てんかんは、全身のけいれんや体の一部の震えなどの発作症状を繰り返し起こす病気です。犬の神経の病気の中で最も多く、大脳から強い電気信号が出されることで発作が起こるとされています。
てんかんの「原因」「症状」「診断」「治療」
◆ てんかんの「原因」
てんかんには、脳腫瘍や脳炎など脳の病気に伴って発作が起こる「症候性てんかん」と、脳そのものには異常は見つからないのに発作を起こす「特発性てんかん」があります。
特発性てんかんの原因は明らかにはなっていませんが、遺伝的な影響が関係していると考えられています。どの犬種でも起こりますが、ビーグル、トイ・プードル、ダックスフンド、ボストン・テリア、ポメラニアンなどで多いとされています。
また、「特発性てんかん」は1〜5歳で発症することが多く、それ以外の年齢では「症候性てんかん」の可能性が高くなります。
◆ てんかんの「症状」
てんかんの症状は、部分的で小さな発作から大きな発作までさまざまです。
代表的なものとして、以下のような症状がみられます。
①全身性の発作
・体がピーンとつっぱりけいれんする(強直(きょうちょく)発作)
・手足をバタバタさせけいれんする(間代(かんたい)発作)
通常、全身性の発作を起こしている最中は犬の意識はなく、途中で排尿や排便をしてしまうこともあります。
②部分的な発作
・四肢や顔の一部分だけをつっぱらせる
・口をもぐもぐさせる
・一点を見つめる
・何もないのに空中を噛む
部分的な発作は、全身性の発作の前兆として起こる場合もあります。
通常、発作は数秒〜2分程度でおさまり、その後は何事もなかったかのように普通の状態にもどることがほとんどです。しかし、発作が長く続く場合や、完全におさまらずに反復して発作が起きてしまうような場合(重責状態)には、後遺症や命に関わる危険性もあります。
◆ 発作が起きたときは
発作が起きた時には、声をかけたり体を触ったりすると余計な刺激を与えてしまうことになるので、発作が落ち着くまで静かに見守るようにしましょう。この際、発作の様子を動画で記録したり、発作を起こした日時や持続時間などをメモしておくと、動物病院での診察に非常に役立ちます。
◆ てんかんの「診断」
発作を起こす病気はてんかん以外にもたくさんあります。そのため、血液検査や尿検査、画像検査(レントゲン・エコー)などで、発作を起こす可能性のある他の病気を除外していくことが重要です。てんかんの原因を詳しく調べるためには、CT検査やMRIなどの精密検査が必要となる場合もあります。
◆ てんかんの「治療」
発作を繰り返すと脳がダメージを受けしまい、後遺症や命に関わる危険性があります。そのため、以下のような場合には、「抗てんかん薬」で発作を抑えてあげることが重要です。
3か月以内に2回以上の発作がみられた犬
1日に2回以上の発作がみられた犬
5分以上続く発作がみられた犬
てんかんで処方される「薬」
抗てんかん薬にはさまざまな種類があり、その子に合った薬の種類や量が見つかるまでには少し時間がかかる場合もあります。また、抗てんかん薬は、突然薬を飲むのをやめてしまうと発作がひどくなることがあるので、注意が必要です。
●フェノバルビタール
かつてより、てんかんの犬に対して広く処方されてきた抗てんかん薬です。
症状に合わせて1日2〜3回で処方されることが多く、飲ませた後2時間以内に吸収されます。
以前はてんかんの第一選択薬とされていましたが、副作用や飲み合わせに注意が必要なため、新しい薬の方がよく処方されるようになりつつあります。
飲ませ始めたら、発作の頻度が抑えられているかなどを自宅でもチェックし、定期的に血液検査で血液中の薬の濃度を測定して、適正な量を見極めることが重要です。
使用上の注意
・副作用として、おとなしくなる(鎮静)、興奮する、運動失調を起こすなどがみられることがあります。薬の飲ませ始めにみられることが多く、1〜2週間のうちに自然と落ち着くとされています。
・長期的に飲むことで、おしっこや飲水の量が増えたり(多飲多尿)、食欲が増すなどの副作用が現れることがあります。
・血液検査で肝酵素の上昇や甲状腺ホルモンの低下がみられる場合があります。
・免疫抑制剤であるシクリスポリンや、血圧を下げるアムロジピン、他の抗てんかん薬など、飲み合わせに注意が必要な薬があります。
