愛犬の行動に悩まされることってありますよね。トイレを覚えてくれない、甘噛みが激しい、無駄吠えが直らないなどなど。このような行動は「治療」することができるってご存知ですか?治療ではなく、しつけ直すと言ったほうが正しいのでは?と感じた飼い主さんも多いと思うのですが、行動治療としつけは少し意味が違うのです。

行動治療ってなぁに?

犬はどうして問題行動を起こすの?

犬は生き物ですから、当然意思を持っています。人間のように言葉を話せるわけではないので、仕草や行動、表情などで飼い主さんに自身の意思を伝えようとします。しかし、犬が必死に伝えようとしていることに飼い主さんが気付けずにいると、犬はストレスを感じてしまうのです。

私たち人間も、大切な人に自分の気持ちをわかってもらえないと、強いストレスを感じますよね。それと同じような状態です。そして抑えきれなくなったストレスが問題行動に発展しているというケースは、実は非常に多いのです。

行動治療の考え方

動物行動学という分野があります。犬が持っている習性や、犬の行動から読み解けるサインを研究するものです。行動治療はこの動物行動学に沿って行われます。犬の発しているサインを読み解き、その子がなにに対してストレスを感じているのか、なぜ問題行動を起こすのかを探ります。

飼い主さんが気付いていない原因を探り、その子が落ち着ける環境づくりや飼い主さんの接し方を見直していきます。中には、病気が原因となって問題行動を起こしている可能性もあるので、その場合は病気の治療も行います。

ドッグトレーナーと行動治療の違い

しつけをしてくれるのはドッグトレーナーですよね。行動治療の専門家とドッグトレーナーの違いが少しわかりにくいかもしれませんので、人間世界に置き換えてみましょう。ドッグトレーナーは「学校の先生」です。その子が問題行動をしないように見守って、指導してくれる存在です。

対する行動治療学の専門家は「心理カウンセラー」に近い存在だと思ってください。その子が問題行動をした時に原因を探り、原因となっているものを取り除くことを専門としています。心理カウンセラーというとおおごとのような印象を受ける方もいらっしゃるかもしれませんが、動物行動治療自体は気軽に相談できるところですよ。

行動治療はどんな時に行くの?

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ポイントは飼い主さんが困っているかどうかです。愛犬の行動にもしお困りなのでしたら、一度行動治療の相談に行くといいでしょう。「困っているとき」というとあまりピンとこないかもしれないので、例を使ってご説明します。

たとえば、宅配便業者や来客に対して吠える犬がいたとします。自分のナワバリに侵入してきた者に対して、吠えて追い払おうとすることは、犬としてはまったく正常な行動です。

このとき、飼い主さんが住んでいるおうちが一軒家だったり、ご近所さんと離れているのであれば、吠える愛犬に対して「やれやれ、またか。」と思う程度で済むかもしれません。

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しかし、飼い主さんが閑静な住宅街やマンション住まいであれば、愛犬の吠え声からご近所トラブルに発展する可能性もありますし、「やれやれ」では済まされない場合があります。こうなると犬の吠えるという行動をコントロールしなければなりませんよね。

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このように、同じ吠えるという行動ではありますが、治療が必要かどうかはそのときの状況に応じて異なります。飼い主さんの「困った」が、治療に踏み切るきっかけと考えてもらっていいでしょう。

また、吠える理由が来客やチャイムなどのように明確であればいいのですが、「なぜ吠えているのかわからない」「なにがきっかけかわからない」のであれば、下手なトレーニングは逆効果になる場合もあります。そのような場合も、行動治療によって原因を探ることをオススメします。

実際はこんな方たちが治療に来ています。

□ 愛犬が家族に対して攻撃的になってしまった

□ 愛犬の問題行動に対して、イライラしてしまうようになった

□ 吠える声がうるさくて、ご近所トラブルになってしまった

□ 愛犬が自身の体を傷つけるような行為をするようになってしまった

□ 愛犬と意思疎通が取れなくなってしまった

など

行動治療の流れ

まずはカウンセリングからスタート

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最初はカウンセリングから始まります。愛犬の年齢、性別、不妊手術の有無から始まり、その問題行動が始まった時期や、最近起きた問題行動の詳しい状況、問題行動が起きるきっかけ、その行動に対して飼い主さんが取った対応など、問題行動についての情報をできる限り詳しく教えてもらいます。その他にも、愛犬の1日の生活パターンや食事や排泄のことなど、一見問題行動そのものとは関係ないかも・・・と思われるような内容も、実は大いに関係していることもあるので、合わせてお聞きします。電話での相談を受け付けている場合もありますが、実際に話をしてみて初めてわかることもたくさんあるので、できれば直接先生と会って話をした方がいいでしょう。

病気が原因になっているかどうかを確認

夜鳴きや吠え、攻撃的な態度を取る場合、病気が原因になっている場合があります。痛みが原因で気が立っていたり、体調の悪さが不安となって夜鳴きに発展する場合もあるのです。詳しいお話を伺った上で、問題行動の原因として医学的な疾患の可能性が考えられる場合には、検査をすすめる場合があります。行動治療を行っている病院でそのまま検査に進む場合もありますし、かかりつけの病院にお願いすることもあります。検査をして異常が見つかれば、当然その治療をまず優先します。

問題行動の治療へ

病気が原因になっている可能性が低いと思われた場合には、問題行動の診断をして治療に進みます。

誤解される方が多いのですが、行動治療は内科や外科などと違い、飼い主さんが主体で行います。行動治療の獣医師は、動物行動学に基づいた犬にとって無理のないトレーニングを紹介したり、環境を改善するアドバイスをしたりして、飼い主さんが無理なく行えるような行動治療の方法を提示します。場合によっては、補助的に薬物療法や外科的療法を選択することもあります。この点も、犬を実際に訓練するトレーナーさんとは大きく異なるポイントです。

そして長期的に飼い主さんとコミュニケーションを取り合って進捗状況を確認します。再診という形で直接お会いする場合もあれば、電話やメールを使う場合もあります。最初に提示したやり方でつまずいた時には、別の方法を提案することもあります。そして、問題行動がなくなった時点で、あるいは飼い主さんが満足した時点で、行動治療は終了となります。

行動治療の落とし穴

愛犬の行動に困ったとき、自分たちのしつけの仕方に問題があると思い込んでしまうのはよくあることです。「うちの子はまだ治療を受けさせるほどではない」と考える方も多いでしょう。そして、本やネットの情報を頼りに我流でしつけをしようとしたり、その子に合わない訓練やトレーニングを繰り返し行うことで、問題行動がどんどん悪化してしまいます。そうして愛犬の状態が自分自身で手がつけられなくなるほどに悪化してから、ようやく行動治療にたどり着くケースが非常に多いのです。

問題行動は、その期間が長ければ長いほど、治すのに時間がかかります。そうすると、飼い主さんの精神的な負担も大きくなってしまいますし、なによりも愛犬がかわいそうですよね。行動治療も通常の病気と同じように、早期発見・早期治療がとっても大切です。「うちの子はまだ大丈夫」と決め付けないで、いま飼い主さんが困っていると感じたら、気軽に相談してみてくださいね。

菊池 亜都子
東京大学附属動物医療センター 行動診療科

菊池 亜都子

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