犬は、人間にとって良きパートナーです。
しかし、犬による咬傷事故のニュースが報道されることもあります。
大きくて、力の強い犬も一般の家庭で飼育することはできるのでしょうか?
実際に、日本で飼育が禁止されている犬種はあるのでしょうか?
特定動物とは?日本で飼育してはいけない犬種がいるの?
特定動物とは人に危害を加えるおそれのある危険な動物とその交雑種を指します。
令和2年6月1日から愛玩目的等で飼養することが禁止されました。
特定動物に選定されている動物は、ジャッカル、コヨーテやチーターなどの動物園などで見かける動物で、この中に一般的にペットとして飼育される犬や猫などは含まれていません。
そのため、日本で飼育が禁止されている犬種はありません。
ただし、県や市の条例で『特定犬』として定められた犬種はあり、それらの犬は飼育に遵守事項が設けられています。
特定犬とはどんな犬?どの地域で定められてるの?
特定犬とは、人に危害を加える恐れのある犬や咬傷事故を起こした際に重大な事故になる可能性が高い犬などを、犬種や犬のサイズによって各自治体の条例で定めているものです。
現在日本では、
札幌市
茨城県
水戸市
佐賀県
が特定犬制度を導入しています。
日本では国内で狂犬病が発生した際に迅速な対応を行うために、生後91日以上の全ての犬に登録(畜犬登録)が義務付けられていますが、上記自治体においても畜犬登録以外に特定犬であることを登録する必要はありません。
特定犬の種類
各自治体により、規定されている特定犬種には多少違いがあるものの、ほぼ同じ種類を規定しています。
札幌市が最も多くの犬種を規定していますので、ご紹介します。
札幌市の定める特定犬種
秋田犬、土佐犬、アメリカン・スタッフォードシャー・テリア(アメリカン・ピット・ブルテリアを含む)、グレート・デーン、ジャーマン・シェパード・ドッグ、スタッフォードシャー・ブル・テリア、スパニッシュ・マスティフ、セント・バーナード、ドーベルマン、ドゴ・アルヘンティーノ、ナポリタン・マスティフ、ブラジリアン・ガード・ドッグ、ブル・テリア、ブルマスティフ、ボクサー、マスティフ、又はロットワイラーに属する犬
自治体によっては犬種の他にサイズ(体高(地上から肩の高さ)60cmかつ体長(肩から尾の付け根)70cm以上)や、咬傷歴でも特定犬と規定される犬もいます。
【各自治体の特定犬について詳しくはこちらをご覧ください】
札幌市
https://www.city.sapporo.jp/inuneko/main/aigojorei.html
水戸市
https://www.city.mito.lg.jp/001245/hokenjo/doubutsuaigo/tokuteiken.html
佐賀県
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00341965/index.html
茨城県
https://www.pref.ibaraki.jp/hokenfukushi/doshise/hogo/kousyoutotokuteiken.html
特定犬を飼育する場合はどうしたらいいの?
日本で犬を飼育する際には、登録の他にも法で定められた犬の飼い主の遵守事項を守らなくてはいけません。
各自治体の条例でそれぞれ詳しく記載があるので、一度お住まいの地域のものを確認してみましょう。
それぞれの自治体で多少の違いはありますが、基本的には犬の性質を理解した上で適切な環境や方法で飼養する為に最低限守るべきことが書かれています。
うんちやおしっこを適切に処理することや、犬が逃げてしまわないような環境で飼育し、散歩の際にも脱走しないような対策をとることなどが遵守事項となっています。
特定犬を飼育する場合には上記に加えて、特定犬制度を設けている各自治体で定められている遵守事項があります。
例えば、茨城県では「おり」の中で飼育することや、見やすい場所に特定犬の標識を貼ることなどを明記しています。
ただし、各自治体に確認したところ「おり」に限らず飼い主の住居内での飼育は可能とのことです。
その際には脱走しないようにきちんと対策を講じるよう指導している自治体もあります。
特定犬は脱走してしまった時に、その体格の大きさや気質から犬に悪気がない場合でも、重大事故に繋がりやすいと考えられています。
そのため条例に「特定犬」という規定を設けることで、飼い主さんの意識を高め、重大事故の予防効果を期待しているのです。
条例に定められている特定犬全てが必ずしも凶暴で危険だから気をつけよう、ということではありません。
「特定犬」を飼育するにあたり、飼い主には一般的な小型犬や中型犬を飼うよりも高い管理能力や危機意識が求められるということです。
どうして特定犬が定められたのか?その背景は?