●ゾニサミド
フェノバルビタールより新しく登場した抗てんかん薬です。犬用の抗てんかん薬として承認されており、副作用が少ないのがメリットです。1日2回の投与が一般的です。
フェノバルビタールと同様に、飲ませ始めたら、発作の頻度などを自宅でもチェックし、定期的に血液検査で血液中の薬の濃度を測定して適正な量を見極めることが重要です。
使用上の注意
・副作用の少ない薬ですが、食欲の低下、嘔吐、下痢などが一時的に見られることがあります。特に内服を開始した時にみられやすく、その後数日で自然におさまることが多いです。
・まれに肝障害や過敏症(皮膚の赤みや痒みなど)を起こすことがあります。
・重度の腎不全や肝障害のある犬や、「コリー系の犬種」には、慎重な投与が必要です。
・貧血のある犬、妊娠・授乳中の犬、6カ月齢未満の犬では使用できません。
・抗生物質や免疫抑制剤など、飲み合わせに注意が必要な薬があります。
※錠剤を割ったり砕いたりしないようにしてください。
※妊娠・授乳中の方や、小さなお子さまがいるご家庭では、直接薬に触れないように十分注意してください。また薬の成分は犬の尿中に排泄されるので、尿の処理にも注意が必要です。
代表的なゾニサミド製品
●エピレス錠(共立製薬)
●コンセーブ錠(DSファーマ)
●臭化カリウム
最も長い歴史を持つ抗てんかん薬です。人では1950年代から、犬では1980年代から使用されています。一般的にはフェノバルビタールやゾニサミドと併用して使われることが多く、肝障害などの副作用が少ないお薬です。効果が現れるまでに時間がかかる(約2〜3ヶ月)こともあります。
使用上の注意
・副作用として、下痢や嘔吐などの消化器症状や、多飲多尿、運動失調などを起こすことがあります。消化器症状は、薬を食事と一緒に与えることで予防できる可能性があります。
・長期的に使用することで、臭素中毒(症状:意識レベルの低下、手足の麻痺、運動失調など)を起こすことがあります。
●レベチラセタム
2010年に日本で販売された比較的新しい抗てんかん薬です。従来の抗てんかん薬とは作用機序が異なるため、フェノバルビタールや臭化カリウムで効果がみられない犬でも、効いてくれる可能性があります。
ただし、1日3回投与が必要なことと、薬の費用が高いことが欠点として挙げられます。
使用上の注意
・副作用の少ない薬ですが、飲ませ始めに嘔吐や鎮静(おとなしくなる)などの副作用がみられることがあります。1〜2週間でこの副作用は改善することがほとんどです。
・慢性的に使用することで薬剤耐性を獲得し、4〜8ヶ月程度で薬の効果が薄れてしまうことがあります。(ハネムーン効果)
特発性てんかんでは、基本的に抗てんかん薬を生涯飲み続ける必要がありますが、定期検診を受けながら、発作を上手にコントロールすることで、健康な子と変わらずに寿命を全うすることのできる病気です。
参考:SA Medicine139号(EDUWARD Press)
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治療 | 症状 |
□ 再発しやすい | □ 初期は無症状が多い |
□ 長期の治療が必要 | □ 病気の進行が早い |
□ 治療期間が短い | □ 後遺症が残ることがある |
□ 緊急治療が必要 | |
□ 入院が必要になることが多い | 対象 |
□ 手術での治療が多い | □ 子犬に多い |
□ 専門の病院へ紹介されることがある | □ 高齢犬に多い |
□ 生涯つきあっていく可能性あり | □ 男の子に多い |
□ 女の子に多い | |
予防 | |
□ 予防できる | うつるか |
□ ワクチンがある | □ 人にうつる |
□ 多頭飼育で注意(他の犬にうつる) | |
季節 | □ 猫にうつる |
□ 春・秋にかかりやすい | |
□ 夏にかかりやすい | 費用 |
□ 生涯かかる治療費が高額 | |
発生頻度 | □ 手術費用が高額 |
□ かかりやすい病気 | |
□ めずらしい病気 | 命への影響 |
□ 命にかかわるリスクが高い |
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