慢性腎臓病は心臓病や腫瘍と並び、中高齢のわんちゃんにとって生命を脅かす病気です。
犬の腎臓は人間と同じように左右2個あり、老廃物などを受け取って、尿として体の外に排出する役割を担っています。この腎臓の働きが徐々に低下した状態を慢性腎臓病といい、腎臓のはたらきの75%以上を失うと「腎不全」になってしまいます。(一般的な血液検査で、腎臓の値に異常が現れるのはこの状態まで進行しているときです。)
腎臓は一度はたらきを失ってしまうと元に戻すことは難しい臓器ですが、早めに診断し治療を開始することで、生存期間や生活の質(QOL)を改善できることが知られています。
犬の慢性腎臓病の「原因」「症状」「診断」「治療」
◆ 腎臓病の「原因」
腎臓病の原因には、先天性(腎低形成・異形成)や、免疫疾患(糸球体腎炎など)、腫瘍、中毒、腎盂腎炎、レプトスピラ症、尿路閉塞などが挙げられます。これらの病気によって、腎臓に徐々に負担がかかってしまうことで、慢性腎臓病を発症します。
犬では、バセンジー、コッカー・スパニエル、サモエド、ドーベルマン、ラサ・アプソ、シー・ズーで遺伝性の腎臓病が発症しやすいことが知られています。
◆ 腎臓病の「症状」
慢性腎臓病の症状は、ステージによって異なります。
早期では症状はありませんが、ステージが進むにつれて、尿の回数や量が多くなったり、お水を飲む量が増える、体重が減る、食欲が低下する、などがみられるようになります。
さらに進行すると、体内の老廃物を尿から排出することができなくなり、「尿毒症」にまつわる症状(嘔吐、尿の量が減る、元気がなくなるなど)がみられます。
最終的には尿が全く出なくなり、痙攣などの神経症状がみられるケースもあります。
◆ 腎臓病の「診断」
血液検査、尿検査、血圧測定、画像検査などで腎臓の状態を調べます。腎臓の機能が低下している状態がおよそ3ヶ月以上続いている場合に、慢性腎臓病と診断します。
◆ 腎臓病の「治療」
慢性腎臓病を完治させるお薬は、残念ながらありません。
初期段階から、食事療法はとても重要です。腎臓病を悪化させないために、腎臓に負担がかかりにくい配合となっている腎臓病用療法食を与えるようにしましょう。また、尿の量が増えることで脱水になりやすいため、お水を十分に飲める環境をつくることも大切です。
病気の進行や症状にあわせて、飲み薬や点滴による治療で症状を和らげたり、生活の質を改善してあげることができます。
(参考資料)
犬猫の慢性腎臓病の診断、ステージングおよび治療(出典:「IRIS」 Internatoional Renal Interest Society)
犬の慢性腎臓病でよく処方される「薬」
猫には承認された腎臓病の薬がありますが、犬では認可された薬がないのが現状です。
しかし、犬の腎臓病は猫と比べて進行が早いケースもあることから、必要に応じて犬でも比較的安全に使用できるお薬を、食事療法や点滴治療などと並行して処方する場合があります。
● アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
腎臓病を悪化させる要因となる高血圧や、持続的なタンパク尿がみられた場合に処方されるお薬です。血管を広げて血圧を下げたり、腎臓内の圧力(糸球体内圧)を下げて腎臓の負担を減らす効果があります。
1日1回の低容量から飲ませ始めることが多く、定期的に血圧測定や尿検査を行いながら薬の回数や量を調整します。食事と一緒に与えたり、お薬だけで与えることも可能ですが、できるだけ毎日同じ時間に飲ませることが望ましいです。
使用上の注意点
・安全性の高いお薬ですが、血圧を下げる効果によりふらつきや失神がみられることがあります。また、嘔吐や軟便などの消化器症状がみられることもあります。
・脱水が重度の場合には低血圧をおこしたり、かえって腎臓に負担をかけてしまう恐れがあります。お薬を飲ませ始める前後から、犬が十分にお水を飲める環境を整えたり、必要に応じて点滴治療を併用するなどして脱水を予防しましょう。また、定期検診は必ず受けるようにしてください。
