虎のような模様が特徴的な甲斐犬。秋田犬に次いで1934年に国の天然記念物に指定され、現在でも猪や鹿の猟犬として活躍する個体も存在する日本を代表する日本犬です。甲斐犬の最大の特徴である虎模様には、実は3つの種類があることをご存知ですか?また甲斐犬は、家庭犬として飼育するには少し注意が必要な犬種です。

ここでは甲斐犬の歴史・特徴・性格・一緒に暮らす上での注意点・かかりやすい病気について詳しく説明します。

 

 

甲斐犬の歴史

 

甲斐犬は、現在の山梨県の山岳地方である「甲斐国(かいのくに)」に土着していた中型犬が基礎と言われている日本原産の犬種です。山岳地方の限られた環境の中で自然交配が行われたり、猪や鹿の猟犬としての選択交配が繰り返されてきたこと、また、犬種内での集団性が強く他の犬種を寄せ付けなかったことなどが要因となって、長い時間をかけて純血化した犬種であるとされています。甲斐国にいた土着犬の起源は、1700年代ごろと言われていますが、はっきりとしたことは分かっておらず、北方のスピッツに属する犬が大元のルーツではないかとの説もあります。

子犬時代は黒を基本とした毛色ですが、成長とともに虎のような差し色が入ることから「甲斐虎(かいとら)」という愛称でも親しまれています。

1929年に発見され、1931年には「甲斐日本犬愛護会(現在の甲斐犬愛護会)」が発足、1934年には国の天然記念物に指定されました。

甲斐犬には四肢がすらっとした「鹿型」と、ずんぐり体型の「猪型」の2つのタイプがあり、さらに骨格の構成や被毛・顔つきなどにこだわりのある繁殖家が多く、現在ではJKC(ジャパンケネルクラブ)の他にも甲斐犬愛護会や日本犬保存会など各団体によって犬種のスタンダードが異なるため、それぞれの団体から血統書が発行されています。

 

 

甲斐犬の特徴

 

 

甲斐犬は山岳地方で猟犬として活躍してきたキャリアのある犬らしく、全身が筋肉質で引き締まったスタイルの持ち主です。耳は立ち耳で、尻尾はくるりと巻いた「巻尾(まきお)」もしくはまっすぐな「差尾(さしお)」です。チャウチャウや北海道犬など北方起源のスピッツ類と同じように、舌の色が青黒い個体も多く存在します。

 

毛色・被毛

「虎毛」と呼ばれる、差し色が入った虎のようなカラーが甲斐犬の最大の特徴です。

黒地に茶褐色の虎模様が入った「黒虎」が最も一般的で、この他に、茶〜薄茶のベースに黒の虎模様が入った「赤虎」と、薄い黒地に茶褐色の虎模様が入った「虎(虎毛、中虎)」の3種類があります。単色の個体も稀に生まれるようですが、虎毛でない甲斐犬は公認されない団体がほとんどのようです。

被毛は、まっすぐなオーバーコート(上毛)と柔らかいアンダーコート(下毛)から成る二層構造をもつダブルコートの犬種です。

 

大きさ

JKCでは理想対高を、オスで50cm、メスで45cmとし、それぞれ上下3cmまでと規定しています。平均体重は12〜18kgの中型犬です。

 

寿命

甲斐犬の平均寿命は12〜16歳とされています。

 

甲斐犬の性格

甲斐犬は一人の飼い主に一生使えるという意味の「一代一主」という言葉で表されるほど、強い忠誠心を持つ犬種です。甲斐犬は現在でも猟犬として活躍する個体もいることから、気性の荒さや警戒心をある程度あえて残すように繁殖されています。そのため、愛玩犬として振る舞うのはとても苦手です。

欧米では、主人ひとりに生涯連れ添う犬を「ワンマンズ・ドッグ」と呼び、愛玩犬化されていない猟犬らしい犬を求める人々の間では人気があるようです。

 

 

一緒に暮らす上での注意点

はじめて犬を飼う方には難しい犬種です

猟犬として現役で活躍し、気性の強さが特徴の甲斐犬は、はじめて犬を飼う方や愛玩犬として飼育したい方には不向きな犬種です。特に、日本犬を飼育した経験のない方には、非常にハードルが高いです。「一代一主」の精神からもわかるよう、生涯でたった一人の飼い主を守りきるという気概のある犬種のため、ブリーダーや元の飼い主から譲渡された後に、新しい飼い主や家に馴染むのが大変難しいケースが多いです。また、運動量も多く力も強い犬種のため、飼い主には体力やしつけへの根気が強く求められます。

