攻撃的になったり、吠えたりして、人間と一緒に暮らすことが困難な犬は、問題行動が治らないままでは、人間と一緒に暮らすことがひどく難しくなります。そういった問題行動を治療するために、動物行動治療はあるのですが、治療の中には外科的な手術をすることがあるんです。
手術をするという選択肢
愛犬が問題行動を抱えているからといって、いきなり手術を提案することはありません。まずは飼い主さんから色々なお話を伺って、トレーニングや飼育環境の改善、さらには投薬で治療ができそうな場合は、もちろん手術は行いません。しかし、どんな手を尽くしてもどうしようもないときは、手術という選択をすることがあります。今まで色々と試してみてもダメだった、そのような状況に置かれた飼い主さんには、手術をオススメするケースがあります。
オスの去勢
外科的療法の中で、最も多いのはオスの去勢です。雄性ホルモンであるテストステロンが原因となる問題行動のいくつかは、去勢によって改善される場合があります。犬の場合は、マーキング、マウンティング、同居している犬への攻撃などに対して、ある程度の効果が期待できると言われています。また、去勢をしていないオス犬は、他のオス犬からケンカを売られることもあるので、そのような場合にも有効かと思われます。
しかし、去勢が有効なのは、あくまでもこのように雄性ホルモンが関係している問題行動の場合であって、例えば、単に興奮しやすい性格の子をおとなしくさせたいなどと期待をして去勢をしても、あまり効果はないと思われる方がいいでしょう。
メスの避妊
メスについては、発情の時だけにみられる問題行動や偽妊娠に関連した問題行動などの場合に、避妊をすすめることがあります。例えば、発情の時だけトイレ以外の場所で排泄をする、あるいは指示に従わなくなるといった場合です。実は、以前私が飼っていたメスのラブラドール・レトリバーがそうでした。彼女は避妊をしていなかったため、発情中に散歩に行くと、オス犬に限らず、メス犬や人間に対しても異常なくらいの興味を示し、誰かを見つけた瞬間に、それ以外何も見えなくなってしまい、力の限りリードを引っ張ってしまうのです。その相手が道路を挟んで反対側にいようが関係なく…。ちなみに、この行動は発情が終わるとピタッとなくなりました。この時、私は避妊の必要性を改めて痛感したものです。
また、発情後6~9週間にみられる偽妊娠では、巣作り行動や人間の赤ちゃんやおもちゃを守るといった行動が見られることがあります。犬によっては、自分の寝床であるベッドやハウス、おもちゃを守って、いつもは見られない攻撃行動を起こすことがありますので、そのような場合も避妊は有効かもしれません。
犬歯の切断
犬には、食べ物を捕え、切り裂くための「犬歯」という尖った歯があります。この犬歯を他の歯と同じくらいの高さまで削るという手術があります。この手術は攻撃行動があまりにも激しい犬の飼い主さんに対して、まれに提案することがあります。犬歯切断術をしたからといって、決して攻撃性がなくなるわけではありませんから、もちろん行動を修正する治療も同時に行っていく必要があります。
しかし、特に大型犬に激しく咬まれた場合には、噛まれた人間側が重症を負うことが予想され、場合によっては致命的になることもありますし、また、愛犬から強く咬まれたことがある飼い主さんは、恐怖心から犬と向き合う自信を失ってしまうこともあるのです。このような場合、犬歯を切断することで、咬まれても致命傷にはならないことが飼い主さんに多少でも自信や安心感を与え、飼い犬と向き合って行動修正法に取り組みやすくなるといった効果が期待されるのです。
ただし、犬歯を切断すると歯髄が露出するため、適切に処置をしなければ、その痛みから攻撃行動が悪化する可能性も出てきます。また、犬歯切断術は麻酔下での処置となり、入院も必要になるかもしれません。もともと不安傾向が高い犬などは、さらに不安が増したり、それによって攻撃性が発現することも考えられるので、そのような点もしっかり検討してから手術に取り組むこととなります。
どのような問題行動も、まずはその原因を追及して、攻撃の原因となっているものを排除したり、環境を改善したりすることを第一に選択すべきです。しかし、それでもどうにもならないときは、手術という選択肢もあります。もし愛犬の問題行動で悩んでいる方がいらっしゃれば、かかりつけの獣医さんや動物行動治療学の先生に相談してみるといいでしょう。