新しく犬を家族に迎えたとき、飼い主さんが必ず考えなければならないのが、愛犬の避妊問題についてです。避妊手術を受けさせたほうがいいのか、受けさせないほうがいいのか、その選択にはどんなリスクがあるのか…。愛犬に避妊手術を受けさせるかどうかは、非常に繊細で難しい問題なので、絶対的な正解というのはありません。飼い主さんが正しい知識を持って、愛犬の幸せをしっかり考えた上で判断する必要があります。ここでは獣医師監修のもと、避妊手術による影響や具体的な流れについて解説していますので、ぜひ参考にしてみて下さい。

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避妊手術とは

通常、犬のメスは生後6~12ヶ月で成犬としての体ができあがり、妊娠できるようになります。その後は定期的に発情期を迎えて、子犬を出産できるようになるのです。避妊手術とは、メス犬の子宮と卵巣、もしくは卵巣のみを摘出することで、妊娠できない体にするためのものです。

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愛犬に避妊手術を受けさせたらどうなるの?

避妊手術を受けさせると、当然妊娠はできなくなりますが、その他にも色々な影響があります。飼い主さんはその影響についてきちんと吟味した上で、判断をする必要があります。

病気の予防につながる

避妊手術をすると、メス特有の病気にかかりにくくなるというデータがあります。代表的な病気を挙げてみましょう。

乳腺腫瘍

名前の通り乳腺にできる腫瘍で、メス犬では最も多い腫瘍だと言われています。発症すると50%が良性、50%が悪性と言われていて、悪性の場合は肺転移などを起こし亡くなる事もある病気です。初回発情前に避妊手術を行った場合は、99.95%という高い確率で発症を防ぐことができます。ただし、1回目の発情を迎えてしまってから手術をした場合、予防できる確率は92~94%へと落ち、さらに2回目の発情を迎えてしまったあとに手術をした場合は74%と減っていきます。発情を迎える度に予防できる確率は落ちていくため、発情期前の避妊手術を推奨する獣医さんは多いのです。

子宮蓄膿症

外部から細菌が入りこんで子宮の中で増殖し、子宮内に膿が溜まる病気です。やがて、たまった膿で子宮がパンパンに膨らみます。そして子宮が破裂するなどして、子宮内の膿が全身に回ってしまうと、ショック症状を引き起こして死んでしまう可能性がある、非常に恐ろしい病気です。また、中高齢で発症するため、発症したときには麻酔リスクやショック症状を起こす可能性が高くなります。詳しくは、『避妊手術をさせていない子は要注意!犬の子宮蓄膿症【獣医師が解説】』をご覧下さい。

 

☞『うちの子おうちの医療事典』で「子宮蓄膿症」の詳しい解説を読む

 

発情中のストレスを減らすことができる

発情期は年に1~2回の頻度でやってきて、10日間ほど続きます。発情期間中のメス犬は「落ち着かない」「食欲がない」「不安そう」「オスの近くへ行きたがる」など普段と違った様子を見せます。ストレスを感じやすい時期で、神経質になる犬もいます。普段とあまりにもかけ離れたような行動を示すこともあり、飼い主さん側がショックを受けるケースもあるようです。『犬が発情期を迎えたときに気をつけたいこと【獣医師が解説】』の記事で、発情期について詳しく解説しているので、あわせて読んでみてください。避妊手術によって、こういった発情中のストレスを減らすことができます。

生理トラブルに悩まない

メス犬は、早ければ生後6か月を過ぎた頃から、発情期の前に8日間ほど出血が見られるようになります。(一般的に「犬の生理」と呼ばれています。)出血量には個体差がありますが、人間のように大量に出血をすることはなく、少量垂れる程度の出血です。とはいえ、家具や床を汚してしまうこともあるので、清潔な環境を維持してあげるために、血が垂れたら都度ふき取ってあげる必要があります。ちなみに、生理用おむつなどのような対策グッズはありますが、おむつを履かせたままオシッコやウンチをすると皮膚が蒸れてしまうので、一般的にはおむつを一度脱がせてからトイレをさせます。そうすると、飼い主さんは家を長時間空けることが難しくなります。このような生理の対策についても、避妊手術をすれば考える必要はなくなります。

避妊手術を受けることで負わなければならないリスク

避妊手術にはいい面ばかりではありません。ここでは避妊手術を受けさせることで考えなければならないリスクを解説します。

全身麻酔のリスク

未だに解明されていない麻酔のメカニズム

避妊手術は、全身麻酔のもと行われます。この全身麻酔、実は非常に繊細なものなのです。麻酔の薬剤が脳に届くことで意識がなくなっていくのは、人も動物も同じなのですが、麻酔薬が脳にどのように作用していくのかという詳しいメカニズムについては、現代の人間の医療においても未だに解明されていません。

