人間の中では身近な病気となっている「うつ病」。深く落ち込む状態が長期間続くなどの症状が見られ、最悪の場合死に至る(自殺)ケースもある精神的な病気です。私たち人間のあいだでは有名な病気ではありますが、犬にもうつ病というのはあるのでしょうか?

犬は心の病にかかることはあるの?

犬にうつ病はある?

心の病というのは非常に複雑です。様々な種類がある心の病の中のひとつに、うつ病があり、そしてうつ病にもたくさんの種類があります。そのため、医者がある患者さんをうつ病だと診断するためには、その患者さんがどのような気持ちでいるのかを知ることが不可欠なのです。深く落ち込むときのきっかけや頻度、どの程度落ち込むのかなど、患者さんの心の中をきちんと知る必要があります。

しかし、犬は言葉を話すことはできませんので、犬がどのような気持ちでいるのかを正確に理解することは、現代の医療や技術では不可能です。そのため、犬にもうつ病があるかどうかは、今のところ判断することはできません。もしかしたらうつ病の犬もいるかもしれませんが、犬の心の中を知る術がないので、うつ病という診断を下されることはないのです。

ただし、心の病にかかる犬はいます

うつ病があるかどうかはわかりませんが、犬にも心の病はあります。具体例をいくつかご紹介しましょう。

分離不安

犬は本来、群れで行動する生き物ですので、お留守番はあまり得意ではありません。子犬の頃に長期のお留守番をさせられたり、飼い主さんが何度も変わったなどの経験をきっかけとして、分離不安に陥る場合があります。

一人になるのが不安で、お留守番中に吠え続けたり、家の中を破壊したりするなどの行動をとるようになります。ひどい場合には、飼い主さんがお風呂に入る程度の距離感ですら、不安を感じてしまうこともあります。

常同障害

 

自分の尻尾を追いかけ続ける、皮膚を舐め続ける、毛をむしり続けるといったような行動です。ひどい時には自分の身体を傷つけてまでも、ひたすらその行動を延々と繰り返します。その行動をしていないと、落ち着かない状態になってしまうのです。これは人間の「強迫性障害」という病気によく似ています。人間では、例えば手の汚れが気になって手を何度も洗わないと気が済まないといったものや、外出や就寝の際にカギをかけたのかが気になり、何度も何度も戻って確認するといったものが有名ですよね。

ちなみに、人間の場合は「手を洗わなければ」「戸締りを確認しなければ」という強迫観念が原因で引き起こされている状態なので「強迫性障害」という病名が使われますが、やはり犬に強迫観念があるかどうかは確認ができないため、犬の場合は「常同障害」という診断名が使われます。

犬の心の病、どうやって治療するの?

Australian Shepherd Mischlingこれらの病気は犬が強く不安を感じることで引き起こされるとされています。不安な気持ちが原因で心に病を負い、その症状として、物を破壊する、吠えるなどの問題行動を起こしているのです。そんな状態の子を叱ってしまうと、より症状を悪化させることとなってしまうので、叱ることはやめてください。うつ病の人に「がんばれ」と言ってはいけないのと同じです。犬の心の病は動物行動治療の獣医師が治療できますので、不安がある方はそういった専門家に相談してみるといいでしょう。

抗うつ剤を使用することも

行動治療の一環で、抗うつ剤を処方することがあります。抗うつ剤には不安を和らげる作用があるため、心の病の原因となっている犬の不安な気持ちを落ち着かせてあげるために使用します。

ただし、飼い主さん自身の判断で人間用の抗うつ剤を与えるのは絶対にやめてください。抗うつ剤にもいろいろな種類があり、副作用もさまざまです。人間に現れる副作用とは違う副作用が犬に現れる場合もあります。服用する量や回数も人間とは異なりますので、必ず獣医師の指導に従ってください。

 

心の病は複雑で、人間の精神疾患ですら、まだまだ解明されていないことは多いと言われています。いつか脳の精密検査などで犬の気持ちを客観的に診断できるようになれば、犬の心の病もより解明される日が来るかもしれませんね。

菊池 亜都子
東京大学附属動物医療センター 行動診療科

菊池 亜都子

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