「人獣共通感染症」という言葉をご存知ですか?

 

人と動物に共通する感染症のことで、ズーノーシス(Zoonosis)とも呼ばれます。また、その中でも人も動物も双方が発症するものや、動物には症状がなく人のみが発症するものを「動物由来感染症」ともいいます。

 

人獣共通感染症を引き起こす病原体は、世界中に200種類以上存在すると言われており、日本で発症があるものは約50種、そのうち約30種が犬や猫などの小動物から人に感染する可能性があるものです。風邪やインフルエンザに症状が似ているものから、命に関わる危険性のある恐ろしい病気までさまざまありますが、これらの病気の存在はあまり認識されていないのが現状です。

 

これらの病気を予防し、ペットと家族が健康で幸せに生活するためには、まずは病気について正しい知識を身につけておくことが重要です。ここでは、犬を飼う人には知っておいてもらいたい代表的な共通感染症について解説します。

 

狂犬病

犬から人へ感染する病気の中で最も恐ろしいとされる病気です。かつては日本でも、感染した犬に咬まれた多くの人々が狂犬病を発症し、命を落としていた時代がありましたが、1957年を最後に国内での感染は犬でも人でもみられていません。しかし、このような「狂犬病清浄国」は極めてごくわずかで、海外ではほとんどの国で未だに発生しており、年間死者数は約6万人といわれています。今後日本で再び狂犬病を発生させないためには、病気への理解と予防がとても重要です。

 

● 感染経路

発症した犬・猫・アライグマ・キツネ・コウモリなどに咬まれるなどして、唾液中の狂犬病ウイルスが人の体内に侵入することで感染します。世界中のほとんどの地域で発生があり、特にアジアとアフリカで多く発生しています。

 

● 症状

この病気は、発症するとほぼ100%死に至ります。

感染した動物に咬まれてから、通常1〜3ヶ月間の潜伏期間があります。発症初期には、発熱・頭痛・筋肉痛など風邪のような症状がみられ、咬まれた部分の痛みやしびれ、感覚麻痺などが起こります。

狂犬病ウイルスが中枢神経に侵入すると、興奮・意識障害・錯乱・幻覚などの神経症状が起こり、中でも「恐水症」と呼ばれる症状が特徴的です。これらがみられた数日後には、全身のけいれんや不整脈が現れ、呼吸麻痺などで命を落とします。

 

● 予防法

 愛犬には年に1回、狂犬病ワクチンを必ず接種させましょう。(法律で接種が義務付けられています)

 海外ではむやみに動物に近づかないようにしましょう。万が一狂犬病のおそれのある動物に咬まれてしまったら、すぐに傷口を石鹸ときれいな水でよく洗い、すみやかに医療機関を受診しましょう。

 狂犬病の流行国を訪れる場合には、渡航前にワクチン接種を受けましょう。

 

 

パスツレラ症

パスツレラ菌による感染症です。犬の約75%、猫のほぼ100%が口の中の常在菌としてパスツレラ菌を保有しています。犬や猫ではほとんど症状がみられませんが、人に感染すると発症します。

 

● 感染経路

犬や猫の口の中や気道に存在している細菌で、主に咬まれることによって感染します。

また、飛沫から感染する場合もあります。

 

● 症状

咬まれた部分が腫れ、痛みを伴います。これらは咬まれてから1時間以内に発症することが多いです。その後急速に、皮膚の下に炎症が広範囲に広がると「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」を起こす場合があり、さらに細菌が血液に乗って全身に運ばれてしまうと「敗血症(はいけつしょう)」という重篤な状態に進行してしまうことがあります。

また、気道から感染すると、風邪のような症状がみられ、気管支炎や肺炎、副鼻腔炎などを起こすこともあります。

高齢者など免疫力の低下している方や糖尿病などの基礎疾患のある方では、特に重症化する危険性あります。

 

● 予防法

 ペットとの節度あるふれあいを心がけ、咬まれないように気をつけましょう。

 ペットへの口移しやキスなどは大変危険ですのでやめましょう。

 犬の爪はこまめに切りましょう。

 

 

 

カプノサイトファーガ感染症

犬や猫の口の中に常在しているカプノサイトファーガという細菌による感染症です。

 

