僧帽弁閉鎖不全症は、犬の心臓病の中で最も多い病気です。
中高齢の小型犬で発症しやすく、キャバリア、ダックスフンド、トイプードル、チワワ、マルチーズなどが代表的ですが、どの犬種でも発症する可能性があります。
僧帽弁閉鎖不全症ってどんな病気?
僧帽弁閉鎖不全症とは、心臓の左側にある「僧帽弁」という弁がきちんと閉まらなくなることによって血液が逆流し、心臓に負担をかけてしまう病気です。初期段階では症状が現れにくく、健康診断時の聴診で発見されることもあります。
逆流の量が増えることに伴って、元気がない、疲れやすい、食欲が落ちるなどの症状が見られるようになります。進行すると咳が出るようになったり、さらに進行すると肺に水がたまる「肺水腫」を起こすようになり、命に関わる危険性もあります。
◆僧帽弁閉鎖不全症と診断されたら
定期検診を受けることがとても重要です。定期検診では、身体検査や血液検査で全身の状態を確認したり、レントゲン検査で心臓の大きさや肺の状態を調べたり、エコー検査で心臓の動きや逆流の程度を調べたりします。またこれらに加えて、血圧測定や心電図検査なども行います。これらの検査結果と症状などを総合的に判断して、どのようなお薬を使うかなどを決定していくことが一般的です。
僧帽弁閉鎖不全症の治療には、根治が期待できる外科手術と、心臓への負担を減らしたり生活の質を改善することのできる内科治療があります。
僧帽弁閉鎖不全症で処方される薬
僧帽弁閉鎖不全症は、進行のスピードには個体差がありますが、心臓にジワジワと負担がかかっていく病気です。過剰な負担がかかる状態が続くと、次第に心臓自体が疲れてしまい、正常なはたらきを果たせなくなってしまいます。この状態を「心不全」といいます。
心不全の治療は、以下の3つの種類の薬(強心薬・血管拡張薬・利尿薬)を中心に行われています。
1.心臓のポンプ能力を高める薬「強心薬」
心臓から拍出された血液は、動脈を通って全身の臓器に送られ、静脈を介して再び心臓に戻ってきます。このとき、心臓は全身に血液を行き届かせるためのポンプの役割をしていますが、僧帽弁閉鎖不全症の犬では、ポンプの能力が低下してしまっている場合があります。ポンプ機能が低下した心臓は、心臓自体に過剰な血液を溜め込んでしまいやすくなり、次第に心臓自体が大きくなる「心拡大」を引き起こします。
レントゲン検査やエコー検査で心拡大が認められた場合には、心臓の筋肉(心筋)に作用してポンプ能力を高める「強心薬」が処方されます。
代表的な強心薬:ピモベンダン
製品名:ベトメディン(ベーリンガーインゲルハイム)
製品名:ピモベハート(共立製薬)
ピモベンダンは強心作用に加えて、血管拡張作用ももつ薬です。
使用上の注意
・体重2.0kg未満の犬には使用できません。
・妊娠・授乳中の犬では安全性が確立されていません。
・重度の肝障害のある犬では、慎重な投与が必要です。
・副作用として、まれに嘔吐や頻脈がみられることがあります。
2.血管を広げて心臓にかかる負担を減らす薬「血管拡張薬」
心臓への負担を減らす方法の一つに、静脈の血管を広げて、心臓に戻る前の血液を蓄えるスペースを作ってあげる方法があります。これを担うのが血管拡張薬です。
血管拡張薬には、さまざまな種類があります。
アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)
血圧を調節する仕組みの中で、血管を収縮させるのに深く関与しているのが「レニン・アンジオテンシン系」と呼ばれるシステムです。アンジオテンシン変換酵素阻害剤は、このシステムの一部を途中で停止させることで、血管が収縮するのを防ぎます。
使用上の注意
・妊娠・授乳中の犬への安全性は確立されていません。
・降圧作用により、虚脱やふらつきなどがみられる場合があります。
・一部の利尿剤や他の血圧を下げる薬との併用には注意が必要です。
代表的なアンジオテンシン変換酵素阻害剤
製品名:ベナゼプリル(エランコジャパン)
製品名:アラセプリル(DSファーマアニマルヘルス)
血管平滑筋に作用する薬
血管を構成している筋肉(血管平滑筋)に直接作用して、血管を広げる薬です。
アムロジピン、ベラパミル、ジルチアゼムなどの薬が代表的です。
3.尿を増やして心臓へ戻る血液の量を減らす「利尿薬」
その名の通り、尿の量を増やす薬です。尿を増やすことで全身を循環する血液の量を減らして、心臓の負担を軽減させます。また、心不全では浮腫(むくみ)が起こる場合もあり、これを改善させる効果もあります。
利尿薬にはさまざまな種類がありますが、犬の僧帽弁閉鎖不全症でよく処方されるのは以下です。
ループ利尿薬:フロセミド、トラセミド
抗アルドステロン性利尿薬:スピロノラクトン
使用上の注意
・脱水を起こしやすくなります。飲水が適切にできているか、注意しましょう。
・ナトリウムやカリウムなどの電解質のバランスを崩したり、腎臓に負担をかけてしまうことがあります。定期的に検診や血液検査を受けるようにしましょう。
これらの内科治療に加え、食事療法や運動制限などを推奨される場合もあります。
僧帽弁閉鎖不全症は、初期段階では症状があまりないので発見されにくい病気です。しかし、早期に発見し適切な治療を受けることで、病気の進行や症状の発現を遅らせることができるので、定期的に聴診などの健康診断を受けることがとても大切です。
僧帽弁閉鎖不全症と診断されたら、すみやかに内科治療を開始し、症状が改善しても飼い主さんの判断でお薬を止めてしまうことは禁物です。多くの場合、生涯にわたる治療が必要な病気ですので、定期検診を受けるとともに、ご自宅での愛犬の様子もよく観察してあげるようにしましょう。
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治療 |
症状 |
□ 再発しやすい |
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□ 長期の治療が必要 |
□ 病気の進行が早い |
□ 治療期間が短い |
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□ 緊急治療が必要 |
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対象 |
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□ 子犬に多い |
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□ 高齢犬に多い |
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□ 男の子に多い |
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□ 女の子に多い |
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予防 |
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□ 予防できる |
うつるか |
□ ワクチンがある |
□ 人にうつる |
□ 多頭飼育で注意(他の犬にうつる) |
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季節 |
□ 猫にうつる |
□ 夏にかかりやすい |
費用 |
発生頻度 |
□ 手術費用が高額 |
□ かかりやすい病気 |
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□ めずらしい病気 |
命への影響 |
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