犬のアトピー性皮膚炎は、「痒み」を特徴とする皮膚の病気です。根治させるのは難しいといわれており、生涯にわたりアトピーの体質と上手に付き合うことが何よりも大切です。また、強い痒みは愛犬とそのご家族の生活の質(QOL)を低下させてしまうことも珍しくありません。そのため、症状や体質に応じた根気強い治療が重要となります。     

 

犬のアトピー性皮膚炎とは?

◆犬アトピー性皮膚炎の原因は?

犬アトピー性皮膚炎の犬は、生まれつき皮膚のバリア機能が弱いとされており、環境中のアレルゲン(花粉やハウスダストなど)が皮膚から侵入しやすく、これらが引き金となって痒みが生じます。さらに、細菌や真菌、寄生虫などが二次的に感染することによって、より症状が悪化してしまうことが多いです。

 

犬アトピー性皮膚炎の7割は、3歳以下で発症するとされています。柴犬シー・ズーフレンチ・ブルドッグウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアなどが好発犬種として知られ、性別に関係なく発症します。また、季節によって症状が悪化することがあります。

 

◆どんな症状がみられるの?

犬アトピー性皮膚炎最大の特徴は「痒み」です。舐める、噛む、引っ掻く、こすりつけるなどの症状がみられたら、それは痒みのサインです。また、脱毛皮膚の黒ずみ、肥厚(皮膚が分厚くなること)などがみられる場合もあります。

これらの症状は、顔や脇、お腹、指の間などにみられることが多いとされています。

 

◆どのように診断するの?

痒みを特徴とする他の皮膚疾患を除外することで診断します。

 

◆治療法は?

犬アトピー性皮膚炎を根治させる治療法は、残念ながらありません。しかし、薬による治療に加え、シャンプーや保湿などのスキンケアや、皮膚用のドッグフードやサプリメントを取り入れることによって、症状を和らげたり、生活の質を上げることが期待できます。シャンプーについては「愛犬がシャンプー好きに!正しい頻度と洗い方【獣医師解説】」もご一読ください。

 

 

アトピー性皮膚炎の薬

 

◆どんなお薬が処方されるの?

犬アトピー性皮膚炎の治療には、飲み薬塗り薬注射薬などさまざまなタイプの薬が使用されます。ここでは一般的に処方される種類について解説します。

 

内服薬

1.ステロイド剤  製品名:プレドニン錠(塩野義製薬)

有効性がとても高く、素早く痒みを抑えてくれるお薬で、犬の痒み止めとして古くからよく使用されてきました。しかし、長期的に使用することで、副腎や肝臓、腎臓などのさまざまな臓器に副作用をもたらす恐れがあるのがデメリットです。また、飲水量と尿量が増える多飲多尿、食欲の増進、肝酵素の上昇、免疫の低下などを起こす場合もあり、副作用が出ていないかを定期的にチェックする必要があります。

 

 

使用上の注意

副作用として、以下のような病気や症状がみられる場合があります。

・副腎:副腎皮質ホルモンの産生抑制(ホルモンが作られにくくなる)、医原性クッシング症候群

・肝臓:肝酵素の上昇

・腎臓:多尿(尿量が増える)、蛋白漏出性糸球体腎症

・膵臓:糖尿病膵炎

・皮膚:脱毛、皮膚が薄くなる、感染症にかかりやすくなる

・筋肉:筋力の低下、お腹がぽっこりする

・リンパ節:免疫の抑制

 

副作用がみられた場合には、獣医師の指示により、ステロイドの投与量や回数を減らしたり、休薬したりする必要があります。

 

 

2.オクラシチニブ製剤 製品名:アポキル錠(ゾエティスジャパン)

犬アトピー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎のために開発された、新しい治療薬です。日本では2016年から使用が開始されました。

ステロイド剤と同じくらい素早く痒みを抑え、よく効きます。副腎などの臓器に影響を及ぼさないため、安全性が高く長期的に投与しやすいですが、ステロイドと比較すると価格が高いお薬です。

 

 

使用上の注意

・副作用として、まれに嘔吐や下痢がみられることがあります。

・長期間使用すると、免疫を過剰に抑制してしまう恐れがあります。

・錠剤を分割して飲ませる場合は、分割後3日以内に使用してください。

・12ヶ月齢未満の犬、体重3kg未満の犬、妊娠・授乳中の犬では安全性が確立されていません。

クッシング症候群など免疫が抑制される持病のある犬や、悪性腫瘍(がん)の疑いのある犬、重篤な感染症のある犬では、症状を悪化させる恐れがあります。

・過剰な免疫を抑える働きを持つため、ワクチンに対する免疫反応も弱まってしまうことがあります。ワクチンを接種する場合は、獣医師とよく相談しましょう。

 

3.シクロスポリン製剤  製品名:アトピカ(エランコジャパン)

飲み始めてから効果が現れるまでに2〜4週間程度と時間がかかりますが、長期間使用しても副腎に影響を及ぼさないことがメリットのお薬です。飲ませはじめはステロイド剤と併用することで、早い段階から痒みを抑えることができます。

オクラシチニブ製剤と同様に、ステロイド剤と比較すると副作用が少ない分、価格の高いお薬です。

 

 

使用上の注意

・副作用として、初期に嘔吐や下痢を起こすことがありますが、飲み続けることで徐々に改善するとされています。

・長期使用では歯肉の肥厚、皮膚の乳頭状病変(イボ)、被毛状態の変化なども報告されていますが、薬を休薬したり量を減らすことによって改善するとされています。

・過剰な免疫を抑える働きを持つため、ワクチンに対する免疫反応も弱まってしまうことがあります。ワクチンを接種する場合は、獣医師とよく相談しましょう。

 

外用薬

外用ステロイド剤

犬は皮膚の大部分を毛で覆われているため、人のアトピー性皮膚炎でよく使用される軟膏タイプのステロイド剤は毛にベタついてしまい、塗りにくいとされてきました。しかし近年では、動物用のスプレータイプのステロイド剤が開発され、患部にピンポイントで使用することができるようになりました。

飲み薬のステロイド剤のように、副腎や全身の臓器への副作用は起こしにくいですが、強いクラスの外用ステロイド剤を長期間、同じ部位に使用することで、皮膚がうすくなってしまう「ステロイド皮膚症」を起こす可能性があるので、注意が必要です。

 

使用上の注意

・獣医師から指示された使用量、使用部位を厳守しましょう。

・幼犬や妊娠中の犬では使用できません。

・目や傷口に薬剤が入らないようにしてください。

・投与する人は手袋を着用し、薬剤に直接触らないように注意してください。

・薬剤が完全に乾くまでは投与部位に触らないようにし、特に小さなお子さんのいるご家庭では十分に気をつけましょう。

 

最後に

犬アトピー性皮膚炎は、複数の原因が絡み合う複雑な病気で、季節や環境によって悪化と改善を繰り返すことも少なくありません。なかなか良くならない痒みに、愛犬も飼い主さんも心が折れそうになってしまう時もあるかもしれませんが、近年ではさまざまな治療の選択肢があり、痒みの緩和や生活の質の向上が望めるようになりました。

根治は難しい病気ですが、病気と上手にお付き合いできるよう、動物病院で相談してみましょう。

 

参考文献:SAMedicien Vol.14 No.5 2012(エデュワードプレス)

 

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フクナガ動物病院 獣医師

福永 めぐみ

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