● 感染経路

犬の口の中に普通に見られる細菌で、主に咬まれたり引っ掻かれたりすることで感染します。まれに傷口を舐められて感染することもあります。

 

● 症状

発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛などが主な症状です。まれに病原菌が血液に乗って全身に運ばれてしまうと敗血症や髄膜炎を起こしたり、播種性血管内凝固症候群(DIC)という危険な状態やショック、多臓器不全などに進行してしまい、死に至る場合もあります。

 

● 予防法

 ペットとの節度あるふれあいを心がけ、咬まれたり引っ掻かれたりしないように気をつけましょう。

 特に体に傷がある場合には、傷口を舐められないように気をつけましょう。

 

 

 

エキノコックス症

エキノコックスとは、主に北海道のキタキツネに感染する寄生虫の名前です。日本では毎年10〜30人程度の感染者が報告されており、エキノコックスに感染したキツネや犬の糞便で汚染された食べ物や水などを、人が偶発的に飲み込んでしまうことにより感染します。

 

● 感染経路

日本では、北海道のキタキツネが主な感染源ですが、野ネズミも感染源となります。感染したキタキツネの糞や、感染した野ネズミを食べてしまうと、犬も感染します。人は虫卵が手指、食べ物、水などを介して口から入ることで感染します。

 

● 症状

一般的に症状が現れるのは、感染してから10年前後です。

感染すると、腸の中で虫卵から孵化し、肝臓や肺に寄生して増殖します。感染後、数年〜10年ほど経ってから自覚症状が現れ、進行すると肝機能障害を引き起こします。

 

● 予防

 野山に出かけた後は、よく手を洗いましょう。

 流行地域では、犬を放し飼いにしたり、野山で野生動物やその糞便に触れないよう注意してください。

 流行地域では、沢や川の生水は飲まないようにし、犬にも飲ませないようにしましょう。また、山菜や野菜、果物などは食べる前によく洗いましょう。

 流行地域で飼育されている犬には、駆虫薬の定期投与も効果的です。

 

 

 

人獣共通感染症を防ぐために

 

1.犬の身の回りを清潔に保ちましょう

ブラッシングや爪切りなどをこまめに行い、トイレや寝床も常に清潔にしておきましょう。

毛布やタオルなどは細菌が増殖しやすいので、洗濯をこまめに行いましょう。

 

 

2.排泄物はすぐに処理しましょう

糞の中で病原体が増殖したり、糞や尿が乾燥すると中の病原体が空気中に漂ってしまうことがあります。排泄物はすみやかに処理し、直接触れたり吸い込んだりしないように気をつけましょう。

 

 

3.手を洗いましょう

犬と触れ合った後や排泄物を処理した後には、石鹸を使い十分に手を洗いましょう。

また、外にいる動物から土を介して感染する病気もあるため、動物が排泄を行いがちな砂場や公園の花壇などは注意が必要です。特に子供が砂場で遊んだ後や、ガーデニングなどで土いじりをした後は、よく手を洗うようにしましょう。

 

 

4.過度なスキンシップは避けましょう

ペットに口を舐めさせたり、口移しでごはんを与えたり、スプーンや食器を共用するなど、過度なスキンシップは感染リスクが高まります。公衆衛生的な観点から見ると、ペットと同じベッドで寝ることも避けた方がよいです。愛するペットとは適切な距離感を保ちつつ、愛情を注ぐようにしてください。

 

 

犬と人の共通感染症の多くは、人が感染しても発熱や倦怠感など、インフルエンザをはじめとする他の病気の症状に似ているため、病院で診察を受けてもすぐには診断が難しい場合があります。治療を受けているにもかかわらず、症状がなかなかよくならない場合には、人獣共通感染症の可能性も考慮し、お医者さんに相談してみましょう。

また、狂犬病は発症してしまうとほぼ100%死に至る恐ろしい病気です。愛犬には、年に1回の予防接種を必ず受けさせるようにしましょう。

 

参考:動物由来感染症ハンドブック2022(厚生労働省)

 

 

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例えば、「うつる」病気を調べることもできます。  健康な毎日を過ごすため、知識を得ておきましょう。

■ 他の犬にうつる ■ 人にうつる ■猫にうつる

 

 

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フクナガ動物病院 獣医師

福永 めぐみ

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