犬と人とが一緒に暮らしていく社会を作っていくために、考えなければならないのは「犬が苦手な人への配慮」ではないでしょうか。犬と人がうまく共存しているアニマルウェルフェアの先進国、スウェーデンでの暮らしをヒントに、より良い共生環境について考えていきたいと思います。

スウェーデンでは飼い主の責任感が非常に強い

私の住む国スウェーデンでは、ほとんどの犬たちが社会の中にうまく溶け込み、家族と共に幸せに暮らしています。 この幸せな暮らしを成り立たせている背景には、ヨーロッパの中でも並外れて優れた動物保護法の存在があります。しかしそれ以上に、飼い主の強い責任感が、人と犬との共存環境を支えていると言っても過言ではありません。

 

ここでいう責任というのは、一緒に暮らしている犬に対してのものだけではありません。スウェーデンの飼い主たちは、自分たちが住んでいる社会に対しても、大きな責任を持って暮らしています。

優れた動物保護法と、飼い主の強い責任感の両方があって初めて、犬を飼っている人とそうではない人が互いに譲歩し、その権利を認め合う社会ができあがるのではないかと思うのです。厳しい保護法があるからといって、決して犬やその飼い主は社会で我が物顔に振舞っているわけではありません。

飼い主の責任があってこそ!

先進国であればどこの国にも「犬と猫の管理法」というのはあると思いますが、特にスウェーデンではこの法律についての一般市民の意識がとても高いと、私は個人的に感じています。メディアはもちろん、ケネルクラブやドッグトレーニング・スクール、ひいては犬友達との集まりなどでも口にされることが多く、犬を飼うと必ずこの法律のことが頭に叩き込まれるのです。管理法に記されている一文は、いたってシンプル。

 

『周りに迷惑にならないよう、人に危害を加えないよう、飼い主は犬と猫を管理すべし』

つまり「責任を持って飼ってください」という意味です。

 

日本にも環境省が出している「飼い主の守る5か条」の中に「人に危害を加えたり近隣に迷惑をかけることのないようにしましょう」という一文がありますが、それとほぼ同じです。他のヨーロッパ諸国にも同じような法律がありますが、スウェーデンでは他の国よりも、この法律の意味するところを、真面目に深く捉えようとしているように思うのです。

実は厳しいノーリード政策

「欧米では犬たちをノーリードで歩かせることができる。」そんな話をよく耳にしますが、 スウェーデンは日本ほどではなくとも、犬の自由度について都市部ではかなり厳しく制限されています。 これは同じヨーロッパ内でもドイツやフランスと比べると明らかな違いです。

公共の場における犬のリードに関するポリシーについては、スウェーデンの各コミューン(市町村区)にそれぞれのルールがありますが、大抵は「 ノーリードにしてはいけない」あるいは「犬は完全なコントロール下にあること(これはノーリードでもいいけれど、何があっても犬はきちんと横についたまま歩いていること、を意味します)」と記されています。

 

スウェーデン・ケネルクラブの広報部、ハンス・ローゼンベリーさんによると、「公共の場所で犬をノーリードにしないというのは、犬猫管理法の『周りに迷惑をかけない』の部分に当てはまり、飼い主が守るべき最低限のマナーである。」とも語っています。

人が集まる公共の場に出れば、子供もいれば高齢者もいるし、犬嫌いな人もいるでしょう。 それからスウェーデンには、中東からの移民もたくさん住んでいます。イスラム圏では宗教上犬は忌み嫌われていることが多いので、宗教上の理由から犬がダメという人もいます。

また、人だけでなく犬にも様々な犬がいます。他の犬が嫌いな犬、他の犬に対して攻撃的な犬も、当然お散歩をしているでしょう。実際、このような犬を散歩している飼い主にとって、向こうから突然ノーリードの犬がやってくるというのは心臓が止まるほどびっくりすることです。

 

様々な人々がいる中で、みんなが快適に暮らしていくために、きちんと犬の管理をすることが必要不可欠であるという価値観が、スウェーデンの一般市民の間に根付いているのです。

 完璧な飼い主ばかりではないけれど

もちろんスウェーデンも、完璧な飼い主であふれているわけではありません。 ノーリードの犬によるアクシデントはしばしば起きています。しかし、誰かがノーリードにしていれば、それに対して厳しく世の中の人々が指摘をするという文化があります。「あの管理法を知らないの?」というように、往来の人が注意をすることもあるのです。

SNSでもノーリードの散歩については、よくディスカッションの対象になっています。さらにスウェーデン・ケネルクラブは「飼い主の責任」というキャンペーンもよく行なっており、それがテレビなどありとあらゆるメディアに紹介されたりもします。

 

ノーリードの犬に対してこれだけ人々の意識が向けられるのは、もう一つスウェーデンらしい文化的な理由があります。3月1日から8月20日までスウェーデンでは公共の場だけではなく、森や野原など自然のある場でも犬を自由に走り回させることが全国的に禁止されます(犬猫管理法に記されています)。この時期は、シカや鳥などの野生動物が子育てをする時期で、走り回る犬がその邪魔をしないよう、という倫理的な配慮によります。

スウェーデンには動物アレルギー者が多い

実はスウェーデンにおいて、動物アレルギーを持っている人の割合は、北欧では比較的多いという統計が出ているそうです。そのため、公共の場に犬を連れ出す際は、動物アレルギー者への配慮をかなりしっかりしています。

多くのレストランやショップは、犬連れを禁止しています。この点も、他のヨーロッパ諸国に比べて、かなり厳しい部分です。

 

公共の乗り物については、たいていの場合犬と一緒に乗ることはできますが、それでもアレルギーの人を考慮して、バスであれば一番後ろに乗ったり、電車であれば犬が入ってもいい特別な車両があるので、そこに乗り込んだりします。

ホテルも基本的には犬との宿泊はOKとされていますが、犬連れ用の特別ルームを設けているところも多数あります。

 

 

もしかしたら、スウェーデンのような動物福祉国が、ここまで犬と飼い主を規制していることを、意外に感じた方もいらっしゃるかもしれません。しかし 「周囲の人を尊重すること」こそが、社会で犬が受け入れられるための唯一の方法であり、他に近道はないと思うのです。

ただ、このような社会の規制を犬に一方的に押し付けるだけではなく、それを補うために、彼らのウェルフェア(=犬が犬らしく幸せに暮らす)についても、責任を負わなければなりません。だからこそスウェーデンの飼い主たちは当然のようにトレーニング教室に通い、愛犬と円滑なコミュニケーションが取れるよう、日々努力を続けるのです。

 

ライター

藤田 りか子

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