犬は体の構造上、人間よりも嘔吐をしやすい動物だといわれています。 犬の嘔吐は、目安として1週間以内に症状がおさまる「急性嘔吐」と、長期間続く「慢性嘔吐」 の二つに大きく分けられ、健康な状態でも生理現象の一部として嘔吐がみられる場合もあります が、病気が原因で嘔吐する場合もあり、その原因は非常に多岐に渡ります。 嘔吐の原因として挙げられるのは、食事に関連するもの(長すぎる空腹、食べ過ぎ、ゴミ漁り、 人の食べ物を盗食、フードの急な変更など)や、ストレス、消化管内寄生虫症、細菌やウイルス による胃腸炎、異物の誤食、中毒、膵炎、子宮蓄膿症、腎臓病などが代表的です。詳しくはこちらをご覧ください。
嘔吐による受診の目安
動物病院への受診の目安としては、「1回嘔吐しただけで、元気・食欲もあり」という場合には、 まずはおうちで様子をみられても良いでしょう。しかし、
何回も繰り返し吐く
ぐったりし ている
食欲がない
下痢もしている
などの場合には、中には緊急性の高い病気の可能性 もあるので、早めに動物病院を受診しましょう。
動物病院で嘔吐の原因を調べる
犬の嘔吐の原因は、一過性のものから重度の病気までさまざまです。 診断の際には、飼い主さんからの情報が重要な手がかりとなります。
動物病院では以下のような項目について、問診で確認します。
1. 嘔吐が始まった時期
2. 嘔吐の回数
3. 嘔吐のタイミング(例:食後、空腹時)
4. 吐物の内容 (例:胃液、フード、血が混ざった液体)
5. 嘔吐以外の症状(例:元気・食欲がない、下痢をしている)
6. 誤食の可能性(例:おもちゃ、人の食べ物、人の薬など)
7. 持病の有無・服用中の薬について
問診と身体検査をした上で、さらに詳しい検査が必要な場合には、一般的に以下のような検査を 行います。 特に、「何度も繰り返し嘔吐する」「元気や食欲がない」「下痢を伴う」「吐物に血が混ざる」 「お腹を痛そうする」などの場合には、詳しい検査が必要となるケースが多いです。
● 血液検査→全身の状態を把握したり、貧血や脱水がないかを調べます。
● レントゲン検査→内臓の病気や異物の誤食がないかを確認します。胃や腸に物が詰まってしま う「腸閉塞」が疑われる場合には、バリウム検査を行うことがあります。
● エコー検査→胃や腸の状態を確認したり、他の臓器に異常がないかを調べます。
● 糞便検査→特に下痢を伴う場合に行います。
● 内視鏡検査→胃や腸の組織を採取して検査をすることで診断につながります。また、胃の中に異物がある場合には、内視鏡で取り除く場合もあります。
どのように治療するの ?