甲斐犬の飼育を検討している場合には、これらのことを踏まえてご家族で十分話し合い、飼育環境を整えたり、トレーニングの計画をあらかじめ立てるなどしっかりとした準備が必要です。

 

十分な運動を

筋肉質で脚力も強い甲斐犬は、日頃から十分な運動量が必要な犬種です。30分〜1時間程度の散歩を1日2回を目安に、コンスタントに外に連れ出してあげましょう。運動不足はストレスの元となり、攻撃性を高めてしまったり、問題行動にもつながります。

散歩や屋外での運動の際には、リードは短めにしっかりとキープし、家族以外の人や動物に接触しないよう注意しましょう。気の強い甲斐犬は、少しの接触でもトラブルや怪我に繋がる危険性があります。

 

 

かかりやすい病気

甲斐犬は遺伝性の病気が少ない犬種ですが、柴犬や甲斐犬などの日本犬は皮膚炎を起こす病気にかかりやすいと言われています。中でも甲斐犬は、猟犬として現役で活躍している個体も多く、外部寄生虫にかかりやすいので、皮膚炎を起こす代表的な外部寄生虫疾患3つをご紹介します。

 

ノミ

現役の猟犬や、近くに山などがある場所での屋外飼育をされている甲斐犬では特に注意が必要です。犬が感染を受けるのはイヌノミとネコノミの2種類で、いずれも肉眼で確認することができます。ノミが寄生するとアレルギー性皮膚炎を起こし、全身、特に腰〜お尻の辺りを異常に痒がったり、湿疹や脱毛を起こす場合があります。そんな時には被毛をよく観察し、黒いゴマのようなノミの糞が付いていないか、ノミの成虫がカサカサと動いていないかなどをチェックしてみてください。ノミは吸血昆虫のため、大量に寄生すると貧血を起こしたり、人間や他の動物にも寄生してしまうこともあります。早急に駆虫薬で治療しましょう。

また、ノミは予防薬の投与でしっかり予防することができるので、動物病院で予防薬を定期的に処方してもらいましょう。

 

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マダニ

マダニは世界各地に生息し、特に山林や草むらなどに潜んでいることが多い外部寄生虫です。犬に寄生すると吸血による貧血や皮膚炎を起こしたり、バベシア症などの命に関わる病気を媒介します。

また、マダニの恐ろしいところは、人への感染例も多数報告されていることです。代表的な病気には、皮膚症状や神経症状・関節炎を起こす「ライム病」、発熱や全身の発疹を起こす「日本紅斑熱」、発熱や消化器症状・皮下出血などを起こす「SFTS(重症熱性血小板減少症)」などがあり、中でもSFTSは日本でも死亡例が報告されているとても危険な感染症です。

 

犬のマダニ予防法:定期的な予防薬の投与が重要。外出後には全身にマダニが付いていないかチェックする。特に顔まわりや耳、指の間など被毛の薄い部分は念入りに。もし犬にマダニが付着していることに気づいたら、無理に取ろうとせず、すぐに動物病院を受診しましょう。やみくもに取ろうとすると、マダニの口の部分が残ってしまう場合があります。

 

人のマダニ予防法:散歩や猟で山林や草むらに入る際には、長袖長ズボン・帽子を着用し、肌の露出を最小限にする。特に首・手首・足首・頭などはよく保護する。帰宅時には外で上着を脱ぎ、全身をよくはたいてから家に入る。万が一咬まれてしまった場合には病院を受診し、数週間は体調の変化に注意して過ごしましょう。

 

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疥癬

疥癬とは、イヌセンコウヒゼンダニというダニが皮膚に寄生することで強烈な痒みを伴う皮膚炎を起こす病気です。ヒゼンダニは皮膚の中にトンネルのようなものを掘って、脱毛や紅斑、湿疹、強く掻くことによる出血などを起こします。

ヒゼンダニは成虫でも0.2〜0.4mmと非常に小さく、肉眼で見つけることはできません。診断には、皮膚を引っ掻いて顕微鏡で観察する掻爬試験が必要で、治療には安全性の高い駆虫薬を用いることが一般的です。

また、疥癬は人にも感染することがあるので、犬の皮膚に異常を感じたら、早急に動物病院を受診しましょう。

 

*関連記事☞「犬の疥癬【獣医師が解説】

 

 

★犬種別病気ガイド『甲斐犬』もご覧ください。

 

★『日本犬』に関するワンペディアの獣医師解説記事はこちらをご覧ください。

 

 

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フクナガ動物病院 獣医師

福永 めぐみ

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