・副腎の病気(クッシング症候群、アジソン病)の犬では、投薬に注意が必要です。
代表的なACE阻害薬:ベナゼプリル(製品名:フォルテコール錠(エランコジャパン))
犬の僧帽弁閉鎖不全症と猫の慢性腎臓病に対して承認されている薬ですが、犬の慢性腎臓病でも処方されることがあります。
● アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)
代表的な製品名:セミントラ(ベーリンガーインゲルハイムアニマルヘルスジャパン)
テルミサルタンという有効成分が、血管を広げて血圧を下げたり、腎臓内の圧力(糸球体内圧)を下げて腎臓の負担を減らす効果があります。ACE阻害薬で十分な効果が得られなかったときなどに処方されます。
猫の慢性腎臓病の薬として開発・承認されていますが、犬でも使用される場合があります。
1日1回、液体の薬を直接口に入れたり、フードにかけて与えることもできます。
使用上の注意点 ACE阻害薬と同様です。
● カルシウムチャネル拮抗薬(成分名:アムロジピン)
全身の血管を広げて血圧を下げる効果のあるお薬です。
ACE阻害薬などで血圧のコントロールが不十分だった場合に、併用して処方されることがあります。
1日1回、低容量から飲ませ始め、定期的に血圧測定をして薬の量を調整します。
使用上の注意点
・低血圧、浮腫(むくみ)、まれに不整脈などの副作用をおこす可能性があります。
・カルシウムチャネル拮抗薬を単独で使用すると、慢性腎不全を悪化させてしまう恐れがあるので、ACE阻害薬などと併用して使用するのが一般的です。
・歯肉の増殖(歯茎の腫れ)をおこすことが知られています。お薬を休薬することで2週間〜半年以内に元に戻るとされています。
●リン吸着剤
リンはミネラルのひとつで、歯や骨を丈夫にしたり、細胞やDNAを構成する役割をしています。健康な犬の体内では、血液中のリンが過剰になった時には、腎臓のはたらきによって余分なリンを尿から排出しています。しかし、慢性腎不全などの病気により腎臓のはたらきが低下すると、尿へのリンの排出がうまくできず、血液中に蓄積されて「高リン血症」を招きます。
「高リン血症」になると、リンの調節を司る「副甲状腺ホルモン」が過剰に分泌されることで、リンだけでなくカルシウムにも影響を及ぼします。すると、次第に骨が脆くなってしまったり、腎臓や血管にカルシウムを沈着させたりなど悪影響がでてしまうため、リンの濃度を適正に保つことはとても重要です。
腎臓病用の療法食はリンが制限されていますが、 食事療法をしていても血液検査でリンの値が高い場合に処方されます。
■ 代表的なリン吸着剤:レンジアレン(エランコジャパン)
フードに混ぜることでフード中のリンを吸着し、さらにおなかの中のリンも吸着して便と一緒に排出させてくれる健康補助食品です。フードに混ぜると食べてくれない場合には、水と一緒に与えることもできます。
使用上の注意点
・便の色が黒くなることがありますが、健康に影響はありません。
・まれに下痢をおこすことがあります。
最後に
この他にも、嘔吐や貧血などがみられる場合には、それに応じた対症療法を行います。
愛犬が慢性腎臓病と診断されたら、できるたけ早く治療を開始しましょう。
完治は望めない病気ですが、治療を開始したあとも定期的な検診を受け、腎臓と全身の状態をこまめに把握することが、生活の質の向上や生存期間の延長につながります。
参考:SA Medicine BOOKS 犬の治療薬ガイド2020(EDUWARD Press)
<うちの子おうちの医療事典>
腎臓病の原因となる病気や関連する病気を、うちの子おうちの医療事典で調べてみましょう。
糸球体腎炎
中毒
犬レプトスピラ感染症
熱中症
尿道閉塞
エリテマトーデス
腫瘍、腫瘤
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