治療法は、嘔吐の原因によりさまざまです。 検査の結果、明らかな異常がみられない急性嘔吐の場合には、対症療法で数日様子をみることが 一般的です。嘔吐の原因となる病気が見つかった場合には、その病気の治療を開始します。 治療法は病気により異なりますが、吐き気を和らげる目的として、以下のような薬が処方される ことがあります。
嘔吐がある時に動物病院で処方される薬
1. 制吐剤(吐き気止め)
嘔吐そのものを抑制する薬です。 嘔吐は、脳にある「嘔吐中枢」という領域が刺激されることで起こります。嘔吐中枢が刺激され ると、胃の逆流運動やお腹の収縮が起こり、胃の中にあるものを口から吐き出させるための反応 が生じます。マロピタントやメトクロプラミドは、この嘔吐中枢に作用して、嘔吐を抑制します。
<代表的な制吐剤>
マロピタント (製品名 : セレニア (ゾエティス ジャパン) )
嘔吐の抑制や予防、乗り物酔いの予防の目的で処方される薬です。投与後すみやかに嘔吐中枢に 作用して、強力な制吐作用(吐き気を抑える作用)を発揮します。内服薬と注射薬があります。
使用上の注意
・異物の誤食などにより消化管の通過障害(腸閉塞など)が疑われる場合や、有害物質を摂取し てしまった可能性のある場合には、これらを発見しにくくしてしまう恐れがあるため、使用できません。
・16週齢未満の子犬や、体重が2kg未満(乗り物酔いの予防の場合には1kg未満)の犬、妊娠・ 授乳中の犬には使用できません。
・心臓病や肝臓病がある犬では、慎重な投与が必要です。
・錠剤を分割して投与する場合には、開封後2日以内に使用してください。
メトクロプラミド (製品名:ボミットバスター(共立製薬))
嘔吐中枢や消化管に作用して、嘔吐を抑制する作用があります。また、胃腸の働きを活発にして、 食べ物を胃から腸へ送り出すのを助けます。これにより、吐き気や食欲不振などを改善すること ができます。内服薬と注射薬があります。
使用上の注意
・副作用として、まれに流涎(よだれ)、不穏状態(警戒心が強く落ち着きがなくなる)、四肢や頭部の振戦(ふるえ)、運動失調などの症状が現れることがあります。
・成分に魚由来ペプチドを使用しているため、魚アレルギーのある犬では注意が必要です。
2. 消化管運動改善薬 (胃腸の動きを調整する薬)
消化管の動きが悪いと、食べ物が胃や腸からうまく運ばれず、胃もたれや膨満感をもたらします。 消化管運動改善薬は、低下した消化管の運動機能を調整し、改善する薬です。
<代表的な消化管運動改善薬>
モサプリド (製品名:プロナミド錠 (住友ファーマアニマルヘルス) )
胃や十二指腸の動きを良くすることで、食欲不振や嘔吐を改善するはたらきがあります。
使用上の注意
・異物などによる腸閉塞が疑われる場合には、使用できません。
・体重2.5kg未満の犬、4カ月齢以下の犬、妊娠・授乳中の犬には使用できません。
・飲み合わせに注意が必要な薬があります。(抗コリン薬など)
・副作用として、トリグリセリドの上昇がみられることがあります。
3.胃酸分泌抑制薬 (胃酸の分泌を抑える薬)
胃酸は、胃で分泌される胃液の主成分の一つです。とても強い酸性のため、食べ物と一緒に入ってきた細菌を殺菌したり、食物中のタンパク質を消化する役割をもちます。
しかし、胃酸が何らかの原因で過剰に分泌されたり、胃の状態が良くない場合には、胃酸によって胃を荒れさせてしまう恐れがあり、胃炎や胃潰瘍の原因にもなります。
胃酸分泌抑制薬は、この胃酸の分泌を抑える薬です。これにより、胃炎や胃潰瘍が改善したり、 胃の痛みを和らげたりすることができます。
<代表的な胃酸分泌抑制薬>
ファモチジン、オメプラゾール
胃酸の分泌を抑えることで、胃痛や胃もたれなどの症状を緩和したり、胃炎や胃潰瘍、逆流性食道炎などの消化管の不調を改善する効果があります。
胃酸分泌抑制薬には制吐作用はありませんが、胃酸の分泌を調節することで健康な胃の状態を保 つことができ、その結果嘔吐が起こらない、ということが期待できます。
ファモチジンは、人用の薬で有名な「ガスター10」と同じ成分です。
