「栄養」は、体温や心拍数・呼吸数などのバイタルサインと同様に、とても重要な項目として考えられています。その理由として、栄養は健康の保持、病気の予防、創傷の治癒、病気からの回復などに深く関わっていることが挙げられます。

しかし、食欲不振や病気などにより、口から十分な栄養を摂取することが難しい場合もあります。重度の食欲不振や、何も食べていない状態が3日以上続く場合には、全身の免疫の低下や、消化管からのホルモン分泌の低下、腸管のバリア機能の破綻など、低栄養によってさまざまな問題が起こるリスクがあります。

これらを防ぐために、十分な栄養摂取が難しい場合には、強制給餌やチューブフィーディングと呼ばれる方法で栄養管理を行うことがあります。

 

強制給餌法

犬が自発的に口から食事を摂れていない場合には、強制給餌を行うことがあります。 強制給餌とは、口から強制的にフードを与え、嚥下(ごっくん)を促す方法です。 強制給餌で与える食事の種類や量は、体格や状態、病気によっても異なるので、動物病院の指示を守るようにしましょう。

 

強制給餌の例

1. 犬に優しく声をかけながら、慎重に、少量のフードを口の中に入れる。

(ウェットフードを団子状に丸めたり、上顎の内側や唇、歯肉などに塗りつけたりして、犬自身に舐めとるように食べてもらうか、給餌用のシリンジ等で口の中に少量ずつ流し入れる。)

2. シリンジを使用する場合は、左右どちらかの口の端(口角)、もしくは犬歯と臼歯(奥歯)の間からシリンジを差し込み、舌の上にフードを置いてくるようなイメージで少量ずつ与える。

3. シリンジを口から外し、犬がきちんと嚥下(ごっくんと飲み込む動作)をしたことを確認してから、次の給餌を行う。

 

強制給餌の注意点

 一気に大量のフードを入れたり、急いで給餌を行うと、誤嚥につながる恐れがあります。少量ずつ、時間に余裕をもって行うようにしましょう。

 犬の頭を上にむけすぎると、自発的な嚥下が難しく、誤嚥につながる恐れがあります。

 強制給餌を非常に嫌がり、ストレスを感じている場合には、食欲がさらに低下したり、食欲嫌悪(食事に対するトラウマ)につながる恐れがあるので、強制給餌以外の栄養補給法を検討します。

 

 

 

チューブフィーディング

重度の食欲不振がある場合には、強制給餌をしても嚥下できずにフードを吐き出してしまったり、消化器系の問題を抱えていている場合には、飲み込んだものを吐出や嘔吐してしまうケースもあります。そのようなときには、チューブフィーディングと呼ばれる方法で、栄養供給をさせることがあります。

 

<チューブフィーディングのメリット>

 食欲の有無に関わらず、必要な栄養や水分をチューブから安定して与えられる。

 投薬を確実に行うことができる。

 療法食を与えることができる。

 自力で採食ができるようになったら、チューブを抜去することができる。

など

 

<チューブフィーディングの適応例>

 病気などが原因で食欲が著しく低下している場合

 消化器疾患により吐出や嘔吐を繰り返している場合

 口の中や顔面、頸部の手術により摂食が困難になることが予想される場合

 頭部や顔面の外傷、交通事故などにより、口からの採食が難しい場合

など

 

<チューブフィーディングの種類>

チューブフィーディングには、

経鼻カテーテル

食道カテーテル

胃ろうチューブ

経腸チューブ

などがあります。

 

犬の性格や活動性、病状、チューブを設置しておきたい期間によってチューブの種類が選択されます。また、チューブフィーディングで与える食事の種類や量も、チューブの種類や犬の体格、病状によって異なるので、設置後は動物病院の指示を守るようにしましょう。

 

① 経鼻カテーテル

経鼻カテーテルは、鼻から胃に挿入したカテーテルから栄養を補給する方法です。 給餌の前には、毎回必ず空のシリンジで陰圧(空気が引けない状態)を確認する必要があります。

 

● メリット

・カテーテルの設置に全身麻酔は必要とせず、覚醒した状態もしくは鎮静処置で設置することができます。

・最も侵襲性や合併症が少ない方法とされています。

 