麻酔から覚めないケースがある

投与する麻酔の量が適性量よりも少ないと効果は得られず、反対に多いと麻酔から覚めることができずに、そのまま亡くなってしまうことがあります。犬が麻酔によって死に至るケースは稀ではあるものの、可能性はゼロではありません。動物病院でもきちんと説明をされると思いますが、麻酔によるリスクについて解説している書類に同意のサインを求められることもありますます。特に健康状態が良好ではない場合は、麻酔によるリスクが大きくなるため、事前の検査をきちんと受けさせてあげるといいでしょう。

尿失禁

避妊手術との関連性は証明されていませんが、避妊手術をした大型のメス犬に尿失禁が起こる可能性があります。

愛犬に避妊手術を受けさせる判断をしたら

避妊手術に対する考え方は人によって様々です。「避妊手術を受けさせてあげたい」と思うことも、「避妊手術はしたくない」と思うことも、間違いではありません。誰よりその子の近くにいる飼い主さんが、その子の幸せを考えて出した結論であれば、きっとそれが正しい判断なはず。ここでは、「避妊手術を受けさせてあげたい」という飼い主さんのために、避妊手術の流れや注意点などを解説します。

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避妊手術の流れ

一般的には以下の流れで避妊手術を行います。

予約

かかりつけの獣医さんと相談しながら、適切な時期を決めて手術を行います。

術前検査

手術当日かもしくはその前に、健康体かどうか、全身麻酔をかけても問題がない体かどうかをチェックします。問診・触診・聴診などの身体検査のほか、血液検査・レントゲン検査・超音波検査・尿検査などを行うこともあります。

手術当日

全身麻酔をかける前になにか食べてしまうと、食べ物や唾液、胃液などが気管に入ってしまう可能性があるので、基本的に絶食となります。お水を飲んではいけない場合もあるので、獣医さんの話をよく聞いておきましょう。

手術が終わったら・・・

手術後は傷口の消毒をし、麻酔から覚めるのを待ちます。状態が安定すればおうちに帰っても問題ないので、通常であれば半日~1日程度でおうちに帰れるでしょう。なにかあったときにすぐ対処できるよう、帰宅後はできるだけ一緒にいてあげてください。また、以下のポイントにも注意してください。

傷口が開かないように

帰宅後は激しい運動を避けましょう。また、傷口を舐めさせないようにすることも重要です。エリザベスカラーをしていても傷口に届いてしまったり、傷口が開いたりしている場合は、すぐに獣医さんに相談するようにしましょう。

ごはんの量

全身麻酔をした後に、いきなり大量のごはんを与えてしまうと、吐いたり体調を崩してしまう場合があります。ごはんの量は先生と相談して決めましょう。

抜糸

術後、1週間程度で抜糸となります。

避妊手術の適正時期は?

避妊手術の適正時期は、2つのポイントが大切です。麻酔に耐えられる体の大きさと体力を持つまでに成長していること、そして最初の発情期を迎える前に行うこと。発情期は早い子だと生後6ヶ月頃に訪れるので、避妊手術を受けさせると決めた場合は、6ヶ月齢よりも前に獣医さんに相談しましょう。

避妊手術の費用と時間は?

犬種やその子の状態によっても変わりますが、手術の時間はだいたい40~60分くらいです。料金はだいたい4~10万円程度ですが、この金額の中に手術前の検査が含まれるかどうか、事前に確認をしておくことをおすすめします。金額、流れ、時間などは動物病院により異なるので、確認しておくといいでしょう。

避妊手術において、飼い主さんが注意すべきこと

手術前

子犬に避妊手術を受けさせる場合は、事前に動物病院に慣らしておきましょう。動物病院に慣れないまま、生後6ヶ月ごろの多感な時期に、飼い主さんから引き離されて、痛くて怖い思いをすると、動物病院嫌いになってしまうこともあります。ひどい場合は治療ができないほど、暴れたりすることもあるので、愛犬を動物病院嫌いにさせないためにも、動物病院には定期的に通っておくといいでしょう。体重を量ってもらうためだけに連れていっても、なんの問題もありません。獣医さんにお願いして、獣医さんからおやつを与えてもらうのもオススメです。手術前になるべく動物病院に対する不安を取り除いてあげてください。

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手術後

避妊手術をすると繁殖のために使うはずのエネルギー消費が不要になります。また、基礎代謝が下がるので、手術前の食事量と同じ量を食べていると、太ってしまうことがあります。避妊後は食事の量は獣医さんと相談して調節しましょう。

 

避妊手術を受けさせるかどうかを判断することはとても難しいですよね。どんな生き方が、その子にとって幸せなのか、また一緒に暮らすうえでどんなカタチが理想なのか。考え方は飼い主さんそれぞれだと思います。その子の体質や性格によっても選択は異なると思いますので、家族やかかりつけの獣医さんとよく相談した上で判断するようにしてくださいね。

 

★うちの子の長生きのために、気になる病気について簡単に調べることができる、「うちの子おうちの医療事典」もご活用ください。

 

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