすく、かえって病気を引き起こしやすくなるので、カットではなくブラッシングをメインにケアしてあげましょう。
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サモエドのかかりやすい病気
熱中症
犬は体温調節が苦手な動物で、特に北方原産のサモエドやシベリアン・ハスキーなどの犬種は分厚い被毛と適度な皮下脂肪を持っているため、日本の暑さにはあまり適応できません。以前朝の情報番組の看板犬として活躍していたサモエドの兄弟が熱中症で亡くなったという痛ましいニュースも記憶に新しく、夏の屋外飼育や暑い時間帯の散歩、車内での留守番などは絶対に避けましょう。室内は犬の最適環境とされる気温25℃・湿度50%前後を目安に空調管理し、水はいつでも自由に飲めるように環境を整えてあげましょう。
熱中症を起こすと急激に体温が上昇し、口を大きく開けて苦しそうな呼吸をします。よだれを大量に出したり、嘔吐や下痢、ふらつき、目の充血などの症状のほか、酸欠によるチアノーゼ(舌の色が紫色になる)や意識障害を起こす場合もあり、早急に治療をしないと命を落とす危険性があります。
*詳しくは、ワンペディアの熱中症に関する獣医師監修記事を、
犬が熱中症になったときの応急処置の方法は?まずは、
胃拡張・胃捻転症候群
胃拡張・胃捻転症候群は、胃がガスでパンパンに膨れ(胃拡張)、さらにそれが捻れてしまうこと(胃捻転)によって起こる病気です。胃が捻転を起こすと急激に状態が悪化し、全身がショック状態に陥るため、早急に治療をしないと死に至る可能性のある救急疾患です。
サモエドを含む大型犬や、ボルゾイのような胸の深い犬種で多く、水や食べ物を摂取した直後の運動、早食い、1日1回の大量の食事、水のがぶ飲みなどがリスク因子となります。
胃拡張・胃捻転症候群を起こすと、えずき(何も出てこない嘔吐)、腹痛、お腹がパンパンに膨れる、苦しそうに呼吸する、よだれが大量にでる、ぐったりする、などの症状がみられます。
このような症状が、食直後〜食後3時間以内に起こることが多く、胃捻転を起こすと、胃だけでなく、脾臓やその他の血管も一緒に捻れて全身への血流も滞ってしまうため、次第にショック状態に陥ります。このような症状がみられた場合には、早急に動物病院を受診しましょう。治療は、開腹手術で胃の捻転を整復し、再び捻転を起こさないよう胃を体壁へ固定する処置が必要となります。
股関節形成不全
レトリバーやセント・バーナードをはじめとする大型犬に多い、股関節の病気です。股関節は本来、骨盤にある寛骨臼というくぼみに、大腿骨頭という大腿骨の先端が噛み合うような構造をしていますが、股関節形成不全はこの寛骨臼と大腿骨頭の発育がうまくいきません。そして成長とともに、股関節の変形や関節周囲の炎症が進行して、股関節が外れたり、緩みが生じる病気です。
軽度なものでは症状が出ないこともありますが、進行するにつれて、びっこをひく(跛行)、散歩を途中で嫌がる、ダッシュやジャンプを嫌がる、歩き始めにこわばる、左右に腰を揺らして歩く(モンローウォーク)、横座りをするなどの症状がみられます。
触診や歩様検査、レントゲン・CTなどの画像検査によって診断され、治療には減量・運動制限・薬などによる内科治療と、手術による外科治療があります。
サモエドも股関節形成不全の発症リスクが高い犬種だとされているため、症状がない場合でも、骨の成長が完了する1〜2歳の間に動物病院でX線検査を受けることが推奨されています。
★犬種別病気ガイド『サモエド』もご覧ください。
★うちの子の長生きのために、気になる病気について簡単に調べることができる、「うちの子おうちの医療事典」もご活用ください。
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