● デメリット

・経鼻カテーテルの使用は通常数日〜1週間程度と短期間に限られ、細いチューブを使用するため液体のフードしか通過させることはできません。

・鼻出血や鼻炎がある場合には違和感を生じやすく、犬が経鼻カテーテルを引っ張ってしまうと簡単に抜けてしまうため、エリザベスカラーの装着は必須となります。

・嘔吐が激しい場合には、食事とともにカテーテルも口から出てきてしまうことがあるので、注意が必要です。

これらのことから、長期間のチューブフィーディングが必要になる場合には、食道カテーテルや胃ろうチューブを設置することが推奨されます。

 

② 食道カテーテル

食道カテーテルは、首の皮膚から食道に瘻孔(穴)を開けて設置したカテーテルを使い、栄養を補給する方法です。設置後1週間程度は、毎日瘻孔部分の皮膚の状態を観察して、感染や漏れなどを起こしていないかを確認する必要があります。

また、給餌の前には、毎回必ず空のシリンジで陰圧(空気が引けない状態)を確認する必要があります

 

● メリット

・一度設置したカテーテルは、長期間(数ヶ月以上)使用できます。

・動物の不快感や合併症が少なく、エリザベスカラーも不要なケースが多いです。

・経鼻カテーテルよりも太いカテーテルを使用するため、液状〜ウェットフードの給餌が可能です。

 

● デメリット

・設置には全身麻酔や気管挿管が必要で、皮膚を切開する必要があります。

・強く引っ張ると抜けてしまうため、注意が必要です。

 

③ 胃ろうチューブ

胃ろうチューブは、内視鏡などを用いて胃から体外につないだチューブを使い、栄養を補給する方法です。胃より後ろの機能は正常で、胃よりも前の部分(口の中、喉周囲、食道など)での栄養摂取に問題がある場合に設置されることが多いです。

 

● メリット

・チューブフィーディングの中で最も太いチューブが設置できるため、半固形状の流動食、ドライフードをお湯でふやかしてミキサーにかけたもの、などを使用することができます。

・水分の調節もしやすく、ご自宅での管理もしやすいです。

・長期管理(半年以上)が可能です。

・内服薬もチューブから投薬することができます。

・自発的な口からの採食を阻害することないため、好きなものや自分で食べられる分だけは自力で、不足したカロリーや水分はチューブから、という使い方ができます。

 

● デメリット

・設置には全身麻酔が必須で、開腹手術で設置する場合と、内視鏡を用いた経皮内視鏡的胃ろう増設術(PEG)があります。

・全身麻酔がかけられない場合や、止血異常がある、腹水がある、重度の胃疾患がある場合には適応外となります。

・ろう管(胃に開けた穴)が完全に完成するまでに2週間程度かかるため、設置後2週間は慎重に管理・給餌する必要があり、2週間の間はチューブを抜去することはできません。

チューブを設置したら、閉塞がないか、食事の通過はスムーズか、設置した周りの皮膚に異常はないかなどを毎日観察します。皮膚に腫れや赤み、痛み、膿などがみられた場合には、すぐに動物病院を受診してください。

 

● 胃ろうチューブによる給餌方法の例

1.毎回給餌をする前に、空のシリンジで吸引し、胃の中の食渣(食べかす)や胃液の有無・量を確認します。胃内に残留しているガス・食渣・液体が多い場合には、そのまま給餌すると苦しくなったり嘔吐の原因になるため、一旦給餌を中止し、間隔をあけて調整します。

2.給餌用のシリンジに付け替えて、ゆっくりと食事をチューブから入れていきます。 犬が気持ち悪そうにしていたり、嘔吐をしてしまった場合には、投与を中止します。

3.投薬がある場合には、水に溶いて注入します。

4.給餌や投薬が完了したら、最後に水やぬるま湯を吸ったシリンジからゆっくりと水を注入し、チューブの中の食渣を押し流して(フラッシュ)、チューブ内をきれいにします。

 

チューブは長期間使用することを想定し、大切にケアしましょう。

 

 

右(小サイズ)から食べかす吸引用、チューブフラッシュ用、給餌投薬用のシリンジ。

 

 

 

犬が食欲不振や何らかの病気などで自ら食事をとるのが難しい場合でも、体にチューブを設置することに抵抗感のある飼い主さんは少なくありません。しかし、食事が摂れないということは命に関わる事態であり、病気の治療や回復を考える上では薬と同等に栄養管理は重要となります。

 

現在の獣医療では、このようにさまざまな栄養補給法の選択肢があります。それぞれメリットとデメリットがあり、ご自宅での管理方法にも違いがあるので、動物病院で主治医とよく相談をしてから選択しましょう。

 

 

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フクナガ動物病院 獣医師

福永 めぐみ

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