動物病院で「ステロイド治療が必要です」と言われると、不安に感じる飼い主さんもいらっしゃるかもしれません。ステロイドは適切に使えば、犬のさまざまな病気を改善させたり、生活の質を向上させることが期待できる非常に有効な薬です。
しかしその反面、副作用にも注意が必要な薬でもあります。
今回は、犬のステロイド治療について、その種類、どんな時に使うのか(適応)、そして気をつけたい副作用について詳しく解説します。
ステロイドの種類
ステロイドとは、犬の体内で作られる副腎皮質ホルモンの一種で、それを人工的に合成したものがステロイド剤です。ステロイド剤にはさまざまな種類がありますが、主なものとしては以下の3つが挙げられます。
プレドニゾロン
最も一般的に使用される経口(飲み薬)のステロイドです。効果の持続時間が中程度で、さまざまな疾患に幅広く用いられます。
デキサメタゾン
プレドニゾロンよりも強力で、効果の持続時間も長いステロイドです。重度の炎症や自己免疫疾患などに使用されることがあります。
ヒドロコルチゾン
作用が比較的弱く、皮膚の塗り薬や点耳薬など、局所的に使われることが多いステロイドです。
これらの他にも、注射薬や点眼薬など、様々な剤形があります。犬の病状や体の状態、治療目標に合わせて最適なステロイドの種類と投与方法を選択します。
ステロイドの適応(どんな時に使うの?)
ステロイドは、その強力な作用から、非常に幅広い疾患に適用されます。主な適応症は以下の通りです。
1.炎症性疾患
・皮膚炎:アレルギー性皮膚炎、アトピー性皮膚炎など、かゆみや炎症が強い場合に症状を抑えるために使用されます。
・関節炎:炎症による痛みや腫れを軽減します。
・腸炎:炎症性腸疾患(IBD)などで、腸の炎症を抑える目的で使用されます。
・気管支炎・喘息:呼吸器の炎症を鎮め、呼吸を楽にします。
2.自己免疫疾患
・免疫介在性溶血性貧血 (IMHA):自分の免疫が赤血球を攻撃してしまう病気で、免疫の過剰な働きを抑えるために一般的に高用量のステロイドが使われます。
・免疫介在性血小板減少症 (IMTP): 自分の免疫が血小板を攻撃してしまう病気です。
・全身性エリテマトーデス (SLE) など、さまざまな自己免疫疾患の治療に用いられます。
3.アレルギー反応
・重度のアレルギー反応(アナフィラキシーショックなど)の緊急治療や、蜂刺されなどによる強い腫れや痒みを抑える目的で使用されます。
4.腫瘍(特定の癌)
・リンパ腫などの特定の悪性腫瘍(癌)に対して、抗がん作用や炎症抑制作用を期待して使用されることがあります。
5.副腎皮質機能低下症(アジソン病)
・副腎からのステロイドホルモンの分泌が不足する病気なので、ホルモン補充療法としてステロイドが用いられます。
知っておきたいステロイドの副作用
ステロイドは非常に有効な薬ですが、その強力な作用ゆえに、さまざまな副作用を引き起こす可能性があります。とくに、長期間の投与や高用量での投与の場合には注意が必要です。
短期間の使用や少量でも見られる可能性のある副作用
多飲多尿
・水をたくさん飲み、おしっこの量が増えます。これはステロイドの作用で腎臓での水の再吸収が抑制されるためです。
多食・食欲増進
・食欲が増し、体重が増えることがあります。
パンティング(呼吸が速くなる)
・体温調節やストレス反応として見られることがあります。
長期使用や高用量で特に注意が必要な副作用
免疫力の低下
・免疫を抑制する作用があるため、感染症(細菌、真菌、ウイルスなど)にかかりやすくなったり、既存の感染症が悪化したりするリスクが高まります。
筋力低下・筋肉の萎縮
・特に後肢の筋肉が痩せて、歩き方が不安定になることがあります。
皮膚が薄くなる・脱毛
・皮膚が脆弱になり、傷つきやすくなったり、部分的に脱毛が見られたりすることがあります。
副腎機能の抑制
・外部からステロイドを投与し続けることで、本来体内でステロイドを産生している副腎の機能が低下することがあります。急にステロイドの投与を中止すると、重篤な副腎機能不全(副腎皮質機能低下症(アジソン病)のような症状)を引き起こす可能性があるため、投与を中止する際は獣医師の指示に従って徐々に減量する必要があります。
糖尿病の誘発・悪化
・血糖値を上げる作用があるため、糖尿病を発症させたり、既存の糖尿病を悪化させたりすることがあります。
胃腸潰瘍
・胃腸の粘膜の保護作用を低下させるため、潰瘍ができやすくなることがあります。特に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)との併用は胃腸への負担が大きくなるため注意が必要です。
行動の変化
・落ち着きがなくなる、興奮しやすくなる、攻撃的になるなどの行動の変化が見られることがあります。
膵炎
・稀に膵炎を引き起こすことがあります。
肝臓への影響
・長期間の投与で肝酵素の上昇がみられることがあります。
飼い主さんにできること
ステロイド治療を行う際には、以下の点に注意しましょう。
指示された用量・期間を厳守する
・飼い主さんの判断で勝手に量を増やしたり減らしたり、中止したりしないでください。特に自己判断での急な中止は非常に危険です。
副作用のサインに注意する
・多飲多尿、食欲の変化、元気の変化、皮膚の状態、呼吸の状態など、愛犬の様子をよく観察し、気になることがあればすぐに獣医師に伝えましょう。
定期的な健康チェック
他の薬との併用は必ず相談する
・他の病気で受診する際や、サプリメントなどを与える前には、必ずステロイドを服用していることを伝え、獣医師に相談してください。
ステロイドは「諸刃の剣」とも言われますが、その作用を理解し適切に使用すれば、病気の治療や生活の質(QOL)を向上させることのできる非常に有効な薬です。不安なことや疑問に思うことがあれば、遠慮なく獣医師に質問し、納得した上で治療を進めていきましょう。
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