茨城県が昭和54年に全国に先駆けて、「特定犬」制度を導入しました。
放たれていた大型犬による咬傷死亡事故が導入のきっかけだったそうです。
札幌市は、危険性が高い特定の犬による人や動物の生命に関わる重大事故の再発防止に効果を期待して、「特定犬」として規制を強化したとのことです。
佐賀県では茨城県の条例を参考に「特定犬」を規定し、攻撃性及び日本における飼養頭数について、環境省制作の「ペット販売業者用説明マニュアル」、及び 一般社団法人ジャパンケンネルクラブが公表している「犬種別犬籍登録頭数」を参考に特定犬を選定したとのことでした。
各自治体とも、「特定犬」を制定することによって飼い主さんの意識を向上させ適切な飼養管理を促すことで、重大な咬傷事故を防ぐねらいがあるのだと感じました。
特定犬を制定した事により、咬傷事故件数に変化はあったの?
各自治体にお伺いしたところ、咬傷事故件数に関して制定前後で、減少が認められたところはありませんでした。
むしろ、増加しているという自治体もありました。
ただし、条例が施行されたことによる啓発活動に伴い、犬に咬まれた際に届出をすることなどについて住民の認知が高まり、結果として報告件数が増加した可能性も考えられます。
もし、特定犬が保護されたら譲渡対象になる?
日本では、特定犬が保護されても譲渡適正があれば譲渡対象になります。
健康であること、人及び社会に順応性があること、 咬傷事故等を引き起こしていないことなどが条件になるそうです。
一方、イギリスでは危険犬種として指定されている犬種や外見、身体的特徴がピットブルタイプの犬は、安楽死処分となり譲渡対象にはなりません。
国によって、同じ犬種でも規制の厳しさは異なってきます。
日本で起こった犬による重大事故
日本では毎年4000件ほど、犬の咬傷事故が起こっています。
その中には被害者の死亡につながってしまった事故もあります。
2017年のゴールデンレトリーバーの咬傷死亡事故
東京都八王子市の祖父母宅で、祖父母とともに居間で遊んでいた10ヶ月の女児が屋内で放し飼いをしていたゴールデンレトリバーに突然咬まれる事故が起こりました。救急隊が駆けつけた所、女児は頭から血を流しており、二時間後に死亡が確認されました。
2016年の大型犬2頭によるドッグランでの転倒事故
神戸市のドッグランで小型犬を遊ばせていた飼い主さんに、興奮して遊んでいた大型犬2頭が突進、小型犬の飼い主さんは転倒し、後頭部を強打したことにより一時意識を失って救急搬送されるという事故がありました。
頚椎捻挫や頭部打撲など全治11ヶ月の怪我を負われたそうです。
この事故はその後、裁判となり大型犬の飼い主さんたちが、犬に対する相当の注意をおこたっていたと判断され、損害賠償金などの支払いが命じられました。
小型犬の飼い主さんにも不測の事態も起こり得ると考えて行動していなかった、という不注意があったとして、認められた損害賠償額から2割が減額されたおよそ100万円ほどを、大型犬の飼い主さんたちが支払うように命じられました。
民法第718条によるとペットが第三者に損害を負わせた場合、原則として飼い主がその損害を賠償する責任を負い、「相当の注意」をもってペットの管理をしたことを飼い主が証明することができた場合に限りその責任が免除される仕組みとなっています。
飼い主はペットの管理に関して厳しい責任を負う必要があるのです。
穏やかなイメージのある犬種でも噛む可能性がありますし、特にハイハイする乳児はおもちゃや獲物と勘違いしやすく危険な事故につながる可能性が高いです。2019年のアメリカのデータによると、犬による咬傷死亡事故被害者の27%が9歳以下の子供だったそうです。
ドッグランでの事故のように、大型犬は攻撃の意思がなくても、体格の大きさから重大事故につながる危険があるといえるでしょう。
犬の飼い主さんは、自分の犬の特性を理解し常に注意をおこたらずに管理しないといけません。
海外で飼育が制限されている犬種
海外では、日本よりも厳しく飼育禁止の犬種を設けている国もあります。
今回は、イギリスとアメリカをご紹介します。
イギリス
イギリスでは
・ピットブルテリア
・土佐犬
・ドゴ・アルヘンティーノ
・フィラ・ブラジレイロ
また、外見や身体的特徴がピットブルのような犬に関しても規制の対象となります。
これらの犬に関しては、飼育以外にも販売する、捨てる、譲渡する、繁殖するなどの行為が禁止されています。
