肝臓は、食事から摂取した栄養素を代謝したり、毒素を解毒したり、さまざまなタンパクを合成したりなど、生命活動において必要不可欠な役割を担っている臓器です。

ここでは犬の肝臓病の中で代表的な、銅関連性慢性肝炎と先天性門脈体循環シャントにおける食事ついて解説します。

 

 

肝臓の主な役割

○ 栄養の代謝

糖質(炭水化物)やタンパク質、脂質、ビタミンなどさまざまな物質の合成・貯蔵・分解が肝臓でおこなわれています。

中でも代表的なはたらきは、ブドウ糖(グルコース)の代謝です。炭水化物を体内に摂取すると、グルコースは腸から吸収され、門脈という血管を通って肝臓に取り込まれます。肝臓に取り込まれたグルコースは、血液中を流れて全身のさまざまな組織でエネルギーとして使われたり、グリコーゲンという状態で蓄えられ、血糖値が低下したときには、肝臓はグリコーゲンから新たに糖をつくって血糖値を維持するなどのはたらきがあります。

この他にも肝臓は、脂質を中性脂肪やコレステロールに合成したり、体にとって有害なアンモニアを分解したりする役割をもっています。

 

○ 胆汁の生成と分泌

肝臓には、胆汁という消化液を生成して分泌するはたらきがあります。胆汁は、脂肪の消化や吸収を助けたり、ビリルビン・コレステロール・薬物など肝臓内の不要な物質を肝臓の外に排出したりします。

 

○ 血漿タンパクの合成

体内で重要な役割を担うアルブミンというタンパクや、血液の凝固に関わる凝固因子、炎症に関連するタンパク(CRP=犬C反応性タンパク)など、さまざまな血液中のタンパクを合成するはたらきがあります。

 

肝臓病の症状

肝臓は栄養素の代謝において重要な役割をもつため、肝臓の機能が低下すると元気喪失や食欲不振などの一般的な症状に加え、以下のような特徴的な症状が現れます。

 

 黄疸(粘膜の色が黄色くなる)

 腹水(お腹に水が溜まる)

 肝性脳症(血液中のアンモニアが高くなり、脳に作用して発作や意識障害などが起きる)

 出血傾向(出血しやすくなる)

 

肝臓病の食事のポイント

○タンパク質の含有量に注意!

タンパク質は肝臓の細胞を再生したり修復するために必要な栄養素なので、消化性の高い良質なタンパク質が肝臓にとって重要となります。

ただし、重度の肝不全や門脈体循環シャントなどの犬では、タンパク質を多く摂取すると血液中のアンモニアを増やしてしまい、肝性脳症を引き起こす恐れがあるため、タンパク質を制限する必要があります。そのため、多くの「肝臓病用療法食」ではタンパク質の量を制限しています。すなわち、タンパク質を制限する必要がある肝臓病の犬には肝臓病療法食が適していますが、それ以外の肝臓病の場合には適していない場合があるので、注意が必要です。

 

○ 必須脂肪酸とビタミンの摂取

オメガ3脂肪酸は炎症性肝疾患において炎症を緩和するとされています。
また、ビタミンC・E・Kなどは肝細胞や血液凝固因子にとって必要な栄養素のため、積極的に補給しましょう。

 

肝臓病の食事

① 銅関連性慢性肝炎

肝臓は銅の代謝にも深く関与している臓器です。

銅関連性慢性肝炎の犬では、銅を代謝して胆汁中に排泄するというはたらきがうまくできなくなるとされています。ベトリントン・テリアは遺伝的にこの病気が起こりやすいとされていますが、他の犬種でも発症することがあります。

銅関連性慢性肝炎の犬では、銅の摂取を減らす必要があるため、銅が制限された肝臓病用療法食を与えることが推奨されます。

 

② 先天性門脈体循環シャント(PSS)

先天性門脈体循環シャントは、出生後に閉じるべき門脈と大静脈をつなぐ血管が閉じなかったため、肝臓に流れるべき血液が肝臓を通らずに全身に運ばれてしまう病気です。本来肝臓で代謝・解毒されるべきものが肝臓を介さずに全身や脳へ運ばれることで、肝性脳症などの症状が現れます。特に食後に増加しやすい「アンモニア」が、分解されないまま脳へ運ばれてしまうと、けいれんなどの神経症状を引き起こします。

先天性門脈体循環シャントは、外科手術の対象となる病気ですが、手術ができない場合や高齢で見つかった場合などは、薬などの内科治療と併せて食事療法を行います。アンモニアの産生量を減らす目的で、タンパク質が制限された肝臓病用療法食が選ばれることが一般的です。

 

参考:動物医療従事者のための臨床栄養学/EDUWARD Press

 

 

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フクナガ動物病院 獣医師

福永 めぐみ

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