犬は世界的にも早くから家畜化されて人と歴史を共にしてきました。日本でも飼い犬としての歴史は古く、縄文時代から人と一緒に暮らしていたようです。日本人にとって犬はどのような動物だったのか?現在私たちと暮らす犬とどのような違いがあったのか?今回は日本における犬の歴史について解説します。
縄文犬と弥生犬。複雑な日本犬のルーツ
狩猟のために飼われた、縄文犬
縄文時代のおよそ400もの遺跡から、犬の骨が見つかっています。このことから、すでに縄文時代にはイエイヌ、いわゆる縄文犬が日本にいたと考えられます。最も古い埋葬事例は、縄文時代早期の愛媛県上黒岩岩陰遺跡や佐賀県夏島遺跡から出土した犬の骨で、小型~中型の犬だったそうです。おそらく狩猟用に飼われていたのでしょう。ルーツについては日本犬と韓国犬、モンゴル犬の遺伝子が近いことが解明されており、東北アジアから韓国へ移入した犬がさらに日本へ渡ったことが指摘されました。ただし日本犬の中には東南アジアの犬と同型の遺伝子を持つものがいて、ルーツが1つではないことも示唆されています。
食用になった、弥生犬
縄文時代が終わる時代、朝鮮半島から人が渡ってきますが、その時一緒に犬も渡来しました。弥生犬です。縄文犬よりもやや大きく、四国犬に似た姿だったとされています。この時代になると人々は農耕を初め、犬の用途が大きく変わりました。愛犬家にはちょっと辛いのですが、食用として解体された証拠が長崎県の辻遺跡から見つかっているのです。あまり知られていませんが、日本では犬を食べる習慣が長くあり、明治まで続いていました。
弥生犬はその後縄文犬と交雑し、現在の小型~中型の日本犬の元となりました。
日本人と犬との関りとは?
6世紀に入って仏教が伝来すると仏教によって肉食が禁止され、犬は使役犬として飼われるようになりました。日本最古の正史とされる日本書紀には、屯倉というヤマト王権の地方行政組織の守衛として犬を飼い、その専門職として犬養部(いぬかひべ)を設置したと記載されています。しかし基本的には野放しであり、食用も完全にはなくならず、犬の立場は変わらず厳しいものだったようです。ただし全く可愛がられていなかったかというとそうではなく、愛玩される犬もいました。同じく日本書紀に「捕鳥部萬の白犬」の墓をつくったことや、新羅から愛玩犬(おそらく狆だった)がもたらされたとの記述があります。
奈良~平安時代は猫派の時代
奈良から平安時代では、犬は貴族の間で流行った鷹狩のお供として仕えたり、番犬として飼われたりするなど使役犬としての役割が大きかったようです。愛玩動物としては猫のほうが可愛がられていました。平安時代の絵巻物には、貴族の屋敷の縁の下で暮らす犬が描かれています。野良犬が住み着き、あわよくば主や使用人からおこぼれをもらっていた生活をしていた姿です。さらに、神道の影響で犬はけがれとされ、貴族たちにとってあまり好ましい存在ではありませんでした。
鎌倉~江戸時代に続く苦難
猫は室内で繋がれて大切に飼育されていた一方、犬は放し飼いにされ、野良犬も多くいたようです。鎌倉時代には犬追物(いぬおうもの)という弓術の鍛錬法がありました。馬場の中で犬を追い、制限時間内に何匹の犬を射抜いたか(殺傷能力のない先の丸い矢を使いました)を競うものです。また、鎌倉時代~南北朝時代に「犬合(いぬあわせ)」という闘犬が流行し、さらに南北朝~戦国時代になると、犬は戦争のための軍用犬や伝令犬、偵察犬として使役されるようになります。当時は愛玩というよりも使役犬としての役割が大きかったのでしょう。使役犬として忠誠を尽くし、命を失った忠義犬のための犬塚やお墓は全国各地に残っています。
生類憐みの令から変わる犬への意識
江戸時代に入ると5代将軍綱吉によって「生類憐みの令」が発令され、特に犬に対して手厚い保護政策がとられました。犬を傷つけたものは死罪、広大な犬の保護所「御囲」をつくる、繋がないで飼うといったさまざまな法令が発布されたのです。この法令はこれまで天下の悪法とされてきましたが、動物にとどまらず人の福祉の先駆けとして現在は見直されつつあります。これをきっかけにして人々の犬への意識が変わり、役に立たなければ即処分といったことが徐々に減っていき、江戸時代後期には裕福層の間で愛玩動物として飼われるようにもなりました。
難局を超えて日本人のパートナーへ
明治維新後、西洋の価値観とともに洋犬が本格的に流入するようになると、犬を放し飼いにせず、ペットとして繋いで飼うという概念が人々の間で生まれました。同時に食用にすることもほぼ消滅します。ところが日本が世界大戦へと突入すると、再び犬に難局が訪れます。負傷兵や爆弾の捜索、伝令に使われ、多くの犬が戦地で死にました。さらに、毛皮や革をとるために犬も猫も大量に殺されたのです。これは戦争が終わるまで続きました。
終戦後再び洋犬が流入してペットを飼うことが一般化し、1973年に動物愛護法が成立したことで虐待が禁止され、ようやく犬に平和が訪れました。犬が庶民からペットとして扱われるようになったのは実はごく最近のことだったのです。
今や家族であり欠かせないパートナーとなりましたが、犬の悲しい過去を私たちは忘れてはいけません。これからは、かけがえのない存在として犬と人間との真の共生を目指すことが大切でしょう。
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例えば、下記のような切り口から、さまざまな病気やケガを知ることができます。 健康な毎日を過ごすため、知識を得ておきましょう。
【治療面】■ 再発しやすい ■ 長期の治療が必要 ■治療期間が短い ■ 緊急治療が必要 ■ 入院が必要になることが多い ■手術での治療が多い ■専門の病院へ紹介されることがある ■生涯つきあっていく可能性あり
【対象】■ 子犬に多い ■ 高齢犬に多い ■男の子に多い ■女の子に多い ■ 大型犬に多い ■小型犬に多い
【季節性】■春・秋にかかりやすい ■夏にかかりやすい
【うつるか】 ■ 他の犬にうつる ■ 人にうつる ■猫にうつる
【命への影響度】 ■ 命にかかわるリスクが高い
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