4. 消化管粘膜保護薬
スクラルファート(製品名:アルサルミン)
胃や十二指腸の潰瘍・びらんや、食道炎がある場合に処方されます。 消化管の粘膜に薬の膜のようなものをつくることで、消化液 (胃酸・ペプシン・胆汁酸) から荒れた粘膜を保護するはたらきをもちます。
この薬の特徴は「空腹時」に「1日2~3回」投与することです。 食事や他の薬と一緒に与えてしまうと、食事の吸収を妨げたり、薬の効果を低下させてしまう可能性があるので、2時間程度間隔を空けて投与してください。
副作用はあまりない薬ですが、まれに便秘になることがあります。
まとめ
嘔吐の原因は本当にさまざまあり、中には緊急性の高い病気が原因となっているケースもありま す。特に繰り返し嘔吐をしたり、元気や食欲がない・下痢をしているなど他の症状を伴う場合に は、はやめに動物病院を受診するようにしましょう。
薬が処方されたら、嘔吐が改善しても、すぐに薬を中断させるのはやめましょう。 自己判断せず、獣医師に指示された用法・用量を守ることが重要です。 また、愛犬が処方された薬をうまく飲んでくれない場合や、吐き出してしまう場合には動物病院に 相談してみましょう。上手に飲ませるポイントを教えてもらったり、注射薬で対応してもらえる場 合があります。
参考:CAP 2018(緑書房)
SA Medicine BOOKS 犬の治療ガイド2020 私はこうしている(エデュワードプレス)
「吐く」のときに考えられる病気を「うちの子おうちの医療事典」で調べる
「吐いている」ときに考えられる病気を「うちの子おうちの医療事
<吐いているときに考えられる病気>
□ 炎症性腸疾患~腸に炎症の細胞が集まり、
□ 回虫症~白く細長いひも形の寄生虫が腸に寄生し、
□ 腸リンパ管拡張症~リンパ液が流れるリンパ管がつまることで、
□ 蛋白漏出性腸症~
□ 膵炎~膵臓内の消化酵素が何らかの原因で活性化され、
□ 前庭障害~前庭に異常が生じ、平衡感覚が保てなくなる病気。
□ 犬ヘルペスウイルス感染症~
□ 胃腸炎~胃や腸に炎症が起こり、吐く・
□ 慢性腸炎~腸に炎症を引き起こす細胞が集まり、
□ 巨大結腸症~
□ 犬コロナウイルス感染症~犬コロナウイルスの感染により、
□ 巨大食道症~食道の拡張と動きの低下を特徴とする症候群(
□ 犬伝染性肝炎(犬アデノウイルス1型感染症)~
□ 異物誤飲~異物(食べてはいけないもの)を誤って飲み込み、
□ 白血病~
□ ネギ中毒~犬がネギ、タマネギ、
□ チョコレート中毒~
□ リンパ腫~白血球の仲間であるリンパ球という細胞が、
□ 右大動脈弓遺残 ~胎子のとき大動脈が異常な位置に形成され食道を巻き込み、
□ 動脈管開存症~
□ 糸球体腎炎~
□ 犬ジステンパーウイルス感染症~
□ 犬パルボウイルス感染症~犬パルボウイルスの感染で、
□ 犬レプトスピラ感染症~レプトスピラという細菌の感染で、
□ ケンネルコフ~
□ 食物アレルギー~食物の中のある成分が原因で起こるアレルギー。
□ 腎不全~ 腎臓の機能が十分に働かなくなった状態のこと。
□ 胆嚢炎~胆汁(消化液)を一時的に貯留する胆嚢という袋が、
□ 熱中症~高温多湿な環境に体が適応できず、
□ 肥満細胞腫~主に皮膚にできる悪性腫瘍。
□ 臍ヘルニア~臍(へそ)の穴から、
□ 胆嚢粘液嚢腫 ~胆嚢という胆汁を貯めておく袋に、粘液様物質(ムチン)
□ 尿道閉塞~尿結石や腫瘍などにより、
□ 胃潰瘍~
□ 胃拡張胃捻転症候群~胃が拡張とねじれを起こす病気。
□ 門脈体循環シャント(PSS)~
□ 中毒~犬にとって有害である物質を飲み込む・吸い込む・
□ アナフィラキシーショック~
□ ワクチンアレルギー~ワクチンを接種することにより、
□ フィラリア症(犬糸状虫症)~
□ 胆泥症~胆汁を一時的に貯留する胆嚢で、
□ 胆石症~胆嚢や胆管の中で、
□ アジソン病(副腎皮質機能低下症)~
□ 腫瘍、腫瘤~腫瘍とは体の臓器や組織をつくる細胞が、
□ 肺炎~肺に炎症が起こる病気。
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