そのため、身体的特徴がピットブルのような犬は、子犬の内に安楽死させられる状況も起こり得ます。
もし公共の場所で登録なくこれらの犬を連れていた場合、警察は令状なしで犬を連れ去ることができ、飼い主には犯罪歴がつきます。
しかし、すでに飼育している場合は犬が気質的に安全で飼い主の管理能力も認められれば免除リストに登録して、公共の場では必ず口輪をはめるなど条件付きで飼育を継続することは可能です。
認められない場合は安楽死命令が出ることもあるそうです。
イギリスではこれらの犬以外に登録をする必要はありませんが、全ての犬にマイクロチップの装着を義務付けています。
アメリカ
アメリカでは規制されている品種は通常、アメリカンピットブルテリア、アメリカンスタッフォードシャーテリア、スタッフォードシャーブルテリア、いわゆる「ピットブル」クラスの犬です。
他にも地域によってはドーベルマン、ジャーマン・シェパードや、ピットブルに身体的特徴が似ている犬も入ることがあります。
ニューヨーク、テキサス、イリノイを含む21の州は、犬種に関係なく、危険な犬を個別に特定、追跡、規制する法律を支持しており、犬種によって規制する法律を禁止しています。しかし、700を超える米国の都市が犬種で規制する法律を制定しています。
犬種によって規制する法律は効果が高いという根拠が乏しく、犬の福祉にも悪影響を与えるとしてアメリカの大手動物保護団体ASPCAはこのような法律に反対の立場をとっていますし、差別されやすい犬種として、アメリカではピットブル専門に保護する愛護団体もあります。
しかしアメリカでは2005年から2019年までの15年間で、犬の咬傷事故によって521名の方が亡くなっています。
その内の76%にピットブルとロットワイラーが関与していたというデータもあり、個体で見ると気質のいい子がいたとしても、その犬種の多くの犬が興奮しやすく興奮が長く続きやすいという性質を持っているため、規制が必要なのではないかという意見もあります。
特定の犬種を法律で規制すれば安全なの?
アイルランドで行われた研究では、13犬種を規制する法律を導入してから犬の咬傷による入院は21%増えたという報告もあります。
一方、カナダのマニトバ州で行った研究によると、犬種により規制する法律制定前後で犬の咬傷による入院はマニトバ州都ウィニペグで減少が認められ、この法律が有効であった可能性があるとのことです。
特に20歳未満の人々を保護する上で有用ではないかという結果となっています。
犬種による規制が有効かどうかの十分なデータはまだ無いのが現状かと思います。
犬種を規制する法律は、規制されている犬の福祉に大きく影響するので今後も検討していかなくてはいけないでしょう。
犬を“危険”にしないために、人間ができること、やらなければいけないこと
日本の現在の法律では、犬の飼育経験が全く無くてもピットブルなどの飼うことに注意が必要な犬が飼育可能であることも事実です。
大型犬や、興奮しやすい特徴を持っており、攻撃する可能性の高い犬種に関しては、小型犬よりも飼育管理に注意が必要です。
どんな犬も咬むための牙は持っています。
その牙を人を咬むことに使わせないためには、人間がきちんと管理しなくてはいけないのです。
海外では動物保護団体が里親希望者に対して詳細なアンケートをとり、希望者が犬を選ぶのではなく、団体側がこの犬と相性が合うのではないかと提案するといった方式を採用しているところも多かったです。
日本でも、きちんと聞き取りを行って譲渡している団体も数多くあると思います。
『頑張って一緒に生活するのではなく、お互いにより幸せになれるような犬を選ぶ』
そのために、安易な飼育をせず飼う前にその犬種の特性についてきちんと理解すること、飼育環境を整えること、トレーニングを受けること、飼育費用に関しても備えておくことが重要です。
家庭環境によっては、しつけのトレーニングが大変な子犬よりも、ある程度の性格が把握できている成犬の方が適している可能性もあります。
日本ではペットショップ、ブリーダー、里親など様々な犬との出会い方を、自分で選ぶことができます。
犬を迎え入れる前に、もう一度自分の趣味や生活スタイルを考えどのような犬と暮らしたいかを考えてみてください。
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