ミニチュア・ダックスフンドやコーギーのように、胴長短足の犬種によく見られる「椎間板ヘルニア」。でも実は、トイプードルやフレンチブルドッグなど幅広い犬種に起こり得る病気でもあります。最初は腰の痛みから始まりますが、治療をしないで放置していると重症化し、下半身が麻痺したりして歩けなくなる可能性もあります。ここでは、椎間板ヘルニアの正しい知識を身に付けて、愛犬のためにできることを考えてみましょう。
椎間板ヘルニアとはどんな病気?
首から腰にかけて背中を走る背骨は、一つの長い骨ではなく、小さな骨が一直線に並んでできています。その骨と骨の間にあるのが椎間板です。この椎間板があるおかげで、腰を曲げたり伸ばしたり、ひねったりすることができるのです。
椎間板ヘルニアは、この椎間板が変性して、飛び出してしまうことが原因で起こります。飛び出た椎間板が、背骨の中を走っている神経の束「脊髄」を圧迫することで、痛みや麻痺などの症状が出てきます。こうなると飼い主さんは、愛犬の腰への負担を減らす方法を考えなければなりません。
椎間板ヘルニアになりやすい犬種
基本的にどの犬種でも椎間板ヘルニアは起こります。中でも、ミニチュアダックス、コーギーなどの腰が長い犬種、また、トイプードル、フレンチブルドッグ、パグ、ペキニーズ、シーズーなども椎間板ヘルニアが起こりやすい犬種だといわれており、その理由は、椎間板の変性が若いうちから起こることだといわれています。
椎間板ヘルニアの症状は3段階に分けられる
椎間板ヘルニアはどのような症状なのでしょう。脊髄の圧迫程度によって、犬の症状は変わってきます。悪化させないためにも早期発見が大切です。
まず「痛み」を感じるように
腰痛を経験したことのある飼い主さんならお分かりかと思いますが、軽度の椎間板ヘルニアは「痛み」が出ます。
痛くて「キャン」と鳴くだけでなく、
震える
動きたがらない
食欲がない
呼吸が荒い
イライラする
とぼとぼ歩く
排尿・排便をしない
階段の上り下りをしない
併せて、このような症状が出てくる場合があります。このような症状が見られたら、すぐに獣医さんに診てもらいましょう。
徐々に悪化すると部分麻痺に
完全麻痺とは違って足は動きますが、部分麻痺の場合は足を引きずったり、変な歩き方が目立つようになります。後ろ足の力が弱く、ふらつくことも多いです。椎間板ヘルニアの大部分は腰のヘルニアであるため、後ろ足に症状が出てきますが、首の椎間板ヘルニアの場合は、前足にも部分麻痺の症状が出てきます。
重度の場合は完全麻痺に
完全麻痺してしまうと後ろ足が全く立たず、後ろ足を引きずりながら歩きます。重症例では、膀胱麻痺を併発することもあり、そうなると自分でおしっこが出せなくなってしまいます。
獣医さんはこうやって椎間板ヘルニアだと診断している
まずは触診などで痛みの場所や神経の異常を診察し、症状と犬種や年齢などから診断の見立てを行います。その後、必要に応じてレントゲン検査を行うことがありますが、レントゲンで椎間板ヘルニアを確定診断することはできません。あくまでも骨の位置関係や他の病気を確認するために行います。
触診で異常が診られた場合、椎間板ヘルニアの診断と場所を特定するためにCTやMRIなどの高度画像診断や脊髄造影検査を行います。しかしこの検査には、高い費用と全身麻酔が必要なので、飼い主さんと十分相談をしてから次の検査へ進んでいきます。
椎間板ヘルニアの治療法
椎間板ヘルニアの治療法は、内科的治療・外科的治療に分かれます。どちらを選択するかは、症状の重症度、犬の年齢、麻酔のリスク、飼い主さんの希望、CTやMRIをしていればその結果によって変わってきます。
椎間板ヘルニアの内科的治療
内科的治療は椎間板自体を治すというよりも、できるだけ痛みを緩和させ、脊髄への負担を軽減し、脊髄の機能回復を待つという治療です。そのために、消炎剤や痛み止め、ビタミン剤を使い、日頃から安静にすることが非常に大切です。
最近は人の治療で使われているような、メスを使わないでできる治療法を取り入れている病院もあります。そのような治療を希望する場合は、かかりつけの病院にまずは相談してみるとよいでしょう。
椎間板ヘルニアの外科的治療
手術をして、椎間板の飛び出したところを根本的に解除するのが外科的治療です。重症の子はできるだけ早めに手術をすることが望ましいといわれています。しかし、手術をしたから確実に治るというものではなく、たとえ手術をしても神経の機能が回復しない場合や、症状が改善しない、足の引きずりが残ることも少なくありません。
ヘルニアとうまく付き合う方法は?
では、愛犬が椎間板ヘルニアだと診断された場合、飼い主さんはどのようなことに注意すべきなのでしょうか?お家では飛び出してしまった椎間板が脊髄の「圧迫」を起こさないために、腰への負担を減らすことをメインに考えましょう。
太らせない
ヒトでも犬でも肥満は腰への負担が強くなります。できるだけ太らせないことが大切です。
安静にする
安静の程度や期間は、ヘルニアの重症度や治療内容によって変わるので獣医さんの指示を仰ぎましょう。基本的には、階段の上り下りやジャンプ、2本足立ちなどは絶対にさせないでください。
抱っこの仕方
抱っこの仕方も非常に重要です。一番危険なのは前足2本をもって持ち上げる方法。これは腰が反り返ってしまい、大きな負担をかけます。片方の手を首の下か前足の下、もう片方の手をお尻の後ろに当てて、縦になって腰が伸びたり反らないように抱っこしてあげましょう。
腰を冷やさない
特に冬場は注意です。暖かい部屋から外に行くときは、腰を冷やさないように服や腹巻をして散歩に行くようにしましょう。
滑らないように家の環境を工夫する
愛犬がフローリングなどで滑らないように、足裏の毛をこまめに刈るようにしましょう。また、すべり止めマットを敷くのもおすすめです。
椎間板ヘルニアは早期発見と早期診察が大切
椎間板ヘルニアは早期発見、悪化をいち早く防ぐことが大切です。でももう一つ、早期症状で気を付けることがあります。それは、椎間板ヘルニアの初期症状とよく似た「進行性脊髄軟化症」という病気。同じく脊髄の病気ですが、脊髄がどんどん溶けていき、最終的には生命維持にかかわる延髄へダメージが進行し、かなり短い時間で死に至る恐ろしい病気です。そのため獣医さんは、椎間板ヘルニアの初期症状が診られた時点で、本当に椎間板ヘルニアなのか、それとも進行性脊髄軟化症なのかを見極めます。早期発見、早期診察が大事な理由は分かりますよね。日頃から愛犬の様子を気にかけておきましょう。
いかがでしたか?椎間板ヘルニアは命の危険はないとしても、痛みや麻痺などによって生活の質を落としてしまうことが多い病気です。治療開始が早ければ早いほど回復の可能性が上がるといわれているので、怪しい症状が出てきた場合には、できるだけ早めに獣医さんに診てもらいましょう。
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